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サービスを発明した「ウーラマ」は、後発の美団になぜ負けたのか?(下)

前回では、外売サービスを始めたイノベーターであるウーラマが、後発の美団に追い抜かれたことを紹介した。では、美団はどうやってウーラマを追い抜いたのだろうか。そのポイントとなったのが、レストラン口コミサイトとの連携だった。携景網が解説した。

 

外売サービスを発明したイノベーター「ウーラマ」

中国でもはやなくてはならないサービス「外売」。スマホで注文することで、どこのレストランの料理でも配達をしてくれる。現在では、ほとんどのレストランに対応しているだけでなく、コンビニや薬局、ドラッグストアなどにも対応を始めている。出前サービスというよりは、買い物代行サービスになっている。

この外売サービスは、上海交通大学の学生、張旭豪(ジャン・シューハオ)が2008年に仲間たちと始めた「餓了么」(ウーラマ)から始まった。しかし、2013年に参入をした美団(メイトワン)が、一気にシェアの60%を握ることになった。

外売は、まったく新しいサービスというわけでもなかった。多くのレストランでは、持ち帰り用の「外売」サービスを行っている。店舗に行って「持ち帰り」を頼むと、料理をパックに詰めてくれるので、これを持って帰って自宅などで食べる。ただし、自分でお店まで買いにいかなければならない。

また、いくつかのレストランは外売車を出す場合もある。大学やオフィスビルの前に移動販売車で売りに行く。

ウーラマの外売サービスは、消費者から見れば買いに行く手間を代行してくれ、飲食店から見れば外売車(移動販売車、移動屋台)で売りに行く手間を代行してくれるものだ。

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▲ウーラマの創業者、張旭豪。外売サービスを発明したイノベーターだったが、市場の見方という点で、老練な経営者である美団の王興の方が優っていた。

 

既存市場に適合する「ウーラマ」、新規市場を開拓する「美団」

ウーラマはサービスを12都市で展開していた。進出する都市を判断するときに注目をしたのが大学やオフィスビルの前に出ている外売車の数だった。外売車の数が多い都市は、外売を利用する消費者が多く、外売に積極的な飲食店が多いので、ウーラマのサービスを展開しても勝算があると考えた。

しかし、美団の創業者、王興(ワン・シン)は、ここに穴があると感じた。ウーラマは外売の需要が強い都市でサービスを展開しようとしている。これは既存市場に乗っかってビジネスをするということだ。

王興は、外売サービスは、新規市場を開拓すべきだと考えた。つまり、まだ外売を利用していない消費者に利用させ、外売に積極的ではない飲食店に加盟店になってもらう。それでこそ大きなビジネスになる。美団は、すでにまとめ購入サイトの運営をしていた。そのデータから、消費力の強い30都市でサービスを展開できると踏んでいた。

王興は、当初、ウーラマを買収する道を模索していたという。ウーラマを買収して経営方針を改め、新規市場を開拓し、30都市でサービスを展開すれば、売上を大きく伸ばすことができると考えた。ところが、ウーラマの創業者、張旭豪は買収を拒否した。そこで、美団は独自でサービス展開をすることにし、2013年11月に30都市でサービスを開始、あっという間にウーラマを超えて、シェア60%を握ってしまった。

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▲美団の創業者、王興。ウェブサービスSNSなどをいくつも起業してきた老練な経営者。ウーラマの買収が不調に終わったため、美団外売を起業し、一気に市場を支配した。

 

ポイントは口コミサイトとの連携

では、どうやってまだ外売を利用していない消費者に外売を利用させ、外売に積極的ではない飲食店に外売を行わせるのか。その要となったのが、レストラン口コミサイト「大衆点評」だった。

美団を外売サービスを利用する人は、自宅などで食べるために外売サービスを利用しようと思い美団のアプリを起動し、飲食店のメニューを見て注文をするというのが一般的な行動シナリオだ。

しかし、その奥に真の行動シナリオが隠れている。「外売を利用しよう」と思う前に、「お腹が空いた」と思ったはずで、その時点で、大衆点評を開くか、ファストフードのアプリを開くか、美団のアプリを開くか迷った上で、美団のアプリを開いている。

