中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

早くも出現した「シェアカーの墓場」

自動車メーカーに一定割合のEV(電気自動車)の製造と販売を義務付けるという強引な方法でEVシフトを進める中国。すでに各都市でEVカーシェアリングサービスが始まっている。しかし、すでに故障した自動車が捨てられる「シェアカーの墓場」が出現したと話題になっていると車聞百暁生が報じた。

 

強引にEVシフトを進める中国

中国は政府主導でかなり強引な形でEVシフトを進めている。2019年から、各自動車メーカーに一定割合の新エネルギー車の製造と販売を義務付けるというとものだ。しかし、まだ個人でEVを買おうという人は少ない。今年の1月から7月まで新エネルギー車の販売台数は49.6万台でしかない。今年上半期の自動車全体の販売台数は1406万台で、新エネルギー車の割合は3.5%にしかすぎない。しかも、その多くは配達系企業やカーシェアリング企業などの法人需要ではないかと見られている。

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▲新エネルギー車のカーシェアリング「GoFun」。すでに50都市以上でサービスを展開している。

 

シェアカーの墓場が誕生する不安

このような事情を受けて、各都市で新エネルギー車のカーシェアリングサービスが続々と始まっている。一般の消費者にとっては、扱いの難しいEVをいきなり所有するよりは、短時間レンタルをして試してみたいという需要があるということを見越したものだ。

ところが、当初から不安視する声があった。それは中国で一気に普及したシェアリング自転車と同じことが起きるのではないかという心配だ。シェアリング自転車は当初「どこでも乗り捨て可能」にしたので、道路のあちこちに自転車が放置されることになった。そして、故障なども放置され、市当局が違法駐輪や廃棄同然の自転車を回収して、遊休地に集積する「シェアリング自転車の墓場」が各地に出現している。

本来は、シェアリング自転車企業が経費を払い引き取るべきだが、膨大な数であるために資金が捻出できず、放置されたままになっているのが現状だ。

シェアリング自転車というサービスそのものは、市民の間に定着し、今でも便利に使われているが、ofo、Mobikeともに経営状態は苦しく、現状のサービスを維持することで精一杯になっている。

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▲全国各地に出現したシェア自転車の墓場。シェアカーでも同じことが起きるのではないかと心配されている。

 

ネットにアップされたシェアカーの墓場の写真

シェアリング自転車の墓場が出現した最大の理由は、各企業が競争に勝つために需要を無視した過剰な台数を供給したことが原因だ。EVカーシェアも似たような状況になりつつあり、自動車の墓場が出現するのではないかと心配されていた。

そして、山東省煙台のネットワーカーが、自動車の墓場を発見し、その写真をネットにあげたことが話題になっている。

その写真は、林の中に乱雑にシェアカーとともに一般の車も止められているもので、人通りの少ない寂しい場所だからか、タイヤが外されて盗まれてしまっている車もある。

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▲発見された「シェアカーの墓場」。タイヤが持ちされてしまっている車もある。

 

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▲乱雑にシェアカーが停められているが、実はここは公共駐車場だった。駐車場としての整備が追いついていない。

 

荒れ果てている公共駐車場

ところが、これは自動車の墓場ではなく、公共駐車場であり、シェアカーをここで乗り捨てていいことになっている場所なのだという。中国の都市はどこでも市内の駐車場が圧倒的に不足をしている。そのため、町外れに空き地があれば、とにかく公共駐車場にしてしまい、需要を満たし、駐車場としての整備は後から考えるしかなくなっている。

しかし、管理もまったくされていないため、タイヤが盗まれたり、車が荒らされたりしてしまう。

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▲汚れ、へこみがあるのは、シェアカーでは当たり前になりつつある。

 

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▲中も汚い車が増えている。なぜかシートカバーが破かれている。

 

問題続出のカーシェアリング

カーシェアリングに対する利用者の印象は悪い。シェアカー企業は、駐車ステーションを確保して、そこに自動車を配置した後は、ほとんど管理をしない。シェアリング自転車やシェアリング雨傘感覚なのだ。

そのため、外装の汚れ、凹みがある車は当たり前。それはまだ許せるものの、内装も汚れていたり、破れていたりする。さらに整備まで丁寧ではないので、高速道路で故障してしまい、レッカーを要請するという事態まで、ネットで報告されている。しかも、そのレッカー費用を、カーシェア企業が支払うか、利用者が支払うかでトラブルになっている。

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▲あるネットワーカーが、公開した写真。3月18日にGoFunを利用し、高速道路を走行中に、突然、ボンネットが開き、前が見えなくなり緊急停車。閉めようと思っても、ノッチが壊れていて閉まらないという事態になった。

 

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▲コールセンターに連絡をすると、交通警察を呼んでくれという一点張り。交通警察は民間のレッカー業者を呼んで、近くのカーシェアステーションまでレッカーをした。その料金が410元(約6700円)。利用者は当然カーシェア企業が支払うと思っていたが、カーシェア企業側は、なぜか利用者に請求をしてきた。

 

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▲カーシェア企業は、スマホ決済で勝手に410元を引き落としてしまった。投稿者は納得がいかないと怒っている。

 

良心を引き出すデザインが必要になる

日本のカーシェア企業では、車内がきれいであったかどうかのアンケートを乗車後に実施し、回答するとポイントが付与されるなどの仕組みがある。きれいであったということは、その直前に乗った利用者のマナーがよかったわけだから、その人にもポイントが付与される。こういう仕組みがあると、前の人のゴミですら放置せずに処分をするようになっていく。

中国のカーシェアのマナーが悪い理由を、「中国人の民度」に求めるのは簡単だが、良質のマナーを引き出すには、日本のカーシェア企業が行なっているような「良心を引き出すデザイン」が必要だ。

中国のカーシェア企業がそのようなデザインをしていけるかどうか。カーシェアによりEVのイメージが悪くなると、来年以降のEVの個人購入が伸び悩む。個人需要が伸びなければEVシフトそのものが失敗に終わることになるので、中国のEVシフトにとって、今、とても大切な時期になっている。