中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

台湾「QRコード決済は面倒!」。中国「QRコード決済は便利!」

台湾のあるネットワーカーが、「QRコード決済は手順が多すぎて面倒だ」という発言をしたところ、これが中国で拡散して「なんで面倒なのかわからない」という意見が寄せられ、興味深い論争になっていると数碼妖精が報じた。

 

状況が日本とよく似ている台湾のキャッシュレス決済

キャッシュレス決済の面では、日本と台湾は状況がよく似ている。キャッシュレス決済比率は2015年で26%と、日本をわずかに上回っている程度。台湾政府はこれを2020年までに倍の52%、2025年に90%にまで引き上げようという目標を立てている。

現金決済がまだまだ好まれ、街中には多くのATMがあるのも日本とよく似ている。また、クレジットカードが普及をしていて、キャッシュレス決済の主体がクレジットカードであるという点も日本と同じだ。

また少額決済では、日本のSuicaにあたる交通カード「悠遊カード」を多くの人が持っていて、公共交通だけでなく、コンビニや商店でも利用できるようになっている。

面倒、乱立で普及が進まないQRコードスマホ決済

これに加えて、スマホ決済も普及し始めているが、主体になっているのはNFC決済だ。観光立国である台湾は、外国人観光客がくるような場所では、海外のペイメント方式に対応しているところが増えてきている。アップルペイ、グーグルペイ、サムスンペイなどや、中国のアリペイ、WeChatペイに対応をしている。さらに、台湾独自のスマホ決済もある。

また、導入が簡単なことからQRコード方式のスマホ決済も複数登場しているが、消費者からの評判はあまりよくない。支払い時の手数が多くて面倒ということと、QRコード決済方式が乱立をしてわかりづらくなっていることが問題のようだ。

このため、QRコード決済の統一規格「台湾ペイ」を推進している。これであれば、台湾ペイに参加しているQRコード決済であれば、どれでも好きなもので決済ができる。この点では日本よりも進んでいる。

f:id:tamakino:20190207122823j:plain

▲世界的にも有名な台湾の小籠包レストラン「鼎泰豊」。支店もたくさんあるが、どの店もどの時間帯にいっても行列をしているという人気店だ。

 

それでも現金オンリーの店舗が多い

しかし、それでも現金オンリーの商店が多いのも日本とよく似ている。小さな商店では現金のみのところが多いし、台湾で外国人にも最も有名な小籠包店「鼎泰豊」(ディンタイフォン)も現金決済のみで、クレジットカードすら利用できない。レストランは現金オンリーの店が多い。

キャッシュレス決済が使えるのは、モール内の店舗やコンビニ、カフェ、スーベニアショップといった新しい業態の店舗のみで、伝統的な歴史のある商店ではあまり使えない。インバウンド客に対するキャッシュレス対応という点では、日本の方がきめ細かく対応できているという印象を受ける。

f:id:tamakino:20190207122815j:plain

▲海外旅行客もいくことが多い「鼎泰豊」も、意外なことに現金のみで、クレジットカードも利用できない。台湾のレストランは、現金オンリーのところが多い。

 

台湾「QRコード決済は面倒!」。中国「便利!」論争

日本でもQRコード決済は、「手数が多くて手間がかかる」と感じている人は多い。台湾のネットワーカーも同じことを感じていて、「大陸の人がスマホ決済は便利だというのがまったく理解できない!」という内容をSNSにあげたところ、これが中国で拡散し、「台湾の人がスマホ決済の便利さを理解できないというのが理解できない」と多くのコメントがついた。

その内容は、QRコードスマホ決済では「1:スマホを取り出す」「2:WeChatアプリを開く」「4:QRコードスキャンを選ぶ」「4:QRコードをスキャンする」「5:金額を入力する」「6:支払いをタップする」「7:パスワードを入力する」「8:支払いが完了したことを確認する」「9:金額を確認する」「10:レジ側で決済が完了したことを確認する」と10ステップもかかる。ところが、クレジットカードを使えば、「1:カードを取り出す」「2:カードをレジに通す」「3:サインをする」「4:月末に明細を確認する」と4ステップでいいというものだ。

お分かりの通り、この台湾のネットワーカーは、QRコード決済が手数が多くて面倒だということを強調したいために、あえて手数のかかる方法を紹介しているが、日本人にとってもQRコード決済が面倒に感じるのは同じだ。わざわざアプリを探して起動し、QRコードを表示させる/スキャンをするという手数が面倒に感じる。NFC系のカードやスマホ決済であれば、基本的にタッチするだけで完了する。

f:id:tamakino:20190207122819j:plain

▲論争になった台湾ネットワーカーによる書き込み。「大陸の人がスマホ決済が便利だというのが理解できない!」としたもので、クレジットカードの方がはるかに便利で、これは「橋があるのに渡らず、飛び石を探しながら河を渡るようなものだ」と発言した。大陸の中国人が反論をし、面白い論争になっている。

