中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

衰退する日本の家電産業に学べ

日本の家電産業は右肩下がりとなり、多くの事業が中国企業などに売却をされている。一方で、中国の家電産業は急成長を遂げている。しかし、中国の家電産業もいずれ日本と同じ道を辿るのだから、今から日本の家電産業の動向をよく研究しておく必要があるとIT時代網が報じた。

 

躍進する中国家電企業も、いずれ日本と同じ道を辿ることになる

この記事の原題を直訳すると「日本と韓国の家電は衰退。中国の家電業界はどのような危機に直面しているか」というもの。「日本、韓国の家電業界が衰退した」という刺激的な見出しに異論を唱える方も多いかと思う。その是非はともかく、現代の中国人がアジアの家電市場をどのように見ているかということをよく表している記事になっている。内容の是非はともかく、「中国人の見方はこうである」ということを知るために読む価値がある記事になっている。

筆者の猛亮氏は、日本の家電企業は衰退をする一方に見えるが、それは浅い見方に過ぎないと主張する。日本の家電産業が衰退しているのは確かだが、家電企業は業態転換に挑戦をしている。中国の家電市場もいずれレッドオーシャンとなり、日本の家電企業と同じように業態転換をせざるを得ない局面が訪れる。その時のために、現在の日本の家電企業の転換戦略をよく研究しておく必要があると主張をしている。

 

日本家電企業が衰退した原因は利幅の縮小

全盛期の80年代、90年代、日本の家電業界は世界を席巻した。日本経済を牽引し、日本製品が海外で認知される尖兵となっていた。当時、世界500トップ企業ランキングには149社もの日本企業がランキングされ、日立が13位、松下電器が17位、東芝が36位、ソニーが43位、NECが48位と50位以内にランキングされた家電企業も多かった。

しかし、日本経済のバブル崩壊とともに日本の家電業界の衰退が始まった。2011年には、ついに3強のソニーパナソニック、シャープが巨額損失を計上し、家電の巨人は大リストラを断行したが、それでも経営数字は悪化する一方だった。

巨額損失を食い止めるため、家電業界は市場からの撤退を始めた。東芝は2015年末にインドネシアのパネル工場と洗濯機生産基地を中国スカイワースに売却した。2016年には、洗濯機、冷蔵庫などの白物家電事業を中国ミデアに売却、医療部門はキヤノンに売却。2017年には、半導体部門を米ベインキャピタルが主導する日米連合体に売却、テレビ事業の95%の株を129億円で中国ハイセンスに譲渡。現在、東芝は会社の再建を行っている。

シャープも巨額債務に耐えきれず、3890億円で台湾ホンハイグループに66%の株を譲渡。また、パナソニックもさまざまな製品で、中国家電市場から撤退した。

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▲ハイセンスの4Kテレビは、すでに日本でも購入している人が増えてきている。画質という点では、確かに日本メーカーに及ばないところはあるが、それは両者を並べて比べてみて初めてわかるレベル。ハイセンスの製品だけを見たら、画質に不満を持つことはないと思う。

 

IBMは見事にハードからソフトに業態転換した

日本の家電産業が衰退した原因はさまざまあるが、その中でも大きいのが、中国や韓国の家電産業が成長し、日本の家電の利幅が以前ほど取れなくなったことだ。

2004年、IBMは斜陽産業になっていたPC事業を中国レノボに売却した。当時、中国では、「蛇が象を飲み込んだ」「中国レノボは、あのIBMに勝った」と言われたが、実はIBMは経営戦略をハードウェアからソフトウェアに転換をしただけで、その後、IBMは2011年にはソフトウェアが売り上げの23%を占めるようになり、2015年にはソフトウェアが売り上げの半分を超えた。

IBMは中国に負けたわけでもなんでもない。転換戦略を進めるために、PC事業が不要になり、レノボに売却をした。IBMにもレノボにも双方にメリットのある取引だっただけだ。

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▲ミデアの電子オーブン。デザインも悪くないと思うし、ダイアルつまみを採用しているところが優れている。調理中は、矢印ボタンで時間などを設定するより、大きめのダイアルつまみを回す方がはるかに使いやすいのだ。

 

日本の家電企業は、現在、業態転換に挑戦中

日本の家電企業も同じ道を辿っている。ソニーは、2010年に米国のiCyt Missionを買収し、ソニーバイオテクノロジーと社名変更をして、バイオテクノロジー事業を始め、自社の音響技術、映像技術を医学生物領域に応用することを狙っている。また、日立は2012年に56年の歴史があるテレビ事業、液晶パネル事業などを断念し、健康分野や物流分野に転換。活力を取り戻している。

つまり、日本の家電産業が衰退をしたことは間違いないが、家電企業は衰退していない。家電から他の分野への転換を行っているのだ。街中で家電ブランドを見かける機会が少なくなったので、企業まで衰退をしたかのように見えてしまうかもしれないが、それは正しい見方と言えない。

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▲ハイアールの冷蔵庫。液晶パネルはもちろんネット接続可能。現在は、ただスマホをはめ込んだだけのようなことになっているが、人工知能を効果的に活用できるようになれば、調理家電の世界を大きく変える可能性がある。

 

中国家電企業もいずれ日本と同じ道を辿る

現在、中国では、ハイセンス、ハイアール、ミデア、スカイワースなどの家電企業の元気がよく、急成長をして、国際的な企業になろうとしている。一方で、競争は熾烈になり、すでに家電市場はレッドオーシャン化をし、利幅は日々縮小している。中国企業は、遠くない将来、家電企業からの転換を迫られることになる。その時に、IBMの成功例や、現在日本の家電企業が挑戦をしている家電からの転換をよく研究し、今から転換を見据えた準備をしておくことが重要だ。

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▲携帯電話メーカー「シャオミー」も白物家電の販売を始めている。若者の間で人気となった炊飯器。液晶パネルを筐体内側に埋め込むなど、デザインも優れている。日本の無印良品のテイストを感じさせる。

 

この冷静な見方こそ、中国企業の強み

筆者の猛亮氏の主張は、極めて冷静で合理的だ。日本の家電企業の家電売上が縮小しているのは事実だが、そこだけを捉えて「日本に勝った」とはしゃぐのではなく、冷静に分析をして、中国企業の未来を予測し、今からその未来に備えておくべきだと主張する。この冷静さこそ、中国企業の強さなのだ。

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