中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

大学生たちが手作りで作った100億ドル企業「ウーラマ」

中国で進行する「新小売革命」。その重要な役割を果たしているのが、外売(配達)サービス企業「餓了么(ウーラマ)」だ。ウーラマは9年前、上海交通大学の学生たちが創業した。創業当時は、現CEO自ら配達をし、自ら営業に回るという手作り企業だった。そのウーラマは、現在、アリババに買収され、企業価値100億ドル(1兆1000億円)の企業に成長したと紀元三体が報じた。

 

新小売(ニューリテール)革命を支える外売サービス

「餓了么」(ウーラマ。お腹すいたでしょ?の意味)という珍しいネーミングの外売サービスは、現在中国で進行している新小売革命を支えている。スマートフォンに表示されるメニューから料理を注文すると、その料理店に出向き、自宅まで配送してくれるという出前代行サービスだ。特定の店の出前だけを代行するのではなく、近所の契約した料理店であればどこでもOK。料理店から独立したサービスであるため、今ではスーパー、コンビニの宅配、コーヒー、薬と扱い品目を広げている。

もっとも大きいのは美団外売だが、ウーラマも競い合うように成長を続けている。企業価値100億ドルを超えたウーラマも、9年前に5人の大学生が作った手作り感たっぷりのスタートアップだった。

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▲外売(出前代行)サービス「ウーラマ」。配達員が電動バイクで配達をする。料理だけでなく、コンビニ商品、医薬品なども配達し、アリババが進める新小売(ニューリテール)革命の要のサービスとなっている。

 

出前のデータが宝の山になる

創業者の張旭豪(ジャン・シューハオ)は、上海市の理工系大学、同済大学を卒業し、名門の上海交通大学修士課程に進学していた。その時思ったのが、「出前サービスがあればな」ということだった。

それまでの中国には、一部の店を除いて出前というサービスそのものがなかった。あるのは「お持ち帰り」や「外売」と呼ばれるもので、料理店にわざわざ出向いて料理を買って、持ち買って自宅で食べるというものだった。忙しい大学生たちは、料理店までいくのが面倒くさい。誰かが代表で料理を買いに行くと、「ついでに僕の分も」と言われて、大量の買い出しになることもよくある。張旭豪は、これはビジネスになるのではないかと思った。

そのことを周囲の仲間に話すと、それは小遣い稼ぎのビジネスなどではなく、本格的なビジネスとして成立するという話になった。なぜなら、出前のデータを蓄積できるからだ。このデータを使って、料理店に対するコンサルタントなど、派生ビジネスがいくらでも考えられる。このデータを持つということが将来大きなビジネスになる可能性があると意見が一致した。

上海交通大学の5人の学生が集まって、2009年4月に会社を設立した。ラジャックスネットワークテクノロジーという奇妙な社名だった。ラジャックスとはサンスクリット語で「厚い信仰」という意味だという。

 

「ウーラマ」(お腹すいたでしょ?)という言葉が流行語に

といっても、会社を作っただけで、張旭豪たちの手元にはなにもなかった。そこに加わった強力な助っ人が上海交通大学のソフトウェア学院の葉峰(イエ・フォン)だった。彼はソフトウェアが書けたので、ウェブから料理を注文して、料理店の端末に表示をするというシステムを開発し始めた。

張旭豪たちは、サービス名を考えていた。結局決まったのが「ウーラマ」(お腹すいたでしょ?)という奇妙なサービス名だった。しかし、それが功を奏して、ウーラマという言葉は数年後に大学生の間での流行語となる。

張旭豪は香港理工大学の博士課程の入学許可をすでに得ていた。しかし、ウーラマに集中をするため、進学のチャンスを捨て、大学院を1年休学することにした。開発担当の葉峰は、マイクロソフトに入社することが決まっていたが、それを捨ててウーラマに本格加入した。

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▲創業者の張旭豪。起業してしばらくは配達もおこない、足を使った営業もおこなっていた。そのすべてで抜群の成績を残している。それが社内の求心力を生んでいる。

創業者たちで配達をしてテスト運用

張旭豪は開発を進めながら、テスト運用を始めた。近所の親しい一軒の料理店の料理を、上海交通大学の学生たちに配達することを始めた。量としては大したことがなかったが、実践してみることで、問題点を洗い出すことが目的だった。

この時は、張旭豪たち創業者がスクーターや自転車で配達をした。張旭豪は、配達をして、開発もしてなので、この時期は睡眠時間が毎日4時間程度であったという。

 

