中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

BATが築いたネットの天下三分の計。トラフィックをめぐる戦い

BATは、中国のテックジャイアント3社というだけでなく、ネットのトラフィックも分け合っている。互いのトラフィックが交錯することなく、天下三分の計の形になっている。その構造ができあがったのは、アリババが百度やテンセントからのトラフィックを遮断するという大胆な策を打ってきたからだと界面が報じた。

 

トラフィックの天下三分の計になっているBAT

中国のテックジャイアントはBATと呼ばれる。百度バイドゥ)、アリババ 、テンセントの3つの頭文字をとったものだ。このBATは、中国テック企業3強の意味もあるが、もうひとつ、ネットのトラフィックを3社で分け合っていることも表している。すなわち、百度は検索トラフィックを、アリババはECトラフィックを、テンセントはSNSトラフィックを独占している。目に見えないだけで、実はBATは、ネット上で魏呉蜀の三国志時代にように天下三分の計の形になっている。

 

検索大手の百度が始めたEC「有啊」

2007年10月、アリババが香港市場に上場をする1ヶ月前、百度は突然EC「有啊」(ヨウア、あるよ!の意味)を始めると宣言した。アリババの淘宝(タオバオ)と同じCtoC型のECサイトだった。

当時、百度は検索トラフィックの75%を独占しており、検索エンジンはインターネット全体のトラフィックの70%を占めていた。つまり、トラフィックの面では百度が中国のインターネットを支配していたのだ。

一方、タオバオは流通総額が433億元(約6660億円)となり、スーパーやモールを有する百聯集団に次いで、第2位の小売業に躍進をしていた。ECだけで見ると、流通総額の72%を独占していた。この頃、京東はまだ創業したばかりで、eBayは撤退をし、ECはタオバオが独占をしている状態だった。

2008年10月、「有啊」が正式にスタートした。初日にDAU(日間アクティブユーザー数)400万人を獲得し、SKU(商品数)は19万件でスタートした。これはタオバオにとっては脅威だった。なぜなら、タオバオはスタートして100日後にようやくDAU150万人を超え、商品数は10万件に満たなかった。「有啊」は素晴らしいスタートダッシュを決めたのだ。百度から商品を検索すると、「有啊」に誘導される。これが大きかった。

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百度が2007年に始めたEC「有啊」。アリババは百度からのクローラーを遮断するという対抗策にでた。

 

アリババはクローラー遮断で対抗

これに対抗するためにアリババがとったのは、百度を遮断することだった。百度クローラータオバオのサイト情報の収集ができないようにした。つまり、百度からタオバオの商品を検索しようとしても検索できなくなったのだ。これが天下三分の計につながっていった。

検索サイトからのトラフィックをゼロにしてしまい、タオバオは不利にならなかったのだろうか。それがならなかった。すでにタオバオの名前はECの代名詞になっていて、買い物をしようとする人は、検索エンジンで「タオバオ」と検索するのではなく、直接taobao.comというURLを入力し、タオバオの中で商品を検索するようになっていた。

すでにタオバオトラフィックの80%はダイレクトなもので、百度からのトラフィックは20%ほどになっていた。アリババはこの20%を捨てることで、タオバオの客を百度に寄り道させないようにした。百度に寄り道をさせると、その時に「有啊」に客引きされてしまうかもしれないからだ。

例えば、口紅が欲しい人は、百度で「口紅」を検索して、タオバオの口紅の商品ページを見つけてリンクをたどってくるというのではなく、いきなりタオバオにアクセスし、タオバオで「口紅」を検索して、複数の商品を比較して、購入したい口紅の商品ページにアクセスする。

百度の思い違いは、検索トラフィックを独占しているので、そこでECをスタートさせれば、ECトラフィックの得られると考えてしまったことだ。これは、ショッピングモールの案内図の横に化粧品店を開けばお客さんがたくさん入ると考えるのと同じくらいおかしなことだった。

