中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国IT企業は残業代を支払っているのか?

中国のIT企業では残業は当たり前の話。しかし、一応ながら労働基準法に相当する法律があり、残業代は支払わなければならない。一体、中国IT企業は残業代を支払っているのだろうか?テンセント、アリババ、百度、ファーウェイの4社について、残業手当がどうなっているか、北京硅谷本元信息科技が報じた。

 

9時出社、9時退社、週6日が当たり前の「996」業種

脉脉データ研究院の2017年の調査によると、企業十従業員の90.91%の人が残業を経験しており、約1/4は毎日残業をしているという。特に金融、広告、コンサルティングの3業種は残業が常態化しており、「996」と俗に言われる。午前9時出勤、午後9時退社、週6日の意味だ。

中国で最もよく使われるマップアプリ「高徳地図」は2017年に、マップアプリの利用データを分析した「高徳地図年度交通報告」の中で、各企業の従業員の移動履歴から残業時間を推測し、そのトップ10を公表している。トップ10すべてがIT企業となり、ファーウェイ、テンセント、アリババという順位になった。

会社から強制をされずに本人の意思で残業をしているのであれば、中国では誰も問題にしない。問題は残業代をきちんと支払っているかどうかだが、IT企業の多くは年棒制なので、残業代という考え方がそもそも存在しないケースが多い。

その代わりに、残業をした社員に対しては、無料の食事提供、タクシー代などの支援策を取っている。

f:id:tamakino:20190107215203p:plain

▲マップアプリ「高徳地図」が、各社従業員の移動データから推測した残業時間ランキング。すべての業種のランキングで、トップ10はIT企業ばかりとなった。

 

テンセント:5時半終業なのに、帰宅のバスは6時半

テンセントでは残業を強制されることはない。しかし、終業が午後5時半であるのに、会社のバスは午後6時半から動き出す。この1時間を、多くの社員が残業をしてすごす。それで帰るのかというと帰らない。なぜなら午後8時になると、夕食が無償提供されるからだ。デザートまでついた立派な食事だという。それで、また1時間余りを残業してしまう。食事をしたら帰るのかというとまだ帰らない。午後10時以降になるとタクシー代が支給されるからだ。

結局、多くの人が午後10時まで仕事をして、食事をとって、タクシーで帰宅することになる。

テンセントでは、午後6時から午後10時まで(地域により時間は多少異なる)370路線の企業バス路線を運行していて、バス停の数は1000以上にもなる。中規模都市の都市交通と同じ規模だ。

多くの社員が年棒制であるので、残業代という考え方は存在しないが、そもそもの年棒が高いので、不満を言う社員は少ないという。

 

アリババ:出退勤管理すら存在しない

アリババも年棒制であるため、残業代という考え方は存在しない。それどころか、出退勤管理も特にしていない。すべては、仕事の成果によって、次の年棒が決まっていく。たくさん働くか、短く働くかは本人が工夫をすればいいことだと考えているようだ。午後9時以降は、タクシー代が支給され、午後10時以降になると、社食が無料になる。

企業バスは、杭州市内向けに走り、3時間ほどかかる上海便も定期運行をしている。

 

百度:終業は午後6時でも、帰宅のバスは午後11時まで運行

規定によると、終業は午後6時だが、多くの人が残業をし、地下鉄駅までの企業バスは午後11時まで運行している。午後9時以降はタクシー代が支給される。午後6時以降は、残業する人のための食事が20元(約310円)で提供される。

百度年棒制で、残業代という考え方が存在していない。

 

ファーウェイ:中国一残業の多い企業

ファーウェイは、中国一残業の多い企業だ。ネットに伝わるジョークで、ある人が朝9時にファーウェイの面接試験を受け、終わってから午前10時頃に、ファーウェ本社前からタクシーに乗った。するとタクシーの運転手が、「仕事帰りですか?」と尋ねたというものがあるほどだ。

ファーウェイでは、社食専用の電子マネーに会社から毎月800元(約1万2800円)が支給される。さらに8時半以降は、社食が無料になる。タクシー代も夜10時半以降、支給される。

ファーウェイも同じく年棒制であるために、残業代という考え方は存在していない。

 

残業という考え方が存在しない中国IT企業

中国のIT企業は、米国型の考え方を持っていて、仕事に対して給与が支払われる。「この仕事をしてもらうのに、年棒いくら」という考え方なので、社内でジョブチェンジをしなければ、給与は一生あがらない。それどころか、与えられた仕事をこなせなければ、より報酬の低い仕事にジョブチェンジすることを強制され、拒否をすれば解雇ということになる。報酬を上げるには、まず与えられた仕事をこなし、より報酬の高い仕事に社内転職するしかない。

そのために、規定時間で帰ろうが、朝まで残業しようが、それは本人が決めることという考え方だ。残業といっても、朝までみっちり働いているばかりではなく、仕事に余裕があるときは、社内の図書室に行って本を読んだり、ジムに行って運動をしたりして、それから帰宅することもあるようで、決して目一杯働いているわけではないようだ。

中国IT企業で働く人の多くが、そこで一生働こうとは思っていない。誰もが数年間懸命に働いて一財産作ることを夢見ている。自宅は自宅というよりも、キッチン付きの寝室だという考え方なのだ。