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中国は再び自転車の王国に。北京に自転車専用の高速道路

シェアリング自転車のサービスが始まって、中国人はすっかり自転車の魅力に囚われてしまったようだ。北京市は、高まる市民の自転車熱に押されて、自転車専用の高速道路を建設することを発表したと環球網科技が伝えた。

 

自転車は、人間にいちばん適している交通ツール

人と乗り物の関係は、自転車に始まり、自転車に終わるようなところがある。子どもの頃、初めて手にした乗り物は自転車であるという人が多いだろう。それからバイクになり、自動車になり、人によっては飛行機を操縦しと、速さを追求しても、結局最後は自転車に戻ってくる。

1km走るのに最もエネルギー消費の少ない乗り物は自転車だ。そして、自転車は速度が人間の認識力に合っている。走りながら、周囲の景色を感じ、理解し、考えるのにちょうどいい速さなのだ。自動車や飛行機では、速すぎて、周囲の景色は、ただの背景画になってしまうか、場合によっては映像ノイズにすぎなくなってしまう。人間の筋力だけで前に進むことができる自転車は、人間にとって最も心地のいい速度で移動できる道具なのだ。

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貧しさの象徴だった中国の自転車は、今や最先端の移動手段

中国がまだ貧しかった頃、中国のイメージと言えば、天安門広場付近の長安街を走る大量の自転車だった。それしか移動手段がないからで、自転車は中国の貧しさの象徴だった。

改革開放を経て、中国が豊かになると、人々は自転車を忘れるようになった。それも、貧しさの象徴であった自転車を意図的に忘れるようにした。みな、自動車を欲しがり、長距離を移動するときは、高速鉄道や飛行機に乗りたがった。

しかし、貧しさを知らない90年代生まれ、00年代生まれの若者たちが社会の中心になると、彼らは再び自転車に関心を持つようになった。中国に住む外国人たちが、ロードバイクロードレーサーといった貧しさの象徴だった中国の自転車とは、まったく違った自転車を持ち込むようになったからだ。

中国の大都市の中で、若者の人気のおしゃれな街と呼ばれる場所には、オープンカフェとサイクルショップが立ち並ぶようになった。

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▲1970年代の中国の自転車。市民は、自転車ぐらいしか交通手段を持つことができなかった。自転車は、中国の貧しさの象徴だった。

 

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▲現在のシェアリング自転車に乗る人たち。都市交通の「最後の1km」問題を解消する手段として始まったシェアリング自転車は、人間の認識能力に適した速度の移動手段として、若者を中心に愛され始めている。

シェア自転車も、時間貸しからサブスク方式へ

このタイミングで、シェアリング自転車のサービスが始まった。シェア自転車は、都市交通の課題だった「最後の1km」問題を解決するという実用的な面だけではなく、若者たちが自転車に関心を持ち、好感を抱いているという情緒的な面でも、ぴったりのタイミングだったのだ。

多くの若者が、自転車を「最後の1km」を補う都市交通の補助手段としてではなく、移動するための主要な手段とし始めている。シェアリング自転車も、本来は1分間いくらという「時間貸し」から始まったが、このような変化を受けて、1ヶ月単位での使い放題という「サブスクリプション」オプションを採用し始めている。

 

自転車専用の高速道路が続々と計画中

10月、北京市城市道路養護管理センターの甘鋒副主任は、北京は自転車専用の高速道路の建設を検討すると公表した。ルートもすでに考えられており、体育公園(オリンピック公園)を起点に、ショッピングセンター、新素材研究団地、中関村などの先端地域を結ぶというものだ。道路幅は、5mから7m程度を想定しており、2車線を取り、自転車が対面通行できるようにする。

道路は前線閉鎖式で、交差点はなく、当然信号もない。歩行者とバイク、自動車は入ることができず、高速で自転車が走ることができるようにするという。

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▲北京で計画されている自転車専用高速道路。実は、中関村のIT企業に務める人が多く住む地域を結んでいる。通勤に自転車を利用することで、都市交通のボトルネックを解消する計画だ。

都市交通のボトルネックを自転車高速道路で解消する

これは、自転車の愛好者のための道路でもあるが、都市交通の弱点を解決するための方策でもある。中国のIT企業が集中する中関村で働く人の多くが、高級マンション群が並ぶ上地や回龍観に住んでいる。しかし、直接中関村に到達する高速道路や地下鉄がないために、通勤に時間がかかっていた。

この自転車専用高速道路が開通すると、中関村から6.3km離れた上地からは25分で、13.9km離れた回龍観からは50分で通勤することができる。中関村で働くIT関係者の多くは、自転車が好きであり、健康にも気を使うことから、自転車通勤を望む声が高いのだという。

すでに中国では、交通ツールの変化が起きている。北京市では、この5年間で、オートバイの通行量は18.24%から6.13%と激減をしている。一方で、通行人が4.42%増え、自転車が51.85%も増加している。

 

自転車を利用して、都市交通を効率化させていく

増加する乗り物の専用道路を作り、優先をすることで、都市交通全体が効率的になり、市民全員がスムースに移動できるようになる。北京市城市道路養護管理センターでは、自転車専用道路は、都市交通を効率化させる大きな力になると考えている。

他の都市でも、状況は似ていて、次々と自転車専用道路の建設が始まっている。アモイ市では、高速道路を横断するための見事な自転車専用ループ橋が開通し、大きな話題となり、早くも観光名所のひとつになろうとしている。

自転車しか移動手段のなかった中国は、改革開放と経済成長を経て、再び自転車大国になろうとしている。

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▲アモイ市に建設された自転車専用のループ橋。市民から歓迎されているだけでなく、観光資源ともなり、話題を呼んでいる。