結局、2013年に「有啊」は撤退をすることになる。

 

WeChatからのリンクも遮断

2013年には、タオバオはテンセントのSNS「WeChat」からのトラフィックを遮断することになる。WeChatはわずか3年でユーザー数が6億人、DAUが1億人を突破していた。当時のタオバオはユーザー数5億人で、DAUは6000万人だった。

しかし、数はあまり脅威ではなかった。最大の脅威は、WeChatがスマホ決済「WeChatペイ」を開始し、ユーザー間でお金のやり取りがスマホだけでできるようにしたことだった。

決済を始めるということは、ECを始めるに違いないからだ。テンセントは2005年にもオンライン専用の決済システム「財付通」をスタートさせ、EC「拍拍網」をスタートさせている。タオバオが手数料有料化で、ユーザーから大きな反発を受けたタイミングで、テンセントは拍拍網を手数料無料で始め、タオバオからの引越しキャンペーンまで行い、ジャック・マーを激怒させている。

これに対抗するために、タオバオはWeChatからのトラフィックを遮断した。テンセントは独自にECを展開するよりも、タオバオ以外のECと連携をする道を選んだ。京東や拼多多などで、特に拼多多はWeChatと深く連携をし、ソーシャルECという新しいスタイルを生み出している。

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▲テンセントが2005年に始めたEC「拍拍網」。アリババのタオバオが手数料有料化問題で揺れている隙を狙って開始し、ジャック・マーを怒らせた。結局、うまくいかず現在は存在しない。

 

ECは独自にトラフィックを集める特殊なネットビジネス

タオバオは、中国で最も成功したECだが、それはECが独自にトラフィックを集められるという特性によるものだ。私たちもアマゾンや楽天で買い物をするときに、グーグル検索で「ワイヤレスイヤホン」と検索をして、アマゾンのページを検索して、リンクをたどり購入するということはあまりしない。先にアマゾンを開き、そこから「ワイヤレスイヤホン」と検索をして、商品を比較してから購入をする。

さらに、アリババは、他社がタオバオトラフィックを検索やSNSに引き込もうとすることを許さず、トラフィックを遮断することで、圧倒的な地位を保ってきた。タオバオは、ネットの中で孤島のようになっているが、その島は広大で大陸を形成しているのだ。

このような事情があるため、百度は検索トラフィックを独占し、アリババはECトラフィックを独占し、テンセントはSNSトラフィックを独占している。三国志のように天下三分の計を成している。

 

新中華圏が構築されつつある東南アジアITビジネス

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 035が発行になります。

 

今回は、目先を変えて、東南アジアのIT状況についてご紹介します。

中国ITのメルマガなのに、なぜ東南アジア?と思われる方もいらっしゃると思います。取り上げる理由は、東南アジアは現在、中国型の発展方式で、絶賛経済成長中だからです。

日本が過去高度成長をしてきたのは「均衡ある発展」でした。都市も地方も、建設業も小売業も、みんなで底上げをすることで発展をしてきました。一方で、中国型は「均衡なき発展」です。「豊かになれる者から豊かになれ」という格差を許容する発展の仕方で、熾烈な競争を行いながら、ITテクノロジーを武器に、短期間で奇跡のような経済成長を成し遂げました。

そのため、中国のトップクラスのビジネスを見れば、すでにワールドクラスになっているものの、底辺レベルのビジネスを見れば、いまだにどんぶり勘定のいい加減なものがたくさん残っています。ITテクノロジーも同じで、人工知能の応用開発の分野では、すでに世界をリードするようになっていますが、まだまだ買った瞬間に壊れるいい加減なデジタル製品も出回っています。

 

少し前まで、「中国は日本がたどってきた道を走っている」という方がいましたが、個人的にはこの言い方に違和感がありました。目的地は似た場所であっても、中国は日本とは違う道を走っているのではないか。それも日本が緩やかな坂を一歩一歩登ってきたのに対し、中国は崖をよじ登り、沢を飛び越えて直線的に登っているのではないか。

