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アリババの独孤九剣と六脈神剣。企業価値観の共有度で従業員を評価する

アリババの成功の要因はさまざまあるが、起業時から企業文化と価値観を確立して、それを大企業になった今でも貫いていることがある。アリババの定める価値観は独孤九剣などと呼ばれるが、壁に飾っておく標語ではない。従業員の人事評価にも組み込まれていると駅知行鉄軍商学院が報じた。

 

企業文化と価値観の共有がアリババの成功の要因

アリババの成功の要因は、創業者の馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)という人物の非凡さや、インターネットの波にうまく乗れたことなど数々あるが、大きく貢献したのが、アリババが企業文化と価値観の共有が徹底できたということがある。

アリババは、18人の創業メンバーを「アリババ十八羅漢」と呼び、アリババ文化と価値観の核とした。

それ以来、従業員を雇用する時にも「アリババ文化に合い、価値観が共有できる人」を優先して採用し、能力はその次に判断された。

この企業文化と価値観を従業員の間に浸透させる目的に開設されたのが、「百年大計」と呼ばれる新人研修制度で、アリババ大学とも呼ばれる。

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▲通称「アリババ大学」と呼ばれる教育プログラム「百年大計」。新入社員は必ずこの講義を受け、アリババの企業文化や価値観が教えられる。

 

お客さんの5元を50元に増やすのがアリババの仕事

この百年大計には、ジャック・マーを始めとして、アリババ十八羅漢が講師となり、アリババの使命、目指す方向と価値観、アリババの発展史、業務技術などが抗議されたが、その中でも特に重要とされたのが価値観の講義だった。

ジャック・マーは、この百年大計で必ずこの話をする。「アリババ人は、お客さんのポケットに5元があるとして、これをどうやったら支払ってもらえるかという考え方をしてはならない。そのなけなしの5元をアリババに支払ってしまったら、そのお客さんは何もできなくなってしまう。そして、次の5元を持っているお客さんを探して同じことをする。これはビジネスではなく、詐欺だ。

アリババ人は、このお客さんの5元をどうやったら50元に増やしてあげることができるだろうかと考えなければならない。50元に増やしてから、5元を支払ってもらうのだ」。

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▲百年大計のテキストと、参加した社員による書き込み。業務知識の研修も行われたが、価値観の共有に重心が置かれていた。

 

アリババの武器となった「独孤九剣」

2001年、ジャック・マー、関明生、彭蕾、金建杭、呉炯の5人は、アリババの価値観を言語化することにした。何十時間も議論をし、100以上の価値観を表す言葉を壁に貼っていき、その中から20程度に絞り、最後に9つの言葉に集約をした。「シンプル」「情熱」「イノベーション」「学びと成長」「開放」「チーム力」「専心」「品質」「顧客第一」の9つだ。

この9つの価値観は、ジャック・マーが好きだった金庸武侠小説から名前を借り「独孤九剣」と呼ばれた。アリババが戦う上での剣法だという意味だった。

ジャック・マーはこう語っている。「この独孤九剣がなければ、アリババは生き残っていけない。響きのいい言葉を並べただけの企業もあるが、アリババはそうではない。入社する人には、独孤九剣に叛いたら、アリババを離れてもらうと話している。アリババではさまざまな戦略が立案されるが、すべて、この独孤九剣に基づいている。もし、従業員の成績が不良でもそれはかまわない。しかし、独孤九剣に叛くことは許されない。それは顧客を欺くことになるからだ」。

 

従業員は、業績と価値観の二軸で評価

2004年8月には、この独孤九剣は、6つの言葉「顧客第一」「チーム力」「変化に対応」「誠実」「情熱」「仕事への敬意」に集約され、これも金庸武侠小説から「六脈神剣」と名付けられた。

この価値観は、ジャック・マーの言う通り、お飾りの標語ではなく、従業員の人事評価にも使われた。業績と価値観の二軸で、それぞれを優、一般、劣の3つ、合計9つのマトリクスに区切り、従業員の評価定が行われる。

価値観、業績ともに劣の従業員は「犬」と呼ばれ、解雇の対象となる。価値観が劣だが、業績は優のものは「野犬」と呼ばれ、解雇対象の候補となる。

価値観、業績とも一般のものは「牛」と呼ばれ、多くの従業員がこの牛に属する。

価値観は優だが、業績は劣のものは「うさぎ」と呼ばれる。価値観、業績とも優のものは「明星」と呼ばれる。

ジャック・マーはこう語っている。「企業の価値観は、壁に貼っておく標語ではなく、従業員の評価にも使うべきものだ。従業員が企業の価値観をどれだけ共有できているかは査定できる。アリババは、創業以来、従業員を価値観と業績の2つで評価をしてきた。ボーナスの額、昇給の額もこの2つで決まる。業績はいいけど、価値観が共有できていない人に昇給はない。価値観は共有できているけど、業績がまだ追いついていないという人には昇給がある」。

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▲アリババの人事評価の仕組み。業績と価値観の共有の二軸で評価される。業績も悪く、価値観も共有できない人は左下の「犬」となり、解雇の対象になる。業績は優秀だが、価値観が共有できていない人は「野犬」と呼ばれ、これも解雇対象の候補になる。

 

価値観を制度に組み込んだアリババ

アリババは、マンションの一室で、18人のメンバーで創業した時から、企業の価値観を重要視していた。そして、事業が拡大し、従業員を雇用する段階になると、この企業価値観を制度に組み込んでいった。これが、テックジャイアントと呼ばれる規模になった現在でも、独特のアリババ文化を持つことに貢献している。

アリババが急成長をした理由にはさまざまあるが、この企業価値観を制度に組み込んでいることも大きな要因のひとつになっている。

 

 

ネットの中心はテキストからショートムービーへ。始まりつつある大変化

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明日、vol. 066が発行になります。

 

インターネットは、そのあり方が大きく変わるかもしれません。インターネットの重要な変化は、過去2回ありました。1回目は、1989年の商用利用の開始です。これでECを前提にしたウェブブラウザーMosaic」が登場して、ウェブ時代が始まります。

