中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

2時間で43億円を売り上げる。トップインフルエンサーの独身の日セール

年々売上記録を更新する独身の日セール。しかし、その陰にはインフルエンサーである網紅の活躍がある。トップインフルエンサーである薇は、わずか2時間のライブ配信で約43億円の売上をあげたと棉棉網が報じた。

 

2時間で43億円を売り上げるトップインフルエンサー

中国のインフルエンサー「網紅」(ワンホン、ネットの人気者の意味)のトップスターである薇(ウェイヤー)は、11月12日の午前2時になってようやく休息を取ることができた。それまで20数日間、まったく休みが取れないほどの忙しさだった。

網紅とは、ネットで影響力のあるインフルエンサーのことだが、その多くがライブ配信で商品紹介をする。その売れ行きが尋常ではない。今年の独身の日セールでは、薇は自分の持つ売上記録を更新した。11月11日の午前0時から始めた2時間のライブ配信では、その中で紹介した商品の売上が2.67億元(約43億円)に達した。この日1日の売上は3億元(約49億円)、ライブ配信は230万人が視聴した。

f:id:tamakino:20181217213304j:plain

ライブ配信中の薇。「1日の配信で、マンションがひとつ買える」と言われるほどの販売力がある。

 

信用できる人から買う。それがインフルエンサーを生んだ

はトップクラスの網紅で、「一晩のライブ配信で、マンションがひとつ買える」と言われるほど、消費者に対する影響力がある。

なぜ、このような影響力を持つことができたのか。それは消費者からの信用だ。中国ではいまだに模造品、低品質商品が流通をしている。以前のような露骨な偽ブランド商品が百貨店でも売られているというようなことはなくなっているが、商品の質を見極めにくいECサイトではいまだに劣悪な商品も流通をしている。このような状況の中で、消費者は自然と「信用できる人から買う」という知恵を身につけてきた。近所では信用ができる店主がいる老舗の商店で買い物をすることができたが、ECサイトでは信用できる店主はいない。特にCtoC型のECサイトタオバオ」では、大量の業者が出店をしていて、その中には不誠実な業者もいる。そこで、薇のような信用できる網紅が紹介する商品を買うのだ。

 

f:id:tamakino:20181217213248j:plain

▲トップインフルエンサーの薇。一晩のライブ配信で、マンションがひとつ買えるほどの収益を上げる。独身の日セールでは、2時間で43億円の商品を売り上げた。このライブでは、スペインとポルトガルの旅行を勧めている。

 

自分が買いたくなる商品だけを紹介する網紅

網紅にとって、消費者からの信用が最も重要な資産であるので、業者側に立って、多少劣悪な商品でも紹介してしまうということをやると、あっという間にその地位から転落をしてしまう。

には2000以上もの業者からオファーがあったが、彼女は商品を吟味し、約300の業者としか契約をしていない。「商品を選ぶとき、ライバル商品の種類、商品の性能価格比、ライブ配信での紹介料なども考慮しますが、いちばん大切にしているのは、自分自身が買いたくなるかどうかです」と言う。

f:id:tamakino:20181217213300j:plain

▲携帯のライブ配信。405万人が視聴している。広告などをタップすると、商品が購入できる。売上代金の数%が薇に入るアフィリエイト方式になっている。

 

企業も網紅の影響力を活用している

このような網紅の販売力に、すでに企業も注目をし、活用もごく当たり前のことになっている。多くの網紅が、アパレル、食品などの企業と高額の契約を結ぶようになっている。

カナダのアパレルブランドJACは、今年の4月から網紅によるライブ配信を始めた。JACの李寧副総経理は言う。「最初は1日に数十件、売上で数万元程度だろうと思って始めました。しかし、やってみたら1日の売上が数十万元にもなったのです」。

f:id:tamakino:20181217213257j:plain

ライブ配信前の打ち合わせ。人任せにせず、すべてを本人が決める。そこをないがしろにすると、あっという間にフォロワーの信頼を失い、転落してしまうからだ。

 

f:id:tamakino:20181217213252j:plain

▲薇のサポートチームもゆっくりと食事をとる暇もない。薇自身はもっと忙しい。

 

網紅の販売力に追いつくことで企業も鍛えられる

ECサイトでの競争が厳しくなる今、企業は網紅のライブ配信経由による販売に活路を見出そうとしている。網紅と巨額の専属契約を結んだとしても、広告費宣伝費よりは低コストで済むからだ。

しかし、難しさもある。ひとつは、企業の色がついた網紅の人気はあっという間に下降すること。また、ライブ配信で販売するものは在庫がなければならない。翌日、翌々日に配送されて、すぐ手に入ると思うと消費者は購入してくれるが、予約販売で配送は1週間後などの先になるというと如実に売上が伸び悩む。網紅のライブ配信を見て、「同じものを着てみたい。同じものを使ってみたい」という欲求が購入欲を刺激している。

網紅のライブ配信は、あまりに商品が売れすぎるので、それだけの商品を事前に生産して在庫を確保しておくことも難しい。かといって、過剰在庫になっている不人気商品を網紅に売らせようとすると、網紅の影響力自体が低下してしまう。

ある業界関係者は言う。「網紅は、ワンシーズン分の服飾品をすべて売り切ってしまうほどの影響力を持っています。しかし、企業側にも高い開発能力、生産能力がないと、この速度についていくことができません」。

企業による網紅の活用は、今後も広がっていくことは間違いない。しかし、企業側もその爆発力に対応できるだけの体制を作る必要がある。特に、女性向け商品である服飾、化粧品などでは、網紅経由の販売ルートがますます大きくなっていくと見られている。