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地方の露店でWeChatペイのみ対応の店があるのはなぜ?

都市部の商店はほとんどが「アリペイ」「WeChatペイ」の両方のスマホ決済に対応をしている。しかし、地方に行くと「WeChatペイ」のみ対応という商店、露店が目につく。なぜ、地方ではWeChatペイが強いのか。それは都市と地方の利用者のリテラシーの違いによるものだと雪花新聞が解説している。

 

アリペイ、WeChatペイの利用比率は3:2

中国では、「アリペイ」「WeChatペイ」の2種類のQRコード方式スマホ決済が主流ということは今ではよく知られるようになってきている。そして、都市部のほとんどの商店が両方のスマホ決済に対応していることもよく知られるようになってきた。最近は飲食店で会計をしようとすると「アリペイですか、WeChatペイですか、現金ですか」と判で押したように言われるようになった。

調査会社「易観」の2017年第4四半期の調査によると、スマホ決済額の総額は37.8兆元(約620兆円)、前四半期から27.91%増加し、昨年同時期からは195%も増加をしている。アリペイの市場比率は54.26%、WeChatペイ(テンセントが運営するQQ銭包などを含む)は38.15%となり、比率としては3:2程度の差がついてきている。

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▲調査会社「易観」が公開した2017年第4四半期の金額ベースのスマホ決済シェア。アリペイ(支付宝)とWeChatペイ(騰訊金融、QQ銭包など他の方式も合算)は、ほぼ3:2の割合まで差がついてきている。

 

都市部ではアリペイが好まれる

都市部では多くの商店が「アリペイ」「WeChatペイ」の両方に対応しているので、消費者は自分の好きな方で支払える環境が整っているが、都市の消費者はアリペイを好む傾向がある。

大きな理由は操作がアリペイの方がシンプルだということだ。WeChatペイはあくまでもSNS「WeChat」の付帯機能であり、支払いをするには、WeChatアプリを起動して、そこからウォレットを開くという一手間が必要になる。一方、アリペイは決済専用のアプリなので、起動をすればウォレット画面が表示される。こちらの方が操作が簡単でスマートなのだ。

 

「アリペイは安心安全」というイメージ

また、アリペイアプリの方が「チケット購入」「ホテル予約」などの機能にアクセスしやすく、さらにクレジットカードで言うところの分割払いやリボ払いに相当する機能にもアクセスしやすい。要は、決済に特化している分、決済関連機能が充実しているのだ。

また、アリペイはセキュリティ面でも安心感がある。アリババはことあるごとに自社のセキュリティレベルが高いということを発信し、万が一利用者に損害が生じた場合は全額を補償すると公言をしている。実際、アリペイ側の問題ではなく、利用者が騙されてお金を送金してしまった詐欺事件に対してもアリババが全額補償した例なども報道されている。一方、WeChatペイを運営するテンセントはアリババほど積極的に安全性をアピールしていないため、多くの人が「アリペイの方が安心」というイメージを持っているようだ。

 

WeChatは中国人のマストアプリ

都会に暮らす消費者で、もはやスマートフォンを持たず、スマホ決済も使っていないという人は相当に珍しい存在になっているが、地方にいくとそうでもない。若者は多くが利用しているが、中高年や高齢者になると、まだスマホを使っていないという人も多い。

今、中国人がスマートフォンを持つと、必ずインストールするアプリが「WeChat」だ。WeChatは日本のLINEと同じようにチャットメッセージや音声メッセージをやりとりでき、連絡を取るための基本的なアプリとなっていて、インストール数は10億件を突破している。

特に便利なのが、音声メッセージで、文字を入力しなくても、留守番電話の感覚で音声を吹き込んで送信できる機能。それを聞いた相手も短時間の音声を送ってくる。チャットと電話の中間のような使い方が定番になっている。

中国語の入力は意外に中国人にも敷居が高い。ローマ字表記のピンインを知っている必要があり、小中学校を卒業していれば理解しているはずなのだが、実際に入力をするのは意外に面倒で、ボタンを押して音声でやりとりができるWeChatは非常に便利なツールに映るのだ。

 

中高年、高齢者にとってはWeChatペイの方が入りやすい

WeChatが使えるようになったら、次に使えるようにしたいのがスマホ決済機能だ。しかし、WeChatの使い方でいっぱいいっぱいの中高年や高齢者に、「アリペイというアプリをインストールして、銀行カードを紐づけて、アクティベートをして…」というのはかなり敷居が高い。

中高年や高齢者がスマホの新しい機能を使いたい時は、自分でなんとかするのではなく、周りにいるわかっていそうな若者に教えてもらうことが多い。その時、若者は「アリペイというアプリをインストールして…」などという面倒くさいことをせずに、「WeChatってもう使っているでしょ?あれのウォレットを開いて…」と、WeChatペイの使い方を教えることが圧倒的に多い。

このため、自分でアクティベートできるリテラシーの高い人はより便利で付帯機能の多いアリペイを選ぶが、人に教えてもらうリテラシーの高くない人は必然的にWeChatペイを使うことになる。

つまり、都市の若者はアリペイを使う傾向にあり、地方の中高年、高齢者はWeChatペイを使う傾向にある。これが地方で、WeChatペイのみ対応の小商店が多い理由だ。

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▲地方の露店ではWeChatペイのみ対応のところが目につくようになる。写真は、凍らせたミネラルウォーターを売る露店。WeChatペイで2元と書いてある。

 

同じスマホ決済でも戦略と性格が異なる「アリペイ」「WeChatペイ」

こう説明すると、アリペイの方が優れていて、WeChatペイの方が劣っているかのように見えてしまうかもしれないが、優劣の問題はではなく、両者の戦略の違いだ。日本人にわかりやすい例を出せば、アリペイは「カードやレシートもお札も入る長財布」であり、WeChatペイは「小銭ばかりが入っているがま口」だ。日常の身近な消費には、長財布よりもがま口の方が便利な局面が多く、WeChatペイはそこをカバーしようとしている。もう少し極端なイメージを出せば、日本人のクレジットカードと電子マネーカードの使い分けに似た感覚がある。

一方で、WeChatペイは、SNS「WeChat」と連携をしているので、登録している友人にお金を送ることが簡単にできる。このような特性から、中国版ユーチューバーへの投げ銭や、友人に少額のお金を渡す場合に、WeChatペイがよく使われる。

「アリペイ」「WeChatペイ」は同じスマホ決済として同列に語られることも多いが、実は性格の違い、戦略の違いがあるのだ。