次の変化が2007年のiPhoneの登場です。これでインターネットのメインストリームは、ウェブからモバイルウェブやアプリに移りました。そして、今、ウェブからコンテンツ、より正確に言うと、テキストからショートムービーに移り始める可能性が出てきました。

 

そのきっかけになったのが、2021年2月17日に、バイトダンスの張楠(ジャン・ナン)CEOの、ニュースキュレーションアプリ「今日頭条」での発言です。この発言に、中国のエンジニアたちは注目をしています。それは、バイトダンスがショートムービー用の検索エンジンの開発を始めるというものです。

張楠CEOは、こう語りました。「この数年、社会の表現、創作の多くがムービーになりました。情報に直接アクセスする方法としての検索もムービー対応が進んでいます。2018年5月に、抖音(ドウイン、中国版TikTok)に最初の検索機能をリリースしました。現在、抖音の検索機能の月間アクティブユーザー数(MAU)はすでに5.5億人を超えています。多くの方が、知りたいことがある時には、抖音を開き、ムービーを検索するようになっているのです。

私はかつて、抖音を人類文明のムービー百科全書にしたいと言ったことがあります。ムービー検索は、この百科全書の索引であり、答えを探したり、新たな知識への入口となるものです。

もちろん、ムービー検索を開発するのは簡単なことではありません。これからの1年、抖音は検索エンジンの開発に全力を投入します。ムービー検索に興味のある研究開発、プロダクトマネージャー、運営の方が参加してくれることを歓迎します!また、みなさんも抖音の検索機能を使ってみて、たくさんのご意見をください!」

 

バイトダンスのエンジニアはもちろん、他社のエンジニアもこの発言に反応しています。「バイトダンスがいよいよ動くのか」という反応です。

バイトダンスはTikTokが有名になりすぎましたが、その前のプロダクト「今日頭条」が中国で大成功をして、成長の礎を築きました。今日頭条は、読みたいと思っているニュースがどんどん配信されるニュースキュレーションアプリですが、どのニュースを配信するかというキュレーション作業に人は介在していません。すべて人工知能が決めています。ニュース記事の内容を分析し、利用者がどのような傾向のニュースを読むのかを機械学習し、配信するニュース記事を決めています。このアルゴリズムを開発するときも、ジャーナリズムの専門家はひとりもいませんでした。すべて、ジャーナリズムには素人のAIエンジニアが開発しました。

それが、「読みたいニュースが無限に出てくる」ニュースアプリとして、多くの人に歓迎されたのです。

 

これは大きな転換でした。ジャーナリズムの専門家であるジャーナリストやエディターが配信するニュースを決めていたら、どうやっても、その人の個性や考え方が反映され、ニュース内容に偏りが生まれてしまいます。場合によっては、偏向メディアとして非難されることもあれば、その偏向ぶりがメディアの個性として受け入れられることもあります。

一方で、今日頭条は、利用者に偏向します。その人が国際政治のニュースばかりを読む人であれば、国際政治のニュースが大量に配信され、その人が芸能人のスキャンダル記事ばかりを読む人であれば、芸能週刊誌のような記事ばかりが配信されるようになります。今日頭条というメディアに個性はなく、無色透明で、使う本人の個性が色濃く反映されるのです。

メディアとは、本来「情報伝達の媒体」という意味ですが、影響力を持つようになると、媒体が意見を主張するようになりました。意見を表明することはかまいません。しかし、偏向がないはずの事実報道の形式を装い、特定の意見に世論を誘導しようとするのは許されないことです。そのため、新聞メディアは、事実報道である記事と、意見表明である社説を分離しています。しかし、それでも、人間が書き、人間が選ぶため、どうしても事実報道も偏向してしまうのです。

今日頭条は、記事内容までは無理でも、どのニュースを配信するか=編集をメディア本来の形に戻しました。

 

抖音も基本的に同じ人工知能アルゴリズムが使われています。これにより、「見たいムービーが無限に出てくる」状態となり、抖音は中国で、その国際版であるTikTokは世界中で受け入れられました。

抖音の現在の検索機能は特筆するようなところはありません。ハッシュタグのテキストが検索できることと、後はムービーをアップロードする時に、ムービーの中に写っている物体認識を行なっているので、ムービーに登場する物体の名称で検索できているようです。この辺りの仕組みは非公開であるため、わからないところが多いですが、犬や車という名詞で検索をすると、ちゃんと犬や車のムービーが検索結果として表示されます。

張楠CEOが呼びかけたムービー検索エンジンは、このレベルのものではないことは明らかです。では、どのようなものなのかと言われると想像もつきません。ムービーや音楽もそうですが、そのコンテンツに付属したハッシュタグやタイトル、キャプションなどのテキストを検索することはできますが、ムービーそのものを検索する方法はまだ確立されていません。バイトダンスは、ここに挑戦しようとしていると見るのが一般的で、だからこそ、中国のエンジニアたちは注目をしているのです。

 

では、なぜ、ムービーを直接検索できる検索エンジンが必要なのでしょうか。それは、インターネットの中心コンテンツがテキストからショートムービーに移り始めているからです。

古い時代の百科事典は、テキストベースのウィキペディアでしたが、今後、新しい時代の百科事典は、張楠CEOが言うように、抖音などのショートムービープラットフォームになる可能性があります。

それは、あまりにもショートムービーを過大評価しすぎなのでは?と感じられる方もいらっしゃるかと思います。しかし、あらゆる指標が、テキストの終焉を指し示し、次世代はショートムービーになることを示唆しています。インターネットは、商用化、モバイル化の次の革命的な変化として、ショートムービー化が起こる可能性は高いと思います。

と、私個人が主張するだけでは説得力がありませんので、どのような指標がショートムービー化を指し示しているのかをご紹介します。今回は、インターネットのショートムービー化についてご紹介します。

 

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東南アジアで、EC「ショッピー」が躍進。アリババ傘下のラザダは苦しい立場に

