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「人民元が発行停止になる」デマが広がる

中国で人民元の紙幣、硬貨が製造停止になるというデマが広がった。中央電視台がデンマークの事情を報道したニュース映像が、中国のものと誤解されてウェイボーで拡散したためだと名城蘇州網が報じた。

 

SNSを駆け巡った現金廃止のデマ

「みんなが愛してきた人民元の製造が停止された。中央銀行は発行を停止し、中国は無現金社会時代に入る。この発展スピードについていける?」。そういうメッセージがウェイボーやWeChatを駆け巡った。

このメッセージには、中央電視台のニュース動画がつけられている。そこには「無現金時代。中央銀行が発行停止。スマホ決済が流行」という字幕がついている。さらにキャスターが「商店が現金支払いを受け付けなけれならない法律規定が廃止され、レストラン、衣類店、ガソリンスタンドなどが次第に無現金時代に入っていく」と報道している音声までつけられている。

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▲問題になったデマメッセージ。中央電視台のニュース動画がついているが、左下を見ると「丹麦」(デンマーク)と記されていて、中国の話ではないことがすぐにわかるはずだが、これが拡散し、多くの人が誤解をした。

 

デンマークで始まっている無現金社会

しかし、この動画をよく見ると、左下に「丹麦」(デンマーク)と書いてある。この動画のニュースは、2017年6月12日の中央電視台の「ニュースライブ」で、デンマークの状況を伝えたものだった。

デンマークでは、2017年1月にすでに造幣所の閉鎖を決定し、紙幣と硬貨の製造を停止している。硬貨についてには海外で少量の生産をしているが、2030年に完全に廃止する計画だ。同時に、公共サービス以外の商店で、現金支払いを拒否できるようにする規制緩和を順次行なっている。

決済は、中央銀行が発行しているデビットカード「Dankort」が主流になっていて、このデビットカードやクレジットカードに紐づけられるスマホ決済「MobilePay」が2013年からサービスを始め、多くの人がMobilePayを使うようになっている。

このニュースが誤って、あるいは意図的に、中国のことであるかのように誤解する形で広まったというわけだ。

 

中国の法定通貨はあくまでも人民元

2月26日になって、北京日報はウェイボー、WeChatなどの公式アカウントで、このメッセージがデマであると注意を促し、この騒ぎは収束に向かった。

中央銀行は昨年7月、無現金社会に対してメッセージを発している。キャッシュレス決済が社会発展にもたらす効果は大きいが、中国は人口が多く、地域差も大きく、都市と農村の不均衡も大きい。消費者が決済方法に求めるものはさまざまで、現金での支払いを好む人も広く多く存在する。中国の法定通貨はあくまでも人民元であり、どのような組織も現金支払いを拒否することはできない。また、キャッシュレスツールを広める場合も、「非現金」の概念を過度に強調するものであってはならないとしている。

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人民元が発行停止になるというデマが流れ、北京日報などのメディアは否定するメッセージを発表した。



都市部では90%でも、全体では60%

中国の都市部では、90%以上がキャッシュレス決済になっているように見える。現金そのものを目にする機会が激減している。しかし、中国全体でのキャッシュレス決済比率はまだ60%を超えたところで、韓国や北欧には及ばない。人口の半分が都市人口になっていることを考えると、農村などではまだまだ現金の方が主流な決済手段だ。

農村部でもWeChatペイは広く使われているが、銀行口座との紐づけをせずに使っている人も多い。銀行口座と紐づけないと、チャージができない、ネット決済ができない、顔認証決済ができないなどの不便があるが、日常の対面決済はできる。チャージは、商店に行って、20元の現金を渡して、20元をWeChatペイに送ってもらうことで可能だ。

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▲農村部でもスマホ決済は普及をしているが、露店や商店などの少額決済に使うのが一般的だ。日本の流通系電子マネーの使われ方とよく似ている。

 

農村部では電子マネー的に使われるスマホ決済

要するに、キャッシュレス決済といっても、日本の流通系電子マネーカード的な使い方をしている。目が悪くなり、指先の感覚も鈍っているお年寄りにとっては、小銭を扱わないだけでも十分な利便性がある。一方で、銀行口座への紐づけは、中国特有の特殊詐欺を警戒してしない人も多い。地方公安でも、大きな額の決済をしないのであれば、銀行口座の紐づけを外すか、あるいは別の決済用の銀行口座を作ってそちらを紐付け、メインの銀行口座をスマホ決済に紐付けないことを勧めている。

中国の都市部は、間違いなくキャッシュレス先進国だが、国全体を見ると、キャッシュレス先進国とは呼べない。中国のキャッシュレス政策は、まだまだこれからいくつもの高い山を越えていかなければならない。