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入れておくだけでお金が増える。WeChatペイが「零銭通」で、アリペイに対抗

中国2大スマホ決済のひとつ「WeChatペイ」が「零銭通」サービスを始める。これはMMF理財商品で、入金をしておくだけで3%前後の利息がつくというものだ。アリペイには以前から「余額宝」という理財商品があり、これがあるためにアリペイを利用する人が多かった。WeChatペイにも理財商品が登場することで、再びアリペイとのシェア争いが激化していくと蛋蛋賛が報じた。

 

決済だけではないスマホ決済の金融機能

中国で普及をするスマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」。ここまで普及をした理由は、キャッシュレス決済機能だけではない。

ひとつは、クレジットカードと同じように分割払いやリボ払いのようなことができる「花唄」(アリペイ)、「微粒貸」(WeChatペイ)。お年玉送金機能の「紅包」(アリペイ)、「揺免単」(WeChatペイ)。

さらに、大きな魅力となっていたのが「余額宝」(ユアバオ)だった。これは資金を入れておくだけで、利息がつくというもの。現在は年利3%を切るところまで落ちているが、一時期は6%を超えていたこともあった。1元からいつでも出し入れが可能という「お財布の奥のポケット」感覚の理財商品だ。

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▲キャンペーン期間にWeChatペイで決済をした後、スマホを振ると、決済金額が無料になったり、何%かがキャッシュバックされる。このようなキャンペーンで、利用者を増やしていった。

 

WeChatペイにはなかった理財商品

この余額宝は、サービスが始まって5年経つが、収益は1700億元(約2.7兆円)に達している。平均して1日1億元(約16億円)の収益を上げていることになる。この余額宝は、アリペイのもので、WeChatペイには相当する機能がなかった。そのため、シェア争いではアリペイが強かった。

それが5年遅れで、WeChatペイも「零銭通」(リンチエントン)という類似のサービスを始めた。これでようやく、「アリペイ」と「WeChatペイ」が同じ条件で戦えるようになった。

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▲WeChatペイが始めた「零銭通」。お金を入れておくだけで、4.2%(時期によって変動)の利息がもらえる。スマホ決済アプリの中に出し入れ自由の定期預金機能がある感覚だ。

 

還元利息を競い合う状態になるか?

ネットユーザーたちは「5年遅れはあまりに遅い」「遅すぎた」という否定的な意見を述べているが、零銭通のユーザー還元利息は、現在のところ、余額宝よりも若干うわまっている。還元利息は日々変動をするので、今後どうなるかはわからないが、しばらくの間は零銭通は戦略的に還元利息を高くするだろう。こうして互いに競争することで、還元利息が高くなり、利用者にとってメリットが生まれると歓迎しているネットユーザーもいる。

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▲アリペイの人気の機能である「余額宝」。この例では、3万1000元(約50万円)を預けて、このひと月で80元(約1300円)の利息がついている。下手なポイント還元よりずっとお得で、1元単位で24時間いつでも出し入れできる。

 

個人から資金を集めて銀行に再投資

この「余額宝」「零銭通」の仕組みは、MMF(債権を中心にした投資信託)だ。個人でも銀行に行けば、MMFに投資をすることはできるが、投資金額が数百万円規模であれば、当然、利息などの条件も悪くなる。「余額宝」「零銭通」は、アリペイやWeChatペイの利用者から資金を集め、その資金をまとめて銀行のMMFを購入する。そのため、好条件で投資することができる。

運営は銀行から高い利息を得て、利用者に経費と利益を引いた利息を還元する。それでも利用者から見れば、自分でMMFに投資するよりも高い利息が得られるのだ。

 

スマホ決済の普及で、低コストの資金調達が難しくなった銀行

しかし、余額宝の歴史は、銀行との戦いの歴史でもあった。銀行は、普通預金という低金利の口座を利用して、低コストの資金を仕入れ、それを高金利で貸し出して収益を得るビジネスモデル。余額宝が広がるとともに、多くの人が普通預金口座からアリペイの余額宝に資金を移し始めたため、銀行は低コストの資金調達が難しくなっていった。

そのため、余額宝の運営会社に対してはMMFの販売を拒否したり、法規制をかけて余額宝に制限をかけようとしてきた。余額宝は当初は6%以上の利息を利用者に還元していたが、現在では3%を切るところまで下がっている。さまざまな規制がかかり、簡単には収益が上がらなくなっているからだ。

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▲アリペイの「余額宝」の還元利率の変化。6%を超えていた時期もあった。2015年後半から、普通預金残高が減少し、低コストの資金調達が難しくなった銀行が反撃に出て、さまざまな法規制がかかったために利率が下がっている。赤い枠は、余額宝の利用者と収益が急増した時期。利率が上がると、利用者が増え、収益も増加する。

 

再びアリペイとWeChatペイのシェア争いが始まる

そこにWeChatペイが「零銭通」のサービスを開始した。余額宝の人気が以前ほどでなくなっているタイミングでの参入だ。現在、余額宝は還元利息が2.5%程度であるのに対し、零銭通は3%程度を還元している。今後も、利息競争は激化すると見られ、再び「アリペイかWeChatペイか」というスマホ決済のシェア争いも激化していくと思われる。