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電気自動車の充電ビジネスが早くも黄信号

中国では、来年から、いよいよ自動車メーカーにEVなどの新エネルギー車を10%製造し、販売する義務が課せられる。EV(電気自動車)に必要なのが、街中の充電スタンドだが、すでに倒産する業者も出るなど、必要な数の充電スタンドが確保できるかどうか疑問になってきていると法治週末が報じた。

 

黄色信号が灯る「1台に1本の充電スタンド」計画

充電スタンドを設置し、利用者から充電料を徴収するビジネスを行っていた深圳の容一電動科技が、任意整理を発表した。大量の資金を投入したものの、黒字化の見通しが立たないという理由だった。7月31日から任意整理を始めている。

今年の1月から7月まで、新エネルギー車は49.6万台が売れ、昨年同時期の97.1%増となった。しかし、当面は法人需要があるため、驚くほどの数字ではない。問題は、法人需要が一巡した後、個人需要を喚起できるかどうかだ。

個人需要を喚起するには、街中に充電スタンドをどれだけ設置できるかにかかっている。2015年、国家発展改革委員会、国家エネルギー局、工業化情報化部は「電気自動車充電基盤施設発展指南」を発表しているが、それによると、2020年までに充電ステーションを1.2万箇所、充電スタンドを480万基、設置をして、想定される500万台の電気自動車の需要に応える計画を立てている。つまり、1台の電気自動車に1本の充電スタンドを配備する計画だ。

この計画に基づき、充電スタンドを設置し、充電料を徴収する企業が次々と登場しているが、早くも淘汰整理の段階に入り、充電スタンドの設置計画に黄信号が灯り始めた。

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▲中国では2020年までに新エネルギー車が500万台になると見込み、全国で500万基以上の充電スタンドを設置する計画を進めているが、充電スタンド企業の倒産により、計画に黄色信号が灯っている。

 

あっても利用できない充電スタンドの問題

自動車関連企業のコンサルタント張翔が法治週末の取材に応えた。「多くの充電スタンド企業が楽観的すぎます。市場データを簡単に分析しただけで、この分野には前途があると、市場に安易に参入してしまったのです。中規模、小規模の企業まで参入するのを見て、追い風が吹いていると決めつけてしまいました」。

国電池網の創業者、于清教は、法治週末にこんな体験を語ってくれた。「2017年9月、私は電気自動車のSUV ERX5(上海汽車の栄威)で、北京から青島までの1000kmを運転しようと、まず北京市内で充電スタンドを探しましたが、2時間かかかって約40kmを走っても、結局空いている充電スタンドを見つけることができなかったのです」。

充電スタンドの問題は山積みだ。多くの人がカーナビを使って近くの充電スタンドを探すが、充電スタンドの規格や使用中かどうかまでは表示されない。そのため、行ってみて初めて、規格が違うので充電ができないとか、すでに他の人に利用されているということがわかるのだ。また、カーナビ上には充電スタンドとして表示されるのに、それは企業やマンションの敷地内で、関係者のみしか利用できないようになっているケースも多い。

また、意外に多いのが、破損してて使えない、ガソリン車が駐車場がわりに使っていて利用できないというマナー違反だ。

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上海汽車のEV栄威のRX5。電気自動車の中で高級車に位置付けられる。価格は9.98万元(約160万円)から18.88万元(約300万円)。

 

利用率は30%以下。管理コストばかりがかかっている

法治週末の記者が北京市中心の6つの区の40カ所の公共充電ステーション、300基の充電スタンドの使用状況を調べてみたら、利用率は30%に満たなかった。コンサルタント張翔によると、上海では状況はもっと悪く、体感で利用率は5%程であるという。

つまり、充電スタンド企業は、多額の投資を行って充電スタンドを設置しても、利用者に使ってもらえていない。それどころか、違法占有しているガソリン車の排除、故障の修理という管理コスト、利用者に位置や使用状況などの情報を適切に伝えるPRコストばかりがかかることになる。「たくさん設置さえすれば、勝手に使ってもらって使用料が入ってくる」という甘い見込みはまったく通用しなかった。

一方で、利用者から見れば、見つけづらい、見つけても行ってみたら、利用できなかったという不満が溜まっている。

充電スタンド企業は、投資金額が莫大、初期投資の回収に長い時間が必要という2つの山を越えなければならず、そこに利用率が上がらないという3つ目の山が現れて、これを乗り越えることができずに息切れを始めている。

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▲ネットに拡散している充電ステーションの現状。駐車しているのはガソリン車ばかり。駐車場不足に悩む中国の都市では、マナー違反も多い。EVの持ち主は充電ができない。

 

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▲こちらもネットに拡散している充電ステーションの現状。充電スタンドの扉が開いたままになっているなど、荒れた状況になっている。

 

充電スタンドの充実がEVシフトの成功の鍵になってきている

この業界は、淘汰整理が進んできている。現在、国家電網、特来電、星星充電、普天新エネルギーの4社で、全体の市場の84%を占めている。このような体力のある企業が、業界全体をまとめ、利用者目線の情報提供をしていくことが求められている。

いよいよ2019年から新エネルギー車の製造販売の義務付けが始まる。中国のEVシフトが成功すれば、世界中のEVシフトが加速されることになる。EVシフトを成功させるには、個人需要をどれだけ喚起できるか。それには充電スタンドの整備が欠かせない。

法治週末は、充電スタンド業界を「成熟する前に衰退が始まっている」と評している。