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中国ApplePayの5億円規模の大キャンペーンは完全不発に終わる

中国ApplePayが5億円を投じた夏の大キャンペーンは、期間中は盛況だったものの、終わってみたら、ApplePay利用者増加にほとんど寄与していない大失敗だったのではないかと、北京商報鳳凰科技など複数のメディアが報じた。

 

半額、ポイント50倍のアップルぶっ壊れキャンペーン

7月18日から24日までの1週間、アップルは中国でApplePayの大キャンペーンを実施した。北京、上海、広州、深圳の4都市で、ApplePay利用により購入金額の50%を割引(上限金額あり)するというもので、スターバックスセブンイレブンバーガーキングカルフール、GAP、ゴディバピザハットハーゲンダッツ、ワトソンズなどアジア圏では馴染みのある店舗チェーンが対象となった。さらに、紐付けた銀行カードの付与ポイントも最高50倍にするという大出血サービスだった。

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ネットワーカーの間では「アップルのぶっ壊れ企画」と呼ばれ、スマホ決済シェア6%以下という劣勢に甘んじているApplePayの利用率を大幅に増加させるのではないかと期待された。

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北京市内のワトソンズ。キャンペーンの告知がされ、初日、2日目は大盛況だったが、優待終了後は、キャンペーン開始以前の水準に戻ってしまったという。

 

初日、2日目は行列ができるほどの大盛況

確かに期間中、特に初日、2日目は各店舗とも行列ができるほどの賑わいだった。期間中に北京商報が、北京市内のワトソンズを取材すると、以前はApplePayを使う人は珍しかったのに、期間中前半はスマホ決済の6割から7割がApplePayになったという。市内のハーゲンダッツのある店舗では、先着2000名に半額の優待を提供したが、最終日を待たずに完了することになった。期間中はほぼ1/3がApplePay決済だったという。

スターバックスで1時間ほど観察をすると、31名がスマホ決済を利用したが、そのうちの6名がApplePayだった。店員によると、キャンペーン以前は、ApplePayを使う人はほとんどいなかったという。

あるセブンイレブンの店舗では、キャンペーン1日目、2日目までの統計を北京商報に提供した。アリペイ、WeChatペイ、ApplePayの比率は、52%、21%、27%となり、WeChatペイを超えるところまで増加した。

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▲キャンペーン初日の広州市のショッピングセンター。優待を求めて、長いiPhoneユーザーの行列ができた。しかし、優待が終了すると、こちらも通常通りの光景に戻ってしまった。

 

消費者に不評なApplePay

しかし、ApplePayに対して消極的な消費者も見受けられた。記者がスターバックスで目撃したのは、店員がiPhoneユーザーに対して「今、ApplePayで決済すれば半額になりますよ」と提案したところ、その客は「以前銀行カードをApplePayに登録をしたけど、ほとんど使わないので、カード情報を消去してしまった。もう一度、カードを登録し直すのは面倒なので、アリペイで支払います」と断った。

ApplePayに対応している商店は一部でしかないので、使う前にApplePayが使えるかどうかを確認しなければならない。一方、アリペイならすべての商店で利用できる。面倒になって、次第にApplePayを使わなくなってしまったという。

記者が、ある女性iPhoneユーザーになぜApplePayを使わないのかと取材をすると、その20代後半の女性は答えた。「多分、うまい設定の仕方があるんでしょうけど、決済時の指紋認証がうまくいかないことが何度かあって、それで嫌になりました。それに、iPhoneを使おうと指紋認証でロック解除すると、いちいちApplePayのアプリ(ウォレット)が起動するんです。アリペイの方がわかりやすくて使いやすいですね」。

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▲キャンペーン後半の北京市五道口。ハーゲンダッツスターバックスがあり、初日、2日目は長い行列ができた。しかし、先着順の優待が終わると、通常の平日通りの街の風景に戻ってしまった。

 

ApplePayを導入する商店側の負担も大きい

アリペイ、WeChatペイは、QRコード方式なので、路上の屋台まで対応をしているが、ApplePayが対応しているのは大規模チェーン店に限られることに、消費者は不満を感じている。商店がアリペイ、WeChatペイに対応するには、スマホからユーザー登録をして、あとは紙に自分のIDが記載されたQRコードを印刷するだけだ。客が自分のスマホで、このQRコードをスキャンすれば支払いができる。入金があったことは、店舗側のスマホが音声、ダイアログなどで知らせてくれる。

一方で、NFC(近距離無線通信)を利用するApplePayに対応するには、NFCリーダーとカード認証をするためにネットワークにも対応したPOSレジが必要となる。安いものでも1台、600元程度(約9800円)の価格がする。

小規模小売店の場合、その投資が壁になり、ApplePayに対応するための審査を受け、従業員にも教育をしなければならない。そういう負担ができるのは、ある程度の規模がある小売りチェーンだけに限られている。

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▲アリペイ、WeChatペイの強さの秘密は、自分のIDを紙に印刷しておくだけで対応できること。客が、このQRコードを読み込めば、支払いができる。そのため、大都市では、露天商もほぼ100%スマホ決済に対応している。

 

パスワードを店舗側ネットワークに渡さないアリペイ

さらに、ApplePayでは、顧客のカード情報が、店舗側のネットワークを経由して、認証サーバーに渡されるので、店舗ネットワークのセキュリティも考えておく必要がある。店舗ネットワークがハッキングされると、顧客情報が流出してしまう危険性があるからだ。具体的には、国際セキュリティ基準PCI DSSに認証されたPOSレジを使わなければならない。

アリペイ、WeChatペイは、店舗側が扱う顧客情報はID(口座番号)のみだ。パスワードなどの重要な情報は、顧客が自分のスマホの回線を使ってサーバーとやり取りするので、店舗ネットワークを経由することはない。特別なセキュリティ措置をする必要はない。

ApplePayの仕組みは、最先端のNFCを利用しているとはいえ、仕組みはプラスティックカード時代そのままで、顧客側には通信手段がないという前提に立って、カード認証を行う。そのため、顧客のパスワードなどを、いったん店舗側のネットワークに渡して、カード認証をしなければならない。

一方で、アリペイは、顧客側もスマホという通信手段を持っているという前提の仕組みになっている。店舗に渡すのは、流出しても問題のない口座IDのみ。重要なパスワードは、顧客が自分のスマホ回線を使って、サーバーとやり取りをする。

 

キャンペーンが終わったら、元の木阿弥

キャンペーン期間が終わってみて、ApplePayの利用率が少しでも上がっていれば、アップルの目論見は成功したことになる。しかし、北京商報の取材した範囲では、利用率が上がったと答えた店舗は皆無だった。ほぼ全店が、キャンペーン以前の水準に戻ってしまったと答えた。

京商報は、キャンペーンを実施した各小売企業の広報に、決済利用率のデータを開示してほしいと正式に取材申し込みをしたが、現在のところ、すべての企業が返答をしていない。

京商報など複数のメディアが、アップルのキャンペーンは、無残な失敗に終わったと見ている。期間中に、優待を得るためにApplePayを使っただけで、終わったらアリペイやWeChatペイに戻ってしまった。アップルは、中国人の決済習慣を変えることはできなかったというのが各メディアの結論だ。アップルは、中国でのApplePayの戦略を見直さざるを得なくなった。