アリババの牙城が揺らいでいる。春節期間、淘宝網はDAUで、拼多多に初めて抜かれ、首位の座から陥落をした。東南アジアでも、アリババが投資をするラザダが、新興のEC「ショッピー」に苦戦をしている。アリババは、中国でも東南アジアでも苦しい立場になりつつあると晩点LatePostが報じた。

 

デイリーアクティブでタオバオを抜いた拼多多

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)の春節1日目と2日目の平均DAU(日間アクティブユーザー数)が2.59億人となり、アリババの淘宝網タオバオ)の2.37億人を抜き、初めて首位に立った。YAU(年間アクティブユーザー数)も拼多多は7.31億人となり、タオバオの7.57億人に迫っている。

中国のEC大手と言えば、長い間、タオバオと天猫(Tモール)を運営するアリババと京東(ジンドン)の2つだったが、そこに2015年に創業した拼多多が割って入り、トップのタオバオすら脅かそうとしている。

拼多多を創業したのは、元グーグルに勤めていた黄崢(ホワン・ジェン)。浙江大学を卒業後、ウィスコンシン大学マジソン校に留学、卒業後、グーグルに入社した。グーグル中国の設立に伴い、中国に帰国し、離職後、拼多多を創業した。その拼多多がアリババを脅かしている。

 

海外経験のある中国人が創業したショッピー

東南アジアでもまったく同じことが起きている。2015年に、アリババは東南アジアでトップのECだったLazada(ラザダ)に投資。その後、創業者の馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、アリペイ、アントグループなどで活躍した懐刀の彭蕾(ポン・レイ)を統括CEOとして送り込み、張勇(ジャン・ヨン)CEOは、月に1回は5時間をかけてシンガポールに飛び、会議をするという力の入れようだ。

しかし、同じ2015年に、上海交通大学を卒業し、スタンフォード大学に留学したシンガポールの華僑であるフォレスト・リーが、オンラインゲーム企業SEAを創業。EC部門としてShopee(ショッピー)をスタートさせた。拼多多の創業者、黄崢と同じように、海外留学、海外勤務の経験がある中国人による創業だ。しかも、2人ともテンセントの投資を受け、成長をしてきた。

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▲EC価格比較サイトiPriceでのインドネシアでの各ECの閲覧数の推移。コロナ前からショッピーの成長が見え始め、コロナ禍の間にラザダに大きく差をつけている。

 

中国と東南アジアで追い上げられるアリババ

2020年のショッピーの流通総額は354億ドル(約3.9兆円)に達し、東南アジアEC市場でのシェアは57%となった。親会社であるSEAの市場価値も1300億ドル(約14.3兆円)に達しようとしている。

アリババは、中国でも拼多多の追い上げに対応せざるを得なくなっているが、東南アジアでもショッピーの追い上げに対応せざるを得なくなっている。

2003年に、タオバオがスタートしたとき、アマゾンが中国の卓越網を買収する形で中国に進出し、誰もがアマゾンが中国を制すると見ていた。タオバオはゲリラ戦でそれをひっくり返して、中国最大のECとなった。今度は、アリババがひっくり返される方の立場に立たされている。それも中国でも東南アジアでもだ。

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▲ラザダとショッピーのアクセス数の推移。2019年Q2あたりから差がつき始めている。コロナ禍期間、ショッピーは伸びているのに、ラザダは減少をしている。

 

アリババの海外進出の一歩となったラザダ

2014年に、アリババが上場したとき、ジャック・マーは「アリババは10年以内に収入の半分を海外からのものにする」と発言し、アリババの海外進出はここから始まっている。

アリババにとっての海外市場とは東南アジアだった。中国から近く、経済発展の速度も上昇中だ。そこで、アリババが目をつけたのが、2012年にシンガポールで創業したラザダだった。ラザダは、ドイツのインキュベーター「Rocket Internet」から生まれた。Rocket Internetは、コピー工場とも揶揄されることもあるインキュベーターだ。シリコンバレーで成功したビジネスをそっくりコピーして、米国以外の市場で展開をするという手法で成長してきた。ラザダはアマゾンのコピーだった。

しかし、それでも東南アジア市場で成功し、2015年には流通総額が13億ドルを突破した。当時、最大シェアを持っていたTokopediaを抜き、最大のECとなった。その後、アリババが20億ドル規模の投資を行なった。

 

ラザダの内部混乱の隙に成長したショッピー

2018年に、彭蕾がCEOとして赴任をすると、ラザダの内部構造の大転換が始まった。それまで経営層の多くは欧州人だった。彭蕾は、ラザダの重要な地位をアリババ出身の中国人に変えていった。それが欧州人経営者の不満となり、大量離職が起こり、結局、ラザダは中国企業であるかのようになった。

社内の公用語も問題となった。ラザダでは他のシンガポール企業と同じように、自然に英語が社内公用語になっていた。しかし、中国から舞い降りてきた中国人経営者の多くは英語が不得手で、しかも、英語が話せる者もあえて中国語を使った。これがスタッフとの軋轢を生んだ。後に、彭蕾は考えを改め、ラザダの重要な職位にアリババから招聘するときは、英語が話せることを条件とするようになった。

このような混乱で、ラザダは一時期、停滞をする。その隙を縫うようにして、ショッピーが成長した。

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▲ラザダ各国の歴任責任者。中国人が多く、アリババ傘下の中国企業と言ってもいい状況が生まれている。現在は、グローバル化に転換する方向になっている。

 

焦点となっているインドネシア市場で成功したショッピー

ショッピーの成長戦略はプロモーションだった。2017年末から、東南アジアのバス停、高速道路に屋外広告を大量投入し、2018年になって、ラザダが混乱しているのを見ると、東南アジア各国の著名人、インフルエンサーを活用して、大々的なプロモーションを行った。

特に重要だったのがインドネシアだった。インドネシアの人口は2.6億人。東南アジアの人口の40%を占めている。しかも、半分が30歳以下という若者の国で、平均月収も1500元(約2.5万円)を超えてきている。一方で、国内の製造業は成長途上にあり、国内ではこのような市民の需要を満たすことができない。

ショッピーは、このインドネシアで、激安価格商品で攻勢した。99ルピア(0.75円)の化粧品、日用雑貨、玩具。さらに、999ルピア(7.55円)の韓国製フェイシャルパックなどだ。これでインドネシアのシェアを握った。