まさに、東南アジアが、今、中国型の発展を始めているのです。それに中国も気がついていて、盛んに技術提供、資本投下を行っています。元々、東南アジアは中国文化の影響が強い中華圏でしたが、ITテクノロジー、ITビジネスの分野でも中華圏が成立しています。

日本はASEANとの関係を強化することで、日本を中心としたアジア経済圏をつくる戦略ですが、ITビジネスの分野に限れば、すでに中国を中心にした中華経済圏が構築されつつあります。

そこで、今回は、東南アジアのIT事情をご紹介し、中国との関係がどうなっているかを考えていただきたいと思います。

 

まず、東南アジアITの「均衡なき発展」ぶりを知っていただきたいと思います。東南アジアといっても、シンガポールのようなIT先進国もあれば、まだまだこれから環境を整えなければならない国もあります。

次の表は、東南アジア各国の銀行口座保有率、デビットカード、クレジットカード保有率、携帯電話加入率を世界銀行の最新の2017年の統計からまとめたものです。シンガポール、マレーシア、タイでは銀行口座保有率がある程度高いものの、インドネシア以下の国では半数以下の人しか銀行口座を持っていません。それに伴いクレジットカード保有率はシンガポールでも半数以下、その他の国では持っている人の方が珍しい状況です。

ところが、携帯電話加入率を見ていただくと、多くの国で100%を超えています。日本よりも高い国が多いのです。つまり、携帯電話が生活とビジネスの基本的なインフラになっているのです。

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▲東南アジアでは、一部の国を除き、銀行口座という基本的な金融インフラさえまだ普及していない。一方で、携帯電話加入率は異常に高くなっている。

 

もうひとつ、見ていただきたい資料があります。スイスの国際経営開発研究所(International Institute for Management Development、IMD)が毎年公開しているIT競争力の国際ランキング「IMD World Digital Competitiveness Ranking」(https://www.imd.org/wcc/world-competitiveness-center-rankings/world-digital-competitiveness-rankings-2019/)です。

これは世界63カ国のIT競争力を、「知識」「テクノロジー」「将来への備え」の3つのカテゴリーについて、31の統計データ、20の調査データの合計51項目について点数化をし、ランキングを作成したものです。

これによると、トップ3は、米国、シンガポールスウェーデンとなり、日本は23位になっています。アジア圏だけを抜き出すと、シンガポール、香港、韓国と続き、日本は6位。しかもすぐ下にはマレーシアが迫ってきています。東南アジア各国は、シンガポールを除けば、日本よりも下位ですが、IT分野でも日本に迫りつつあるのです。

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▲IMDによるIT競争力の国際ランキング。日本は先頭グループではなく、第2グループの上位といった感触。アジアの中でも、注意グループに属し、マレーシアなどに追い上げられている。

 

この資料では、51の項目すべてに順位づけがされていて、上位に入っている項目と下位に入っている項目を見ると、その国のITの強みと弱みがわかります。蛇足ですが、日本の上位に入っている項目と、下位に入っている項目を掲げておきます。

日本は、「国際経験」「機会と脅威」「企業の機敏さ」「ビッグデータ解析の利用」の4項目で63位、つまり世界最低になっています。アジア最下位のモンゴル、世界最下位のベネズエラよりも低い評価であるということを噛み締める必要があります。

なお、同様の強みと弱みの表をアジア各国分作成したので、このメルマガの最後に添付をしておきます。各国のIT状況は一様ではなく、それぞれの国によって強みと弱みが違っています。参考にされてください。

今回は、東南アジアのIT状況をご紹介し、IT中華圏がどこまで進んでいるのかを考えます。

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▲IMDのIT競争力ランキングから抽出した日本ITの強みと弱み。数字は各項目での世界63カ国での順位。日本は世界最下位いの項目が4つもある。

