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空港でのタクシー待ち時間を機械学習で40分から10分に短縮

海浦東空港で、タクシー配車システムを刷新し、平均待ち時間が40分だったものが10分に短縮することに成功したと上海交通が報じた。

 

空港や駅から脱出できなくる!

中国内を国内線や中国版新幹線「高鉄」で移動すると、空港や駅で詰んでしまい、外に脱出できなくなることがある。多くの国内空港や高鉄には、地下鉄が接続しているが、切符を買おうとすると長い行列。バスは、次の次のバスまですでに満席。あきらめてタクシーを使おうとすると、こちらも長い行列。空港や駅から1時間ほど脱出ができずに立ち往生してしまうことがある。しかも、大きな荷物を抱えていることが多く、着いた途端に疲弊してしまうことも少なくない。 

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▲以前のタクシー乗り場の様子。春節などのラッシュ時季には、タクシー待ちの行列が延々と長くなっていた。現在は昼間は10分以内、深夜でも15分程度でタクシーに乗れるようになった。

 

タクシーの待ち時間を40分から10分に短縮

今年の春節から上海浦東空港を始めとする10の空港が24時間化を始めている。大量の人が国内を移動する春節に合わせて、輸送量を少しでも増やすために深夜便の対応を始めたのだ。

しかし、深夜に空港についても、公共交通は終わっている。市内への移動はタクシーしかない。深夜に空港について疲れているのに、またタクシーの行列に1時間も並ぶのかと思うと、中国人でもげんなりしてしてしまう。

そこで、上海浦東空港では、交通管理システムを刷新し、タクシーの平均待ち時間を40分から10分に短縮することに成功した。

 

春節の混雑時にも10分以下でタクシーに乗れた

浦東空港のタクシー乗り場には25台のタクシーが同時に止めることができる。これに次々と乗客を乗せて、出発していく。

春節の期間、浦東空港から出発したタクシーは合計11万1759台で、16万8464人の乗客を乗せた。平均待ち時間は3.35分で、混雑時に限っても平均待ち時間は6.33分になった。それまで40分は行列に並ぶというのが常識だったのだから、待ち時間は大きく短縮された。深夜の到着便が重なる時間帯では、公共交通が終わっているためほぼ全員がタクシーに殺到するが、だいたい15分を見ておけばタクシーに乗れるようになったという。

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▲新しくなったタクシー乗り場。パネルに現在の待ち時間が表示される。

 

市内から遠い空港ではタクシーが集まらない

海浦東空港は、タクシーにとって長い間、頭の痛い問題だった。浦東空港は市内から50kmほど離れたところにあるため、市内のタクシーは空車のまま浦東空港には行きたがらない。浦東空港に行く客を捕まえて、帰りも浦東空港から市内に客を乗せて帰ってきたい。そのため、そもそもタクシーの絶対数が足らない。

また、空港付近にタクシーが駐停車することは厳しく禁じられている。タクシー専用のタクシー溜まりが用意されているが、そこは空港から7kmも離れたところにある。タクシー乗り場のスタッフが、乗客が増えたことをタクシー溜まりに伝えても、タクシーがやってくるまでに時間がかかる。これが待ち時間を長くしていた大きな原因だった。

 

タクシー需要予測に基づいてタクシーを配車する

2015年から浦東空港は、「大型交通中枢タクシースマート配車管理システム」の開発を進めていた。これは過去の実績データ、到着便、利用客の移動先などのビッグデータを解析して、需要予測をするものだ。

さらに、タクシー乗り場の乗客の数、行列の進む速さなども測定して、必要なタクシーの台数を予測し、実際に到着しているタクシー台数との差を割り出す。

スタッフは、システムが表示する不足台数、過剰台数のデータに対応して、タクシーをタクシー乗り場に呼び寄せればよくなった。

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▲上海浦東空港のタクシー乗り場。最高で25台のタクシーが並ぶことができるが、これでも平均待ち時間は40分だった。

 

タクシー利用率は機械学習で予測する

このシステムを運用するためには、「到着便」「到着便乗客数」「タクシー需用量」の3つのデータが重要になる。

2017年、浦東空港は、空港のシステムを一部公開し、「浦東準点」というアプリを公開した。これは、浦東空港に到着する航空便の遅延状況をリアリタイムで見られるというものだ。配車管理システムを開発していた交通保障部は、このデータを参照することで、到着便の正確な時刻を知ることができるようになった。

実際の乗客数は、国内便の場合、データを公開することになっているので、これを参照する。国際便の場合、データを公開していない航空会社もあるので、この場合は、過去のデータから推測をすることにした。

最も難しかったのは、到着した乗客のどのくらいの乗客がタクシーを利用するかだ。これは公共交通機関の運用状況によっても変わってくるので、過去のデータを機械学習させて予測することにした。

 

タクシー回転率を上げるチケット方式

もうひとつ大きな問題が「短距離チケット」だった。すべての乗客が上海市内に向かうとは限らない。例えば、浦東空港近くのホテルに行く場合もある。このような近場の客を乗せる場合、運転手は乗り場のスタッフに「短距離チケット」を発行してもらうことができる。条件は22km以内で、1時間以内に乗客を送り、空港に戻ってこれるというものだ。

この短距離チケットを持っているタクシーは、空港に戻ってきても、タクシー溜まりに寄らずに、優先的にタクシー乗り場で次の乗客を乗せることができる。

運転手としては、長距離の客を乗せたいので、短距離客は避けたい。しかし、この短距離チケットがあれば、すぐに次の客を乗せることができる。こうして、タクシーの回転率を上げることで、不足するタクシー台数を補おうという制度だ。

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▲近場に送客するタクシーに発行される「短距離チケット」。これがあると、次の客を優先的に乗せることができるため、偽造が相次いでいた。

 

GPSを装着してチケット悪用もシャットアウト

しかし、この短距離チケットの偽造が横行した。乗車時間を改竄して、何度も優先してもらうという運転手がいる。

配車管理システムでは、この短距離チケットも自動化をした。2015年から、すべてのタクシーにGPSを装着し、そのデータをシステムが参照できるようにし、実際の走行が短距離に相当するかどうかをシステムが自動判別するようにした。偽造チケットをスタッフに見せても、スタッフ側ではGPSデータから偽造であることがすぐにわかってしまうことになった。

これにより、短距離チケットの発行率は以前は37%であったものが、システム導入後は12%まで減少した。

 

他の空港からの視察も相次いでいる配車システム

この浦東空港のタクシー配車システムは、他の空港からも注目をされており、すでに導入の動きもあるという。特に24時間化を計画している空港からの視察が相次いでいるという。