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中国の白物家電産業の30年。中国クオリティが世界を制することができた理由

中国の白物家電と言えば、数十年前は低品質の代名詞だった。故障をするのは当たり前、運が悪ければ発火、爆発する。それが現在は、多くの白物家電で、中国企業のシェアが圧倒的になるほど、世界で売られている。その躍進の秘密を中国電子報が解説した。

 

売上は頭打ち、でも利益は急増。値下げ競争に陥らない中国家電

中国の白物家電産業が形を成して30年になる。メイダ、ハイアール、グリー、ハイセンスなどの国際的に家電製品を販売するメーカーが登場し、シーメンス、ワールプール、サムスン、LG、パナソニックなど海外の企業と正面から競争をしている。

中国国家統計局の統計によると、2016年の家電業界の売上は1.46兆元(約25兆円)、2012年からは30%増加し、2015年からは3.8%の増加となった。

売上の伸び率は頭打ちになったが、注目すべきは利益の増加だ。2012年の609億元から、2016年は1196.9億元と、96.5%の増加となった。これはきわめていい兆候で、製品の付加価値が高まり、価格も高止まりし、日本メーカーが陥っている「値下げ競争」から一定の距離を保てていることになる。

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出荷台数は、日本の10倍から20倍

出荷台数も増加をしている。2016年の冷蔵庫は9238.3万台、昨年から4.6%の伸び。エアコンは1億6049.3万台で4.5%の伸び。洗濯機は7620.9万台、4.9%の伸び。ちなみに日本の白物家電の国内出荷台数は、冷蔵庫が約400万台、エアコンが約850万台、洗濯機が約450万台だ。

まさに桁違いの数字だが、中国はエアコン、電子レンジに関しては全世界の80%以上を製造し、冷蔵庫、洗濯機に関しては全世界の50%以上を生産しているのだ。

 

躍進の秘密は、最適戦略の継投策

30年前、故障ばかりする低品質の製品しか作ることができなかった中国の家電産業は、なぜ世界の工場となるほどシェアを取ることができたのか。その秘密は、ステージに合わせて最適な戦略を取り、なおかつ次の戦略に早めに着手をするという「継投策」を絶え間なく進めてきたからだ。

30年前の中国家電産業の目標は、他の国の家電産業と同じく、国内普及率を高めることだった。この戦略はすでに達成できている。市街部(農村を除いた地域)でのエアコンの普及率は、100世帯あたり123.7台、冷蔵庫の普及率は99.0台、洗濯機は92.4台とほぼ普及ステージを終了している。農村では、普及がこれからだが、普及のスピードは市街部よりも速いと見られている。

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▲ハイアールが発表したAndroid搭載冷蔵庫。現在のところ、タブレットが付いている冷蔵庫程度のものだが、優れたアプリが1つ登場するだけで、状況はまったく変わる。

 

普及の次はデザイン志向

市街部での普及が終わると、白物家電の購入世代は90年代生まれに移っていった。90年代生まれの若者たちは、貧しい時代を知らずに育ったため、白物家電の品質がいいのはあたりまえのことであると感じていて、品質にはこだわりは示さない。その代わり、機能やデザインにはこだわる。

この変化を受けて、中国家電産業はデザインの時代に入っていく。家具として、オブジェとして美しい白物家電の開発を目指した。その一例が、ハイアールのハローキティ洗濯機だ。大胆にキティをあしらった洗濯機は、白物家電というより玩具に近いデザインだが、これがヒット商品となった。若い女性に受け、その女性たちが母親になると、子どもたちから圧倒的な支持を受けたのだ。

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▲ハイアールのヒット商品となったハローキティ洗濯機。豊かな時代に生まれて楽しいことが大好きな90年代生まれの若者の心をつかんだ。

 

OEM供給で世界へ。そして、買収戦略に転ずる

国内市場が飽和する兆候を見せ始めると、中国家電産業は海外に進出をしていった。しかし、当初、「中国製品は品質が悪い」というイメージがあり、中国ブランドは消費者から相手にされなかった。そこで、海外の家電ブランドへOEM供給をするという形で世界に進出していった。ハイアールの冷蔵庫、ハイセンスのエアコンなどは、この戦略で世界での実質シェアでトップになるほど普及をする。

OEM戦略がある程度軌道に乗ると、次に海外ブランドの買収を始めた。ハイアールは、ニュージーランド白物家電企業フィッシャー・アンド・パイケルの買収を皮切りに、日本の三洋電機家電部門、米国のGE家電部門を買収していく。海外では、そのままのブランドで販売をし、同時に日本や欧米の企業が持っている技術力と人材を吸収していく。

メイダは、ドイツのクーカ、イタリアのクリベット、日本の東芝白物家電部門、イスラエルのサーボトロニクスなどを買収、資本提携をし、家電製品、空調システム、ロボットなどの技術を吸収していった。こうして、中国の家電メーカーは、グローバル展開を果たしていった。

 

世界の技術と人材が中国企業

白物家電の世界は、すでに中国が世界の中心になったと言わざるを得ない。なぜなら、日韓欧米で生み出された白物家電の世界でのイノベーションは、すべて中国企業に吸い上げられてしまう仕組みになってしまったからだ。技術も人材も、すべて中国企業に集約される体制が整ってしまった。

その成功の秘密は、ひとつの戦略が成功している間に、次世代の戦略を立案し、着手するという継投を絶え間なくしてきたことにある。中国家電産業は、すでに次の戦略に着手をしている。それはIoT、AI家電だ。例えば、冷蔵庫では、利用する時間帯を学習をし、使われない時間帯に節電をする。洗濯機では洗濯物の量などを自動判別し、水量、洗剤量などを自動設定するなどのAI機能を搭載した製品を発売し始めている。

もちろん、IoT家電、AI家電が消費者の心をつかめるかどうかはまだ未知数だ。しかし、そうだとしても中国家電産業は、その次の戦略すらすでに考えているだろう。時代にあった戦略を次々と実行し、間を空けない。それが成長の鍵なのだ。

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▲同じくハイアールが展示会に参考出品したIoT冷蔵庫。その場で、ECサイトに接続して、不足している食材を注文することができる。