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最後はタダになる究極のダイナミックプライシング。急成長する豚肉チェーン「銭大媽」

2012年に広東省東莞市で開業した豚肉専門店「銭大媽」(チエンダーマー)が急成長をし、昨年9月に11都市1000店舗のチェーンとなった。その秘密は「宵越しの肉は売らない」という販売方針と、30分ごとに割引率が上がり、最後にはタダになるダイナミックプライシングにあると斧王劉宇翔が解説した。

 

30分ごとに割引率が上がっていくダイナミックプライシング

豚肉専門小売チェーン「銭大媽」が急成長をしている。中国で急成長する小売といえば、オンラインとオフラインを融合した「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)などの新小売系が強いが、銭大媽は基本的にオフラインの対面販売が中心。普通の肉屋と同じ形態だが、2つの販売方針が受けて、急成長をしている。

ひとつは「宵越しの肉は売りません」という販売方針だ。入荷した肉はその日のうちに売り切ってしまい、万が一売れ残った場合は廃棄をする。常に、当日入荷した新鮮な豚肉が買える。

もうひとつが、銭大媽ならではのユニークなダイナミックプライシングだ。昼過ぎに店舗は開店するが、夜7時になると1割引になる。さらに7時半になると2割引になる。こうして30分ごとに割引率が上がっていき、夜11時半には0、つまりタダになるのだ。

この二つの方針が消費者に受け入れられ、各店舗は小さいものの、いつも人が賑わう人気店になっている。

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▲銭大媽の店舗はいつも人で賑わっている。下町を中心に出店をし、オンライン販売などには積極的ではないものの、ユニークな戦略で急成長している。

 

「宵越しの肉は売らない」方針が受ける中国

中国人は、豚肉の鮮度を気にする。ちょうど日本人の魚に対する鮮度と同じくらい敏感だ。明け方に解体をして、その日のうちに食べるのがいちばんいいという。3日保存した豚肉はもう味が落ちると考えている。日本では、数日熟成させた方が美味しくなると考えている人が多いので、ずいぶんと感覚が違う。当日食べるのでは、豚肉は死後硬直の状態にあり、日本人の感覚では硬すぎると思うのだが、中国人はそれがいいと考えているようだ。

それほど鮮度を気にする中国では、「宵越しの肉は売らない」販売方針の銭大媽は、安心して鮮度のいい豚肉を買える店になっている。

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▲銭大媽の店舗は新鮮な豚肉がウリで、夜8時頃にはだいたい商品が全部売り切れるという。「宵越しの肉は売らない」方針を貫いている。

 

夜11時半にはタダになるのに利益が出る秘密

問題は、このユニークなダイナミックプライシングだ。夜11時半にはタダになるのだから、買い物客全員が共謀して11時半まで購入を控えれば、毎日タダで豚肉が食べられるようになる。銭大媽はどうやって利益を出しているのだろうか。

斧王劉宇翔は、銭大媽は一部商品ではなく、全商品を一律値引きをするところにポイントがあるとしている。

店頭に並べている商品の量は限られているが、買う量に制限はない。そのため、例えば夜8時半の4割引の時に「お店のお肉を全部ください」という客がやってくる可能性もある。そうなると、商品が売り切れになり、早仕舞いをしてしまう。夜11時半の無料になってから行こうと考える人が訪れた時にはもうお店が閉まっているのだ。

つまり、安く買おうとすればするほど、売り切れになっている確率が高くなる。結局、多くの人が、自分の食事時間の都合に合わせて店に行き、1割引、2割引の段階で買う人が多くなる。どの店もだいたい8時頃には売り切れて店じまいになっているという。

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▲銭大媽のダイナミックプライシング。19時から30分ごとに10%ずつ安くなっていき、夜11時半にはタダになる。一部の商品ではなく、すべての商品が割引になるというのがポイントで、消費者に強いインパクトを与えている。ただし、だいたい8時ごろには全商品が売り切れてしまうという。

 

夕飯時間が早い伝統的な地区に出店する

もうひとつ銭大媽がうまいのは、出店場所の戦略だ。銭大媽は下町の住宅地を選んで出店している。下町というのは伝統の長い古い居住地のことで、住民も伝統的な生活をしている人が多い。こういう地区では、夕方に買い物をして、午後7時頃には夕食を食べたいと考える人が多い。そのため、割引なしの時間帯に買い物をしていく人が多いのだ。

「夜11時半にはタダになる」という大胆な販売方法をとっているように見えるが、ほとんどの商品は、割引なし、または1割引、2割引程度で販売をすることができる。そして、売れ残りが出ることはないので、廃棄処理の手間とコストもかからない。しかも、売り切れれば閉店できるので、従業員は早く帰りたいために努力をする。それでいて、消費者には「宵越しの肉は売らない」が確実に行われていることがアピールできている。

 

ユニークな戦略があれば成長できる

中国の小売業は、オンラインとオフラインを融合した新小売に押されて、どのチェーンも経営が厳しくなっている。その中で、生き残れるのは、銭大媽のようなユニークな販売方法をとる専門店だ。銭大媽も、豚肉専門店であり、在庫がなくなり次第終了という販売方式であるため、時間とともに割引率が高くなるダイナミックプライシングをすることができている。

このようなユニークな戦略を持った小売店が、今後は生き残り、成長をしていくことになるだろう。