中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

キャッシュレス化の陰で問題化する若者の金融意識

中国教育部(文科省に相当)は、各地の高校に金融理財、金融安全の概念を樹立する教育を行うように通達を出した。その中では、「先消費」に対する知識を教え、行きすぎた消費をしないように節約意識を醸成するように求めている。スマホ決済が普及をし、信用決済で消費をする「花唄青年」の増加を懸念したものだと無錫日報が報じた。

 

クレジット機能が付与されるスマホ決済

中国でQRコード方式のスマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」が一気に普及したのにはさまざまな理由がある。いちばん大きいのは、日常の決済に便利ということだが、クレジット機能が自動的に付加されるということも大きい。いわゆるツケ払いやリボ払いのようなことができるのだ。

中国ではクレジットカードはほとんど普及をせず、以前は銀聯カードが唯一と言ってもいいキャッシュレス決済手段だった。しかし、銀聯カードデビットカードなのでクレジット機能はない。銀行口座の残高の範囲内で支払いができるだけだ。銀聯カードにクレジット機能を追加することもできるが、その際はクレジットカードと同じような事前審査が必要になる。当時の中国は与信プラットフォームが整備されておらず、クレジット機能を付加するハードルは高かった。収入がない大学生などはもちろん審査ではじかれる。

 

若者の4人に1人が利用するクレジット機能

ところがアリペイでは、花唄(ホアベイ)と呼ばれるクレジット機能が審査手続きなしで申し込める。アリペイは過去の消費履歴が分析できるので、その状況に応じて利用限度額が500元(約8200円)から5万元(約82万円)の間で決められる。これを「先消費、後返済」として、アリババはプッシュしていった。花唄を使うと、タオバオやTmallなどのECサイトで買い物をしても支払いは翌月9日でよく、その時に全額返済をすれば、利子や手数料などは一切かからない。

支払いが難しい場合は、分割払いにもできる(この場合は利子が必要になる)。お金がなくても買い物ができると、中国の消費行動を変えるぐらいまで普及をした。

アリペイの金融系サービスを運営しているアントフィナンシャルが公開した「2017年若年層消費生活報告」によると、90年代生まれ(20代)は中国に1.7億人いるが、そのうち、花唄を利用可能な状態にしている人が4500万人いるという。若者の4人に1人が花唄を利用していることになる。

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▲花唄のネット広告。「買い物をしたくなったら花唄!タオバオ、Tmallでお買い物。翌月10日までに返済。アリペイから返済。0費用」というもの。陽気なイラストがかえって怖い。

 

給与のほとんどが返済に回る「花唄式青年」

きちんと返済をしていれば何も問題もなく、消費生活の選択肢を広げることができるが、返済が滞ると信用スコアが落ち、利用限度額が下がったり、最悪の場合は利用ができなくなる。

この花唄は、特に手持ちのお金が少ない大学生や若者の間に広まり、2015年からスタートした花唄サービスも4年目に入り、そろそろ負の面が議論されるようになってきた。

ひとつは、花唄で破綻をするとアリペイに付属した芝麻信用(ゴマ信用、ジーマ信用)スコアが著しく低下し、日常生活にも支障が出るほどになること。もうひとつは、花唄式青年という言葉が生まれ、給与が出るとそのほとんどが返済に回ってしまい、そのストレスからさらに花唄により買い物をするようになるという悪循環に陥ることなどだ。

 

独身の日セールがきっかけで先消費、後払い生活に

無錫日報は、実際に花唄を利用している若者に取材をした。今年大学を卒業したばかりの雪さんは、上海で働いているが、大学2年生の時から花唄を利用している。イヤホン、デジタルカメラ、キーボードなどを花唄の分割払いで買った。「最初はあまり使わなかったのですが、独身の日のセールをきっかけに、先消費、後払いのサイクルにはまってしまいました。大学の時も毎月1000元(約1万6000円)は使っていて、ほとんどは日常の買い物でしたが、今では毎月2600元(約4万2000円)の限度額いっぱいまで使ってしまいます。給料が出たら返済しています。何かを買う時は、花唄で支払うのが普通で、銀行口座の残高には手をつけず、余額宝(MMF金融商品)に入れています」。

雪さんは、花唄は、クレジットカードのような機能だが、審査を受ける必要がなく使えるところがいいとし、自分の消費習慣は確実に変わったという。

雪さんの場合は、花唄をうまく使いこなして、消費生活を楽しんでいる例だ。

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▲花唄のネット広告。「気持ちいい、気持ちいい。花唄を使えば、余分なお金がなくても、買える、買える、買える」。中国社会は、日本よりも借金に対して寛容だが、広告のコピーはあまりにも率直すぎる。

 

限度が上がり、給料が追いつかなくなる

一方で、問題が起き始めている人もいる。社会に出て2年目の禾さんは、最近出産をしたため、子ども用品を花唄で買っている。「毎月5000元(約8万2000円)ほど、多い月では1万元(約16万円)ぐらい使います。しかし、給料が追いつかなくなってきました」。子どものおもちゃ、ベビーカー、ベビー服など、子どもにはできるだけいいものをたくさん買ってあげたいと思い、ついつい買ってしまう。支払いができない月は、スマートフォンから分割払いに変更をする。クレジットカードと違って、このような返済方法の変更も、スマホの中から簡単にできる。

「でも、いつの間にか利用限度額が1万6000元(約26万円)に上がっていたのです。これ以上使ったら、とても返済ができません。以前の私は月光族(毎月給料を使い切ってしまう。「光」はすべてなくなるという意味)でしたが、今では月欠族になりました」。

 

分割払いにすると利子が乗ってくる

アントフィナンシャルの発表によると、スマートフォンなどの高額商品を購入する時、20代の76%が分割払いにするという。無錫日報の記者の周辺にも、花唄の分割払いを利用した経験がある若者は多い。

その中の陶さんは、先月、読書用のデスクと椅子のセットを2000元(約3万3000円)ほどで購入した。これを花唄の分割払いにした。花唄の分割払いでは、3ヶ月払いでは2.5%、6ヶ月払いでは4.5%、12ヶ月払いでは8.8%の利子の支払いが必要になる。「最初は、利子はそれほど高くないと思ったのですが、実際に支払ってみると負担は大きく、もう一括払いができないほど手持ちのお金がなくなっています」。

中国青年報の2000名の大学生のアンケート調査によると、77.8%の大学生が、自分や周辺で花唄を利用していると回答している。江南大学でチューターをしている王さんは、学生が花唄を使うことに問題を感じているという。「成年であれば、自分の行為に責任を持つのは当たり前です。でも、大学生というのはまだ乳ばなれが完全にできているわけではありません。先消費、後払いは、大学生の消費価値観に大きな影響を与えてしまう可能性があります。消費教育が不足していると感じています」という。

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▲花唄の現金化の広告。指定する商品を花唄で購入すると、現金が振り込まれる。花唄の限度額を現金化する仕組み。このような業者が無数にいる。

 

キャッシュレス化の前に必要な消費教育

キャッシュレス化が、通貨を電子化するだけのことであれば何も問題はない。しかし、そこに必ず金融ビジネスが入り込み、借金をして消費するということが広まっていく。それは正しく使えば、消費の選択肢を広げ、生活を豊かにしてくれるが、その前提となるのは、個人がしっかりとした消費価値観を持っているということだ。そのためには、中学や高校で金融教育をしておく必要がある。教育のないキャッシュレス化による消費拡大は、いつか破綻をする。

借金問題 解決バイブル

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