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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中高年のためのSNSが1億円の投資資金を獲得

中国では、朝の公園で、チームでダンスを踊ることが流行している。SNSアプリ「舞林大滙」は、このようなダンスチームに特化したSNSアプリだ。20万人以上が利用し、プレAラウンド投資資金として600万元(約1億円)の獲得に成功したと鉛筆道が報じた。

 

中高年向けサービスは立ち上がりが鈍くても離脱率が低い

スマートフォンアプリ、SNSを開発するスタートアップは、若年層をターゲットに定めることが多い。日本で言えば、「女子高生の間で大ブーム」と言われることを狙っている。これは正しい戦略だ。

若年層は、既存のSNSなどでネットコミのネットワークを持っている。また、新しいものに積極的なので、若者に受けるサービスを開発すれば、短期間で利用者が急増する可能性がある。しかし、欠点は引き足も速いということだ。「今はもう○○じゃなくて、××」という台詞とともに、次のサービスへと流行が移っていく。サービスを提供する側は、そうなる前に20代、30代あるいは中高年へと利用者層を拡大しておく必要がある。それができなかったサービスは「話題にはなったけど、消えてしまった」ということになる。

一方で、中高年層は、若年層と逆の性質を持っていて、独立性が高く、ネットコミや口コミのネットワークは極めて小さく機能しない。新しいものに対しては保守的なので、中高年向けのサービスを開発しても、普及するまでには時間がかかり、地道な努力が必要になる。しかし、その反面、一度使うようになったサービスからは、競合するサービスが登場しても、あまり離脱しないというメリットがある。

「舞林大滙」は、この中高年に的を絞ったSNSサービスだ。

 

年々派手さを増し、規模が大きくなる広場舞

中国では毛沢東時代に、朝、公園で運動をすることが奨励された。しかし、当時はダンスや音楽は資本主義の堕落の象徴とされていたので、自然と場所を取らずに楽しめる太極拳や卓球を選ぶ人が多かった。それが、改革開放の自由な時代になり、台頭してきたのが広場舞だ。当初は、リズムに合わせて踊るだけだったが、次第にオリジナルの音楽を使い、衣装も派手になっていった。

2013年頃からは過熱気味の人気となり、全国各地に広場舞のチームが続々と誕生、2015年には国家体育総局が広場舞用の音楽コンテストを開催、優秀作品を無償で広場舞チームが使えるようにした。現在では、さまざまな機関が広場舞コンテストを開催、多くのチームが参加をし、週末だけでなく平日の朝にも公園などで練習風景が見られるようになった。

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▲朝の公園で見られる広場舞。派手な音楽、派手な衣装、派手な小道具を使う創作ダンスだ。コンテストなども頻繁に開かれ、根強いブームが続いている。

 

リアルなソーシャルグラフSNSを載せる

この広場舞ブームに目をつけたのが「舞林大滙」だった。中高年は広い口コミネットワークを持っていないが、広場舞チームは別だった。チームのメンバーとはQQやWeChatというSNSアプリを使って連絡を取るのが当たり前になっていたし、さらに同じ公園で練習する他チーム、あるいはコンテストなどで出会う他都市のチームとも連絡を取り合っている。個人としては、ネットワークを持っていないが、広場舞のメンバーとしては広いネットワークを持っていた。そのため、若年層と同じように、広場舞関連のSNSだったら、爆発的に広がる可能性があると「舞林大滙」の運営元である北京舞林盟主文化伝播有限公司の創設者、趙興斌は考えた。

「舞林大滙」は、このような広場舞のメンバーが連絡を取ることに特化したSNSアプリだ。

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▲舞林大滙アプリ。参加している広場舞チームの活動が写真や動画で公開できる。

 

趣味関連商品をSNS内で販売する

「舞林大滙」は、当初から各街の社区委員会、老齢委員会などの公的機関や中国移動、北京信息網などの企業と提携して、SNS内で音楽や衣装などの販売をするとともに、協賛企業から広場舞チームに活動資金を提供するという方式で、会員数を増やしていった。北京舞林盟主文化伝播によると、SNS内での販売額は1.01億元(約17億円)に達しているという。

会員数の増え方は、若年層向けのアプリに比べて緩やかだったが、他の中高年向けアプリに比べると急速なものだった。狙い通り、広場舞のネットワークを通じて広がっていったからだ。さらに、中高年の中にはスマートフォンやアプリの操作を苦手としている人もいたが、広場舞のメンバーたちは、公園で頻繁に顔を合わせる。その時に操作法などを教えあうのだ。

そして、これも狙い通り、離脱率が低かった。ゆっくりではあったが、「舞林大滙」は確実に会員数を伸ばしていった。

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SNS機能でチームのメンバーや他のチームと連絡を取ることができ、広場舞関係のニュースを読むこともできる。

 

規模は小さくても長続きするSNSサービス

現在、1500の広場舞チームが参加をし、会員数は20万人に達している。1日あたりのアクセス数は12万件だ。

これはSNSとして、決して大きな数字ではない。しかし、サービスを支えているのがSNS内販売だ。広場舞で使われる音楽、ラジカセ、スピーカー、衣装、小道具といったものは決して安くはない。しかし、広場舞チームからすればSNS内で購入すれば簡単に揃えられることから、頻繁に利用されている。

現在、600万元の投資を得て、次は1000万元(約1.7億円)のAラウンド投資計画を立てている。これは株式の15%から20%にあたるという。

スマホアプリは若者だけのものではない。中高年が対象でも適切な市場はある。規模は大きくないものの、「舞林大滙」は長く続くサービスになると見られており、投資家からも好評を得ているという。

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