中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

脱スマホに走り始めた中国アリババ

アリババとその傘下のアントフィナンシャルは、上海地下鉄と共同して、地下鉄の発券システムと改札を脱カード、脱スマホに変えていくと鳴金網が報じた。音声でチケットを購入することができ、改札は顔認証で入ることができる。アリババは、脱スマホ技術に注力をしていくという。

 

スマホの次はウェラブル?スマートスピーカー?

世界中が「スマホの次」を考え始めている。誰もがスマホがICTの最終形態ツールではなく、過渡期のツールであることを感じていて、ICT社会の最終形態を思い描き始めている。数年前のウェラブルブームもその方向を目指したものだったが、今では「ちょっと便利な腕時計」にすぎないと誰もが考えるようになった。今、話題になっているスマートスピーカーも最終形態の方向を目指したものだ。悪くないアイディアだが、それを利用者たちが受け入れてくれなければ普及はしない。

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人はICTツールを持たないユビキタスな未来

最終形態がどのようなものであるかは、実ははっきりとしている。1991年、ゼロックスパロアルト研究所マーク・ワイザーが論文「The Computer for the 21st Century」の中で提唱したユビキタスだ。

ユビキタス社会では、誰もスマートフォンのようなICTツールは持ち歩かず、ただ、自分であることを識別するチップだけを装着している。オフィスのテーブルや壁やモニターになっていて、そこをタッチすれば、自分の作業環境が表示され、仕事ができる。ICTツールは、社会という公共が用意をし、それを使用するという考え方だ。

ユビキタスは、すでに部分的に実現されている。鉄道で使われる交通カードがそうだ。乗客は、自分を認識する交通カードを持つだけで、改札機の中にコンピューターが入っていて、必要な精算処理を行う。近い将来、カードをタッチさせる必要もなくなり、ただ改札を通過すればよくなるだろう。

ユビキタス社会では、人は操作を極力しない。必要な行動をするだけで、周囲の環境が適切な処理をしてくれる。その意味で、スマートスピーカーはユビキタスの方向に向かっている。スピーカーは壁に埋め込まれるようになり、背後では人工知能が動作をし、適切な処理を行ってくれるようになる。

 

スマホを可能にしたレストランKPro

この最終形態に向かうのに、まずは「脱スマホ」を目指すことが重要だ。スマホという頻繁に操作しなければならないツールは、ユビキタス社会を実現するための不協和音となり始めている。

中国アリババは、この「脱スマホ」戦略を積極的に進めている。杭州市に今年開業したケンタッキーフライドチキンとの協業であるレストラン「KPro」では、利用をするのにスマホも財布も不要だ。あらかじめ、専用アプリに顔写真やアリペイのアカウントを登録しておく必要はあるが、それを済ませておけば、顔認証で支払いが可能になる。入り口に設置してある大型タッチパネルで、顔認証、注文、座席指定をし、あとは座席に座っていれば、料理が運ばれてくる。食べ終わったら帰るだけだ。支払いは、アリペイから自動的に決済される。

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声でチケットを買い、顔で改札を通る上海地下鉄

アリババとアリババ参加のアントフィナンシャルは、上海地下鉄と協働して、上海地下鉄の発見システムをユビキタス化していくことを発表した。

乗車券を買うときには、モニターに向かって「○○まで」と言うだけ。音声認識で発券される。支払いは、スマホを使ってQRコードを読み込んでアリペイでもかまわないが、事前登録してあれば顔認証でも決済される。

改札は、顔認証のみとなっていて、スマホも財布もなく、地下鉄に乗ることができるようになる。

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▲チケットの購入は音声で。「○○までのチケットをください」と話すだけ。紙のチケットはでてこず、顔が認識され、改札は顔認証で通過する。

 

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▲上海地下鉄は、顔認証で改札を通ることができるようになる。支払いは、紐づけられているアリペイで行われる。

顔認証技術があらゆるところに広がっていく

この顔認証技術の応用先は、交通だけではない。「門、カード、証、券」の4つを顔認証でき置き換えていくことができる。映画館、博物館などの「門」、交通、社会保険、銀行などの「カード」、身分証、免許証、学生証などの「証」、チケット、伝票などの「券」、すべてが顔認証技術に置き換えることができる。

アリババは、上海地下鉄を皮切りに、また世の中を大きく変えていく事業を始めようとしている。

 

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▲上海地下鉄用のシステムのお披露目式。アリババのジャック・マー会長も出席した。運用開始は「近日」と報道されている。