激安価格で、シェアを拡大するという点でも、拼多多によく似ている。2019年Q1には、アプリダウンロード数、MAU(月間アクティブユーザー数)、リピート率などで、ショッピーはラザダを抜いた。

 

最高責任者が現地にいないラザダ、現地にいるショッピー

2018年9月に、彭蕾はラザダのCEOを辞任し、会長に就任をした。後任のCEOには、フランス人のピエール・ポイニヨンが就任した。しかし、最終決定権を持っているのは、アリババCEOの張勇だ。

張勇は月に1回シンガポールに行き、2日間の会議を行う。この会議室には、7カ国のラザダのCEOが集まり、グループ全体での意思決定が行われる。つまり、ラザダの最高権力を持つ人物は、1ヶ月のうち、2日しか東南アジアにいない。しかも、その2日間の多くの時間は会議室とホテルで費やされる。一方、ショッピーのCEOは24時間、毎日、東南アジアにいる。

その象徴的な事件が、ラザダベトナムでのトイレットペーパーの大セールスの失敗だった。ラザダベトナムでは、中国製のトイレットペーパーが安く仕入れられるルートを確保したため、大々的に販売をした。しかし、ベトナム人の多くはトイレットペーパーを使わない。トイレにシャワーホースが設置されていて、水で洗うのが一般的なのだ。ホテルやショッピングセンターなどでは、トイレットペーパー方式のトイレも増えているが、多くのベトナム人は水で洗う方が清潔だと考えている。そのため、トイレットペーパーの需要そのものがきわめて特殊で小さいのだ。ラザダベトナムの経営陣はこの文化的な違いを知らなかった。

 

アリババは挑戦する企業から挑戦される企業になった

もちろん、アリババが支援するラザダの物量、物流は圧倒的だ。しかし、ECは消費者との接点で、いかに消費者の購入欲求を引き出すかが売上の源泉になる。東南アジアでも被害は小さくても新型コロナの感染拡大が起こり、市民は不要不急の外出を控えるようになっている。ショッピーは、この流れに乗って、業績を急成長させている。一方、アリババが支援するラザダは微増、あるいは減少をしている。タオバオが、SARSによる感染拡大で急成長をしたことを考えると、皮肉な結果になっている。

アリババの海外戦略は、ショッピーという伏兵により、苦境に立たされている。

 

 

インターネットの中心はもはやテキストではなく、ショートムービーに

検索広告大手の「百度」の独占時代は終わり、アリババも検索アプリ「夸克」をリリースし、バイトダンスもTikTok上で新たな検索エンジンを開発すると宣言をした。しかし、もはや検索対象はテキストではなくなりつつある。ショートムービーがインターネットコンテンツの中心になろうとしていると連線Insightが報じた。

 

バイトダンス、アリババ、百度の検索三国時代が始まる

中国版TikTok「抖音」(ドウイン)のSNS化を進め、テンセントのWeChatとの競争が激化しているバイトダンスだが、2021年2月には、張楠(ジャン・ナン)CEOが、Tik Tok用の検索エンジンを開発して、Tik Tokを人類文明のムービー百科事典にすると宣言をした。当然ながら、検索広告大手である百度バイドゥ)は、心穏やかではないはずだ。

さらに、アリババは検索アプリ「夸克」(クォーク)をリリースしている。「検索」というジャンルは、過去のものになったとも思われていたが、百度、アリババ、バイドダンスの三つ巴の競争になっている。ただし、以前と違っているのは、検索する内容がテキストではなく、ショートムービーだということだ。

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▲バイトダンスの張楠CEOは、今日頭条のアカウントで、新たな検索エンジンの開発に着手することを宣言した。

 

検索エンジンはもはやインターネットの入り口ではなくなっている

従来のテキスト検索はもはやインターネットの入り口にはなっていない。以前は、グーグル検索やYahoo!などの検索系サイトをポータルページにして、そこから何かを検索して、インターネットにアクセスをするという使い方をしていた。しかし、スマートフォンの時代になり、アプリが入り口になると、検索することなくコンテンツにアクセスできるようになった。その後に、自分の求めるコンテンツにアクセスしたい場合に検索機能を使うようになっている。

「コンテンツ生態系検索趨勢研究報告」(極光、巨量エンジン)によると、ネット利用者がどこで検索を行なっているかを分析した結果によると、検索アプリ、検索サイトを使う割合は22.6%にすぎず、77.4%はショートムービー、SNS、ECなどのコンテンツサービスで検索を行なっていた。

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▲ネット利用者が検索を行った場所の分析。検索アプリで検索をする人は、もはや22.6%しかいない。多くの人が先にコンテンツがある場所にいって、それから検索をするようになっている。「コンテンツ生態系検索趨勢研究報告」(極光、巨量エンジン)より作成。

 

情報の中心はもはやテキストではなくショートムービー

また、求める情報別に検索場所の順位を調べると、ショートムービーが上位にくる。つまり、ショートムービーが次世代の検索アプリになっているのだ。

これは生活関連の知識を調べたい時のことを考えるとよくわかる。例えば、以前であれば、鏡が汚れているので掃除をしたい場合、「鏡 掃除」などでテキスト検索をする。検索結果の中のテキストは、何らかの記事であることが多く、それを読まなければならない。しかも、記事というのは、余計な導入から始まる。例えば、「家の中にいくつの鏡があるか、あなたはご存知ですか? それをいつもピカピカにしておくのはたいへんなことだと思われている方も多いかと思います」など、記事としては必要な導入であっても、検索してたどり着いた人にとっては、不必要な情報が多い。

一方、ショートムービーを検索すると、わずか15秒か30秒の動画で、掃除の仕方を理解することができる。尺が短い分、導入や挨拶のような余計な情報が省かれているのだ。

まるで、封書で手紙をやり取りしていた時代から、突然、メッセンジャーで連絡を取り合う時代になったような感覚だ。

つまり、張楠CEOの言う「百科事典」とは、伝統的なアカデミックな百科事典ではなく、現代人が知りたいことの百科事典なのだ。

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▲各ジャンルの情報を求めている時に、どのアプリで検索するかを尋ねた結果。多くの人が、ショートムービーでまず検索をすると回答している。「コンテンツ生態系検索趨勢研究報告」(極光、巨量エンジン)より作成。