顧客は大学生。対象大学を増やしていく

システムがほぼ完成に近づくと、張旭豪は本格運用を始める。しかし、2010年当時、スマホはさほど普及してなく、ウェブから注文をする仕組みだった。普通の人はPCも持っていない人が多い。

また、一般の消費者の自宅に住所を頼りに配達をするというのはハードルが高すぎた。そこで、張旭豪は学生専用のサービスにした。大学生であればPCを持っているし、なくても大学の中には自由に使えるPCがたくさんある。また、大学の中の寮や研究室に届けるのであれば、地図アプリなどなくても配達することができる。

そこで、最初は上海交通大学の学生専用のサービスとして始めた。そして、他の大学、他の高校へと広げていく作戦だった。

張旭豪は、上海交通大学の学生にウーラマを宣伝するのに、面白い方法を使った。大学の学内メールを使って、3万人の学生全員にウーラマの宣伝メールを一斉送信したのだ。これは学内メールの規約違反だった。張旭豪は大学から呼び出しを受けて、アカウントの1年停止を言い渡された。しかし、メールはすでに送信されているので、学生の間にウーラマというユニークな名前が知れ渡ったのだ。

2010年、本格的にウーラマのサービスが始まってみると、提携料理店は30軒ほどになり、毎日500件から600件程度の注文が入るようになった。上海交通大学はこの実績に驚き、張旭豪たちに学生起業コンテストに参加するように勧め、結果、45万元(約730万円)の奨励金を得ることができた。これで、ウーラマは本格的に設備投資ができるようになり、成長が始まることになる。

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▲創業者たち。全員が上海交通大学の学生たち。起業のきっかけは出前サービスが欲しかったから。しかし、すぐに出前のデータを収集することがお金を生むということに気がついた。

 

上海交通大学から華東師範大学へ利用者拡大

成長のきっかけになったのが、上海の華東師範大学の女子学生、閔婕(ミン・ジエ)がコンタクトを取ってきたことだ。華東師範大学でも、ウーラマのサービスをしてほしいというのだ。

これがきっかけで、ウーラマは他の大学にサービスを拡大していく。この閔婕は優秀な学生で、ウーラマに参加し、利用者拡大を担当することになる。

 

「街をスキャンする」ローラー営業作戦

利用者は大学を軸に増え続けていったが、提携する料理店はなかなか増えない。ネックとなるのは「料理価格の8%」という配達料だった。張旭豪は「街をスキャンする」作戦を敢行した。

中国の町の構造は、一つの通りに同じ業種の店舗が並んでいるケースが多い。料理店もひとつの通りに集中していることが多く、料理街、料理ストリートを形成している。張旭豪は2人1組になって、このような料理店を端から訪ねて、ウーラマとの提携を口説いていった。最初はなかなか応じない料理店も、ひとつの料理店が提携をして、出前で売上を伸ばしていることを知ると、雪崩を打ったように提携に応じてくれる。

この「街スキャン」作戦で、最も優秀な成績をあげたのは、創業者の張旭豪だった。張旭豪の口説き方は単純だった。とにかく提携してくれるまで毎日通うというものだった。断られても、もうくるなと言われても、毎日いく。提携に応じてもらうまで、40回も訪問した料理店もあった。この頃、張旭豪は毎日少なくても100軒の料理店を訪問していたという。

 

大学の次はオフィスに拡大。スマホにも拡大

上海のほとんどの大学と高校にサービスを提供してしまうと、今度は企業やオフィスビルにサービスの提供を始めた。これもオフィスビルであれば、効率的な配達ができるからだ。2010年には、すでに2万人の会員、1日3000件の注文を得るようになっていた。

さらに、この頃からスマートフォンの普及が始まったことが大きかった。ウーラマはすぐにスマートフォンからの注文に対応。利用者が急増し、これがジャンピングボードとなって、北京、杭州、広州、天津などでもサービスを開始。

さらに2012年にスマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」が普及し始めると、いち早く対応し、設立わずか2年で社員数200人の企業に成長している。

  

新小売革命の要となるサービス「外売」

その後、同業であるQQorder、百度外売などを買収することで、ウーラマは成長を続けてきた。企業価値はすでに100億ドルを超え、アリババに買収をされ、アリババの新小売革命の要のサービスとして大きな役割を果たしている。

そのウーラマも、創業のきっかけは「出前があったらいいのにな」という大学生の思いからであり、成長をさせてきたのは自分で配達をし、街をスキャンした創業者たちの手作り感覚だった。