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電話番号を公開せずに連絡がつくQRコードが大人気

中国の都市部ではどこでも駐車場不足に悩んでいる。他の車の妨げになるような場所に駐車する時は、自分の携帯電話番号を書いたメモを置いておくのがマナーになっているが、プライバシー面の不安があった。これをQRコードを使って解決した「挪車コード」が大人気になっていると快科技が報じた。

 

駐車不足に悩む中国人の工夫

中国の都市部はどこも駐車場不足に悩んでいる。ドライバーにとっては、どこに車を止めるかが悩みのタネになっている。あまりにも駐車場が不足しているので、ちょっとしたスペースがあれば車が止められてしまう。特に企業の駐車場、マンション内の駐車場など、使う人がある程度限定されている状況では、他の車が出られなくなるような通路部分にも止めてしまう。

そのままでは単なる迷惑行為になってしまうので、自分の携帯電話番号を書いた紙を外から見えるように置くことが一般的になっている。その車が邪魔になった人は、まずその電話番号に電話をして「どかしてほしい」と伝えることができる。また、誰かが110番に電話して、交通警察に取り締まりを依頼した場合も、警察官はまずその電話番号に電話をしてみる。そこで解決すれば違反切符も発行しない。

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▲駐車不足に悩む都市部では、こんな迷惑な止め方も日常茶飯事になっている。

 

電話番号の公開は、さまざまな被害に会う危険性も

ところが、自分の携帯電話番号を公開することには、プライバシー上の懸念がある。懸念どころではなく、実害も多い。車に携帯電話番号をつけておくと言うことは、携帯番号、車のナンバー、車種、場所、時間など複数の情報を公開していることになる。携帯番号にショートメッセージで「こちら○○警察。ナンバーxxxxxの方、○月○日、xx区での駐車違反について…」と送られてきたら、詐欺被害に合ってしまうこともある。

また、高級車や特定の車種の携帯番号を集めて、名簿化して販売している業者もある。

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▲従来はこんなカードを置いておくのがマナーだった。カードには車の持ち主の電話番号が記入されている。しかし、電話番号が悪用されるという問題があった。

 

番号公開問題を解決するQRコードによる中間連絡方式

携帯番号を掲示しておくと実害の不安がある。しかし、掲示しておかないと、すぐに警察に通報されてしまう。

この問題を解決したのが「挪車コード」だ。挪車というのは「車を移動する」という意味。現在、複数の企業が同様のサービスを提供しているが、いまでも毎日新規流入が2万人ほどあり、ニッチなサービスとはいえ、隠れたヒットになっている。

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▲そこで登場したのがQRコード。このQRコードをアリペイなどのアプリでスキャンすると、持ち主に電話がかけられる。ただし、電話番号はわからない。

 

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▲アリペイなどのスマホ決済アプリから、QRコードをスキャンすると、そのまま電話がかけられる。

 

スマホ決済アプリのミニプログラムとして提供されている

この「挪車コード」は、アプリではなく、スマホ決済アプリ「アリペイ」や「WeChatペイ」のミニプログラムとして提供されている。ミニプログラムというのは、アリペイの中で利用できるアプリ内アプリのようなものだ。アリペイの中で名前を検索すればすぐに見つかるし、一度使ったミニプログラムは登録をしておくことができ、アリペイアプリの機能を拡張していくことができる。

スマホ決済アプリは、多くの人にとって1日に何度も使うものになっていて、ミニプログラムは、アプリをアプリストアで探してインストールするという従来のやり方に比べて圧倒的に楽なのだ。ユーザー登録のようなものも、アリペイの登録情報が使われるので、アカウント作成や名前の入力などの手間もない。すでに、生活関連のサービスについては、アプリよりもミニプログラムの方が広まりやすい状況になっている。

このミニプログラム方式にしたことにより、電話をかける方はアリペイアプリさえインストールしていれば、特定のアプリをわざわざインストールすることなく、持ち主に電話がかけられることになる。

 

電話番号をQRコード化、相手に番号はわからない

「挪車コード」のミニプログラムを使うと、自分の電話番号をQRコード化してくれる。このQRコードを車に貼っておく。他の人が電話連絡をしたい場合は、アリペイアプリでこのQRコードをスキャンすると、「電話をかける」「ショートメッセージを送る」などのボタンが現れるので、連絡を取ることができるようになる。電話番号は一切表示されないというのがポイントだ。

QRコードは、ミニプログラムの中からプリントする機能があるので、自分でプリンターで印刷をしてもいい。あるいは、申請をすると各社10元程度(約170円)で、きれいにカード印刷したQRコードを送ってくれる。

これを売上とするビジネスモデルだが、各社利用データを取得し、駐車場不足のビッグデータを販売したり、あるいは自動車関連のサービス(事前予約して、車を置いてくるだけでいい車検サービスが受けている)の入り口として利用している。

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QRコードは自分でプリントすることもできるが、10元を支払うと、きれいなステッカーを送ってもらうこともできる。

 

シェアリングエコノミーに応用できる中間連絡方式

また、この「電話番号を知られずに連絡が取れる」方式は、シェアリングエコノミー方面からも注目を浴びている。例えば、現在のライドシェアは、運転手が業として行う単なる白タクサービスになってしまっているが、本来は一般の自動車オーナーが自分が移動するついでに、同じ方向に移動したい人を乗せ、ガソリン代などの一部を負担してもらうという発想のもの。この本来のライドシェアの場合、互いに連絡を取るために携帯番号を教え合うというのはプライバシー上の問題が生じることになる。

このような状況ではQRコードを利用した中間連絡方式が有効で、すでにライドシェアの滴滴出行などでは独自の中間連絡方式を採用している。

他にも、宅配便の配達員と消費者、外売(飲食の出前サービス)の配達員と消費者などの間でも、中間連絡方式が有効なのではないかと注目を浴びている。

活用できる場所が意外に多いことから、このQRコードによる中間連絡方式は、駐車問題だけでなく、他の分野にも広がっていく可能性がある。