 

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▲「鏡 掃除」で検索をすると、テキストよりも先にショートムービーが表示される。動画の方が、多くの人にとって理解しやすい。

 

検索エンジンも結果表示にムービーを重視

このような動きに、百度も対応をしている。すでに百度アプリでは、何かを検索すると、動画、ショートムービーがある場合は、上位に表示されるようになっている。アリババのクォーク、バイトダンスの「今日頭条」でも、ショートムービー、動画が上位に表示されるようになっている。

ネットの中心的コンテンツが、テキストからムービーに移行しようとしている。

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▲アリババの検索アプリ「夸克」。検索をすると、動画がある場合は、動画が先頭に表示される。

 

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百度の検索アプリでも、動画、ショートムービーが上位に表示されるようになっている。

 

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▲バイトダンスのニュースアプリ「今日頭条」でも、動画、ショートムービーが検索結果の上位に表示される。

 

広告コンテンツもバナーからムービーに

なぜ、各テック企業は、テキスト検索からムービー検索への移行を進めているのか。それは広告がテキスト、静止画から、ショートムービーに移り始めているからだ。典型的なバナー広告は、ディスプレイの面積を占有し、ユーザーにとってはじゃまなノイズになっている。PCの時代はそれでも許容ができたが、ノートPCになると問題を感じる人が増え、スマホになると不満を感じる人が増える。

一方、ショートムービー広告は、通常のコンテンツの間に挟められるが、わずか15秒程度であり、嫌ならすぐに飛ばすことができる。また、広告クリエイティブも進化して、多くの公告ショートムービーが、鑑賞するコンテンツとしても成立するような内容のものが増えている。

ショートムービー広告は、バナー広告と比べると、リーチ率(接触率)は低いかもしれないが、エンゲージメント(反応率)は高い。しかも、バナー広告はリーチ率が高いといっても、それは消費者が見ているページに表示されたというだけで、消費者は広告を脳内で消去して見ていないことが多い。

広告というお金を生む源泉が、テキスト、静止画からムービーに移る中で、各テック企業はテキスト検索からショートムービー検索に移ろうとしている。

 

 

スマホのない高齢者のために運用が始まったオフライン健康コード

四川省でオフライン健康コードの運用が始まった。紙に印刷した健康コードを提示すれば、健康コードと同じ扱いになるというもの。健康コードは感染抑止の切り札となっていたが、スマホを持っていない人は利用できないという問題があった。このオフライン健康コードを使うことで、スマホを持っていない人も行動できるようになると界面新聞が報じた。

 

コロナ終息の切り札になった健康コード

中国の新型コロナ感染拡大が速やかに終息をした大きな理由のひとつが健康コードだ。位置情報、接触履歴などから、感染リスクを判定し、緑、黄、赤の3種類のQRコードを表示するというものだ。

運用方法は都市によって異なるが、多くの場合、緑でないと地下鉄、バスなどの公共交通機関を利用できない。また、公共施設、商店などでも、自主的に緑以外の入店を拒否している。つまり、黄色や赤になってしまうと、EC、生鮮EC、フードデリバリー、リモートワークなどを使って、自主的に自宅隔離する以外なくなってしまう。

このようにして、高リスクの人に自主隔離をしてもらい、低リスクの人に経済を回してもらうという方法で、中国は新型コロナの感染を乗り切った。

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杭州市から始まった健康コードは、新型コロナの感染抑止に大きな貢献をした。位置情報、接触履歴などから、その人の感染リスクを3段階で判定し、色で表示するというもの。公共交通を利用するには、緑の健康コードを提示する必要がある。

 

9億人が利用する健康コード

この健康コードは、2020年2月11日という感染拡大がまだ厳しい最中に、杭州市とアリババが共同開発をして、杭州市民に提供され、すぐに他都市でも運用が始まり、全国に広がった。

「第47次中国インターネット発展状況統計報告」(中国インターネット情報センター、CNNIC)によると、この健康コードを利用している人は約9億人と見積もられ、400億回利用されたという。つまり、地方都市を含め、都市部のほとんどで使われているということだ。

 

スマホを持たない高齢者や子どもには家族登録で対応

しかし、この健康コードにも弱点はある。中国の携帯電話利用者数は9.86億人。普及率は70%程度だ。つまり、3割の人はスマホはおろか、携帯電話を持っていない。その多くは高齢者と幼児だ。高齢者と幼児が地下鉄やバスを利用したい場合はどうしたらいいのだろうか。スーパーで買い物をしたい場合はどうしたらいいのだろうか。スマホを持ち、健康コードを提示しなければバスにも乗れないし、スーパーも利用できない。健康コードの利用は義務付けられてはいないが、健康コードが提示できない場合は「赤」と同じ扱いになる。

その解決策のひとつが、家族利用だ。健康コードのアプリやミニプログラムには、家族登録をする機能が用意されており、高齢者や子どもを登録できる。家族と一緒に行動をするときは、あらかじめ家族の誰かのスマホの健康コードに、家族も登録をしておき、健康コードを提示すれば、一緒にバスに乗ったりすることができる。小さな子どもがいる家庭では、この機能を使っている。

 

身分証番号で1回限りの健康コード表示も可能

もうひとつは、他人の健康コードアプリに、身分証番号を入れると、使い捨ての健康コードが表示できる機能を用意している都市もある。高齢者が友人と出かけるときに、誰か一人スマホを持っていれば、健康コードが提示できるようになる。

ただし、毎回、身分証番号を入力しなければならない煩わしさがあり、身分証番号という個人情報を他人に知らせることになってしまう。身分証番号は18桁の数字だが、最初の14桁は居住地の番号で誰でも簡単に推測ができる。次の8桁は生年月日で、個人情報とは言え、機微情報までとは言えない。最後の4桁だけが推測のできない機微情報となる。これを他人に知らせることになるので、よほど親しい友人など信用できる間柄である必要がある。