 

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今月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.031:大量導入前夜になった中国の自動運転車

vol.032:ソーシャルEC。次世代ECなのか、それとも中国独特のECなのか

vol.033:BATがBATである理由。トラフィック制御からの視点

vol.034:中国の人工知能産業は、米国にどこまで迫っているのか

 

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過剰投入の大戦後に、定着のステージに進んだシェアリング自転車

2017年のシェアリング自転車競争では、ofoとMobikeなどが市場に過剰投入をすることで、放置自転車問題が社会問題にまでなっていた。現在は、大手企業が投資を行い、母企業とのシナジー効果を狙う戦略に変わっている。これにより、適正投入となり、シェアリング自転車は競争から定着のステージに進んだと燃財経が報じた。

 

過剰投入で崩壊をしたシェアリング自転車ビジネス

シェアリング自転車というと、2017年頃、中国で盛り上がり、急速に崩壊をしていったビジネスと思われている方が多いと思う。中には一種のバブルで、元々需要がなかったところに投資資金が流れ込み、街中に大量の放置自転車の山を生み出すだけに終わったと思われている方もいるかもしれない。

しかし、シェアリング自転車は「移動の最後の1km」を補う手段として、需要は強く、現在でも利用している人は多い。

崩壊の原因は、過剰投入だ。当時は、ofoとMobikeの2つのスタートアップが中心となり、激しい競争を繰り広げていた。100万台の需要がある都市に、ofoもMobikeもその他の企業も100万台を投入していく。ofoやMobikeは、潤沢な投資資金にものを言わせて、市場シェアを握るために150万台、200万台を投入していく。これにより、合計では、その都市が必要としている台数の数倍から10倍の自転車が街にあふれることになり、社会問題となっていった。

この過剰投資により、各社とも黒字化ができない。投資家が離れ出し、崩壊が始まった。

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▲2017年のシェアリング自転車大戦では、各社が過剰投入をしたため、街中に自転車があふれるという事態が起き、社会問題になっていた。

 

アリババ系の投資を受けるHello Bike

しかし、現在、第2世代のシェアリング自転車企業が登場し、2017年のシェアリング自転車大戦に学び、適正な競争を始めている。現在、利用数のトップ3は、Hello Bike、DiDi Bike、美団(メイトワン)になっている。

Hello Bikeは、2016年9月に創業したハローグローバルが提供するシェアリング自転車。このHello Bikeは「農村から都市を包囲する」という戦略で起業され、都市で過熱するofoとMobikeのシェアリング大戦から距離を置いていた。地方都市と観光地に丹念にサービスを提供していった。これが功を奏した。都市で、ofoとMobikeが自滅をしたために、悠々と都市に進出することができた。

ハローグローバルは過去14回投資を受けているが、そのうち4回にアリババ傘下のアントフィナンシャルの関連会社の名前が見え、アリババ系の企業だと見られている。2019年末にも大型の投資を受け、投資資金の累計は200億元以上だと見られており、現在、シェアリング電動自転車やタクシー配車、ライドシェアにも進出を始め、滴滴出行と事業ドメインが似通ってきている。

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▲Hello Bikeは、2017年のシェアリング自転車大戦では、都市ではなく、郊外や観光地を中心に展開をしていた。都市部でofoとMobikeが破綻をすると、Hello Bikeは都市部の進出をした。

 

ofo買収からBlue GoGo買収に切り替えた滴滴

DiDi Bikeは、2017年のシェアリング自転車大戦で苦戦をしていたBlue GoGoを、ライドシェアの滴滴出行が買収をしたものだ。滴滴出行は、タクシー配車、ライドシェアの事業を行い、そこにシェアリング自転車を加えることで、都市の公共交通以外のすべてのサービスを提供しようという戦略を持っていた。これにより、都市の移動データを把握することができ、さまざまなビジネスに展開ができるようになるからだ。

