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サービスを発明した「ウーラマ」は、後発の美団になぜ負けたのか?(上)

中国で普及している外売サービス。どこのレストランの料理でも宅配してくれる買い物代行サービスだ。このビジネスを創造したのは、ウーラマの張旭豪だが、現在市場を支配しているのは後発の美団だ。なぜ、ウーラマは後発の美団に抜かれてしまったのか。その理由を携景網が解説した。

 

追放されたイノベーター張旭豪

中国でもはやなくてはならないサービス「外売」。スマホで注文することで、どこのレストランの料理でも配達をしてくれる。現在では、ほとんどのレストランに対応しているだけでなく、コンビニや薬局、ドラッグストアなどにも対応を始めている。出前サービスというよりは、買い物代行サービスになっている。

この外売サービスは、上海交通大学の学生、張旭豪(ジャン・シューハオ)が2008年に仲間たちと始めた「餓了么」(ウーラマ)が最初だ。当時は上海交通大学の中で学生向けのサービスとして始めた。それが他の大学にも飛び火をし、大学の外にも対応するようになり、今では誰もが利用するサービスになった。

しかし、すぐに美団(メイトワン)がライバルとして登場し、熾烈な競争をすることになる。その中で、ウーラマはアリババに買収をされ、同じくアリババ系列のレストラン、ショップの口コミサイト「口碑」(コウベイ)と合併をすることになった。その新会社の取締役名簿には、ウーラマの創業者、張旭豪の名前はない。追放されたのか、自ら退いたのかはわからないが、新しいサービス「外売」を発明した若き経営者は、ウーラマの経営から離れることになる。ひとつの時代が終わった。

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▲外売サービス3社の揃い踏み。黄色が美団。青がウーラマ。赤が百度外売(ウーラマにより買収)。


上海交通大学で始まった外売ビジネス

ウーラマは、当初は上海交通大学の学生向けのサービスだった。上海交通大学の学生だった張旭豪は、学生たちが学食に飽き足らず、街のレストランの外売を利用していることに注目をした。

中国の多くのレストランでは、外売(お持ち帰り)サービスをやっている。店に行って、お持ち帰り注文をすると、料理をパックなどに詰めてくれるのだ。美味しいものが食べたい学生たちは、何人かで注文をまとめて、誰かが買い出しにいくという方法で、この外売を利用していた。

張旭豪は、これがビジネスになると考えた。学生が買いに行くのではなく、ネットで注文をとって、買い出しの代行をして、料理を学生寮まで届ける。当時は、まだスマートフォンも普及してなかったので、最初はレストランのメニューをスキャンして、ウェブサイトに掲示。PCから注文をしてもらうという方式だった。これが受けた。瞬く間に利益の出るビジネスとなり、他の大学でも噂を聞きつけて、ウーラマのサービスを運営したいと申し出る学生が相次ぎ、大学を軸としてウーラマが広がっていった。

大学内の運営でノウハウを蓄積したウーラマは、大学の外に出て、一般の人からの注文も受け始めた。これも大好評で、外売は一気に中国人にはなくなてはならないサービスとなった。

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▲ウーラマの創業者、張旭豪。外売サービスというイノベーションを起こしたが、ウーラマの経営から離れることになった。

 

老練な経営者、王興の参入

このウーラマの成長ぶりを観察していたのが、美団の創業者、王興(ワン・シン)だった。彼は学生向けのSNS「校内網」(現在の人人網)、ブログプラットフォーム「飯否」などを創業した老練な起業家だった。その時は、まとめ買い購入サイト「美団」を運営して成功していた。しかし、急成長するウーラマを見て、どこかに参入する余地はないのかと日夜考え続けていたのだ。

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▲経験豊富な経営者、美団の王興。後発の美団外売は、あっという間にウーラマを抜き、市場を支配した。

 

