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外売が乱発する割引クーポンの設定ロジックはこうなっている

中国の外売(出前サービス)では、割引クーポンを発行するのが当たり前になっている。その多くは満◯減◯(◯元以上買うと、◯元割引)というものだ。この設定戦略はどのようにすべきか。外売咖が解説した。

 

割引クーポンのお得感が外売人気を支えている

日本の飲食店のクーポンは、特定の商品を割引するものをアプリで配信するパターンが多い。狙いは各社さまざまだが、多くの場合、来店頻度をあげ客数を増やし、もう1品サイドオーダーしてもらうことで客単価を上げようという狙いを持っている。

一方で、中国の外売では満減活動と呼ばれるクーポンが主流だ。満30減15のクーポンであれば、「30元以上購入すると15元割引する」というものだ。現在の外売に対応している飲食店では、このようなクーポンを「満25減15」「満40減20」「満60減25」など3種類以上発行しているのが一般的だ。このお得感が、外売(出前)を利用する動機になっている。

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▲美団の注文画面。各店舗の下に「80減30」などの割引クーポンの情報が表示されている。これは80元以上の注文で30元割引というものだ。クーポン設定をしていない飲食店はほとんどないと言ってもいいほどだ。

 

客数か客単価か。異なるクーポンの狙い

しかし、こんなにクーポンを乱発して、飲食店は利益が出るのだろうか。適切にクーポンを設計すれば、当然利益は出る。低価格、中価格、高価格の3種類のクーポンは、それぞれ狙いが異なっている。

低価格クーポンは、利用頻度を上げてもらうため。中価格クーポンはサイドオーダーを注文してもらうため。高価格クーポンは複数人分を注文してもらうためだ。言い換えれば、低は客数を増やし、中は客単価を増やし、高はユニーク客数を増やすことが狙いになっている。

外売咖は、次のような飲食店について、クーポン戦略が適切であるかどうかを解説している。28元から34.8元までの定食が複数種類あり、春巻きや小籠包、飲料などのサイドオーダーが10元と12元になっている飲食店が、「満25減15」「満40減20」「満60減25」の低中高の3種類のクーポンを発行しているとする。この設計は果たして適切だろうか。

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ケーススタディになっている店舗の価格帯と低中高の3種類のクーポン。このクーポン設計は正しいだろうか。

 

低額クーポンは赤字になる

低クーポン「満25減15」は、顧客の利用頻度を上げて客数を増やすことが目的だ。32元の定食をこのクーポンを使って購入した場合、25元以上なので15元割引されて、(32-15)=7元で購入できることになり、利用者からはものすごく得をした感覚になる。

ところが、一般的な飲食店の粗利は30%から40%程度であるので、仮に35%とすると、32元の定食の原価は20.8元。そこに7元しか売上がないので、13.8元の赤字となる。しかし、外売なので、座席、店内スタッフなどの店内リソースは使わない。一般的な飲食店の利益は10%程度であるので、店舗経費が25%程度かかる計算になる。調理スタッフの人件費は使うので、20%の経費が節約できると考えると6.4元。都合、赤字は7.4元となる。

 

低額クーポンは「客数を買う」ことが目的

つまり、低クーポンは7元程度の出費で、客数を1つ買うということなのだ。外売アプリに表示されるクーポンは、全員同じではない。利用者のプロファイルによって変えることができる。そのため、「1ヶ月以上利用していないリピーター」「一度も利用したことがない新規顧客」などを対象に低クーポンを配信することで、出費をしても客数を買う価値はある。

この低クーポンは、主要料理(この場合は定食)の最低価格よりも低くすることがポイントだ。定食を頼むときに、このクーポンが使えるということが消費を刺激するのだ。この料理店の場合、定食の最低価格が28元なので、28元以下に設定する。こうすると、どの単品料理を頼んでもクーポンが利用できるため、客の利用を刺激することができる。

ただし、外売咖は満減係数に気を配るべきだとしている。満減係数とは、クーポンの割引率だ。「満25減15」の場合、15÷25=0.6となる。この満減係数をお得度の指標にしている消費者は多いので、さらに価格を下げて「満20減15」にすべきだという。こうすると、満減係数は15÷20=0.75となって、消費者から見てお得に見えるようになる。

しかも、収益も改善する。32元の定食を注文した消費者は、12元を支払うことになるので、赤字幅は7.4元から2.4元まで縮小される。2.4元で客数を1つ増やすことができるのだ。

 

中額クーポンはサイドオーダーを注文させて利益率を上げるため

中クーポン「満40減20」は、サイドオーダーの注文に誘導するためのものだ。サイドオーダー品は、粗利が50%以上あるものが多く、客単価を上げると同時に利益率を上昇させる。

この中クーポンは、最高価格の定食(34.8元)より高く、最も低価格の定食と定格のサイド品の合計価格(28+10=38元)よりも低くする必要がある。この店の設定では、最低価格の定食+一品を買おうと考える人は、中クーポンが利用できなくなってしまうので、サイドオーダーをあきらめてしまう可能性がある。そのため、「満35減20」に設定すべきなのだ。

このクーポンを使って、28+10元を購入した場合、サイド品の粗利が50%だとして計算すると、客は23元を支払い、店側の原価は15.6元となるので、7.4元の黒字となる。クーポンなしで外売をした場合の利益は14.8元、店内利用の利益は3.8元なので、クーポンを使って外売を利用してもらった方が、店内利用されるよりも儲かるということになる。

 

高額クーポンは、複数人分の注文を狙う

高クーポン「満60減25」は、複数人の注文をして、客数を増やすことを狙っている。そのため、最高価格の定食(34.8元)+最高価格のサイド品(12元)の合計よりも高く、最低価格の定食2人分(28×2=56元)よりも安くすべきだ。この店のように「満60減25」にしてしまうと、最低価格の定食2人分でクーポンを利用することができず、不満が生まれてしまう。そのため、「満50減25」にするのが正しい。

このクーポンを使って(28元+10元)を2人分注文した場合、客は51元を支払い、店側の原価は31.2元となるので、19.8元の黒字となる。クーポンなしで外売りをした場合の利益は29.6元、店内利用の利益は7.6元なので、これも店内利用されるよりは儲かることになる。

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▲正しいロジックに基づいたクーポン設計。低中高の3種類のクーポンは、それぞれの狙いを持っている。狙っている価格帯の少し下に割引金額を設定することで、店内利用よりも多くの利益を上げることができる。

 

クーポン設計により営業数字は上下する

これはあくまでも基本的な考え方で、この他に、初回割引クーポンや期間限定クーポン、さらには価格そのものの割引も併用をするので、クーポンの設計はこう単純にはいかない。

そのため、複数のクーポン設計を用意し、顧客をグループに分け、異なる設計のクーポンを配信して、結果を比較検討するなどということも行われている。

美団(メイトワン)や餓了么(ウーラマ)といった外売企業は、単にアプリで注文をとって配達しているだけでなく、このようなクーポン戦略などを中心とした飲食店のコンサルティングも行なっている。外売は、飲食店経営のプラットフォームになっている。

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