当初、滴滴出行はofoの買収に動いていたが、ofoの内情にあまりに問題が多いことを知ると、一転して、Blue GoGoの買収に切り替えた。2020年4月には、10億元の投資を受けたが、8.5億元は滴滴出行で、残りの1.5億元はレジェンドキャピタルとソフトバンクが出資をしていると報道されている。

DiDi Bikeは、滴滴出行のタクシー配車、ライドシェアアプリの中から利用することができ、完全に滴滴系のシェアリング自転車になっている。

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滴滴出行は、タクシーやライドシェアと自転車を組み合わせて、最後の1kmの移動を自転車で補う計画だ。MaaS(マース)化をする第一歩になる。

 

Mobikeを買収した美団

美団は、外売(フードデリバリー)、即時配送を中心に、生活関連サービスのすべてを提供することを目指していて、その一環として、シェアリング自転車に進出をしたがっていた。2018年に経営が難しくなったMobikeを27億ドルで買収した。当時、Mobikeの企業価値は50億ドルと見積もられていたので、美団にとってはいい買い物だった。

その後、美団アプリからシェアリング自転車も利用できるようになり、名称もMobikeから美団自転車に変更された。

 

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▲グルメサービス、エンタメサービスなどを展開する美団は、Blue GoGoを買収してシェアリング自転車サービスを始めた。街中に外出する時のすべての情報とサービスを提供する美団の理念を実現するひとつとして考えられている。

 

母企業とのシナジー効果を狙うシェアリング自転車

2017年のシェアリング自転車大戦は、ofoとMobikeというスタートアップ企業が中心となっていた。スタートアップは市場シェアを握れなければ、撤退する以外の道はない。そのため、競争が過熱をした。

しかし、現在のシェアリング自転車大戦は、アリババ、滴滴出行、美団という大企業が背後についている。そのため、強引にシェアを取りに行く必要はなく、それぞれの企業が展開する事業とのシナジー効果を狙う戦略が採られている。これにより、過剰な投入や過剰なクーポン合戦は影を潜め、地道に利用数を伸ばすという適正な競争に向かおうとしている。

 

需給バランスが適正化され、定着段階に進んだシェアリング自転車

北京市交通委員会の統計によると、2019年上半期の1日のシェアリング自転車利用回数は160.4万回で、1台あたりの回転率は1.1回になっている。しかし、下半期になると冬という自転車にとっては向かない季節を挟むこともあり、1日の利用回数は127.2万回に減少している。しかし、1台あたりの回転率は1.4回に上昇している。つまり、需要に応じて、投入する自転車の量が調整できているということだ。

以前とは違ったシェアリング自転車の競争が始まり、ようやくシェアリング自転車が生活の中に定着する段階に進んだ。

 

5Gエリアの拡大により、各地で導入される自動運転ロボバス

長沙市に続いて鄭州市でもロボバスの導入が始まった。バス路線を整備することで、専用バスレーンを走り、信号はバスの進行に合わせて青になるというものだ。自動運転には5G通信エリアの拡大が決め手になっていると大河網が報じた。

 

ロボバスが目指すのは無人運転による弾力的な運行

中国各地で、L4+5Gの自動運転バス=ロボバスの運行、試験運行が始まっている。L4自動運転は、一定条件下での自動運転。固定路線を走行する路線バスは、この条件を整えやすく、自動運転を実現しやすい。さらに、5G通信を使って、リモート監視、緊急時にはリモート停止させる機能を備えることで、運転手や安全監視員が乗務をしない完全無人化も可能になる。

ロボバスが目指しているのは、この完全無人運転だ。路線バスは道路状況の影響により遅延しやすい。この遅延により、乗客が偏り車内が混雑をする。遅れる、混むという理由で、バス離れが起きていく。