 

身分証や市民カードでも健康コードの代わりになる

もうひとつの方法は、直接身分証や市民カードをかざす方法だ。これでも健康コードの代わりとなり、居住地、勤務地、過去の感染歴などから感染リスクを簡易的に判別し、公共交通機関などを利用することができる。

ただし、この方法では、専用のスキャン装置が用意されている場所でしか利用できない。多くの場合、地下鉄と公共施設で、バスや商店では設備がなく、利用できないことがある。

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四川省の健康コードミニプログラム「四川天府健康通」。健康コードだけでなく、PCR検査の申し込みや結果表示、ワクチン接種の申し込み、高リスク地域の表示など、新型コロナ関連のサービスがすべて利用できるようになっている。

 

四川省がオフライン健康コードを提供開始

小さな子どもは、多くの場合、親とともに行動するので、親のスマホに健康コードを登録しておけば問題ないが、高齢者の場合は高齢者だけで行動することも多く、健康コードに対する不満が高まっていた。

四川省では、このような不満を解消するために、四川省の健康コードミニプログラム「四川天府健康通」に、オフライン健康コードの機能を搭載した。これは家族のスマホに登録をした健康コードを紙に印刷できる機能で、紙に印刷された健康コードを提示すれば、スマホの健康コードと同じように利用できるというものだ。有効期間は、印刷をしてから7日間に設定されている。

家族に自分の健康コードを印刷してもらえば、高齢者は紙を1枚持ち歩くだけで、健康コードとして利用することができる。また、自分でスマホを持っている高齢者であっても、いちいちスマホの操作をするのが面倒な人は、このオフライン健康コードを使っている人もいるという。

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四川省で始まったオフライン健康コード。家族のスマホに家族登録をし、プリントしておくことができ、健康コードの代わりになる。有効期間は、印刷をしてから7日間に設定されている。

 

段階的に行動制限を緩めていく中国

このような代替の健康コードは、スマホアプリ、ミニプログラムの健康コードに比べて、感染リスクの判定精度が甘くなるという問題がある。スマホの健康コードであれば、位置情報や接触履歴などのデータを利用して、精度の高いリスク判定ができるが、代替の健康コードでは、過去の感染状況、健康コードを提示してスキャンした場所情報程度しか判定材料がないため、判定精度はかなり悪くなる。

四川省では、新型コロナがほぼ終息をし、ワクチン接種も進んでいることから、感染抑止よりも市民の利便性の方が重要になってきたと判断をしたようだ。

このオフライン健康コードは、四川省の市民から好評で、他都市も注目していることから、全国に広まっていくものと見られる。

 

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中国の自動運転テクノロジーの起点となっているのは、やはり百度

中国で進む自動運転。すでに複数都市で、自動運転タクシーに市民が乗車できる段階まで進み、正式営業も時間の問題になっている。自動運転関連のスタートアップも多く生まれているが、その多くが百度出身者によるもの。百度が、中国の自動運転人材の養成機関になっていると新智駕が報じた。

 

AIへの転換に成功した百度

2019年には経営状態に黄色信号が灯った百度バイドゥ)だが、2020年には業績が回復し、2018年の水準に戻った。しかし、中身は同じではない。以前は検索広告が主軸事業だったが、現在の主軸事業は百度クラウドを中心に、アポロ自動運転プラットフォーム、百度地図、音声アシスタント「小度」などを制御するAI事業が中心になっている。百度はAI事業への転換に成功した。

特に、自動運転の開発については、中国の「士官学校」としても機能をしている。百度で自動運転技術の研究を行い、辞職後、関連する起業をするという人が多いのだ。数ある自動運転系スタートアップも、創業者が百度出身であるケースが多くなっている。

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百度の営業収入と利益の推移。2019年は利益が赤字寸前まで落ち込み、経営危機が叫ばれたが、2020年には回復をした。しかし、メインの事業内容は、検索広告からクラウドAIになっている。見事に時代の変化に合わせて、百度は変わることができた。創業者の李彦宏(リー・イエンホン、ロビン・リー)は、第二創業という言葉を使っている。

 

中国の自動運転の核となった百度ディープラーニングラボ

自動運転は、2009年にグーグルが自動運転事業部(現在のウェイモ)を設立し、自動運転という技術に世界の注目が集まった。2013年になると、GE、フォード、メルセデスBMWなどが自動運転技術の研究を開始、百度もこの頃にディープラーニングラボから自動運転研究チームを独立させている。そして、2015年頃から、百度の自動運転チームから独立をして起業する人が出てくるようになった。百度出身の自動運転関係者には次のような人たちがいる。

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▲北京、長沙などで全面開放試験運行が行われている百度のロボタクシー。市民が自由に利用できる状態で、正式営業目前の段階まで進んでいる。

 

毫末智行:顧維CEO

長城汽車傘下の自動運転企業「毫末智行」(ハオモー)は、CEOに百度出身の顧維(グー・ウェイハオ)を迎えた。

顧維は2003年に百度に入社し、L3自動運転やコネクティッドカー、マップ技術などの責任者を勤めてきた。2019年に、百度の組織改変があり、スマート自動車事業部は自動運転事業部に吸収されることになり、その時に、顧維は離職をしている。

2019年に、乗用車と低速物流の自動運転技術を開発する毫末智行が創業され、2021年には長城汽車の乗用車に自動運転機能が採用された。また、物流用自動運転カートも販売を始めている。

毫末智行は現在プレAラウンド投資を完了した。2023年に中国の創業版に上場する計画を立てている。

 

中智行:王勁創業者

グーグル中国の研究所副院長だった王勁(ワン・ジン)は、2010年に百度に移籍をして技術副総裁に就任した。2015年12月に、王勁が中心になって自動運転事業部を設立し、総経理に就任する。しかし、1年後、王勁の方向性と百度の方向性がずれ、王勁は百度を離職した。王勁は、自動運転事業部は将来独立企業にすべきで、主要なビジネスはロボタクシーだと考えていた。しかし、百度の考え方は違っていた。

