既存スーパーを駆逐する勢いのアリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」（フーマフレッシュ）。この分野でもアリババの強さが光るが、アリババに対峙するIT企業「テンセント」、ECサイト「京東」、国内系スーパー「永輝」が出資関係、提携関係を深め、テンセントトライアングルとしてアリババに対抗する体制を整えつつあると物流指聞が報じた。
データテクノロジーを活かして小売に進出するIT企業
中国のIT業界で今いちばん過熱しているビジネス領域が「小売」だ。アリババやテンセントといったITの巨人は、日常消費という莫大な市場に参入することに挑戦をしている。その背景となっているのはデータテクノロジーだ。アリババにはアリペイ、テンセントにはWeChatペイというスマホ決済があり、都市部の日常的な決済のほとんどはこのいずれかのスマホ決済で行われている。つまり、アリババ、テンセントは、誰がどこでいつ何を買ったかというビッグデータを持っていることになる。
▲フーマフレッシュの店内。スーパーの他にイートインコーナーがあるが、食べるのはお惣菜や弁当ではなく、フーマフレッシュで販売している食材を使って、きちんと調理したものが食べられる。
既存スーパーを駆逐する勢いのフーマフレッシュ
このデータ解析を活かした成功例が、アリババが提唱しだした「新小売」（ニューリテール）だ。その軸になっているのが「盒馬鮮生」（フーマフレッシュ）。スーパーの店舗を配送拠点とショールームにしてしまい、野菜や肉、海産物といった生鮮食料品を3km圏内に30分配送する。店舗で購入することもできるが、すでに宅配売上が60％に達しているというオンラインとオフラインの融合業態だ。
アリババは、スマホ決済「アリペイ」のビッグデータから、どの場所に出店をすればいいかを分析し、出店計画を立てている。
一方で、アリババが持っていないスーパーの運営ノウハウ、仕入れノウハウに関しては、戦略提携、資本提携で持ってくる。フーマフレッシュに対しては、アリババが出資をしている浙江省のスーパーチェーン「三江購物」、福州を拠点にするスーパー、百貨店チェーン「新華都」がフーマフレッシュに出資をし、ノウハウ提供を行っている。
▲決済はセルフレジで、QRコード決済または顔認証決済。ヘルプスタッフが常駐しているが、「その荷物宅配もできますよ！」と声をかけている。30分配送に積極誘導することで、売上の60％が宅配売上になっている。
テンセントトライアングルは反転攻勢に出られるか
アリババの手法は、自社の持つアリペイからの消費ビッグデータ、それを解析する能力を中心に、既存企業と提携し、運営ノウハウを手に入れ、日常消費市場に参入するというやり方だ。
一方、アリババに対抗するテンセントも、スマホ決済「WeChatペイ」があり、消費ビッグデータを持っている。しかし、テンセントは自ら小売業態を運営するのではなく、提携している企業が新しい小売業態を展開するときに、それを背後から支援するという形をとることが多い。
テンセントが出資しているのは、ECサイト「京東」（ジンドン）と全国スーパーチェーン「永輝」（ヨンホイ）が中心で、テンセント、京東、永輝の3社は「テンセントトライアングル」などとも呼ばれる。
ただし、弱点としては、テンセントが中心にいるものの、テンセントは直接小売業に手を出さないため、新小売スーパーでは、京東の7フレッシュ、永輝の超級物種と分散してしまっている点だ。7フレッシュ、超級物種とも宅配売上がなかなか上がらず、苦戦をしている最中だ。
▲アリババとテンセントの出資関係図。数字は出資比率。概してアリババの方が数字が大きい。つまり、出資というよりは買収に近い。これがアリババ主導の提携を可能にし、アリババが一歩リードする要因になっている。
アリババ対トライアングルの戦いが始まる
アリババ、テンセントとも、スマホ決済から得られるビッグデータを解析して、小売業態に参入しようとしているが、アリババは直接運営をするのに対して、テンセントはテンセント陣営内の企業を支援する形をとる。この違いが、アリババが一歩リードする要因になっている。
しかし、テンセント側もそのまま手をこまねいているわけではないだろう。テンセントトライアングルの結びつきをより強くし、アリババに対抗してくることは間違いない。アリババvsテンセントトライアングルの戦いが始まろうとしている。
▲新小売を取り巻くアリババとテンセントの出資、提携関係の模式図。テンセント側は、ECサイト「京東」、国内系スーパー「永輝」との結びつきが強く、テンセントトライアングルを築き、ここを中心に反転攻勢をしていくことになる。
