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早くも淘汰が始まった中国カーシェアリング。抱える3つの課題

EVシフトが始まっている中国で、カーシェアリングサービスが次々と起業しているが、早くも倒産やサービス停止をする企業が現れ、淘汰整理の時期が始まったのではないか。カーシェアリング企業は3つの課題を抱えていると億欧網が報じた。

 

淘汰整理が進んだシェア自転車。シェアカーは?

この1、2年、中国ではシェアリング自転車企業の淘汰整理が進んだ。シェアリング自転車は複数都市に展開した企業だけでも数十、ローカルなものまで含めれば100社近い企業が創業されたが、現在、主だった企業はofo、Mobike、Hellobikeの3社に絞られている。生存率数%というのが、中国の新しいIT系サービスでは当たり前になっている。

同じようにして、中国の政府主導によるEVシフトの波を受けて、この数年、無数のカーシェアリング企業が創業されている。当然、シェアリング自転車と同じように、淘汰整理の時期をいつか迎えて、有力企業数社に絞り込まれていくことになる。

その淘汰整理の時期はまだ先だという見方がある一方で、すでに淘汰整理が始まっているのではないかと億欧網は見ている。

 

撤退が相次ぐ小規模カーシェア事業者

そのきっかけとなったのは、北京の巴歌出行(バーガー)が倒産したのではないかという騒ぎが起こったことだった。コールセンターの電話が繋がらなくなり、利用者が支払ったデポジットの返還時期が未定になっているという噂が流れた。また、南京市でのサービスを停止したという噂も流れた。

各メディアが巴歌に問い合わせをしても返答がなく、メディアが巴歌の従業員に取材をすると、数ヶ月分の給料の支払いが滞っており、社員が経営陣に詰め寄るというトラブルも起きているという。

すでに小規模のカーシェアリング企業は撤退を始めている。今年5月、麻瓜出行(マーグア)が企業戦略を転換するという理由で、サービスを停止した。6月には山東省済南市でサービスを提供していた中冠(ジョングアン)がサービスを停止し、利用者が支払っていた2000元(約3万3000円)のデポジットの返金を巡ってトラブルになっている。

そもそもカーシェアリングビジネスは、利益が出せないのではないかと不安視されていた。「カーシェアリングは、周囲の企業が儲かるだけで、一人赤字になる」と言われていた。

億欧網は、それだけでなく、カーシェアリング企業が抱える3つの課題を指摘している。

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▲問題となった巴歌出行。サービスは継続しているようだが、問題が多数発生しているという報道が続いている。

 

1)利益が出せるビジネスモデルの確立

カーシェアリングは、初期に車両代という大きな投資をすれば、運用コストはさほど高くないと言われるが、そんなことはないと億欧網は言う。車両価格10万元(約165万円)程度の自動車でも、1年に保険費用が3000元以上、メンテナンス費用が1000元程度、駐車場代が6000元程度、ガソリン代、充電費用が6000元程度かかる。つまり、10万元の初期投資をした後、毎年1.6万元(約26万円)の運用コストがかかるということだ。このため、各車両をどれだけ効率よく利用してもらえるかどうかが決め手になる。

しかし、カーシェアリングの需要というものは先には存在しない。まずカーシェア企業側が大量に車両を市場投入して、利用者に「近所に気軽に利用できるシェアカーがある」と認識してもらって初めて需要が生まれてくる。そのため、初期に大量に車両を投入しなければならない。コストを抑えて、投入車両数が少なければ需要が生まれない。このジレンマがある。

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カーシェアリング企業で多いのが、超小型車や小型EVを使ったもの。トレンドはどのステーションにも乗り捨て可能で、タクシーよりも安上がりという点をアピールしているものが多い。

 

2)投資資金の継続な獲得

大きな初期投資が必要で、運用コストも必要となれば、投資資金を継続的に獲得していく必要がある。ライバル企業が脱落していく中、投資資金を継続的に獲得して、最後まで生き残った企業が果実を手にすることができる。

しかし、多くのカーシェアリング企業が、投資ラウンドはシリーズA(ビジネスモデルを確立するための資金)であり、事業を拡大するためのシリーズB投資を獲得している企業はほとんどない。

この状況で、カーシェアリングビジネス自体の先行きが不安視されるようになると、投資資金が集まりづらくなる。資金がショートして経営が続けられなくなり、それがまた投資熱を冷やすという悪い循環に陥ってしまいかねない。

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▲主なカーシェアリング企業。これは、複数都市に展開しているもので、一都市展開の企業を含めると何社あるかわからない。多くの企業はシリーズA投資を受けている段階で、これから成長しなければならない。

3)政策の後押しが弱い

中央政府は、2017年8月に「小型乗用車レンタルの健全な発展を促進する指導意見」を発布し、カーシェアリングを促進する政策を打ち出している。しかし、業界関係者からは不足だという声が強く、駐車スペースや充電ステーションの確保についても、政策の後押しは限定的だという。

中央政府がより強力な促進政策を打ち出す必要もあるが、カーシェア企業が、政策に頼らない自律的なビジネスモデルを構築していく必要がある。

 

淘汰整理は必ず経なければならない段階。問題はその後

億欧網は、それでも悲観をしていない。資金力がなく、ビジネスモデルの甘い小規模企業が淘汰されていくのは、どのビジネスでも必然であり、こういった時期は必ず通過しなければならない。退場する企業もあるが、現在も新たに登場する企業もある。今は冬の時期で、いちばん苦しい時期ではあるが、ここで淘汰が進めば、優良企業に成長空間が生まれ、再び成長が始まる。この冬が終わった時が、本当の競争が始まるのだとしている。