そこで、王勁は、2017年4月に、米シリコンバレーで景馳科技(後の文遠知行)を設立して、自動運転技術の開発を進めた。2018年3月には、文遠知行を離れ、中智行(ジョンジー)を創業した。

 

地平線:余凱、黄暢、余軼男、徐偉

米国NEC研究所出身の余凱、黄暢の2人は、2012年に百度に入社し、自動運転の開発に従事する。2015年に辞職をして、地平線科技を設立した。2017年には余軼男が、2018年には徐偉が百度を辞職して地平線に加入した。2020年、地平線は中国で初めてAIチップを量産し、長安汽車への搭載が進められている。

 

小馬智行:彭軍、楼天城、李衡宇

小馬智行(シャオマー)は、2017年に北京で創業された。この時に、百度の研究者であった3人にが加入している。彭軍はグーグルから百度への転職組、楼天城は清華大学から百度米国研究所へ、李衡宇は百度で広告システムの開発を行なっていた。

小馬智行は、米国カリフォルニア州交通管理局の自動運転技術評価でも、ワールドワイドで第4位の成績を取っている。現在、小馬智行の企業価値は60億ドルを超えている。

 

文遠知行:韓旭、陳世熹

ミズーリ大学の教職にいた韓旭は、2014年に百度の米国研究所に入所し、自動運転事業部の首席サイエンティストとなった。2017年4月に、当時の景馳科技に入社し、CTOを勤め、王勁が離職するとCEOとなった。この時に、百度の自動運転事業部にいた陳世熹が文遠知行(ウェンユエン)に入社をしてきた。

文遠知行は、現在、自動運転ミニバスの実用に力を入れている。文遠知行には、百度出身のエンジニアが多い。

 

人材の供給源ともなっている百度

この他、Roadstar.ai、Momenta、白犀牛、DeepMap、領駿科技、普思英察、寛凳科技、禾多科技、主線科技、Innovusion、Driva.aiなどの自動運転関連企業の創業者、CEO、主要エンジニアが百度出身だ。

百度は豊富な資金力を活かして、自動運転技術をロボタクシーなどの量産にいち早く結びつけただけでなく、中国の自動運転テクノロジーに大量の人材も提供している。

 

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テック企業で続く不正行為。サービスは好調でも、不正行為で自滅したラッキンコーヒー

2020年は、テック企業で不正行為が頻発をした。テック企業が新しいサービスに参入するときは、大規模な投資資金を注ぎ込み、クーポン配布などで「資金を焼きつくす」戦略を取る。それが誘惑となり、不正行為の原因になっていると豹変が報じた。

 

テック企業経営層で不正行為が頻発

2月24日、上場したばかりのショートムービーサービス「快手」(クワイショウ)の前副総裁の趙丹陽が逮捕された。趙丹陽は、2015年に動画共有サービス「優酷」(ヨウクー)から快手に移籍をした。移籍後から部下の2人とともに、長期に渡り、会社の財産を私物化し、関係業者から賄賂を受け取っていた。その額は885万元(約1.48億円)を超えると見られている。

快手では、2019年に上場準備の一環として廉正合規部を設立した。この廉正合規部への内部通報で発覚をした。

テック企業での贈収賄などの不正行為が続いている。テンセント、アリババ、百度バイドゥ)、美団(メイトワン)、滴滴(ディディ)など、明らかになっている事件だけでも200件を超え、2020年は、この数年のうち、最も不正行為の多い年となった。

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▲ モバイルオーダーという新しい手法、店舗、スタッフにかかるコストをコーヒーの品質に回したことで、スターバックスの強力なライバルとなり、ナスダック市場に情報をしたラッキンコーヒー。しかし、経営層に不正行為が頻発をした。

大量の資金が動いているテック企業

テック企業に不正行為が多い理由の最大の原因が、「資金を焼きつくす」拡大戦略だ。新しいビジネス領域には、テックジャイアントが大量の資金を投入し、クーポンや補助金をばら撒き、シェアを獲得しようとする。このようなところには、必ず、私利私欲しか考えない人たちが吸い寄せられてくる。

現在、各テック企業は、社区団購に大量の資金を投入し、シェアを獲得しようとしており、不正行為も社区団購周辺で頻発をしている。

もうひとつの理由が、テック企業は合理的な考え方をもっていて、このような不正行為が起きた場合に、内部で処理をするようなことはしない。むしろ、積極的に情報を公開することが、企業のイメージを最も毀損しない方法だと考えている。そのため、不正行為が発覚をすると、すぐに公安に通報をして、内部調査も行い、不正行為を働いた従業員の氏名、職名、不正行為の内容などを積極的に公表する。

また、テック企業は反不正行為の連盟を設立しており、400社以上が加入をしている。この加盟企業では、不正行為で辞職した従業員はブラックリストに入れて、どこも雇用しないようにしている。

つまり、大量の資金が扱われていて誘惑は多い一方で、不正行為が起きた時には内部で処理をすることなく、事件化をする。これがテック企業で発覚する不正行為の多さにつながっている。

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▲モバイルオーダーという新しい手法で、「行列をしなくていい」カフェとして、多くのファンを獲得したラッキンコーヒーは、経営陣による不正行為で自滅をした。営業は続けられているが、大幅な事業縮小は免れない。

 

テンセントの花形部門は、不正行為の頻発地帯

テンセントのPCG(プラットフォーム・コンテンツ・グループ)は、多くの人があこがれる部門だ。約1万名の従業員全員に、ファーウェイの折り畳みスマホ「Mate Xs」が配布されたこともある。仕事に必要だとは言え、2万元(約33.5万円)もするスマートフォンだ。

業績も好調で、待遇もいいが、不正行為も頻発している。テンセントでは2020年中に22件の不正行為が発覚したが、PCG事業部の関係者が26人も関わっていて、全体の63%にもなる。

