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農村のユーチューバー、半年で8万元を稼ぐ

四川省の農民が、農村の生活を動画中継して、半年間で8万元(約134万円)を稼いだとして話題になっている。特別なことをしているわけではなく、誠実に農村の生活を紹介している動画に、多くの人が心を打たれ、すでに10万人のファンを獲得している。動画を制作している劉金銀(りゅう・きんぎん)氏を、成都商報が取材した。

 

人口160人の村から、動画中継をする農民

四川省瀘州市合江県の三塊石村六組は、四方を山で囲まれ、重慶から150km、成都から300kmの都会からは隔絶された場所にある山村で、人口は160人しかいない。ここに、動画中継で10万人のファンを獲得し、半年で8万元を稼いだ26歳の農民がいる。

劉金銀氏は、ネット名「四川金牛」という名前で、動画中継チャンネルを主催、毎日1000元(約1万6000円)の収入を得ている。

その内容は、特に変わったものではなく、農村の生活をそのまま紹介したものだ。掃除をする、食事を作る、豚の世話をする、田植えをする、魚をとる、ウナギをとる、そういった農村の日常生活を動画に撮影し、自分のチャンネルで放送している。

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▲自宅の中で、農民の生活の動画を撮影し、それを共有サイトにアップする。四川金牛はこの仕事で、農村ではありえない高収入を得るようになった。

 

投げ銭方式が質の高い動画制作を促す

ユーチューブの場合、利益は動画に添えられる広告料になる。再生回数が多ければそれだけ利益が上がる。そのため、再生回数を上げようと、内容は扇情的な方向に走りがちだ。

一方で、中国の動画中継は、投げ銭方式だ。動画を見た人が面白いと思えば、任意の額のお金をスマホ決済で送る。そのため、再生回数が少なくても、内容が視聴者の心に響けば利益が上がる。質の高い動画が登場しやすい。

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▲四川金牛が主催をする四川金牛TV。近所の子どもたちが、家事を手伝う様子の動画をアップしている。

 

初めての動画は再生回数たったの5回

四川金牛は、この村で唯一の若者だ。中学を卒業後、村の中でアルミサッシ窓を作る仕事を始めた。しかし、まったく楽しくなかった。1日300元(約5000円)ほど稼ぐことができ、農村の中で見つけられる仕事としては高収入だったが、そのほとんどを家に入れなければならない。唯一の慰めが、スマートフォンで動画を見ることだった。

中には、同じような農村の若者が中継をしている動画もあった。しかし、そのほとんどが自虐的なものだった。農村はこんなに文化程度が低い、農村はこんな不便。都会の若者にへつらうような内容のものばかりだった。

四川金牛は、農村の生活を素直に紹介した動画を配信してみたいと思うようになった。今年の2月、自分のスマホで、田んぼでエビを捕まえる光景を撮影して、放送してみた。しかし、再生回数はたったの5回だった。誰も投げ銭をしてくれなかった。それどころか、動画をアップするのに、通信費が50元(約840円)もかかってしまった。

納得がいかず、再度別の動画をアップした。数十回再生されたが、投げ銭は誰もしてくれなかった。しかし、視聴者の一人が応援するメッセージを残してくれた。

それに励まされて、動画の配信を続けると、2ヶ月目にはファンが1万人に達した。始めてから半年、現在ではファンが10万人、1日に1000元(約1万6000円)の投げ銭が入るようになった。

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▲四川金牛が撮影するのは、農村ではごく当たり前の生活ばかりだ。それが都市の若者にとっては新鮮で、10万人のファンを獲得している。

 

親から理解されなかった動画配信の仕事

1日1000元の収入というのは、農民にとっては驚くほどの高収入だ。地域によっても異なるが、農村の現金収入は年で数千元というのが一般的だ。四川金牛は、農民の1年分の収入を、わずか1週間で稼いでしまう。

それでも、四川金牛の両親は、この仕事を認めていない。高収入の仕事だったアルミサッシ窓作りをやめてしまったことを心配している。両親の願いは、今12歳の娘を高校に行かせることだ。その学費に、四川金牛の稼ぎをあてにしている。しかし、スマホばかりいじくっていて、仕事にいかない。両親は、息子がおかしくなってしまったのではないかと思い心配し、その心配を打ち消すために動画で稼いだお金を現金にして渡したところ、息子は気が狂って、悪事を働くようになったと、病院に入院させる相談を始めてしまったほどだ。

四川金牛の元には重慶成都から、メディアが取材にくるようになった。そういうメディアの人と会ううちに、両親もようやく息子が悪事ではない、今風の仕事をしているのだと理解するようになった。

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▲近くの町で動画共有サイトのイベントが開催された。三脚とスマホを持って取材をする四川金牛。

 

夢は点心を出す料理店を持つこと

しかし、今の動画配信で、いつまで儲けられるかどうかはわからない。四川金牛は、今の内に人脈を作り、お金を貯め、数年後には街に出て、料理学校に通いたいという。そして、四川の点心を作る技術を身につけ、どこかで店を持ちたいのだという。

ただ、今のところは、動画を撮ることに熱中をしている。ネット回線は、農村まで届いている。ネットがあれば、チャンスは自分で作り出すことができる。もし、四川金牛が20年前の三塊石村に生まれていたら、毎日、アルミサッシ窓を作りながら生きていくしかなかっただろう。ネットは、多くの人の人生を変えていっている。