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ジオフェンス駐輪場は、ライドシェア自転車問題を解決する切り札になるか

中国でますます拡大する自転車ライドシェア。市民の手軽な足として利用が広まるとともに、放置自転車の問題も拡大している。各ライドシェア企業は、放置自転車対策の切り札としてジオフェンス駐輪場の試験導入を4月から始めた。しかし、新浪科技は、実地調査した結果、ほとんど効果が上がっていないと報じた。

 

最後の1kmの足となった自転車ライドシェア

中国都市部の自転車ライドシェアは、すっかり生活に定着をした。中国の都市部は1ブロックが大きく、地下鉄の駅からだと10分以上歩く場所が少なくない。バス利用が便利だが、渋滞が日常化しているため、時間が読みづらい。そこで「最後の1kmの足」として自転車ライドシェアが定着をした。

ライドシェアサービスにユーザー登録をすると、アプリの地図上に付近の空き自転車が表示される。自転車のところに行き、使用を開始すると、電子鍵が解錠して、利用できるようになる。料金は30分1元程度だ。目的地に着いたら、駐輪禁止地域でなければどこでも乗り捨てが可能。アプリで使用終了をタップすると、自動的に施錠され、スマホ決済で料金が支払われる。

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放置自転車の問題が各都市政府を悩ませている

一方で、社会問題も引き起こしている。最も大きな問題は、放置自転車だ。乗り捨て自由であるために、駐輪禁止地域でも平気で乗り捨てをしてしまう人もいる。また、歩道の狭い部分に停めたり、車の通行の妨げになるような停め方をしてしまう人もいる。

各ライドシェア企業では、回収班を巡回させ、そのような問題のある自転車をトラックに乗せ、地下鉄駅など利用者が多くいる場所に移動させたりしているが、回収が追いつかないのが現状だ。

市政府も放置しておくことができず、駐輪場を整備するとともに、駐輪禁止区域を拡大し、違法駐輪の自転車は積極的に回収するなどの措置を取るところも出てきている。また、自転車ライドシェアの営業そのものを禁止する市まで登場している。

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▲このようなひどい光景がたびたび報道される。交通の妨げになるところに、ライドシェア自転車が乗り捨てられてしまうために、近所の人や行政が通路を確保するために仕方なく自転車を積み上げたもの。

 

切り札のはずのジオフェンス駐輪場の効果が上がっていない

このような自転車ライドシェアの問題を解決するものとして登場してきたのがジオフェンス駐輪場だ。指定された駐輪場にビーコンを埋め込み、各自転車がジオフェンス内であるかどうかを感知する仕組みだ。ジオフェンス内に駐輪した場合、さまざまな優待を与えることで、駐輪場に停めることを促すねらいだ。

しかし、新浪科技の調査によると、優待の仕組みが的を射ていないため、ほとんど効果が上がっていないという。

 

意味がない優待施策により、駐輪場はガラガラ

新浪科技が調査をしたのは、北京市内の4カ所のジオフェンス駐輪場。世茂工三北門(Mobike専用)、崇文門地下鉄駅(ofo専用)、幸福村中路(共用)、玉橋中路(共用)だ。

Mobike専用の世茂工三北門ジオフェンス駐輪場は、驚いたことに駐輪場内に1台の自転車も停められていなかった。その代わりに、駐輪場の外に10台ほどの自転車が放置されている。Mobikeでは、すでに北京、上海、広州、深圳の4都市に同様のジオフェンス駐輪場を4000カ所設置していると公表しているが、これではほとんど効果が上がっていないことになる。

ジオフェンス駐輪場に停めると、次回利用できる優待クーポンがもらえることになっているが、Mobikeではすでに月極め使い放題のメニューを用意し、これが好評で、多くのユーザーが月極め利用をするようになっている。そのため、優待クーポンをもらっても意味がないのだ。多くのユーザーがジオフェンス駐輪場を意識することなく、自分が便利な場所に自転車を停めていると推測される。

