中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

行動解析まで行われるようになる公安部の監視カメラ

監視社会中国では、駅、バス、地下鉄、モール、劇場、路上などの至る所に1.7億個の監視カメラが設置されている。映像から顔認証をして瞬時に個人特定する「天網システム」はあまりにも有名になっている。しかし、公安部では、さらに進んだ監視技術が開発されていると中国経済網が報じた。

 

顔だけでなく問題行動も検知する監視カメラ

公安部の監視カメラシステムを開発しているのは、国営企業の中国電子科技集団(CETC)。ここの創新センターの公安業務責任者の林暉氏が、昨年から関係カンファレンスなどで「公安映像ビッグデータ分析領域における人工知能の最先端応用」というプレゼンテーションを行っている。

この内容によると、人々の行動を監視し、問題行動を発見するとアラートを出すというところまで監視カメラは進化をしている。

 

映像定位人流量分析技術

監視カメラ映像から自動的に人を認識、人通りの多さ、人の密度、歩行速度などを自動計測する。人の密度が一定以上になると、アラートが発生されて、警察官が急行することになる。人工知能により、単なる混雑なのか、暴動などにつながる異常な密集なのかも判断できるという。

f:id:tamakino:20190326102127g:plain

▲映像定位人流量分析技術。監視映像から人の密集度を計測し、しかもそれが単なる混雑なのか、暴動につながりかねない異常な密集なのかも人工知能が判別をする。

 

禁止区域異常侵入警報技術

中国には軍事関係施設の前など、路上であっても、写真撮影が禁止されている場所がある。このような場所では、警備員が立っていて、立ち止まっているだけでも警告を受けることがある。

しかし、これからは、警備員がいなくても、撮影禁止地区でないかどうか、掲示などをよく確かめなければならなくなる。監視カメラ映像内にバーチャルな禁止区域を設定することができ、その中でカメラやスマホで撮影をする、敷地内を覗き込むという動作を検知し、アラートが発せされ、警察官が急行する。

f:id:tamakino:20190326102154g:plain

▲禁止区域異常侵入警報技術。監視カメラ内に、禁止区域をバーチャルに設定し、その中で写真撮影などの禁止行為が行われるとアラートを発する。

 

人員異常行為警報技術

監視カメラ映像から、殴り合いなどの暴力行為を検知してアラートを発する。しかも、ただのふざけ合いなのか、本気の殴り合いなのかも判定をして、人工知能が警察官が急行すべきかどうかも提案してくれるという。

f:id:tamakino:20190326102046g:plain

▲人員異常行為警報技術。喧嘩などの暴力行為を検知して、アラートを発する。


ボディサイン識別技術

中国で、トラブルに遭遇して、周囲に助けを求められる人がいない場合、人を探すよりも、監視カメラを探して、そちらに手を振った方が早いかもしれない。監視カメラに向かって、大きく手を振る動作を検出して、助けを求めているというアラートが発せられる。

f:id:tamakino:20190326102059g:plain

▲ボディサイン識別技術。監視カメラに向かって手を振ると、緊急事態発生と認識して、警察や救急にアラートを発する。

 

外観識別追跡技術

複数のカメラがあるようなモールなどでは、服装などの外観をキーにして、異なるカメラを使って、その人物を追跡することができる。容疑者の追跡にも利用されるが、迷子の子どもの捜索にも使われるという。迷子ぐらいで言われるかもしれないが、つい最近まで親は子どもの誘拐を不安に感じていた。現在では、誘拐事件はめっきり減っているが、それでも人混みで子どもとはぐれた場合は、緊急性を要する捜索になる。

カメラが異なると、光源などが異なるため、外観から同一人物と判定するのはかなり難しいが、それでも90%程度の正解率に達しているという。

f:id:tamakino:20190326102148j:plain

▲外観識別追跡技術。複数の監視カメラをネットワーク化し、対象の服装などから移動を追跡する。犯人捜査や迷子の捜索に使われる。

 

携帯物体識別技術

監視カメラ映像から、問題のある物体を手に持っている人と、その物体を識別する。撮影をしようとするスマホ、刃物類などだ。

f:id:tamakino:20190326102108g:plain

▲携帯物体識別技術。その人が手にしているものを判別する。カメラ、スマートフォン、刃物など。

 

急成長する監視カメラ市場

この他、警察での取調べの最中に容疑者を撮影し、顔の表情や小さな動作から嘘をついているかどうを判別する技術などもある。さらに、ネットのライブ配信も監視対象となっていて、公序良俗に反する行為が行われるとアラートが発せられる。

中国商産業研究院が以前公表した数字では、中国の監視カメラ関連市場は、2010年には242億元(約3900億円)であったものが、2016年には962億元(約1.57兆円)に増加し、2018年には1192億元(約1.95兆円)になると予測している。

 

2020年までに監視カメラのネットワーク化を完了

この分野で重要な政策は、996政策と620講話だ。996政策は、2020年までに全国の監視カメラのネットワーク化を完了するというもの。620講話では、公安部の情報化を「天網」「天算」「天智」の3つの柱で行なっていくという内容だ。監視しカメラ映像から得られる情報から、顔認証などによって個人特定する「天網」、大量のデータを高速処理する能力を確保する「天算」、人工知能を応用する「天智」の3つだ。

なお、創新センターがプレゼンテーションを行っている各技術が、すでにどの程度実際に運用されているかについては公表されていない。あるものはすでに運用されているのだろうし、あるものはまだ研究途上にある。しかし、いずれこのような技術が運用されるようになることは疑いはない。