中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

買い物カートをレジにしちゃえば?大胆な発想で、レジなしスーパーを実現

現在「レジなし」を実現できているのは、Amazon Go(ただし本社内の試験営業)とアリババ無人販売所(杭州市で開業)、深蘭科技のTakeGo(上海市で開業)などだ。いずれもそれなりの規模のITシステムが必要となる。ところが、普通のスーパーでもすぐに「レジなし」が実現できる買い物カートを開発をして、注目を浴びているスタートアップがいると鉛筆道が報じた。

 

「レジに並ぶ」は最悪のユーザー体験

コンビニ、スーパーにとって「レジなし」は、必ず超えなければならない大きな課題だ。なぜなら、「レジに並ぶ」というユーザー体験が悪すぎるのだ。飲料を買うのに90円で売っているスーパーに行かずに、110円で売っているコンビニに行く人が多いのは、「レジに並ぶ」という悪いユーザー体験をしたくないからだ。

しかし、AmazonGo、アリババ無人販売所ともに、まだ技術的課題を抱えている。

アリババ無人販売所の場合、商品のすべてにRFID無線タグをつけなければならないことだ。これは現在のところ人手でやるしかない。流通では、今のところ印刷バーコードで間に合ってしまっているので、製造段階で無線タグをつけるようになるまでにはまだ時間がかかる。

tamakino.hatenablog.com

 

外部の撹乱要因に影響される無線タグの処理時間

もうひとつは、無線タグの認識は簡単ではないことだ。タグが発信している電波をアンテナで受信して、IDを読み取るという仕組みの無線タグは、周囲のノイズ電波の影響を容易に受けてしまう。さらに、電波発信源(無線タグのついた商品)が移動している場合や、一度に読み取る無線タグの数が多いというのも苦手だ。現状のスーパーなどで想定される20個程度の商品を歩く速度で移動しながら読み取るという状況だと、数秒はかかってしまうという。

そのため、アリババ無人販売所では、ユニークな工夫をしている。精算専用の長めの通路を用意し、精算する来店客にここを歩かせる。歩いている時間で処理時間を確保し、しかも出口は自動ドアなので、精算処理が終わるまで開かない。こうして確実にすべての商品が読み取れるようにしている。

tamakino.hatenablog.com

 

トレース問題でつまづくAmazonGo

3つ目の問題は、商品と顧客の識別だ。AmazonGoでは、画像解析を基本として、顧客と商品を識別している。基本的には顔認識で顧客を識別する。しかし、認識率には限界があるから、店内に複数のカメラを設置し、顧客と商品をトレースしなければならない。AmazonGoは、このトレースにシステム上の問題が出ていて、営業公開ができない状態にいる。

つまり、コンセプトは未来的だが、現実には技術的な課題をクリアする必要があり、しかも設備は大掛かりにならざるを得ない。新規に開業するスーパー、コンビニならともかく、既存のスーパー、コンビニが無人技術を後付けで導入することは難しく、大掛かりな改装が必要となってくる。

tamakino.hatenablog.com

 

だったら「カートにレジを付けちゃえばいいんじゃね?」

ところが、「だったら、買い物カートにレジ機能を持たせればいいんじゃね?」という別角度の発想から起業したのが、スタートアップの超(チャオヘイ。「超なるほど」のような意味)だ。

が開発したのは、商品を認識する買い物カート。商品認識に時間がかかっても、来店客が店内で買い物のために歩き回っている時間はたっぷりある。この間にゆっくりと商品を認識すればいいのだ。

すべての商品認識が終わったら、来店客はカートのモニターに表示されるQRコードスマートフォンでスキャンして、スマホ決済をする。決済をすると、未決済ランプが消えるので、そのまま外に出て、バッグに詰め替えればいい。

また、来店客はカートに対してスマホ決済をするので、顔認識などで顧客を識別する必要もない(マーケティングデータを取るために、使う前にスマホで本人確認はさせている)。AmazonGoやアリババ無人販売所の技術的課題を見事にすり抜けているのだ。

このレジ機能つきカートの素晴らしい点は、どのスーパーであっても、改装することなく、導入するだけで、レジなしが実現できる点だ。レジスペースを撤去するだけでよく、その空きスペースを有効活用できる。

f:id:tamakino:20170817153152j:plain

▲超が開発したレジカード。基本は、カート内の映像を撮影し、画像解析で商品を識別していく。

 

レジ待ち問題をピンポイントで解決できる

このレジカートは、陝西省西安市の大型スーパーが、現在20台を導入して、試験運用中だ。カートは1台1万2800元(約21万円)と安くはないが、そのスーパーは一括購入をし、試験の結果がよければ、ほとんどすべてのカートをレジカートに置き換える計画だ。

さらに、地元密着型のスーパーでは、無人スーパー化することは求めてはいない。むしろ、積極的に販売スタッフを増やして、人と人のコミュニケーションを活かした販売手法=実演販売、試食販売などを強化したいと考えている。

レジ待ちのユーザー体験が悪すぎることが課題になっていて、ここをピンポイントで解決してれるのがレジカートなのだ。

f:id:tamakino:20170817153229j:plain

西安のスーパーに試験導入されたレジカート。無人スーパーは必要としていないが、レジ待ちの悪いユーザー体験をピンポイントで解消したいスーパーにとっては、最高のソリューションになる。

 

無線タグも不要。商品の映像から識別

このカートは、無線タグも必要としていない。基本は、カメラでカート内を監視し、商品の映像と重量で商品を識別する。画像解析が必要なため、商品を識別するために必要な時間は無線タグよりもさらに長くなるが、来店客が買い物中に処理をすればいいので、処理時間が長いことはまったく問題にならない。

また、来店客が店内のどの場所でどの商品をカートに入れ、どの商品をカートから棚に戻したかを記録するようになっていて、ここから重要なマーケティングデータを得ることができる。

また、赤外線や圧力センサーなども搭載され、商品識別の補助データとして使われる。バッテリー駆動で5時間の充電で17時間の連続使用が可能だ。

 

店内のどこでも、清算ができる

現在、西安の導入スーパーでは、出口前に20平米の精算スペースを設け、来店客にはそこでスマホ精算をしてもらう運用をしている。これは、来店客がまだレジカートに慣れてなく、スマホ決済そのものにもまだ不慣れな人がいることから、スタッフが常駐して、来店客のサポートをするためだ。

慣れてくれば、店内のどこでも、自分で買い物が終わったと思った時に、スマホ精算をしてもらえばよくなる。精算後に商品を追加した場合は、未精算の表示に戻り、ランプが点灯するので、再度追加分を精算すればいい。

現在、このレジカートは、西安成都鄭州の3カ所のスーパーで合計100台が試験導入中で、年内には本運用が始まり、1000台規模になると超は見込んでいる。

f:id:tamakino:20170817153315j:plain

▲精算スペースでスマホ決済をする夫婦。カートモニターのQRコードスマホで読み込んで、アリペイやWeChatペイなどのスマホ決済をするだけだ。現在は、精算スペースが定められているが、将来は店内のどこでも精算が可能になる。