中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国IT企業の勤続年数は3年以下。福利厚生で離職は食い止められるか

中国人は転職を繰り返すのが当たり前で、元々勤続年数は長くない。そのため、IT企業は長く勤めてもらうために、住宅資金を無利子で貸し付けるなど福利厚生を充実させ始めているとHR実名倶楽部が報じた。

 

アリババの平均勤続年数はわずか2.47年

アリババのジャック・マー会長は「4倍の給料を提示しても、アリババの社員を引き抜ことはできない」と豪語したことがある。それだけアリババは社員に対して福利厚生を厚く行い、社員もアリババを信頼して働いてくれているという意味だ。しかし、アリババの平均勤続年数は、わずか2.47年でしかない。これはどういうことだろうか。

この2.47年という数字は、日本人から見ると、とても短く感じてしまうが、中国のIT企業の中ではかなり長い方になる。IT系で長いのは、携帯電話キャリア中国聯通、中国移動、中国電信でそれぞれ4年以上、携帯電話メーカーのファーウェイが4年となっている。しかし、純粋なIT企業になると3年以下というのが一般的だ。あのシャオミーも1.72年にすぎず、シェアリング自転車のofo、Mobikeになると1年以下だ。

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▲中国IT企業の平均勤続年数。携帯電話キャリア、メーカーは比較的長め。いわゆるIT御三家のBATは2年+。それ以外のIT企業は2年以下。シェアリング自転車企業に至っては1年以下だ。さすがに1年以下というのは短すぎるのではないか。

 

無利息住宅ローンで離職を食い止める

そのため、各IT企業とも、福利厚生プログラムを導入して、勤続年数を伸ばす施策を打っている。

テンセントは10億元(約170億円)の資金を投入して、安居計画を2011年から実行している。勤続3年以上になると、住宅購入資金を最高50万元(約850万円)まで無利息で借りられるプログラムだ。

アリババも同様のプログラムを実施していて、それはiHome計画と呼ばれている。30万元(約500万円)までの住宅資金を無利息で借りられるプログラムだ。さらに、アリババは杭州市の本社近くに380戸のマンションを建設し、相場の6割程度で社員に販売をしている。

また、iHelp、iHopeと呼ばれるプログラムも実行していて、家族が重大な病気にかかった場合に、一定額の支援金を支払うものだ。

百度、ファーウェイ、シャオミーなども規模は違っても同様の福利厚生プログラムを行っていて、勤続年数を少しでも伸ばそうとしている。

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▲アリババが建設をした杭州市の専用マンション。380戸が入居でき、相場の6割程度の価格で購入できる。もちろん、アリババ提供の無利子ローンも利用できる。

 

社内の食堂、ジム、カフェも、離職を食い止めるため

しかし、勤続年数は長ければいいというものではない。社員が失望をして転職するというネガティブな離職は避けなければならないが、起業するために辞職するなどのポジティブな離職は大歓迎だからだ。事業内容が有望で、資本関係を結べるのであれば、それは理想的な離職であると言える。

また、勤続年数が短いということはそれだけ新陳代謝が行われているということでもある。

各IT企業は、ネガティブな離職を減らすために、一種、サービス業のように福利厚生を考え始めている。無料の食堂、無料のジム、無料のプール、無料のカフェといった設備を備えるのも、ネガティブな離職を減らすためのひとつの方法だ。

いまや企業は、一種のサービス業になっている。優秀な顧客=社員を集め、リピーターになってもらうために、あの手この手を講じているのだ。

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▲アリババ本社内のジム。

 

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▲アリババ本社内にある図書館。各企業ともまるでサービス業のように、このような施設の充実を競い合っている。

 

シリコンバレー企業も勤続年数は3年前後

シリコンバレーのIT企業も勤続年数は決して長くない。シスコシステムズ、オラクルといったBtoB企業はさすがに7年以上になるが、アップルで5年、グーグルは3.2年、フェイスブックは2.5年にすぎず、中国IT企業とあまり変わらない。ウーバーに至っては1.8年と、中国IT企業よりも短いくらいだ。

一方で、日本はどうかというと、勤続年数ランキング500社の中に、IT系企業はほとんど見当たらなかったが、それでも無理やり関係ありそうな企業を拾って見ると、NECソニージャパンディスプレイが18年以上になっている。

勤続年数の評価は難しい。長ければいいというものではないし、短いからだめということでもない。長ければ安定をし、短ければ新陳代謝が進む。要は優秀な人には長く勤めてもらい、そうでない人には早々と離職していただくということなのだが、それは簡単にできることではない。

どの国の企業も、優秀な人材の確保には頭を悩ませているようだ。

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▲米国IT企業の平均勤続年数。いわゆるシリコンバレー企業は3年ぐらいの感覚。アップルは比較的長めになっている。ビジネスインサイダー記事(http://www.businessinsider.com/average-employee-tenure-retention-at-top-tech-companies-2018-4)より作成

 

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▲日本企業の平均勤続年数。上位500社のリストだが、IT企業らしいIT企業はほとんどランクされていない。中でもIT寄りの企業を拾って見ると、いずれも18年以上となった。東洋経済の記事(https://toyokeizai.net/articles/-/172342)より作成。