であるなら、より上流の大衆点評アプリに外売注文の機能をつけてしまうのがいちばん理にかなっている。消費者はお腹が空くと、レストランガイドである大衆点評アプリを開き、口コミを読みながら、料理を探す。それから、店までの遠さや時間の余裕に応じて、店に行って食べるか、外売を使って出前をしてもらうかを選べるのだ。

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▲レストラン口コミアプリ「大衆点評」。下の方に「予約」「行列」「外売」のボタンが並ぶ。行列をタップすると、リアルタイムで行列の待ち時間が表示される。消費者は、レストランを決めてから、行くか出前を取るかを選べるようになった。

 

消費者はレストランに行くか、出前を取るか選べるようになった

これで、今まで外売を利用していない人も外売を利用するようになり、外売を利用する人が増えると、外売に対応する飲食店も増えていくという好循環が生まれた。

大衆点評は、テンセント系の資金を得て運営をしているサービスだった。一方で、美団はまとめ購入サイト時代の経営危機に手を差し伸べてもらって以来、アリババと良好な関係を保っていた。しかし、美団は大衆点評を手に入れるため、アリババとの関係を絶って、テンセントの資金を得るという「乗り換え」までして、大衆点評と提携し、2015年に大衆点評と合併をしている。それほど大衆点評との連携が重要なポイントだと考えていた。

一方、ウーラマはそれまでテンセント系の資金を受けていたが、美団に追い上げられ、美団と大衆点評の動きを見て、テンセント陣営から離脱し、アリババの資金を得るようになる。これで美団=テンセント、ウーラマ=アリババという両巨頭の代理戦争の図式ができあがっていった。

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▲フォロワーだった美団は、後発ながらレストラン口コミサイトを活用して、ウーラマを追い抜き、市場のリーダーとなった。


口コミサイトの活用に一歩遅れたアリババ陣営

アリババは2006年に口コミサイト「口碑」を買収していた。しかし、当時は活用法が見出せず、アリババのECサイトタオバオ」の商品口コミシステムとしてか機能していなかった。2015年に、美団と大衆点評による躍進を見て、アリババは、口碑の飲食店口コミ機能を充実させ、ウーラマと連動させることにした。

さらに、第三の外売サービスである百度外売をアリババは、ウーラマに買収をさせた。これで、一度は美団に抜かれたウーラマだったが、ほぼ同じ規模で拮抗をすることになった。

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▲アリババ系のレストラン口コミアプリ「口碑」。現在は、外売と予約のボタンがつけられたが、アリババは買収当初は、口碑と外売サービスを連携させることを思いつかなかった。この隙に、美団と大衆点評に抜かれてしまった。

 

ウーラマは新小売戦略の重要なパーツとなっていく

アリババは、ウーラマを外売サービスだけで運営するのではなく、自社が進める新小売戦略の中に「リアルタイム配送」として組み込むことにした。30分配送の宅配をする新小売スーパー「盒馬鮮生」の宅配部隊、スターバックスの出前「専星送」などの配送部隊もウーラマが提供をしている。

アリババは、ウーラマをリアルタイム配送機能として活用することをより推し進めるために、ウーラマを完全買収し、さらに口碑と合併させ、新会社を設立した。ウーラマというサービス名は残るものの、その創業者である張旭豪の名前は新会社の役員名簿には見当たらない。

ウーラマ(お腹すいたよね?)という奇妙な企業名をつけ、その面白さで認知度が上がりウーラマは成功した要素もある。その命名をし、システムを作り上げ、人手不足の時は自ら料理を運んだ創業者の張旭豪は、これでウーラマとの関係がなくなる。張旭豪はメディアからこのことについて尋ねられると不機嫌になるという。外売というサービスを作り上げた若き経営者が退くことになった。ひとつの時代が終わった。

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▲ウーラマは、アリババの新小売戦略に組み込まれたことで、ドローン配送を始めるなどテクノロジー系の進化が進んでいる。

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