バイトダンス統計センターは、スマートフォンユーザーの統計をまとめた「逆周期」というレポートを公開した。アップルユーザーは相変わらず忠誠心が高いものの、最新機種では旧モデルへの機種変更を行なっている。これが中国市場でのアップルの不振につながった。「逆周期」は、中国で起きているプロモーション手法の変化に、アップルがついていけていないことがひとつの要因だと分析している。
iPhoneユーザーは新機種ではなく、旧モデルに機種変更している
中国でのアップルユーザーの忠誠心は依然として高い。57.58%のiPhoneユーザーが、機種変更をしても再びiPhoneを選んでいる。これはファーウェイの40.44%、vivoの35.88%を大きく引き離している。
しかし、問題は最新機種であるiPhone XS/XRではなく、iPhone Xなどのひとつ前のモデル、さらにはiPhone 7、8などの旧モデルに乗り換えている人が多いことだ。在庫がまだある旧機種や、多くは中古市場などから購入するため、アップルの売上につながらない。これがアップルの中国市場での不振につながっている。
▲機種変更元はiPhone 6、機種変更先はiPhone Xが最も多い。iPhone Xはひとつ前の機種。最新のiPhone XS Maxは2.7%の人しか選んでいない。ファーウェイのP20に負けそうな程度。多くの人が旧機種に乗り換えをしている。
中国のメディアの変化に追従できていないアップル
では、なぜ中国のアップルユーザーは最新機種を買わなくなったのか。理由はいろいろある。価格が高すぎる、これといった目立った新機能がない、旧機種でも性能的にはじゅうぶんなどの理由もあるだろう。
しかし、「逆周期」は、アップルのメディア戦略にも問題があると指摘している。アップルは、プロモーション戦略もグローバル基準で行なっているが、中国ではショートムービーという新しいメディアが登場し、各メーカーともこの新しいメディアを使って、新しいメディア戦略を展開している。アップルは、この動きに追従できていないのだ。
▲大手メディアでの報道記事数。アップルが最も注目されている。vivo、OPPOは記事数が少ないのに、消費者からの関心は高く、購入されている。
メディア露出は多いのに反応が薄いアップル
大手メディアはアップル関連記事を頻繁に伝えている。ブランド別の大手メディア記事数の統計を見ると、アップルが1位になり、中国でもメディアがアップルに注目していることがわかる。一方で、シェアを伸ばし、ファーウェイに迫りつつあるOPPO、vivoは大手メディアでの露出はさほど多くない。
ニュースアプリ「今日頭条」の各ブランド関連の記事の閲覧数の統計では、アップルはやや下り、OPPO、vivoが上がってくる。つまり、アップルの記事は多いのにさほど読まれていない。OPPO、vivoの記事は少ないのにかなり読まれているということになる。
つまり、メディアの露出度に比べてアップルへの関心は低く、OPPO、vivoへの関心は高いということになる。
▲ニュースアプリ「今日頭条」で読まれている各ブランドの記事閲覧数。ファーウェイが注目されているが、アップルはメディア露出が多い割にはあまり読まれていない。OPPO、vivoの記事はメディア露出が少ない割に読まれている。
中国のメディアはテキストからショートムービーにシフトしている
このような現象がなぜ起こるのか。中国のニュース記事は、現在、伝統的なテキストによるものだけではなく、写真を組み合わせたもの、1分から2分程度の動画のものが増えてきている。特に、ショートムービーが読者に好まれる傾向が強くなっている。文章を読むには短いものでも数分かかるのに対し、ショートムービーは1分程度で内容が理解できるからだ。しかも、リテラシーをさほど必要としないので、文章よりも楽に情報を理解することができる。
OPPO、vivoはこの動画記事の割合が高い。アップルは低くはないが、決して多いとは言えない。動画記事を拡散することで、視聴者の中に関心を醸成し、さらに詳しい情報を知りたい人がテキスト記事を読むようになっている。つまり、中国では、特定の情報への入り口は、もはやテキスト記事ではなく、ショートムービーなのだ。
これが、アップルの記事数は多いのに、あまり注目されない理由のひとつになっている。
▲各メーカーがどのようなメディアに発信をしているかを調査したメディア別閲覧数。ファーウェイを追い上げるvivo、OPPOは圧倒的に動画メディアでの発信が多い。