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▲世茂工三北門では、ジオフェンス駐輪場には自転車はなく、その周囲に何台かの自転車が放置されていた。ジオフェンス駐輪場に停めた場合の優待策が弱いために、利用者はジオフェンス駐輪場を無視して停めてしまうからだ。

 

信用ポイントが増加するジオフェンス駐輪場

ofo専用の崇文門地下鉄駅前ジオフェンス駐輪場には、それなりの数の自転車が停められていた。アプリ上でも、「推薦駐輪場」と表示され、「信用ポイント+2点」と表示される。ここに停めると、各ユーザーの持ち分である信用ポイントが上昇する仕組みで、一定ポイントを超えると、利用料が割引になるなどの優待が与えられる。

ところが問題は、現場に「駐輪場。バイクは駐輪禁止」と書かれているものの、ofoの文字がどこにも書かれていないことだ。そのため、ofo利用者がアプリ上でジオフェンス駐輪場を見つけて停めようとしても、果たしてここでいいのかどうか戸惑うことになる。また、本来はofo専用であるのに、そのことが明記されていないため、関係のない自転車も停められていた。

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▲崇文門地下鉄駅前ジオフェンス駐輪場。駐輪すると、信用ポイントが追加されることもあって、よく利用されているが、ofo専用駐輪場である案内がないために、いろいろな自転車が停められてしまっている。

 

案内がまるでない謎空間になっている駐輪場も

北京市も公共のジオフェンス駐輪場を設置している。幸福村中路では、自動車用のパーキングメーターを撤去して、その跡を自転車用のジオフェンス駐輪場にしている。ところが、なんの説明もなく、ただビーコンを地面に埋め込んでいるだけなので、誰もなんのスペースなのかがわからない。自転車が停まっていないことはもちろん、自動車も停まっていない。パーキングメーターがないので、そこに停めてしまうと駐車違反になってしまうからだ。

近所の人に聞くと、「自転車が停まっているのを見たことがない。時々、近くの工場の人が自動車を短時間停めているぐらい」だと言う。

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▲幸福村中路の北京市の公共ジオフェンス駐輪場。元自動車のパーキングメーター駐車場に、ジオフェンスセンサーを埋め込んだだけで、駐輪場であることの案内がどこにもない。そのため、「謎の場所」になってしまい、誰も利用しない空間になってしまっている。

 

利用者がいないところにもジオフェンス駐輪場

玉橋中路も北京市が設置したジオフェンス駐輪場だ。ここにも1台も停められていない。驚くのはすぐ近くの地下鉄駅前には、ofoでもMobikeでもない通州公共のライドシェア自転車が大量に停められていた。通州公共は、ofoやMobikeのような多都市展開をしている自転車ライドシェアではなく、北京市ローカルのサービス。地下鉄の駅前に停められていることが多い。

この場所では、通州公共の自転車が大量にあるために、ほとんどの人が通州公共を利用し、ofoやMobikeを利用していないようだ。

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▲玉橋中路では、ジオフェンス駐輪場には自転車が止まっていないのに、近くの地下鉄の駅前広場には通州公共のシェア自転車が大量に並ぶという不思議なことになっていた。

 

まだまだ改善が必要なジオフェンス駐輪場

新浪科技の結論としては、ジオフェンス駐輪場の案内が不足しているために、利用者が見つけづらいことと、ジオフェンス駐輪場に誘導する優待制度が弱いことが問題になって、利用率が上がっていないとしている。

ジオフェンス駐輪場をアプリ内の地図だけで表示するのではなく、現地にofoやMobike、北京市のジオフェンス駐輪場であるということをしっかりと明示することが必要だ。

また、ジオフェンス駐輪場を利用した場合に、優待クーポンの配布などという弱い優待ではなく、むしろジオフェンス駐輪場以外に駐輪した場合は、駐輪費を追加徴収するなどの施策が必要になってくるのではないかとしている。

しかし、自転車放置問題を解決する切り札はやはりジオフェンス駐車場であり、適切な誘導、案内、優待策が取られるようになれば、放置自転車問題は解決していくはずだともしている。