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中国テンセントが猛反発したアップル税がようやく廃止に

アップルのApp Storeガイドライン改定により誕生した“アップル税”に、中国大手IT企業テンセントが猛反発をしていたが、最終的にアップル側が折れ、アップル税は廃止になったと澎湃新聞が伝えた。

 

大反発を受けた“アップル税”

アンドロイドアプリと異なり、iOSアプリはアップルが運営するApp Storeを通じて配布、販売することが原則になっている。有料アプリの販売益、アプリ内課金の利益の30%はアップルに入る契約になっている。

この収益は決して小さくない。2016年のApp Storeの売り上げは、243.48億ドル(約2兆7300億円)で、アップル全体の売り上げの11.3%を占めている。また、2016年は前年比49%増、2015年は前年比35%増と、アップルの収益の柱に育ってきている。

そこで、アップルは6月にApp Storeガイドラインを改定し、さらに収益力を強化しようと図った。これがテンセントの猛反発を招いた。

 

投げ銭収入の最高額は月収19億円

中国のアプリには、「打賞」「賛賞」と呼ばれる機能を持っているものが多い。これは発言者に対して、投げ銭を贈れるシステムだ。SNSなどで優れた記事を発表してくれた人に対して、あるいは動画配信アプリで面白い動画を発表してくれた人に対して、好きな額のお金をアリペイ、WeChatペイなどを使って送ることができる。

これにより、一般の人の中から、ブログを書いたり、生中継をして生計を建てる人が登場してきている。日本のアルファブロガーやユーチューバーにあたる人たちが登場してきた。さらには、新聞社、雑誌社やテレビ局なども自社コンテンツを配信し、収益が見込めるようになった。

この打賞による「投げ銭」は広く普及し、陌陌アプリが発表した投げ銭額トップ10ランキングの配信者の平均月収は75.5万元(約1250万円)で、過去には月収1.15億元(約19億円)という記録が生まれたこともある。

特に人気があるのが女性の配信者で、女主播と呼ばれ、視聴者との会話を生中継することで人気をつかみ、女主播から新たなスターが生まれている。今、小中学生の女の子の過半数が、将来なりたい職業に女主播を挙げるという。

もちろん、常識外の大きな収入を得られるのは、トップクラスの数十人であり、そこから下は生活をしていくのもギリギリな収入でしかなく、投げ銭収入全体が莫大な金額になっているのかどうかは不明だ。しかし、年々成長していることは間違いがない。

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▲女主播と呼ばれる女性動画配信者が流行をしている。動画配信サイトによって、投げ銭の履歴が画面下に次々と表示される。トップクラスの女主播になると、月収が1000万円を超える。

 

アップル税は投げ銭の30%

アップルは、ここに目をつけ、アプリ内でやりとりされる金銭もアプリ内課金の一種であり、アップルのアプリ内課金の仕組みを利用しなければならないというガイドラインの改定を行った。アプリ内課金以外のルートで金銭をやり取りするアプリは、ガイドライン違反なので、App Storeからリジェクトすると通告したのだ。リジェクトされれば、アプリが配布できなくなる。

知乎(Q&Aアプリ)、陌陌(近くにいる見知らぬ人と交流できるSNS)、今日頭条(ニュースアプリ)、映客(動画配信アプリ)などは、アップルのガイドライン改定に従い、ユーザー同士での金銭のやり取りも、アプリ内課金の仕組みを使って行うようにアプリを修正する方針を固めた。

この場合、やり取りした投げ銭の30%はアップルに入ることになる。あるユーザーが100円の投げ銭をした時、それがアンドロイドスマホやウェブからであれば、配信者に100円が入る。しかし、iOSアプリから投げ銭をした場合、配信者に70円しか入らないことになる。ユーザーからも配信者からも、これは「アップル税ではないか」という批判の声が上がった。

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▲打賞機能は、面白い発言や動画を発信した人に、直接アリペイなどで送金ができる機能。

 

テンセントが猛反発、アップルが譲ることで解決

この問題に、テンセントはiOS版のWeChatから「投げ銭」機能を削除し、アップルに対して、ガイドラインを再考するように申し入れた。ネットワーカーたちは、続々と中国工信部(日本の総務省通信部門に相当)に陳情をした。しかし、工信部は「企業間の利益配分の問題であり、当事者同士で解決すべき問題。政府機関が介入する問題ではない」と回答した。

ただし、多くの専門家は、アップルが市場の中での支配的な地位を乱用して、市場の健全な競争を阻害し、他社の利益を損なおうとしていると批判し、国家商工総局が適切な時期に調査に入ることになるだろうと発言している(実際に立ち入り調査が行われたかどうかは不明だが、多くのメディアが商工総局とアップルの”話し合い”が持たれたのではないかと見ている)。この間、テンセントとアップルの間でも水面下で協議が行われていたと見られている。

7月17日になって、iOSアプリ開発企業の関係者が、澎湃新聞に匿名で取材に応じた。「投げ銭機能は、アプリ内課金の仕組みを利用しないことになった。アップルは、投げ銭機能の意義を再考し、ガイドラインをさらに改定する用意があるようだ」と語った。

アップルは、なにもコメントをしていないが、同様の発言が他のiOSアプリ開発企業からも行われたため、アップル税が廃止される見通しが確定的になった。一時、ネットワーカーたちは、「アップルは、中国人の得るべき利益を米国に吸い上げようとしている」という国家間での対立を煽るような危険な物言いまでしていて、アップル税問題は深刻化する危険性があったが、アップルの決断がこの問題に終止符を打った。

しかし、ネットワーカーたちの間では、アップルのイメージは下落し、それに屈しなかったテンセントのイメージが急上昇した。アップルは、アップル税収入を失っただけでなく、イメージまで自ら毀損してしまうことになった。

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