中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

定着するか、中国式自動販売機「無人商品棚」

商品を棚に置き、利用客に自分で決済をしてもらうという富山の置き薬方式のミニコンビビジネスが中国で競争が激化している。すでに50社以上のスタートアップが登場し、既存企業の参入も相次いでいると人人都是産品経理が報じた。

 

硬貨が少なく、自動販売機がなかった以前の中国

中国では、ごく最近まで自動販売機というものがほとんど存在しなかった。というより、自動販売機がこれをほど多いのは日本ぐらいなのだとよく言われる。その理由は治安だ。商品と釣銭を入れた金庫でもある自動販売機は、容易に持ち去られてしまう危険性がある。また、こまめに巡回をして売上を回収し、商品を補充するというオペレーションも、日本人にとっては当たり前の仕事だが、外国ではそうではない。遅れ、ぬけなどを防止する仕組みを作らなければならないし、場合によっては、巡回スタッフが商品や売上をポケットに入れてしまう危険性すらある。自動販売機は極めて日本的なビジネスなのだ。

中国では、さらに、硬貨の発行枚数が極めて少ないという問題があった。コストの関係から、硬貨はあまり流通してなく、その代わり、小額紙幣が用意されている。人民元の下の単位である1角(=0.1元、約1.6円)まで紙幣が発行されている。そのため、自動販売機を置いても、釣銭の用意が難しくなり、利用者も硬貨がないので使えないということになる。

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上海市の地下鉄駅に設置されている自動販売機。以前は、自動販売機はほとんど存在しなかったが、スマホ決済が普及したことで、自動販売機が続々と登場している。

 

スマホ決済の普及で登場した無人商品棚

これを変えたのがスマホ決済だ。スマホ決済であれば、通貨は関係なく支払いができる。現在は、スマホ決済対応の自動販売機をあちこちで見かけるようになっている。

自動販売機とともに増えてきたのが無人商品棚だ。日本でも、高層のオフィスビル内に、無人のミニコンビニが設置されるようになってきているが、基本的には同じものだ。セルフレジ方式で、電子マネーで支払いをする。現在、50以上のスタートアップ企業、大手企業が参入し、30億元以上の投資資金が流れ込んでいると言われる。

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無人商品棚関連のスタートアップはすでに50社以上がある。すでに撤退を決めて、業態転換を図る企業も出てきている。

 

オフィス内に置かれるミニコンビニ

無人商品棚には、開架式と閉架式の2種類がある。開架式とは文字通り、棚に商品を直接並べてしまおう方式だ。商品のバーコードを自分で読み、決済をする。その気になれば簡単に万引きできてしまう方式なので、企業のオフィスなどに置かれる。これは中国でも以前からあったオフィス内のミニコンビニビジネスの進化版だ。オフィスに飲料や菓子類を置いておき、お金は脇のボックスに入れておく。巡回スタッフが回ってきたときに、売上を確認、回収し、商品を補充するというものだ。これをバーコード、スマホ決済にしただけだが、詳細なデータがリアルタイムで取れることになり、補充すべき商品の種類、点数も事前にわかるようになる。また、売上金の回収も不要になるので、巡回スタッフの作業は大幅に軽減された。

また、商品棚そのものはさほど大きくする必要はなく、どこにでも設置できるので、追加設置、場所移動なども簡単だ。さらに、手間がかからないので、商品の販売価格を安く抑えることができる。

ただし、やはり万引きが容易な仕組みなので、設置場所に限りがある。企業オフィス内ぐらいしか設置場所がなく、学校や図書館におかれている例もあるが、やはり損失が出てしまいうまく運営できないようだ。また、商品棚が小さいために、商品の補充頻度が高くなる。 

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▲哈米科技。瀟洒なデザインの棚を作り、差別化を図っている。またオリジナルのPB商品も多い。オフィス内設置の開架式。

 

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▲七只考拉。7匹のコアラの意味。オフィス内の開架式。

 

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▲毎日優鮮便利購。左はただの冷蔵庫で、閉架式商品棚とは違い、自由に開けられる。オフィス内設置の開架式。

 

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▲領蛙。オフィス内の開架式。すでにコンビニチェーン「便利蜂」に買収された。

 

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▲猩便利。大型店舗が多く、コンビニが不足している地方都市での展開を狙っている。

 

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▲果小美。オフィス内の開架式。

 

自動販売機に近い閉架式の無人商品棚

閉架式は、コンビニの飲料冷蔵庫のような形状のものが多い。多くの場合、電子決済のQRコードを読み込ませて個人認証をすると、扉が開くようになり、電子タグのつけられた商品を棚から出すと決済が行われる仕組みだ。

個人認証をしないと扉を開けられない仕組みなので、駅、百貨店、ショッピングモールなどにも設置することができる。しかし、多くは、オフィス街のコンビニが出店していない地域、あるいは高層オフィスビルなど、「コンビニにいくのが面倒」と考えるビジネスマンを狙っている。一方で、商品棚や電子タグのコストがかかるので、価格を安くすることが難しい。

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▲WINMART GO。閉架型の無人商品棚。個人認証をすると扉が開けられる。電子タグスマホ決済で支払いをする。ショッピングモールなどに置かれる。

 

多様な業種から参入する中国の新ビジネス

無人商品棚は、スタートアップだけでなく、大手企業の参入も相次いでいる。特徴的なのは、様々な業種の企業が参入をしていることだ。一般的に考えたら、このような事業は、コンビニ流通を握っているところが参入しやすいように見える。実際、日本の場合は、ほとんどコンビニ企業が参入をしている。

しかし、中国の場合は、さまざまな業種からの参入が続いている。無人商品棚ビジネスを始めるには、ITシステム、商品棚製造、物流、食品仕入れ、巡回といったさまざまな要素が必要で、その要素に関わる企業が続々と参入してくるのだ。出自の異なる背景を持った企業は、当然、その考え方も違う。異なる発想がひとつの分野で競い合い、そして消費者の支持を得られなかった企業が撤退をして、1つか2つの企業だけが生き残る。このプロセスが中国経済を強くしている。

無人コンビニと同じように、無人商品棚もすでに過当競争になり、整理のステージに入っていると言われる。これから多くの企業が撤退、倒産をすることになる。しかし、生き残ったサービスは全国に展開をし、定着をすることになる。

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▲既存企業の参入も続いている。コンビニ企業ではなく、異業種からの参入が多い。

 

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▲豊e足食。母体企業は宅配便の順豊。宅配配送ルートを利用して、商品補充を行なっている。オフィス内設置の開架式。

 

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▲豹便利。母体企業はセキュリティソフト開発の猟豹移動。オフィス内の開会式だが、IT企業のブランド力を生かして、シェアオフィスなどに導入していく。

 

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▲餓了麽NOW。出前サービスの餓了麽が母体。オフィス内の開架式。商品補充などは、出前配送員がオフピーク時に行う。

 

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▲蘇寧小店。母体企業は家電小売の蘇寧電器。大型店舗が多く、コンビニが不足している地方都市での展開を狙っている。

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