ランキングデータから発見したウーラマの弱点

ウーラマは、サイトで、自社のデータを惜しげもなく公開していた。その中に、都市別の売上ランキングというデータがあった。王興は、このデータに奇妙な点を発見した。

売上1位から4位までの都市は、上海、北京、広州、杭州となっている。これは何の不思議もない。人口も多く、消費力も強い都市だ。しかし、第5位に福州が入っている。王興にとっては、これは奇妙なことだった。なぜなら、美団の運営から得られた知見では、福州は消費力ランキングが大体30位前後の都市だからだ。福州の人は、特別美食好きで、特別外売を利用する理由が何かあるのだろうか。

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▲外売では、パックに入った料理が届けられる。自宅で、オフィスで、公園のテーブルで外売の料理を食べる人が増えている。

 

市場に適合しようとするウーラマ

王興は、美団の運営で得られた知見から、外売サービスを始めるのであれば、消費力の大きな上位30都市でサービス展開をすればじゅうぶんに採算が合うと感じていた。しかし、ウーラマは12都市でしかサービスを展開していない。しかも、残りの18都市への展開は遅々として進んでいないように見えた。

その頃、王興は、ウーラマの創業者、張旭豪が武漢を視察した話を耳にした。武漢は、大学が多く、ウーラマのサービスを展開するのにうってつけの学生都市だ。その武漢にサービス展開をするかどうかを張旭豪は見極めにやってきた。

張旭豪が見るポイントは、昼時に大学などにいって、門の前で外売車の数を数えることだった。レストランや食堂の業者は、料理をライトバンのような車に積んで、大学の門前やオフィスビルの集まる場所にいき、そこで料理を販売する。大学の前にはそういう外売車や屋台が並ぶことがある。張旭豪は、このような外売車が多いと、その都市は外売に対するニーズが強いと判断をして、その都市でサービスを展開することにしていた。

ところが、武漢の大学の前にはほとんど外売車も屋台もいない。張旭豪はそれ見て、がっかりしてしまい、ウーラマが武漢に進出することを躊躇してしまったという。

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▲中国のレストランには、持ち帰り専用の外売窓口を設けているところが多い。なくても、料理の持ち帰りにはほとんどのレストランが対応している。写真は、上海の観光地、豫園にある南翔饅頭店。

 

市場を開拓しようとする美団

美団の王興は、この話を聞いて、またとないチャンスだと考えた。ウーラマの戦略は既存市場に適合をすることを考えている。外売を利用したい消費者がいて、外売をしたいレストランがあって、今までは買いに行っていたり、外売車を使っていたものが、ウーラマのサービスを利用するとものすごく便利になる。そういうところにウーラマのサービスを提供する余地があると考えていた。

しかし、美団の王興は、外売は新しいサービスなのだから、新しい市場を開拓すべきだと考えていた。つまり、今まで外売を使っていなかった人を顧客にし、今まで外売に力を入れてなかったレストランを加盟店にすべきだと考えた。ウーラマは、既存市場に適合しようとしたため、消費力の高い30都市のうち12都市しか展開ができていない。だったら、美団は、新規の市場を創造し、残りの18都市でトップになればいい。参入する価値はじゅうぶんにあるし、勝算もあると考えた。

 

イノベーターがフォロワーに負ける

こうして、2013年、美団は、美団外売として外売サービスに参入し、一気に30都市にサービス展開をした。ウーラマがサービスを提供している12都市では、競争があるため、なかなか成果を出せなかったが、残りの空白の18都市では圧倒的な強さを見せた。

ウーラマはそれまでシェア100%だったが、それが40%になってしまった。美団は、それまでシェア0%だったが、60%になった。短時間で業界のトップリーダーとなったのだ。

中国では、ウーラマだけでなく、シェアリング自転車のofoなど、若いイノベーターが新しいサービスを創造してきたが、それを追いかける老練な経営者に追いつかれ、抜かれ、市場を支配されるという事態が続いている。ウーラマの張旭豪、ofoの戴威に共通するのは、自分の信念を曲げず、創業時の志に固執をすることだ。これは人としては素晴らしいことだし、それだからこそ、ゼロから起業して、急成長ができたとも言える。しかし、成熟期になると、やはり経験豊富な老練な経営者に攻め込まれてしまうのだ。今の中国のスタートアップ状況は、そのような段階に入っている。