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地震予知に挑むベンチャー。九寨溝地震で71秒前の警報発令に成功

2017年8月8日午後9時18分。マグニチュード7.0の九寨溝地震が発生し、25人の死者と525人の負傷者がでた。ところが、この九寨溝地震を71秒に予知をし、各市に警報を発していたベンチャーがあった。この成都高新減災研究所は、過去38回の地震で、事前警報を発することに成功していて、この研究所の技術が注目を浴びていると鉛筆道が報じた。

 

71秒前に警報を発令することに成功した民間ベンチャー

成都高新減災研究所は、公的機関ではなく、民間研究所だ。現在、エンジェルラウンドの投資資金を得て、地震警報を販売するビジネスを確立しようとしている。

大きな成果が、今回の九寨溝地震だった。71秒前に成都市のテレビ局、成都市政府関連部門に警報を発することに成功し、その他、四川省6市の11の学校に対して、5秒前から38秒前に警報を発した。また、契約をしている軍事関連工場、民間企業などにも警報を発した。

成都高新減災研究所では、事前警報には大きな意味があるとしている。成都高新減災研究所の研究によると、3秒前の警告でも負傷者を14%減らすことができ、10秒前であれば39%、20秒前であれば63%減らすことができるという。

 

日本の地震警告システムを導入した四川省

成都高新減災研究所の王暾(おう・とん)所長は、浙江大学工学部で地震予知の研究をしていた。しかし、2001年当時、中国の地震研究は初歩的なもので、とても事前警報システムを構築できるレベルになかった。そこで、王暾所長は、地震研究が進んでいる日本とメキシコに視察に行き、最先端の地震研究技術を学びとった。成都高新減災研究所の事前警報システムも、ベースになっているのは日本の地震計測システムであるという。

学ぶこと7年、王暾所長は中国に帰国し、四川省政府の支援を受けて、地震警報四川省重点実験室を設立し、中国に地震警報システムの構築を始めた。しかし、日本の地震警告システムをそのまま輸入することはできなかった。日本のシステムは、精密ではあるものの、価格が高い。とても、実験室の予算ではまかないきれなかった。

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成都高新減災研究所で、警報システムの説明をする王暾所長。公的機関ではなく、投資資金の獲得を目指している民間スタートアップであるという点がユニークだ。

 

予算の壁を分散処理で乗り越える

王暾所長の決断は、日本のシステムの機器を、精度では劣る中国製などに置き換えていくことだった。「精度は悪くなり、マグニチュード3.0以下の地震には反応しなくなりました。しかし、それでいいと思ったのです。3.0以下では、大きな損害はありません。私たちは3.0以上の大地震のみに対応することにしたのです」。

さらに、日本のシステムでは、計測器を専用の小屋をつくってその中に設置していたが、これもコストの面からやめた。地面に穴を掘ってその中に設置をしたり、普通のオフィス、民家の中に置かせてもらった。「最初の頃は、掃除のじゃまになると言って、迷惑がられたものです」と、王暾所長は当時を振り返る。

日本のシステムでは、こうして設置した計測機からの信号を、一箇所のサーバーに集めて計算処理を行う。しかし、それもできなかった。中国のインターネット回線は速度が遅く、日本と同じことをやっていたら、地震が発生してから、“事前警報”が出るような事態になってしまう。

そこで、王暾所長は分散処理をさせることにした。近い場所にある計測機の信号はそこだけでまとめて処理をして、このような分散処理した信号を中央サーバーに集めて、警告システムに連結をする。このような手法をとることで、平均通信量は1/10になり、すべての計算処理が終わり警告を出せるまでの時間は、日本方式をそのまま使うよりも、5秒ほど早くできるようになった。

 

過去38回の地震で事前警報を出すことに成功

日本のシステムと比べて、精度も悪い、回線も細い。計測器の設置場所の条件もバラついている。それでなぜ、実績を残せたのか。王暾所長がこだわったのは、計測器を設置する密度だ。日本のシステムでは20km間隔で設置されている。これを18km間隔で設置した。計測器の仕様としては半径21kmの土地の歪み、振動を感知できる。あえて短い間隔で設置することで、重複する部分を多くしたのだ。これで、ある地点で起きた異常は、複数の計測器で測定することができる。

このように、密に観測できる体制を整え、地震を観測するたびに、理想の観測値と実際の観測値のズレを計算。正確に警報が出せるシステムに育てていった。

こうして、2013年1月19日の雲南省で発生したマグニチュード4.9の地震警報を皮切りに、合計38回の地震で、事前警報を出すことに成功している。

現在のシステムは、31の省、直轄市自治区の220万平方km、人口にして6.6億人をカバーする世界でも最大の地震警報網となった。

九寨溝地震では、警報を発した後、データ分析を後回しにし、王暾所長以下、成都高新減災研究所のメンバーは救援をするために現地入りをした。目下、成都高新減災研究所は3000万元(約5億円)のAラウンド投資資金の獲得を目指している。

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九寨溝地震の警告に関する記者発表会。地震直後であるため、さほど注目されない記者発表会となったが、時間が経ってから成都高新減災研究所が注目され始めている。

日本人は知らない「地震予知」の正体

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