これを解決するためには、適宜、臨時増発をすればいいが、多くの場合、運転手の手配に時間がかかり、機敏な対応が取れない。完全無人化をすれば、車両さえあればいくらでも増発ができるようになり、弾力的な運行が可能になる。これにより、バスの利便性と快適性が上がり、バス利用が増えていくことになる。

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鄭州市に導入されたロボバス。自動運転はL3だが、バス路線の整備、5G通信を活用することで自動運転を実現している。

 

L3+5G+環境整備でロボバスを実現する鄭州

すでに長沙市では、2018年から試験運行を始め、今年2020年4月から15kmの路線に10台のロボバスを投入して、正式営業を始めている。

続いて、河南省鄭州市でも、宇通客車製のロボバスを投入し、試験運行を始めた。鄭州市民であれば誰でも無料で乗ることができる。このロボバス座席数26、乗客数80人で、全長12m。平均速度時速25kmで走行するが、一部では最高時速50kmで走行する。19のバス停がある全長17.4kmの路線に12台のロボバスが投入される。

このロボバスは、L3自動運転だが、路線に専用バスレーンを整備し、黄色車線のガイドラインを引くことで、L4と変わらない自動運転を実現している。運転席には安全監視員が乗務をし、万が一、自動運転条件を外れることがあれば、手動運転で介入をする。

また、5G通信を介して、交通信号などの道路設備と通信を行い、交差点通過時は、ロボバス優先で、交通信号が青になる。ロボバスの位置と走行速度を計算し、赤信号の時間を短縮することで、ロボバスがオールグリーンになるようにしている。

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▲ロボバスの運転席に座っているのは監視員で、運転はしない。緊急時に停車させるなどの操作を行う。

 

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▲車内は普通のバスと何も変わらない。すでに市民の足として、普通に利用されている。

 

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鄭州市のロボバス投入路線のバス停は、六角形をモチーフにした近未来デザインのものになった。

 

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▲バス停には5G通信が整備されるだけでなく、WiFi、充電設備なども設置されている。

 

5Gのエリア拡大がロボバスを実現可能にしている

河南省と宇通客車は、河南省智慧島でも、4台の8人乗りL4自動運転バスの実証実験を行っていて、すでに乗客を乗せて1万kmを走行している。

このように各地でロボバスの運行、試験運行が続くのは、5Gのカバーエリアが広がってきたからだ。バス路線にそって5G基地局を整備して、5Gによりリモート監視を行うことでロボバスの運行が可能になっている。

今後も、中国各地で、5Gとロボバスがセットでエリアを拡大していくことになる。

ローカル路線バス乗り継ぎの旅 <NL>出雲~枕崎編

ローカル路線バス乗り継ぎの旅 <NL>出雲~枕崎編

  • 発売日: 2016/05/13
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下手くそな似顔絵から、リアルな顔写真を生成するDeepFaceDrawing

北京市の中国科学院の研究チームが、手書きの似顔絵からリアルな顔写真を生成する人工知能DeepFaceDrawingを開発した。今年2020年7月にオンラインで開催されたSIGGRAPH2020で論文が発表されたと十輪網が報じた。

 

素人が描いた下手くそな似顔絵から顔写真を生成

このDeepFaceDrawingは、手書きの似顔絵からリアルな顔写真を生成する。

このような線画からリアルな写真を生成する技術は、以前にもPix2Pixなどがあった。Pix2Pixは、線画などからリアルな映像を生成したり、モノクロ写真をカラー化する、昼の風景写真から夜の風景写真を生成するなどということができた。しかし、問題は、正確な元画像を用意しなければならない点だった。素人が描いた歪んだスケッチを元画像とした場合、その歪みまでもリアルに再現されてしまう。

DeepFaceDrawingは、素人が描いた下手くそな似顔絵でも、それらしくリアルな形状に変換をして生成してくれる。この点が大きなポイントになっている。

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▲DeepFaceDrawingの実例。上の手書きの似顔絵から、下のリアルな顔写真を生成する。似顔絵の中には、明らかにトレーニングを受けていない素人の絵も混ざっていることに注目していただきたい。

