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外売サービス普及で変わった飲食店。4つの変化

料理店の料理を宅配してくれる外売サービス。中国の都市部ではすっかり定着をし、電動スクーターで配達をする配達員も街の風景の一部となった。この外売サービスが普及したことにより、飲食店は大きく変わり、それが繁華街の風景や中国人の生活習慣まで変えようとしていると創業先生が報じた。

 

外売サービスが飲食店を変えていく

外売サービスとは、飲食店の出前代行サービス。消費者が外売のアプリを開くと、近所にあるほぼすべての店のメニューが表示され、好きな料理を注文することができる。外売は、その注文に従って、指定した料理店に行き料理を受け取り、配達をする。

日本の出前と違うのは、独立した配達サービスであるために、どこの料理店の料理でも出前注文できるという点だ。

主なプレイヤーは3社で、最近香港市場に上場した美団(メイトワン)、アリババ系列の餓了么(ウーラマ、お腹空いたでしょ?の意味)、そして最近参入して全国展開しつつある滴滴(ディーディー)だ。

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▲外売サービスは、指定した料理店で料理を受け取り、自宅まで配送してくれる。電動スクーターで配達をする。

 

1)繁華街の出店構成はファストからスローへ

繁華街の中心地の店舗構成が大きく変わった。外売サービスが最も使われるのが「快餐」と呼ばれるファストフード店。マクドナルドなどやハンバーガーの他、中国式ファストフードと呼ばれる麺の店、炒飯の店、包子の店などがある。価格は比較的安く、味はそこそこ、店内の環境もそこそこという店だ。このようなファストフード店は、店舗で食べる意味はさほど強くない。だったら外売を使って、自宅で食べてもいい。日本でも、マクドナルドやケンタッキー、吉野家などはテイクアウトサービスをやっている。同じ感覚だ。

このようなファストフード店は、売上の主軸が次第に外売に移りつつある。すると、好立地の場所に店舗を維持している意味が次第に薄れてくる。むしろ高い家賃が負担になってきている。そのため、同じ中心地でも表通りから裏通りに引っ込む、ショッピングビルの1階から地下に引っ込むなどの現象が起きている。

一方で、客単価の高い高級料理店は、来店客の売上が主体で、居心地をよくしてより多くの集客をしたい。このようなスローフード店は、多少の家賃コストを負担しても好立地に出店しようとする。こうして、繁華街の中心地の表通りは、次第に客単価の高い店が増えてきている。

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▲典型的な快餐店。中華料理店だが、低価格ですぐに料理が出てきて、味もそこそこ。さっと食事を済ませたいときに利用される。

 

2)実店舗は、スピードよりもエクスペリエンス

早さから体験への変化が起きている。以前の中国人消費者が飲食店に求めるものは早さだった。とにかく早く料理が出てこないと落ち着かない。料理が出たらなるべく早く食べて帰る。飲食店での滞在時間は短い。

せっかちというよりも、中国人特有の合理性で、食べ終わったのに座っているのは時間の無駄。食べ終わったら、すぐに次の行動に移りたいと考えるらしい。

この合理性は、外売が満たしてくれるようになった。自宅のいるのだから、料理が届くまで時間を有効に使うことができ、食べ終わったら、また自分の時間を使うことができる。

その結果、料理店に行くときは、早さではなく体験を求める傾向が出てきているという。内装を工夫する実店舗が増えてきている。中国の老舗高級料理店では、舞台が設置され、食事しながら寸劇などを楽しめるようになっているが、最近では中高年ではなく、若者も面白がってくるようになっている。また、料理店に中庭や庭園を作り、食事中に散歩を楽しめる店など、新しい食事体験ができる店が登場してきている。

  

3)価格競争は激化、利幅は縮小へ

一方で、飲食店の経営は厳しくなっている。外売アプリでは、ほぼすべてのメニューが見られるので、当然ながら価格も厳しく比較される。似たような品質であれば、1元でも安い料理を注文する。そのため、料理の価格の値下げ圧力が年々強まり、飲食店の利幅は小さくなっている。

 

4)メニュー映えするデザイン

見た目の競争も始まっている。従来の飲食店の競争軸といえば、味、価格、店内環境、接客態度の4つだったが、外売で注文する場合、店内環境と接客態度はほとんど意味がなくなり、味と価格の他、見た目=パッケージが大きな競争軸になっている。

今、中国全土で若者に人気にあるHEY TEAは、紅茶にフルーツを入れた飲料。パッケージも見た目も斬新で、日本で言えばインスタ映えしやすいルックス。台湾からも中国茶にミルクを入れた新しい飲料が次々と上陸して、同じく若者を中心に人気になっている。

ルックスが魅力的だと、SNSなどで拡散しやすいということもあるが、外売アプリで注文するときも目を引きやすいという利点がある。そのため、従来はただのビニールパックに炒飯を入れて、外売に出していた料理店もパッケージを工夫するようになっている。

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▲外売サービス「ウーラマ」の画面。近所の料理店一覧が表示され、それぞれのメニューが表示される。スマートフォンから出前を注文できる。

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▲若者に人気のHEY TEA。紅茶の中にフルーツが入っている冷たい飲料。味もさることながら、ルックスが可愛いと若者の間で人気になっている。また、台湾からもお茶とミルク、フルーツなどを組み合わせたコールドティー飲料が次々と上陸している。

 

外売は中国人の生活習慣をも変えつつある

外売サービスは日本には存在しないので、なかなかそのインパクトが実感しづらいが、中国人の生活習慣を大きく変え始めている。ある世論調査によると、外売利用者の52%が、自宅のキッチンを使う回数が減ったと答え、さらに驚くことに、35%の人が、キッチンなしの賃貸マンションでもかまわないと答えているのだ。中国人にとって、家の中で最も重要な場所はキッチンだったはずだ。それが大きく変わろうとしている。