PCGは、2012年から続いた組織構造を2018年に大改革をして生まれたものだ。MIG(モバイルインターネット)、OMG(オンラインメディア)、SNG(ソーシャルネットワーク)の3つの事業グループを解体し、IEG(インタラクティブエンターテイメント)のアニメ、映画部門を合併して誕生したのがPCGだ。PCGは、テンセントビデオ、テンセントニュース、QQ、テンセントピクチャーズ、微視、テンセントアニメなどを担当している。

業務のほとんどは、協力企業との対応になるため、利益をあげたい協力企業からの誘惑も多い職種だ。特にゲームは、テンセントの営業収入の45%を占めており、1つの案件が巨額の利益を生むことから、不正行為が起こりやすい部門になっている。

 

バイトダンスでは社員食堂で1000万元の賄賂

Tik Tokを運営するバイトダンスでも不正行為が起きている。社員食堂の前責任者が1000万元(約1.68億円)の賄賂を受け取っていたことが、内部通報により発覚をした。

バイトダンスはまだ創業9年の若い企業で、不正行為に対する管理体制が整っていないこともあり、不正行為がたびたび起きている。2018年には、調達部門のエンジニアが架空の契約書を偽造し、178万元(約3000万円)を横領した。2019年には、研究エンジニアがデータサーバーに侵入し、取得したデータを売って137万元(約2300万円)の利益を上げた。2020年には、商務経理の地位にいた者が、提携企業から430万元(約7200万円)の賄賂を受け取っていた。

金額の規模は他のテック企業に比べて小さいものの、不正行為が頻発していることがバイトダンスの大きな課題になっている。

 

歴代の副総裁が不正を働く百度

百度は、副総裁という高い地位が不正行為が頻発する役職になっている。百度の中では、第4位の地位だ。2020年4月、副総裁の偉方は、内部通報によって不正行為に関わったとして、離職をし、公安による捜査が行われている。偉方の前任者である3人も、不正行為の疑惑がかけられ辞職をしている。

特に偉方と前任の曽良が問題の震源地になっている。2人は、2015年に旅行サービス「去哪児網」に入社したが、2年後に曽良百度の大手顧客営業部の責任者となった。曽良は代理店の人間と共謀して、融資の形をとった横領事件を起こしている。

同時期に副総裁であり、CEO候補とも言われた李明遠が、企業買収に関連して横領疑惑を起こしている。結局、李明遠は不正行為を認めなかったが、百度を辞職した。さらに、無料サービスを基本としていた百度のサービスを有料にする変革を実行し、百度を利益が生まれる企業に変えた功績者、王湛も「業務倫理に反し、会社の利益を損なった」という理由で、解雇されている。

百度の場合は、上層部で不正行為が頻発している。

 

滴滴ではCTOが不正事件

滴滴では、技術総監が不正事件を起こしている。2016年からサーバーなどの調達に関連して、合計1000万元(約1.68億円)の現金を受け取り、さらに家族旅行の費用などを支払ってもらっていた。この人物は、新浪、百度、アリババなどでエンジニアとして働いた経験があるベテランエンジニアだった。

滴滴では2020年に大掛かりな内部調査を行い、64件(海外15件)の不正事件が発覚をした。うち、70名(海外12名)は重大な違反だとして解雇され、11名は法に触れているとして公安の捜査を受けている。

 

拼多多は現場が不正行為の温床に

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)では、従業員の過重労働問題に揺れているが、内部の不正事件でも揺れている。

拼多多の場合は、現場スタッフの間で不正事件が起きている。2020年の4月に、拼多多は、広告部門のスタッフが200万元(約3400万円)の賄賂を受け取ったとして解雇をした。この時、解雇されたのは合計6名で、いずれも現場スタッフだった。

報道によると、その多くが、拼多多が始めた社区団購「多多買菜」の関連スタッフだった。拼多多は、多多買菜のシェアを確保するため、大量の資金を投入している。それが不正事件を生むことになっている。

結局、2020年には、18の不正事件が発生し、公安に逮捕されたものが28名となった。この他、拼多多が永遠に再雇用しない解雇が6名となった。

 

アリババでは、商品の月餅を顧客よりも先に購入

アリババは、従業員の忠誠心が高く、不正事件とは最も距離が遠い企業だ。2012年にアリババに初めて廉政部が設置され、初めて扱った事件が、中秋節での事件だった。5名のスタッフが、販売するための商品である月餅を133個、顧客に販売する前に自分たちで購入したという事件だった。関わったスタッフは、全員、降格になっている。

それほど、アリババは大型不正事件と無縁に見える企業だが、それでも大型不正事件が起きている。2020年11月に、アリババの元副総裁、天猫(Tモール)の消耗品、服飾品事業部の責任者、胡偉雄が不正事件の疑惑で内部調査を受けた。さらに、同じ月に、動画共有サービス「優酷」の元総裁、楊偉東の不正事件の裁判が結審をした。裁判によると、楊偉東は在職期間に855万元(約1.4億円)の賄賂を受け取り、一審の判決は懲役7年というものになった。

 

サービスは支持されても、経営層の不正行為で自滅したラッキンコーヒー

中国で流行している音楽の「嗑児」のサビの歌詞は「世の中は単純、複雑なのは人だ」というもので、この一節が中国人の心を捉えている。テック企業は、目的も明確で、運営も合理的に行われているが、人が不正事件を起こしている。

2018年に創業したカフェチェーン「瑞幸珈琲」(ラッキンコーヒー)は、モバイルオーダーをメインにすることで、店舗スタッフと家賃の負担を減らし、その分をコーヒーの品質に回すという手法で、瞬く間に4500店舗を超え、スターバックスの強力なライバルとなっていた。

しかし、ナスダック上場後、株価を釣り上げるための不正経理問題が発覚し、2020年5月に上場廃止となったが、その後も不正経理問題、不当競争問題が続き、2021年2月には米国で破産申請を行なっている。店舗ではファンも多く、営業も続いているが、大幅な事業縮小は免れない状況となっている。

ラッキンコーヒーは、中国のカフェに「モバイルオーダー」という新しい手法を持ち込んだパイオニアで、消費者からの支持も高かった。それが経営層の不正により、事業そのものの存続が危ぶまれている。

不正問題が、中国テック企業のアキレス腱になりかねない状況になりつつある。