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増える大卒宅配配達員。中国の大学生たちはなぜこの仕事を選ぶのか

中国の大学卒業生の半年後就職率は10年前の厳しい時期を脱し、現在では90%以上と安定をしている。その大きな理由は、大学生側の「大卒なのだから、高給ホワイトカラー職」という固定観念が薄くなり、需求のミスマッチが解消されたことが大きい。その中で、大卒者が宅配の配達員になるケースが年々増えていると職場鑫智匯が報じた。

 

大卒生の半年後就職率は90%以上

MyCOS研究院が公開した「2018年中国大学生就職報告」によると、2017年卒業の大学生の半年後の就職率は91.9%という良好な数字で、2011年に90%を突破して以来、90%以上を維持している。また4年制大学卒業者の平均月収は4774元(約7万7000円)となり、右肩上がりで上がり続けている。

ところがその陰で、大学を卒業していながら宅配便の配達員になる若者がじわじわと増え続けているという。

職場鑫智匯は、3つの理由があると解説している。

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▲宅配便配達員はつらい仕事ではあるが、特別なスキルを必要とせずに、そこそこ稼げる「いい仕事」になっている。

 

1)需要が大きく、コネが必要ない

ECサイトが生活に浸透し、宅配便の配達需要は年々増加しているため、宅配配達員は常に人手不足になっている。そのため、宅配便企業は常に人材募集をしていて、配達の仕事ができるのであれば、特定の専門知識やコネクションの有無を問わない。

コネというと何か不正じみて聞こえるかもしれないが、大手企業では、学生時代にインターンをした経験がある卒業生や、大学の指導教官の推薦がある卒業生を優先して採用する傾向がある。インターンに参加するには、対象企業のある都市での滞在費や生活費を自己負担する必要があり、経済状況が厳しく、アルバイトをしながら大学に通っているような学生にとっては簡単なことではない。また、中国の大学は課題などが厳しく、アルバイトに時間を取られる学生は好成績を修めることも難しい。好条件の企業に就職するためには、そもそも経済的なゆとりがないと難しいのだ。

また、親は自分の子どもの就職先を見つけるために走り回る傾向があるが、最近の大学生は親の手を煩わせることをよしとせずに、親に迷惑をかけずに就職先を見つけたいと考えるという。

このような理由から、専門知識もコネも必要がない宅配便という選択肢が浮かび上がってくるのだという。

 

2)福利厚生、待遇がいい

宅配便配達員は意外にも福利厚生が充実している。人手不足を解消するために、各宅配便企業が競うように福利施策を行い、現在では「五険一金」と呼ばれる年金、健康保険、失業保険、労災保険、養育保険、住宅手当を完備するのが普通になっている。これは他の一般企業よりも充実している。

また、給与も高く、宅配便配達員の平均月収は1万元(約17万円)で、ベテランになると1.5万元から2万元(約34万円)ほど稼ぐ人も珍しくない。これは他の大学卒業生の月収の倍以上で、仕事に慣れ、体力がある若いうちであれば、大学卒業生の平均の4倍から5倍も稼げる可能性がある。

 

3)フレキシブルな働き方が可能

宅配配達員の基本給は安く、一件配送するといくらという成果給の割合が大きい。そのため、仕事の時間と量は自主的に調整しやすい。たくさん働けば自分の時間は無くなるが収入は増え、少ししか働かなければ自分の時間は取れるが収入は減るというわかりやすい仕組みなので、自分でワークライフバランスを考えることができる。この働き方の自由度が今の若者に受けているのだという。

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▲宅配便の配達員は、以前は農村出身者が就く仕事だったが、現在では大卒者が年々増えているという。


勤続年数だけでは給料は上がらない中国企業

日本人の感覚では、経験年数が増えても給与が上がっていかないことを心配してしまうが、中国ではただ勤続年数が増えただけで給与が上がるということはほとんどない。地位が上がるか、より条件のいい仕事に転職をしなければ収入は増えないというのが当たり前なので、宅配便配達員になったからといって特別「将来が不安」ということはなく、それはどの職業に就いても同じことだ。

ただし、体力が落ちていくことは大きな不安になる。中年になって体力が落ちてくれば配達できる件数も少なくなり、夏の炎天下や冬の悪天候時には体がつらくなる。体力が落ちれば収入は減らざるを得ない。

しかし、大学を卒業したばかりの20代前半では、そのような不安も遠い将来のことに感じられ、年々、大卒の宅配便配達員が増えているのだという。