中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

アリババとテンセントが激突するカフェ戦争

2018年は、中国のカフェ界に激震が走った。ラッキンコーヒー(luckin coffee)が、創業わずか1年で2000店舗を超え、スターバックスに次ぐ第2位のコーヒーチェーンとなった。スターバックスがアリババと提携をしたことにより、ラッキンコーヒーはテンセントと提携をした。中国ITの巨人がカフェという領域で対決をすることになると駆動中国が報じた。

 

創業わずか1年で2000店舗を突破

長年スターバックスがリードしてきた中国のカフェ界に新しい風が流れ込んでいる。ラッキンコーヒーの驚異的な急成長だ。創立わずか9ヶ月という短い時間で、14都市1200店を開店し、現在は22都市2073店に達し、利用者1254万人、2018年に8968万杯のコーヒーを売り、スターバックスに次ぐ第2位のコーヒーチェーンとなった。

すでに北京市の中心部では、徒歩5分以内に必ずラッキンコーヒーの店舗がある状況になっている。

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▲ラッキンコーヒーの店内。いわゆる「意識の高い若者」だけでなく、幅広い年代の人が利用している。本来はカウンターで商品を待つ必要はないのだが、短気な中国人はできていないうちからカウンターで待ってしまうのはご愛嬌。

 

スマホアプリを使って、行列という悪いユーザー体験を解消

ラッキンコーヒーの躍進の秘密は、多くのセルフカフェが放置している悪いユーザー体験をスマホを使って解決したことにある。

一般のセルフカフェでは、店舗に行ったらまず注文レジに並び、コーヒーを注文し決済をする。次に、商品カウンターに並び、商品ができるのを待って受け取る。それからコーヒーを持ったまま席を探して座らなければならない。ユーザー体験がいいとは言えない。混雑している店では2回も行列をしなければならないし、コーヒーを持っているのに空いている席が見つからないことすらある。

ラッキンコーヒーは、この悪いユーザー体験を一掃した。店に行ったら、まず空いている席を探して座る。それからスマホを取り出して、専用アプリを起動。そこからコーヒーを注文する。決済も同時に行われる。

注文をすると出来上がり予想時間が表示される(この時に注文をキャンセルすることも可能)。コーヒーができあがると通知がくるので、カウンターに受け取りに行き、アプリに表示されるQRコードをスキャンしてもらって商品を受け取るというものだ。行列に並ぶ時間はゼロになる。待っている間は、席に座って話でもしていればいい。

アプリ注文は、何も店内からしかできないわけではない。オフィスの中で、あるいは店に向かっている途中で注文して、できあがり予想時刻を見計らってとりにいってもかまわない。

セルフカフェで長年改善されない悪いユーザー体験を解消することで、あっという間に受け入れられた。

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▲ラッキンコーヒーのアプリ紹介より。コーヒーができあがるとプッシュ通知がきて、カウンターでも203番の呼び出しがある。カウンターでQRコードをスキャンしてもらうとコーヒーを受け取ることができる。並んで待っている必要はない。

 

専用アプリでユーザーとの接点を作る

専用アプリは、注文だけに使うわけではない。ユーザーとの接点をもつ重要なツールとなる。ラッキンコーヒーでは、大量のクーポンをアプリを使って配信している。「初めて買うときは無料」「2杯買うと1杯無料」「5杯買うと5杯無料」「軽食がすべて半額」などを時期に応じて配布している。また、出前も行なっていて、15分から20分ほどで届けられるが、30分を超えると自動的に無料クーポンが配信される。

こうした大量のクーポンで、ユーザーを拡大し、リピーターを増やしていった。

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▲ラッキンコーヒーのカップ。一般にカフェのブランドカラーは茶系統か暖色系統にする。ラッキンコーヒーは青をうまく使い、他のカフェとの差別化に成功した。

 

投資の勢いが止まらない

これだけのクーポンを配布していると、投資家が不安になるのは、利益があがるのかという問題だ。しかし、あっという間に第2位のカフェチェーンになっただけでなく、第1位のスターバックスを超えるのではないかとも期待され、投資は順調すぎるほどに集まっている。

今年7月には、2億ドルのAラウンド投資を完了し、企業価値が10億ドルを超えて、世間を驚かせた。それどころか、12月にはさらに2億ドルのBラウンド投資を完了し、企業価値は22億ドルと倍以上になり、再び世間を驚かせた。

この大量の資金があるために、現在は大量のクーポンを配布し、店舗展開を進めることができ、急成長をしている。

 

スターバックスはアリババと提携して対抗

カフェチェーン第1位のスターバックスにも影響があった。2018年7月に発表された2018年第3四半期の決算報告書によると、中国での出店数は伸びているのに、9年ぶりに売上が下がった。

そこでスターバックスが対策をしたのが、中国式の外売(出前)に対応することだった。アリババとアリババ参加の盒馬鮮生(フーマフレッシュ)、餓了么(ウーラマ)と提携をして、30都市2000店で出前に対応する。当面は配達料を無料にし、スターバックスの強いブランド力を活かして、生活シーンの中にも浸透をしていこうとしている。

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▲アリババはスターバックスと提携をしている。これがアリババのライバル、テンセントに火をつけた。

 

アリババが動けば、テンセントがラッキンコーヒーと提携

スターバックスがアリババと手を結んだことにより、もうひとつの巨人テンセントも動き始めた。ラッキンコーヒーと戦略提携をし、ラッキンコーヒーの「スマート小売」をバックアップする。決済システムには顔認証などの最先端技術が投入をされ、ネットを使ったプロモーション戦略などを支援するという。

テンセントのもつWeChatペイから分析される消費データによる戦略立案などにも関わり、WeChatのミニプラグラムの活用も考えられている。かなり本格的な深い戦略提携になると見られている。

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▲ラッキンコーヒーとテンセントの戦略提携調印式。アリババがスターバックスと提携したことで、テンセントがラッキンコーヒーと結びついた。

 

激化するアリババとテンセントのカフェ戦争

ラッキンコーヒーがBラウンド投資完了の発表を行った12月14日、アリババとスターバックスはその発表にぶつけるようにして、アリペイへの対応を発表した。アリペイユーザーは、スターバックスの会員登録をしなくても、アリペイアプリの中からスターバックスのコーヒーを注文して、アリペイで支払うこともでき、スターバックスのポイントも貯められるというものだ。近日中にスタートするという。

ラッキンコーヒーの登場によって、コーヒーチェーンが動き始めている。アリババとテンセントが背中を押すことで、技術と資金の面で、コーヒー戦争は次の局面を迎える。2019年はコーヒーチェーン業界が大きく動く年になると見られている。