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苦境に立つライドシェア「滴滴出行」。弱り目に新規参入続々

中国で、ウーバーをも吸収したライドシェア「滴滴出行」が苦境に立たされている。ライドシェアで痛ましい事件が続き、ライドシェアサービスは現在停止中。そこに続々と大型の新規参入が続いている。ライドシェア市場は再び競争のフェーズに入るのではないかと全媒体聚焦が報じた。

 

ライドシェアサービスは無期限停止中

中国のライドシェア滴滴出行(ディーディー)の地位が危うくなっている。滴滴のサービスは大きく分けて2つある。

ひとつは一般の自動車所有者が自分の自動車を運転して乗客を乗せる「順風車」。実際には、運転手が乗車賃を稼ぐために運転しているケースがほとんどだが、建前は自分が移動するついでに乗客を乗せるライドシェア。乗車賃は安い。

もうひとつは滴滴の専用車を使い、タクシーと同じように乗客を乗せる「快車」。スマホアプリで呼べるタクシー感覚だ。乗車賃は原則、タクシーとほぼ同じ。

順風車では、昨年2018年に、乗客の女性が暴行された上に殺害されるという事件が起き、乗客が減少するとともに、運転手の本人確認がずさんだったことが明らかになり、現在では運転手の本人確認が厳しくなっている。これがあまりにも厳しすぎて、業務に差し支えるレベルになっており、それを嫌って乗客が減少したため、運転手離れが起こり始めている。このような状況を受け、滴滴は現在、順風車サービスを無期限停止している。

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滴滴出行は、2018年に乗客の女性が運転手に殺害されるという痛ましい事件が起きて、つまづき始めた。被害者の女性は、車内からSNS「WeChat」で、友人に助けを求め、遺族がその会話を公開したため、市民が大きく注目する事件となった。その後も、事件が続き、現在、ライドシェアサービスは停止中になっている。

 

メリットが感じられないタクシーサービス

タクシーサービスの方も、以前ような勢いがない。滴滴が急速に利用されるようになったのは、中国の都市部ではタクシーが絶望的に捕まらないという事情があったからだ。路上で捕まえられるかどうかは運次第。駅や空港のタクシー乗り場は30分は並ぶことを覚悟しなければならない。そんな状況で、スマホアプリから呼べる滴滴は利便性が高かった。

しかも、タクシーよりも圧倒的に安い。2012年に創業した滴滴は、ITサービス系企業の例に漏れず、大量のクーポンを配布し、割引キャンペーンを行ってきた。これで消費者を惹きつけ、380都市でサービスを展開、180万人の運転手がいるところまで成長をしてきた。

しかし、2016年に中国ウーバーを吸収合併すると、滴滴は次第に収穫のフェーズに入り、クーポンやキャンペーンの頻度が少なくなっていく。消費者から見ると、「料金は一般のタクシーと変わらない」感覚になり、以前の順風車を利用していた人からは「大幅に料金が高くなった」と映っている。

メリットは、スマホアプリで呼べばすぐくるというところだが、既存のタクシー業界も滴滴の成長を見て、急速にタクシープラットフォームを導入。滴滴と同じく、スマホアプリやアリペイ、WeChatペイの中からタクシーを呼べるようになってきている。滴滴のメリットがほとんど消えてしまったのだ。

 

滴滴の苦境を見て、美団がライドシェアに参入

この滴滴が苦しんでいる状況を見て、大型の新規参入が相次いでいる。ひとつは美団(メイトワン)だ。美団はもともとまとめ買いサイトだったが、外売サービス「ウーラマ」の隙をついて、外売サービスに参入、トップシェアを握ってしまった。すでに、上海、 杭州成都、南京、温州の5都市で、ライドシェアの営業許可を取得済みで、報道によると近々、北京での営業許可も取得できる見込みだ。北京は、滴滴の聖地とも言える場所で、ここで、美団と滴滴が激突することになる。

 

新エネルギー車を使った曹操も成長中

滴滴の程維(チャン・ウェイ)の頭痛のタネになっているのは、美団だけではない。自動車メーカーの吉利(ジーリー)の「曹操専車」(ツァオツァオ)というライドシェアが急成長をしている。創業は2015年11月、寧波市でだったが、着々とサービス提供都市を増やし、現在28都市に展開をしている。

曹操の特徴は、吉利が製造した新エネルギー車を使っている点だ。乗客からは、エコであり、乗り心地も静かという評価を得ている。中国の都市部では、エコ(大気汚染)のために、車ではなく公共交通を利用しようというキャンペーンが展開されている。曹操は、このような都市政策にもうまく乗り、現在企業価値は30億ドル(約3200億円)を突破し、滴滴のライバルに成長している。

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▲新エネルギー車を使ったタクシーサービス「曹操専車」。現在28都市に展開をし、着々とサービスを広げている。

 

再びライドシェアは厳しい競争フェーズへ

中国網約車サイトの予測によると、網約車(滴滴、曹操などのスマホアプリで呼べるタクシー)の市場規模は、2016年には95億ドル(約1兆円)だったものが、2018年には230億ドル(約2.5兆円)になっている。2020年には750億ドル(約8.2兆円)に成長すると予測され、この大きな市場を滴滴だけに享受させるにはいかないと、新規参入が続いている。

今後も大型の新規参入も予想され、ライドシェア市場は、激しい競争フェーズに入っていくと思われる。