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ジャック・マー、20年前、北京での屈辱

アリババの創業者ジャック・マーが引退するのではないかというニュースが流れた。本人は当初否定したものの、結局来年9月でアリババの経営からは身を引くことを表明した、このニュースを機に、ジャック・マーの軌跡を記録したドキュメンタリー「ドリームメーカー」が再び人気になっていると玩転科技が報じた。

 

記録されていた若きジャック・マーの挫折

「ドリームメーカー:造夢者」は、2016年にアリババが製作したドキュメンタリー映像。創業者ジャック・マーの生い立ちから現在までの軌跡を、貴重な映像で綴ったもの。製作班は500時間に及ぶ映像を集め、この映像を編集した。

その中でも圧倒的な見所が、若きジャック・マーの挫折だ。

1996年、インターネットが世界中に普及をしたのを見て、英語教師だったジャック・マーはインターネットビジネスを始めることを思い立つ。ジャック・マーは杭州市に住んでいたが、当時の杭州ではビジネスができないと、英語教師時代に貯めた貯金を持って、首都北京に乗り込んだ。

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▲若き日のジャック・マー。英語教師だったジャック・マーは、中国の企業情報を世界に発信するサイトを作ろうと北京に乗り込んだ。

 

中国の企業情報を世界に発信する

ジャック・マーが考案したビジネスは、「チャイナページ」というサイトを作ることだった。インターネット時代になって、海外からも簡単に中国情報が閲覧できるようになる。この時、中国の企業情報を詳細にまとめたサイトがあれば、海外企業が見て、中国企業と取引をするきっかけになるというアイディアだった。

ビジネスモデルは、掲載企業から掲載料をもらうというもの。ジャック・マーはチャイナページサイトを構築し、北京の企業に片っ端から、飛び込み営業をして回った。

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▲ジャック・マーが作った「チャイナページ」。しかし、掲載企業は1社もなかった。飛び込み営業はことごとく失敗する。

 

北京から逃げるように去る屈辱のジャック・マー

ところがこの飛び込み営業はまったくうまくいかなかった。なぜなら、まだ一件も掲載企業がない状態で営業をしたので、営業先企業に言われて実際のチャイナページを見せると、中身が空だったのだ。

これではどの企業も信用してくれない。ましてや、当時のジャック・マーは杭州市に住んでいる若い英語教師にすぎない。おそらく、企業側の担当者の中には、これを何らかの詐欺だと感じた人も多かったのだと思われる。

それでもジャック・マーは夢を語った。「中国で最大の国際的な情報アーカイブになりますから」。その言葉がさらに信用を失わせた。空のページを見せられて、「中国で最大」「国際的」と口にするジャック・マーは、当時の中国人から見れば、スケールが大きすぎて、ホラ吹きにしか映らない。

のちに、ジャック・マーは「ホラ吹きジャック・マー」と呼ばれるようになるが、それは、ジャック・マーが「ホラ」を次々と実現していくことに敬意を込めて、そう呼ばれる。

しかし、この時のジャック・マーはまだ若く、北京から逃げるように去るしか方法がなかった。

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▲失意の中で、北京から都落ちする日。若きジャック・マーの挫折だった。

 

北京は僕に対してこんな仕打ちはできなくなる!

14ヶ月にもわたる営業活動はなんの成果を出すこともできず、北京から逃げるように去る夜、ジャック・マーは車の中で、惨めな感情と怒りの感情が入り乱れていた。驚くべきことにその時の映像が残っている。暗闇の中でほとんど表情を見ることはできないが、時おり、街灯がジャック・マーの顔を浮かび上がらせる。涙は見えないが、泣いている。

ジャック・マーはその時、こう誓ったという。「見ていろ。数年後、僕が何をやろうとしたのかを知ることになるだろう。そうすれば、北京は僕に対してこんな仕打ちはできなくなる!」。

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▲暗闇の中に街灯りでジャック・マーの表情が時折浮かび上がる。目が濡れたように光っている。


製造業の国境を溶かしたアリババドットコム

数年後、ジャック・マーはAlibaba.comを開設する。チャイナページを進化させたもので、中国企業の情報を詳細に掲載し、海外メーカーと中国企業をマッチングさせるサイトだった。海外企業はAlibaba.comを見て、中国企業に製造の依頼をするようになった。中国は世界の工場となり、世界の製品の価格が劇的に安くなり始めた。製造業の世界では、いち早く国境が溶けてなくなった。

そのきっかけを作ったのがAlibaba.comだったのだ。「中国で最大の国際的な情報アーカイブになりますから」。ホラだと呼ばれたジャック・マーの言葉は、Alibaba.comで現実のものとなった。その後、ジャック・マーは「タオバオ」「Tmall」「アリペイ」「フーマフレッシュ」と、数々の「ホラ」を現実のものにして、中国の未来を発明していった。

 

https://www.bilibili.com/video/av8605084/

▲アリババが2016年に製作した「DREAM MAKER:造夢者」。アリババ創業当時の貴重な映像が集められたドキュメンタリー。

 

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