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中国都市通勤者。60分以内通勤は実現できたか?

中国の各都市では、平均通勤時間60分以内を実現するように都市計画が進められている。極光ビッグデータは「2018年中国都市通勤研究報告」を公開し、主要都市では通勤時間60分以内がほぼ実現できていることが明らかになった。

 

都市病の主要因は「60分以上通勤」

都市というのは、経済活動にとっては適した場所だが、生活をするには必ずしも最適な場所ではない。人はストレスを感じ、「都市病」が蔓延しがちだ。この都市病を防ぐには、通勤時間を短くすることが有効だとして、どの都市でも「平均通勤時間60分以内」の実現を目指した都市計画が進められている。

極光ビッグデータの調査は、国内GDPのトップ10の都市の通勤時間を調べたもの。この調査結果によると、おおむね60分以内が実現できていることが明らかになった。

 

中国都市通勤者の平均通勤時間は約45分

トップ10都市すべての通勤時間は、男性が45.8分、女性が44.8分となった。年齢別にみると、若い世代の通勤時間が短いことがわかる。若い世代は、マンションを所有せず、賃貸が多いため、職場が変わればその近くに引っ越すからだと思われる。また、概ね女性の方が通勤時間は短い。男性は仕事の内容で職場を選ぶ傾向が強いのに対して、女性は家から近い範囲の中で職場を選ぶ傾向が強いからではないかと考えられる。

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▲年齢別に通勤時間を見ると、若いほど短く、女性が短い。若い人ほど、気軽に職場のそばに引っ越すからだと思われる。

 

最悪の北京市は平均通勤時間56分

都市別に60分以内通勤者の割合を見ると、武漢市が97.7%と、60分以内をほぼ実現できている。ただし、上海市重慶市北京市といった大都市では、さすがに60分以内通勤者の割合は90%以下になってしまう。

それでも最も通勤時間が長い北京市であっても、平均通勤時間は56分であり、「60分以内」はほぼ実現できている。

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▲60分以内通勤者の割合。武漢市ではほぼ全員が60分以内通勤ができている。大都市である上海、重慶、北京では割合が低くなる。

 

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▲都市別の平均通勤時間。最悪の北京市でも56分と、ほぼ60分以内通勤は実現できている。

 

都市内の「都心」を数カ所に分散させる都市計画

なぜ、大都市でありながら、60分以内通勤を実現できているか。それは都市計画にある。ビジネス街である「都心」をひとつに集中させず、例えば、金融、IT、製造などで異なったビジネス街を設定し、都市の中で分散させる。これにより、都市内での一極集中を防ぎ、通勤者の方向も分散できることになる。

北京や上海といった大都市では、どうしても通勤時間は長くなるが、一方で、反対通勤者の割合も多い。反対通勤者とは都心から郊外に通勤する者のことだ。ビジネス街を郊外に建設することにより、ラッシュの方向とは逆に移動する通勤者を意図的に作り出している。

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▲反対通勤者(都心から郊外へ通勤する人)の割合。大都市ほど、反対通勤者を産み出すように都市計画がされているので割合は高くなる。

 

業種により企業拠点を分散させ、通勤者の流れも分散させる

中国は、現在でも土地の私的所有が建前上は認められていない。あるのは、建物の居住権で、居住権を売買することにより、あたかも土地を売買するかのような効果を生み出している。そのため、民民の世界では、資本主義社会と何も変わらないが、都市政府が再開発をするときなどは、市民の権利が大幅に制限される。資本主義社会と比べて合理的な都市計画を実行しやすい。

上海では、陸家嘴ビジネス地区、張江高科、漕河涇開発区と大きな企業拠点が3箇所あり、地理的にも分散している。陸家嘴は金融、張江はバイオ、漕河涇はITとジャンルも分散している。

このような企業拠点が地理的に分散しているために、通勤者も分散し、反対通勤者も生まれ、全体の通勤時間を短くしているのだ。

北京でも、金融街、国貿、豊台科技園と企業拠点があり、それぞれ金融、貿易、ハイテクとジャンルも分散し、地理的にも離れている。

当然、各都市ともこのような都市計画に基づいて、道路や地下鉄なども計画されている。北京の地下鉄総延長は527km、上海の地下鉄は548km(東京は304km)であり、まだ延長工事が進んでいる。

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北京市の通勤ヒートマップ。3つの企業拠点に分散していることがわかる。

 

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▲同じく上海市の通勤ヒートマップ。こちらも業種ごとに3箇所に分散をしている。このような分散方式が、中国の都市計画の基本になっている。