中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

自動運転車も試験に合格すれば運転免許を与えます

中国百度と米国グーグル(ウェイモー)が激しい競争をしている自動運転車(ドライバーレスカー)の開発。中国北京市はこの競争を支援するために、積極的に環境を整え、自動運転車に運転免許試験を受けさせ、合格をすれば運転免許を与える方針を打ち出したと捜狐が報じた。

 

運転者の判断で、自動運転走行OK

北京市は、世界で最初に自動運転車が走る都市を目指して、公道試験の様々なルールづくりを行っている。

完全自動運転は、人間が運転をしていないので、現在の道路交通法では、安全運転義務違反などの違反となる。しかし、北京市は昨年12月に「北京市自動車両道路試験管理実施細則」を公開し、免許を取得してから3年以上経過した試験運転者が運転席に座り、試験運転者の判断で自動運転と手動運転を切り替えるのであれば、公道走行試験を行えるようにした。万が一、事故を起こした場合は、自動運転中であろうとも手動運転中であろうとも、試験運転者が運転していたものとみなして、現行法での事故処理を行う。

f:id:tamakino:20180224170215p:plain

▲すでに試験運転者が運転席に座った状態での公道試験は各地で行われるようになり、動画共有サイトにも動画が無数に公開されている。

tamakino.hatenablog.com

 

人間と同じ免許試験を人工知能にも受験させる

北京市は、自動運転車の路上走行をさらに加速するために、2月に「北京市自動運転車両道路試験能力評価内容と方法(試行)」というガイドラインを発表した。このガイドラインの眼目は、自動運転車自体に免許試験を受けさせ、運転免許を発行してしまおうというもの。つまり、人間ではなく人工知能が運転をするのだから、その人工知能に運転免許試験を受けさせてしまおうという発想だ。

その試験内容が極めて面白い。原則として、人間の運転免許試験そのままなのだ。人間と同じように、車庫入れや縦列駐車の試験も行われる。

運転免許の種類は、1級から5級まで5種類があり、最高級の5級を取得するには、すべての試験項目で、80点以上の成績を収めなければならない。取得した級によって、通行できる道路が異なってくる。例えば、高速道路のインターチェンジを通るには5級が必要で、高速道路自体は4級が必要。4級の運転免許を取得した自動運転車が高速道路試験を行う場合は、インターチェンジ部分は試験運転者が手動で通過をし、本線合流後、自動運転に切り替えることができる。

このガイドラインは、あくまでも試行で、今後、各方面からの意見を聞いて、より適切なものに改善をしていく。そのため、どのように免許試験を行うのかなど具体的なことはまだ未定だが、恐らくは人間の運転試験と同じように、試験官が助手席に座り、試験場内のコースと路上で、試験を行うのだと思われる。

f:id:tamakino:20180224170222p:plain

▲「北京市自動運転車両道路試験能力評価内容と方法(試行)」に掲載されている試験項目の一覧表。人間と同じように、車庫入れ、縦列駐車などの試験が行われ、合格した自動運転車には運転免許が発行される。

f:id:tamakino:20180224170228p:plain

ガイドラインに示された車庫入れ試験の模式図。評価ポイントなども人間の運転免許試験と基本的には同じ。100点満点で80点以上が合格点になる。

 

最大の難関は、人間の不合理な運転行動

自動運転車は、モデルコース内であれば、問題なく走行できる水準に達していて、自動運転車同士の混合状態での走行も問題がない水準に達している。しかし、難関なのは、人間との混合状態での走行だ。もっとも難しいのは、人間の不合理な運転にどのように対応するかなのだ。

例えば、自動運転車が車線変更をする場合、その車線を走っている車の移動量を測定して、安全に車線変更できることを確認してから車線変更を始める。普通なら、これで問題がない。

しかし、人間の中には、自分の前に他の車が入ることを嫌い、車線変更をしようとする車を見かけると、急加速する人がいる。しかし、相手の車線変更を妨害するのではなく、結局入れるのだが、車を接近させて、脅しや嫌がらせをするという人間特有の不合理な運転行動がある。

これが人工知能には理解ができない。安全な車間を確認したから車線変更を開始したのに、突然加速され、車間が縮まる。このような急変に人工知能は「停止する」ということで危険を回避しようとする。

人間には、この人工知能の戦略が理解できない。嫌がらせをした人間側は、前方の車はそれでも自分の車線に入ってくることを想定して走行する。しかし、相手は自分の車線に半分入ったところで停止しようとするため、人間も止まる切ることができずに、接触をしてしまう。

f:id:tamakino:20180224170235j:plain

百度のアポロプラットフォームを採用した自動運転車。環状バイバス、高速道路などは運転環境が安定しているので、盛んに公道試験に利用される。

 

理想の人類社会の最大の障壁は「人類」という皮肉

自動運転車実用化の最大の障壁は、このような「人間の不合理な運転行動」になっている。これに対応をするには、いち早く公道に出て、おかしな運転をする人とたくさん出会い、経験を積み重ねていくほかない。そのため、百度はいち早く公道試験を始めたがっており、北京市も次々とその要求に応える施策を打ち出している。

自動運転車の理想的な最終形態は、人間が運転する車がなく、すべての車を人工知能が運転する状況。これは、実は、すでに技術的課題をクリアしていて、人間が運転することを禁止してしまえば、明日にでも自動運転車社会が実現する。しかし、現実にはそうはいかず、人と人工知能が混在する過渡期を経なければならない。この過渡期をクリアすることが、自動運転車の最大の技術的課題になっているというのは皮肉な話だ。理想の人類社会を構築するための最大の敵ーーそれは人間なのだ。