 


DeepFaceDrawing: Deep Generation of Face Images from Sketches

▲DeepFaceDrawingのリアルタイムセッションの動画。手書きスケッチから顔のパーツの輪郭線を抽出し、それにあった顔パーツ映像を合成していく。輪郭線と顔パーツの関係を機械学習させた。

 

パーツごとに似顔絵線と写真の関係を機械学習

DeepFaceDrawingでは、人の顔を、目、鼻、口、輪郭、髪型の5つのパーツに分けて考える。まず、データバンクから、似顔絵に似た写真を選び、それから5つのパーツごとに輪郭線を抽出し、写真の対応するパーツを変形させていく。最後に全体のバランスを整え、写真ができあがる。

ところが、スケッチの輪郭線は不完全なことが多い。手書きであるために歪んでいたり、スケッチを描いた人の技術が不足をして特徴を表現しきれていないことが当たり前のようにある。そこで、DeepFaceDrawingでは、5つのパーツごとに、手書きスケッチとリアルな写真の関係を機械学習させ、不完全な手書きスケッチから、リアルな顔写真を生成することに成功した。

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▲DeepFaceDrawingの機械学習の仕組み。似顔絵の顔を5つのパーツに分解、それぞれの輪郭線を抽出し、その輪郭線とリアルな写真の適合を機械学習させた。

 

「緩やかな拘束」が実現の鍵

従来の画像生成エンジンでは、拘束条件が厳密すぎて、手書きスケッチの歪みがそのまま写真に反映されてしまっていた。しかし、DeepFaceDrawingは機械学習によって「緩やかな拘束」を実現することにより、不完全なスケッチからリアルで自然な顔写真を生成することに成功をしている。

ただし、まだ課題も多い。研究チームでは1万7000件の生成を既に行っているが、生成されるのは、多くは白人かラテン系人種になってしまう。これはアルゴリズムの問題ではなく、学習に使ったデータセットが偏っていたためだ。今後、さらに幅広くデータを収集して、学習を進めていくという。

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▲スケッチから写真を生成する人工知能は、すでにPix2pixなどさまざまある。既存の人工知能と比較をした。既存のものはきれいな顔写真を生成することができず、気味の悪い顔になってしまっている。最下段がDeepFaceDrawingで、自然な顔写真になっている。

 

写真を見ながら、自分のスケッチを直していける

このDeepFaceDrawingが面白いのは、手書きスケッチからリアルな顔写真を生成して、その顔写真を見て、元のスケッチを修正し、再び新たな顔写真を生成するということを繰り返していくことができる点だ。つまり、スケッチだけを見て、上手く描けているのかを確かめるのではなく、リアルな写真を見て、スケッチがうまく描けているかどうかを確かめることができる。

スケッチが上手くない素人というのは、精密に表現できる「線」を見つけることができない。スケッチが上手な人は、線を描いてみて、その線のどこが問題であるかを瞬時に発見し、修正ができる。このDeepFaceDrawingを使うと、素人でも自分の描いた線の評価が、生成されたリアルな写真でできるようになり、線を修正していくことができるようになる。お絵かきの学び方ががらりと変わることになる。

また、生成される画像の精度があがれば、写真のレタッチ、修正、合成、あるいは現実には存在しない風景の生成などが、ペンタブレットで簡単にできるようになる。応用範囲は広い。

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▲DeepFaceDrawingは他の画像にも応用できる。モノクロ写真のカラー化、グラフィックから写真の生成、昼の風景写真から夜の風景写真を生成など、さまざまな画像加工に応用ができる。

 

 

国際的な人工知能高級人材の29%は中国人。米中関係悪化が人工知能研究に与える影響とは

米中の関係悪化が、米国の人工知能研究や産業への応用に悪影響を与えるのではないかという研究結果が報告された。今や、米国の人工知能の最先端研究人材の29%は中国の大学が供給しているからだとニューヨークタイムズが報じた。