Tik Tokでブランド発信をし始めている中国企業
中国の主流メディアは、テキストからショートムービーに移ろうとしている。料理や大工仕事の手順なども、テキストで説明する、図で説明する、長時間動画で説明するというものが減り、手順を早回しで紹介して1分以内に編集したものが好まれるようになっている。1分程度の動画を見て、手順全体を頭に入れ、わからない部分は巻き戻して詳しく見るという方式が主流になりつつある。
家電メーカーなども、そのような早回し手順ムービーを公開することが増えてきて、将来は取扱説明書はなくなり、スマートフォンでこのような取扱説明ショートムービーを見るようになるかもしれない。
各スマートフォンメディアが注目をしているのがTik Tokだ。15秒ムービーで、ユーザーに向けて様々な情報発信をしている。
ひとつは、製品やブランドの背景にある文化などを伝えるもの。2つ目は、インフルエンサーが製品を使っているもの。3つ目は、社員が出演して、ブランドとユーザーの親近感を高め、距離を縮めるもの。この3つが中心になっている。
▲各メーカーのTik Tok公式アカウントのフォロワー数。中国メーカーは、Tik Tokに公式アカウントを開設し、消費者にリーチしようとしている。
▼中国メーカーが公開しているショートムービーの例。ブランドイメージや企業文化を伝えるもの。
▼中国メーカーが公開しているショートムービーの例。インフルエンサーを起用してブランドに親近感を持たせるもの。
▼中国メーカーが公開しているショートムービーの例。エンジニアや社員が出演し、親しみを感じさせるもの。
中国のメディアシフトについていけていないアップル
アップルはプロモーションもグローバル戦略に基づいて行っているが、それゆえに、この中国のメディア嗜好の急激な変化についていけていない。
アップルは昨年2018年の春節に中国の公式サイトで「三分間」という映像を公開した。相変わらず、非常に高いクオリティで、すべてiPhone Xで撮影されている。そのまま劇場公開してもじゅうぶんに通用するほどだ。
それだけでなく、短編映画ながらストーリーも感動的だ。中国の春節は離れ離れになっていた家族が再会をする季節。しかし、主人公の女性は、小学校に上がったばかりの息子を故郷に置いて、都会で列車の車掌をしている。人々の帰郷を支えるため、車掌という仕事は春節でも休むことができない。しかし、自分が乗務する列車が故郷の駅に3分間だけ停車する。この駅で、息子と3分間だけ会おうというのだ。
息子は、母親を喜ばすために掛け算九九を懸命に覚え、母親と会ったら、九九を披露しようと考える。そして、列車が故郷の駅に停車する。しかし、母親は車掌としての業務があり、息子は大混雑をするホームで母親をなかなか見つけられない。果たして、息子は母親と再会できるのか、懸命に覚えた九九を披露できるのか。
都会に出て働いている中国人であれば、誰もが涙を流さずにいられない感動短編だ。名作であることは間違いない。
苹果 中国大陆 Apple 2018 农历新年广告 -《三分钟》- 陈可辛导演短篇作品 - 用iphone x 拍摄
▲アップルが2018年の春節に公開した「三分間」。すべてiPhone Xで撮影されている。中国人であれば胸を打つ感動短編だ。相変わらずアップルのクリエイティブな仕事のレベルは高い。
クオリティは高くても、退屈さを生んでしまうアップルのムービー
しかし、長い。タイトルは「三分間」だが、実際のムービーの長さは7分6秒ある。中国人は途中で退屈さを感じてしまうことだろう。15秒のTik Tok映像であれば、28本も見ることができるのだ。
今年2019年の春節にも、アップルはiPhone XSで撮影した「ひとつの桶」という短編映画を公開した。春節で里帰りした青年が都会に戻る時に、母親はひとつの桶を渡す。青年はじゃまな思いをしながら都会に持って帰り、開けてみると、その中には母親の愛情を示すものが入っていたというストーリー。素晴らしい内容だが、こちらも6分36秒と長い。
アップルが中国市場をどう考えているのかは、アップルにしかわからない。しかし、世界共通のグローバルメディア戦略だけでは中国市場の維持が難しくなっていることは事実だ。
《一个桶》苹果贺岁片贾樟柯导演作品用 iPhone XS拍摄
▲2019年の春節に公開された「ひとつの桶」。こちらもクリエイティブのレベルは高い。