中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

AR機能でルート案内。危険運転の車両も発見する車載カーナビ

スマホの地図アプリとして広く使われている高徳地図には、車載版がある。ベースに仕組みは同じだが、純正ナビ、後付けナビなどに内蔵され、スマホアプリの高徳地図と連動して使うこともできる。この車載版高徳地図にARナビゲーションの機能が追加された。実際の風景映像にオーバーラップしてルートを示してくれる他、危険運転をする車を発見すると警告をする機能もあると光明網が報じた。

 

移動データ収集を目当てに激しいマップアプリ競争

中国ではアリババ系の高徳地図と百度地図の激しいシェア争いが続いている。そこにテンセントのテンセント地図も参入し、マップアプリの競争はますます激化している。まさにBATと呼ばれるIT御三家、百度バイドゥ)、アリババ、テンセントが競っているわけだが、その理由はマップアプリから得られる移動データだ。

単なるGPSの追跡データだけでなく、経路探索の情報も得られる。経路探索では、目的地が職場であるか、レストランであるか、野球場であるかもわかり、しかも公共交通機関で行くのか、自動車で行くのかもわかる。さらに、経路探索通りに行ったのか、途中で別のルートを行ったのかまでわかる。マップアプリからは、移動に関する貴重なデータが収集できるのだ。

 

スマホと車載ナビが同じプラットフォームの高徳地図

高徳地図とアリババDAMO研究院は共同で、車載ARナビゲーション機能を開発した。高徳地図は、車載版がある。普通のカーナビと同じように見えるが、中身は高徳地図というもので、スマホとの連携なども簡単。スマホの高徳地図で目的地を設定しておき、車載版の高徳地図に送信してルート検索などということができる。車載版は、600種類のナビ機器に採用され、すでに2000万人が利用している。

ARナビ機能が搭載されるのは、この車載版高徳地図の新モデルから。ルームミラーに内蔵されたカメラで道路状況を撮影し、ディスプレイにAR機能で情報を上書きするように表示するようになる。

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▲前方の車が停車中のため、車間距離が短くなっていっている。この状態では、前方車両が黄色の枠で表示され、ドライバーに注意を促す。左折するため、車線変更が必要だが、それも風景映像の上に表示されるのでわかりやすい。

 

細かいルートも一目瞭然。ARナビ

撮影された道路映像から、道路の幅、車線だけでなく、他の自動車なども画像解析をし、ナビゲーションルートは緑のラインで表示される。また、交通信号の位置、色、交通標識などを認識し、信号無視や速度超過などに対する警告も表示される。

地図を表示してナビゲーションをする従来のカーナビアプリでは、複雑な交差点ではどのルートを通るべきなのか理解をするのに一定時間かかる。交差点が複雑であればあるほどこの理解に必要な時間は長くなり、それだけドライバーのストレスとなり、危険も増した。しかし、実際の風景の上にナビラインが表示されるAR方式では、このようなストレスがまったくなくなる。

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▲前方との車両との車間距離も把握し、近づきすぎると警告を出す。ルート案内は、実際の風景映像にオーバーラップ表示するので、非常にわかりやすい。

 

乱暴な運転の車を発見すると警告を出す

このARナビゲーションの特徴は、他の自動車も認識をするという点だ。前の車との車間距離が縮まると警告が表示されるだけでなく、他の車の挙動も認識し、危険運転をする車には警告が表示され、運転手の注意を促す。

これだけのものを実現するのは簡単ではなかったという。画像解析を基本とするために計算量が多くなり、しかも時速100km以上で走る状況での動作が安定するまでには長い時間がかかったという。

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▲前に車が割り込んできたところ。前方車両は危険運転をする車だと理解し、ドライバーに注意を促す。

 

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▲高徳地図の機能を説明した図。画像解析により、他の車両、車線、道路標識などを捕捉し、速度超過などの交通違反をしようとすると警告が表示される。

 

日本の車載ナビはガラパゴス化を打破できるか

日本の車載カーナビ市場は、ここ10年ほど横ばい状態を続けているが、世界市場では10%前後の成長を続けている。日本のカーナビが堅調なのは、自動車メーカーに対するOEM供給(いわゆるメーカー純正ナビ)があることと、言われるほどスマートフォンナビやタブレットナビの置き換えが進んでいないことが要因だと言われる。

しかし、実際には、純正ナビがすでにあるのに、「地図が古い」「操作がわかりづらい」との理由で、スマートフォンのナビアプリを使っている人はよく見かける。数字に表れないスマホナビへの置換が始まっている。これは何かきっかけがあれば、一気にカーナビ市場が落ち込む危険性を秘めているということだ。

その原因は、クローズしたシステムの「ガラパゴス化」にあることは言うまでもない。地図が更新できない、エンジン始動後カーナビが起動してからルート検索をしなければならないというスタンドアロン方式は、すでに多くのユーザーが煩わしく感じるようになっている。

自宅にいて、スマホでルート検索をし、車に乗ったら、その結果をカーナビに送信するというようなスマホとの連携機能を持っているのは高級機種に限られ、それも設定が面倒だったり、月額使用料が必要だったりすることもある。

今後は、高徳地図のように、スマホアプリと車載ナビが同じプラットフォームになっていて、スマホと連携しやすいというタイプの車載ナビが増えていくことになるのかもしれない。