 

多くの中国人は、QRコード決済の経験しかない

中国人ネットワーカーは、これに対して、「QRコード決済は面倒じゃない」と反応している。その理由のひとつは、クレジットカードを使った経験がある人はそうは多くないということだ。

中国でVISAやMasterなどの国際ブランドのカードを持っている人はごくわずかで、持っている人もほとんどは海外で利用をする。そのため、中国国内で国際ブランドのカードが使える商店は、ホテルやホテル内のレストラン、百貨店などごくわずかな場所でしかない。要は、外国人が来る場所で、客単価が高い場所に限られている。

一方で普及をしたのは銀聯カードだが、これはデビットカードであり、分割払いなどのクレジット機能はついていない。各銀行により、オプションで分割払いやリボ払いなどの機能をつけることができるが、別途申し込みが必要であり、信用審査が必要となるため、時間もかかる。一方で、アリペイなどの分割払い機能を開通するには、スマホから申し込んで数分で使えるようになる。決済履歴などから信用スコアが算出されているので、信用審査が瞬時に終わるからだ。

アップルペイなどのNFCスマホ決済が入ってきたときには、すでにQRコード系決済である「アリペイ」「WeChatペイ」がかなり普及をしていた。

つまり、簡単に言うと、多くの中国人はQRコード決済しか知らず、比較対象になるクレジットカードやNFC決済を使った経験がないので、「QRコード決済は不便」と言われても、ピンとこないのだ。台湾ではクレジットカードやNFC決済が普及をしてから、QRコード決済が入ってきたために、不便だと感じてしまう。

 

利便面での改善が急速に進むQRコード決済

ただし、QRコード決済もその不便さを解消してきている。パスワードは現在入力している人はほとんどいない。指紋認証、顔認証で自動でパスワードが入力されるように設定している人がほとんどだ。さらに、一定額以下の少額決済では、パスワードの入力自体を省く設定にできる。

また、決済アプリを起動する面倒も解消されてきて、多くのスマホで、「QRコード表示/スキャン画面」のショートカットを設定できるようになっている。つまり、今では「1:スマホを取り出す」「2:QRコードを表示する」「3:店舗側にQRコードをスキャンしてもらう」「4:レジ側で決済が完了したことを確認する」と4ステップで済むようになっている。

また、顔認証決済を導入している商店も増えてきている。これであれば、「1:顔を見せる」「2:携帯電話の番号下4桁などを入力」だけで決済が済み、スマホを取り出す必要もなく、スマホを忘れたとしても決済ができる。

f:id:tamakino:20190207123356j:plain

▲中国のケンタッキーが運営するKPro。入り口付近にメニュー端末があり、顔認証で決済ができる。顔認証を登録していない場合は、QRコードでも決済可能。このタイプの端末を導入するファストフードが増えている。


カードは紛失するけど、スマホは紛失しない?

面白いのは、中国人側からの「クレジットカードはなくしたり、忘れたりする危険がある」という指摘だ。スマホだって、なくしたり、忘れてきたりする危険性はあるが、今の中国では、スマホが生活のあらゆる局面で使うツールになっているので、紛失をしたらすぐに気がつくし、家に忘れてきてもすぐに取りに帰るだろう。

一方で、クレジットカードや電子マネーカード、交通カードは毎日使うとは限らない。使うとしても1日数回でしかない。紛失をしても、それに気がつくまでには多少の時間がかかる。

つまり、日常必要な機能は、すべてスマホという1つのツールに集約してしまえば、持ち歩くツールの数が減るし、頻繁に使うので、本人も気をつけるし、紛失をしてもすぐに気がつくので対処もすぐできる。一方で、年に何回かしか使わないクレジットカードをタンスの中にしまっている人は多いと思うが、ひょっとしたら半年前に盗難にあっていて、まだ気づいていないということもあり得る。

自宅の鍵は、毎日使うので、本人も気をつけるので失くすことはほとんどないし、万が一失くしてもすぐに気がつくだろう。しかし、数年に一度使うことがあるかないわからないスペアキーはどうなっているだろうか?最近、ちゃんとあることを確認したのはいつのことだろうか。あるいはしまってある場所すら忘れている人も多いのではないだろうか。

日常重要なものはできるだけスマホ化して、「なくしたり忘れてはならない大切なもの」をひとつに絞った方が、紛失のリスクが少なくなり、心理的負担も小さくなるという中国人ネットワーカーの指摘には、耳を傾ける価値があるのではないだろうか。