人材紹介サービスである「智聯招聘」は、「2018年ホワイトカラー生活状況研究報告」を公開した。2万8270名のホワイトカラーのサラリーマンにアンケート調査をした結果をまとめたもの。そこから浮かび上がってきたのは、中国サラリーマンたちの悲哀だった。
平日の昼食代は7割の人が340円以下
今、中国ではIT企業が力強く成長していて、報酬も以前からは考えられないほどの高給をもらっている人が増えている。しかし、そのような人たちは全体の数%にすぎない。多くのホワイトカラー=サラリーマンは、慎ましやかな生活をしている。この研究報告によって、その実態が明らかになった。
驚くのは、7割近い人が、平日の昼食に使う金額は20元(約340円)以内だと答えていることだ。中国の物価は10年前と違って、かなり高騰している。特に、悩みの種なのが、外食と食材だ。北京や上海などの一級都市のビジネス街の食事代は、東京と同じぐらいだと感じる。500円のワンコイン以内に収めようとすると、裏通りに入って行って、伝統的な料理屋を探さなけれならない感じだ。オフィスビルやショッピングモールのレストランでは、すぐに1000円を超えてしまう。
20元では、2級都市、3級都市でも、麺を一杯か、弁当あるいはサンドイッチ1個が限界だという。
▲平日の昼食代。7割が20元(約340円)以下。麺一杯、弁当ひとつ、サンドイッチぐらいしか食べられない。
▲昼時に料理店が行列になるのは、中国も同じ。出前をとって社内で食べる人も多い。
通勤も地下鉄、バスが一般的
通勤も、多くが地下鉄、バスなどの公共交通。自家用車やタクシーなども一定数いるが、二級都市、三級都市では公共交通が発達していないので、仕方なく利用しているのだと思われる。また、バイク、徒歩という人もけっこういる。
▲通勤はほとんどが公共交通。自家用車、バイクが多いのは、2級都市、3級都市以下では、地下鉄がなく、バスのみで、バスが大混雑するから。徒歩という人も一定数いる。
大都市ほど賃貸暮らし。シェアも多い
住宅も半数近くが賃貸だ。しかも、他人とシェアをしている人が多い。特に大都市では、マンション価格が高騰をしているため、簡単に購入することができない。大都市では賃貸住宅に住んでいる人の率があがる。北京では58.6%、上海では57.3%、深圳ではなんと68.8%にも上る。中国でも、「自分の家を持つ」ということは夢物語になりつつある。
▲住宅状況。意外に多い賃貸住まい。しかも、賃貸をシェアしている人が多いことに驚かされる。
▲北京市内の中心部まで地下鉄で15分程度の場所のワンルーム賃貸。65平米と広めではあるが、家賃は6400元(約10万円)。駅からは500mあるので、徒歩10分弱。類似のワンルームは6000元から7000元が相場のようだ。
「明るく陽気な中国人」とは異なるホワイトカラー
「孤独感を感じることがある」という質問には、半数以上の人が「ある」と回答している。このアンケートは、現役サラリーマン全世代が対象になっているので、かなり高い数値ではないかと思われる。
孤独感を感じる理由も「配偶者や恋人、親友がいない」「周囲に溶け込むことができない」という人間関係に関する回答が多く、典型的な中国人の「いつも仲間と賑やかにやっている」というイメージからはずいぶんとかけ離れている。
しかも、孤独感を解消する方法の第1位が「仕事をする」なのだ。大都会の中で、誰とも話をすることもなく、毎日、自宅と職場を往復して、黙々と働く、都会のサラリーマン像が浮かび上がってくる。
▲孤独感を感じるという人が半数以上。単身者のみに対する質問ではなく、サラリーマン全世代に対する質問なので、この数字はかなり高いのではないか。
▲孤独感を感じる主な理由は、恋人、配偶者、親友、友人がいないこと。「明るく陽気な中国人」のイメージはここにはない。
▲孤独感を解消する方法の1位は「仕事をする」こと。何か胸がしめつけられる思いがする。
2/3が「現在の収入に不満」
「現在の収入に満足しているか」という問いには、2/3の人が「不満」だと答えている。仕事に対する不満でも圧倒的に多いのが「報酬が低い」。日本のように、職場の人間関係に悩むことは少ないが、とにかく収入が低いということに不満を持っている。
▲現在の報酬に対しては、2/3の人が「不満」。ここはいかにも中国人っぽい。
収入が低いので結婚も考えない
「現在の収入で結婚を考えるか」という問いには、4割以上が「考えない」と答えている。同じく4割弱が「結婚は収入とは関係ない」と答えているのが救いだが、中国のサラリーマンの悩みは「収入が低い。低いから家を買えない。家がないから結婚できない」ということであるようだ。
▲現在の収入で、結婚を考えるかという質問に、4割以上の人が「考えない」と回答している。中国の理想的な人生サイクルが崩壊しかかっている。
沈みゆく「ホワイトカラー」の地位
中国で、ホワイトカラーという言葉が定着したのは1951年のことだという。この時は、都市でデスクワークをして高給をもらうという憧れの身分だった。しかし、改革開放以降、新たに登場してくる新興企業に押されて、国営企業を中心としたオールドエコノミー企業は相対的に地位を下げていった。給与が据え置かれ、上がらない状態が続いた。一方で、物価は猛烈な勢いで上がっていく。今や、ホワイトカラーは「窮忙族」(困窮して忙しい、貧乏暇なし)とすら呼ばれるようになっている。
▲職場に対する不満も圧倒的に報酬の低さに対するものが多い。社内の人間関係に悩む人は極めて少ない。
サラリーマンでは人生設計が成り立たなくなっている
中国の都市生活者の基本的な生活設計は、大学を卒業して企業に就職。マンションを購入して、結婚相手を探し、子どもをつくる。子どもが社会人になる頃には、定年退職をし、老後は年金を基本に子どもや孫に面倒を見てもらうというものだった。このサイクルが成り立たなくなっている。
大学は授業料が高騰し、競争率も高止まりしている。条件のいい企業に就職するのは難関中の難関。一般の企業に入社したのでは、報酬が低く、マンション価格が高騰しているので、家を持つことができない。家がなければ、結婚できず、子どもも作れない。定年後も、物価が上昇するので年金では生活ができない、頼る子や孫もいない。
日本のサラリーマンもつらいことが多いが、それでも「サラリーマンはつらいよ」と愚痴を言うだけの余裕はまだある。中国のサラリーマンは、ごく一部のIT企業に入社できた者を除いて、黙々と仕事をして耐え忍ぶしか方法がないようだ。
急激に成長するIT企業と、取り残されて停滞する一般企業。このちぐはぐさが、中国社会の大きな弱点になっていくかもしれない。