中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

凋落するアップルブランド。中国人の「iPhone離れ」の原因は

昨年から中国でのアップルブランドの凋落が激しい。売上も、北米では復調し、世界全体でも堅調に推移しているのに、中国地域の落ち込みだけが目立つ。なぜ、中国ではアップル製品が売れなくなっているのか。新浪科技を始めとした各メディアがその理由を分析している。

 

中国だけで落ち込むアップルのセールス

中国地域でのアップルの凋落ぶりが目立っている。昨年第1四半期からの世界地域別売上を地区別比率にしてみると、米国大陸が増加、その他の地域が堅調という中で、中国地域だけが唯一下落をしている。2017第1四半期にやや増加傾向は見られたものの、これはiPhone7の発売時期にあたっており、世界的に売上が伸びた時期だ。これを除けば、2016年第2四半期以降、中国地域での売上が減少傾向にあることははっきりとしている。

また、中国でのスマートフォンランキングを見ても、その傾向がはっきりとわかる。2015年までは、サムスンとアップルがランキングの1位争いをしていたが、アップルは現在では5位に甘んじている。しかも、上位中国系4ブランドがシェアを伸ばす中で、アップルとサムスンがシェアを落としている。

2016年に、中国のスマホ市場は明らかに潮目が変わった。

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▲アップルの地区別売上比率を見ると、2016年初めは1/4の売上が中国のものであったのに、現在は17.6%まで落ち込んでいる。中国人のiPhone離れが始まっている。

 

「高いけど高性能」から「高いのに普通」に

その最大の理由は実にシンプルなもので、「iPhoneは高い」ということだ。中国系スマホの売れ筋価格帯は4000元(約6万6000円)前後。一方で、iPhoneは最低でも5388元、売れ筋は6188元。最も高価なものでは7988元(約13万1000円)と、一般のスマホの2倍ほどの価格がする。本体を一括購入することが一般的な中国では、この価格差は大きい。

iPhoneが高価であることは、今に始まった話ではないが、2015年までは、国産スマホの性能が低く、「iPhoneは高いけど、高性能」というブランド価値を感じることができた。しかし、ファーウェイやシャオミー、さらに新興のOPPO、vivoなどが低価格でも高性能の機種を投入し、iPhoneと遜色がないところまできている。アップルブランドは、「高級だから高い」から「普通なのに高い」にイメージが変わってしまった。

特に急速充電の機能で、国産スマホは性能を競い合いあっているが、iPhoneだけが取り残され、唯一低評価になってしまっている。スマホ決済、地図などをヘビーに使う中国では、バッテリー切れを起こすことが日常茶飯事になっている。その時、5分ほどの短い時間で、ある程度の急速充電ができる国産スマホが好まれるようになった。

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▲中国でiPhoneがランキング1位だったのはもう昔の話。今では5位に転落し、しかもシェアを減らし続けている。

 

中国市場にアジャストできていないiPhone

もうひとつの理由は、iPhoneは中国市場に最適化されていないということだ。中国では、ほぼ全員が使うアプリが定まり始めている。スマホ決済のアリペイ、メッセージのWeChat、地図の百度地図、SNSのQQ、ツイートのウェイボー。この辺りは、ほぼ必須アプリになっている。iPhoneの場合、購入後にこのようなアプリを自分でインストールしなければならない。国産スマホの場合、事前にプリインストールされ、ユーザー登録もまとめてできるようになっているものが多い。

しかも、定番アプリとコンフリクトするアップルの公式アプリがインストールされていて、中国人にとってはそれは邪魔でしかなく、自分で消さなけれならないし、中には設定を変えないと消去できないアプリもある。地図、Wallet、メッセージ、FaceTime、ミュージック、この辺りのアプリを必要としている中国人は少なく、むしろ邪魔になっている。

 

モバイルファースト革命からペイメント革命に

2015年頃までは、iPhoneが世界のモバイルファースト革命をリードしてきて、それは中国においてもそうだった。しかし、中国はスマホ決済を一気に普及させたことにより、中国単独でペイメント革命を起こし始めている。iPhoneは未だにモバイルファースト革命のスマホであり、国産スマホはすでにペイメント革命のスマホにシフトしているのだ。アップルは、このミスマッチが解消できていない。というよりグローバル戦略を貫くアップルは、中国市場だけに最適化することはできない。

 

中国人ユーザーとすれ違うアップルの施策

さらに、アップルのブランドイメージの凋落も激しい。アップルが戦略を間違えているというよりも、ちょっとした誤解が尾を引き、アップルがやることなすこと裏目にでるという事態が続いている。

例えば、今年3月下旬に発売になったiPhone7のレッドスペシャルエディションだ。本来は、世界的なエイズ撲滅運動を支援するためのスペシャル版だったが、なぜ3月下旬発売なのか、世界中が首をひねった。本当にエイズ撲滅運動を支援するためのものであるなら、12月1日の世界エイズ撲滅デーに発売する方が自然だ。

アップルにどのような事情があったのかは不明だが、中国のメディアは、「これは中国向け特別版ではないか」と推測した。売上が下がり続ける中国市場へのテコ入れとして、中国人が大好きな「赤」の機種を、長期休暇であり、新しい1年の始まりである春節のセール時期に投入してきたと推測したのだ。

しかし、完全な不発に終わった。中国人は確かに伝統色である「赤」=中国紅が大好きだ。しかし、若者の間には「赤はもう古臭く、赤いスマホを持つのはダサい」という意識もある。

さらに、価格設定も誤解された。レッド版は最小容量の32GBが発売されず、128GBモデルと256GBモデルの2モデルになった。価格設定は通常機種と同じなのだが、通常版は32GBモデルがあるために「5388元から」という価格表示になるのに対して、レッド版は「6188元から」という価格表示になる。

これを悪くとって、「iPhoneの売上が落ち込む中国市場を刺激するために、安直に赤いiPhoneを出してきた。しかも値段を上げている。中国人のセンスは以前よりずっと進んできているのに、アップルは中国を見下しているのではないか」と、考える中国人もいたようだ。

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iPhoneレッドスペシャルエディションも大きな誤解を受けた。しかし、エイズ撲滅運動を支援する特別版であるはずなのに、世界エイズ撲滅デーの12月1日ではなく、なぜ春節セール期である3月下旬に発売されたのか、疑問が残る。

 

大反発を招いたアップル税。キャンペーンも不発

また、アップル税問題もアップルのイメージを下落させた。中国のアプリには、ユーザー同士で簡単に投げ銭ができる機能を持ったものが多く、動画配信者の中には、この投げ銭で高収入を得てスターになる人が出てきている。アップルは、この投げ銭も、アップルのアプリ内課金の仕組みを使うべきだとして、アプリのガイドラインを変更しようとした。アプリ内課金の仕組みを使うと、投げ銭の30%はアップルの収入となり、「これはアップル税ではないか」と、アプリ開発企業とユーザーからの激しい反発を招いた。

結局、アップル側がガイドラインを再考をし、アップル税は徴収されないことになったが、「中国での投げ銭の売上を、米国に吸い上げようとしている」と、アップルに反感を持つ人が増えていった。

さらには、7月のApplePay夏の大キャンペーンも不発に終わった。アップルが何かを中国で行っても、ことごとく誤解をされるか、無視をされることが続いている。

tamakino.hatenablog.com

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シリコンバレーの住人はシリコンバレーのことしか目に映らない

このような問題に、アップルになにか悪意があったとは思えない。中国人ユーザーとの間の小さな誤解で、アップルの施策が裏目に出ているということなのだろう。

しかし、シリコンバレーで働くエンジニアの間には「シリコンバレーの田舎者」という自虐的な言葉がある。それはシリコンバレーの住人は、シリコンバレーのことしか興味を持たないという意味だ。テック方面に関することなら、それでかまわなかった。なぜなら、世界中の優秀な人材がシリコンバレーに集まり、世界中のイノベーションシリコンバレーで起こり、世界中のスタートアップがシリコンバレーで起業するからだ。

しかし、海外に製品を販売する場合は、シリコンバレー感覚だけでは通用しない。各国の事情を研究し、理解し、その市場にあった施策を実行していく必要がある。シリコンバレー企業は、この「現地にアジャストする」という感覚が薄い。

グローバル標準をそのまま中国に持ち込もうとするアップルに対して、中国人は「中国を見てくれていない」と感じ、時には「見下されている」「傲慢だ」という印象を持ち始めている。

さらに、中国ではモバイルファーストからペイメントファーストへのパラダイムシフトが進行中だ。この変化に対して、アップルは適応していかなければならない。現在は、それができていないので、シェアを落とし続けているのだ。

中国人の「iPhone離れ」は、止まる兆しが見えてこない。