 

ペンタゴンのプロジェクトにも中国人研究者が参加

この調査はNeurIPS 2019(Conference on Neural Information Processing Systems)に提出された1400件以上の論文から175の論文、671人の著者について調べたもの。NeurIPSは人工知能機械学習分野のトップクラスのカンファランス。

国防総省ペンタゴン)は、軍事に人工知能を応用するプロジェクト「プロジェクト・メイブン」を立ち上げた。これはグーグルの人工知能研究者12人のチームと協働して行うものだった。ところが、12人のうち2人が中国人だった。

国防総省は特に問題ないという見解だった。このプロジェクトは純粋な研究で、国防秘密や機密データに触れるわけではないからだ。

しかし、米中の関係悪化により、米国の先進的な研究に中国人が関わることが制限されようとしている。このことが多くの先進的研究者の頭を悩ませているという。米国の最先端人工知能研究は、もはや中国人抜きでは成立しないところまできているからだ。

シンクタンク「マクロポロ」の調査によると、人工知能関連の国際学会で採択され発表された論文の著者の1/3が中国人であり、出身国別では最も多かった。また、その中国人のほとんどが、米国に住み、米国の大学や企業に所属をしていた。

 

中国の大学を卒業し、米国に留学、就職が半数以上

中国は人工知能研究を重点研究分野と定め、各大学の人工知能関連研究に多額の投資を行っているが、学生たちは中国の大学を卒業すると、自由で、最先端の応用がされている米国の大学や企業に所属をしたがる。

中国の大学を卒業し、学士学位を取得した人工知能分野の高級人材(ほとんどが中国人)の54%が、米国で修士、博士の学位を取得し、やはり54%の中国人が米国で働いている。

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▲中国の大学を卒業した人工知能高級人材の54%は米国の大学院に進学し、その後米国企業で職を得ている。

 

ビザ発給の取り消しは、米国の人工知能研究に打撃を与える

一方で、米国政府は、中国人民解放軍と関係のある大学と関係する留学生、研究者のビザを無効にすることを議論している。

これは中国の人工知能戦略を破壊するが、米国の人工知能応用分野も破壊することになる。それどころか、マクロポロのアナリスト、マット・シーハン氏は深刻な懸念があるという。それは、もし米国が中国のトップ研究者たちのビザを取り消せば、中国政府は彼らを大歓迎して中国の大学や企業に迎える政策を打つだろうということだ。人工知能分野での、米国の優位性が失われ、この分野で中国に抜かれてしまう危険性があるという。

 

高級人材の出身大学で最も多いのは中国

NeurIPSの論文の調査では、著者が大学時代、大学院時代、卒業後、どの国で論文を書いているかを調べた。すると、大学時代は中国で書かれた論文が29%と最も多いが、大学院以降は米国が圧倒的に多くなる。これも、中国の大学を卒業した中国人が、米国の大学院に留学をし、米国企業で働いていることを示している。

つまり、米国の人工知能研究分野では、中国の大学出身者=ほぼすべてが中国人の勢力が最も多くなっているのだ。

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人工知能高級人材の、大学、大学院、就職の3つのステージで、どの国にいたかを分析したグラフ。高級人材の29%が中国の大学を卒業している。そのほとんどが中国人だと推定できる。しかし、高級人材の半数以上は、米国の大学院に進み、米国の企業で働いている。つまり、中国人の多くが米国に留学をし、職を得ていると推定できる。出身大学=出身国だと見做せば、国際的な人工知能高級人材の中で、最も大きな勢力はすでに中国人になっている。

 

米中の関係悪化が、人工知能に与える影響

国防総省では、外国人が機密プロジェクトに加わることを制限している。しかし、人工知能の分野は別扱いになっているという。グーグルが参加をしたプロジェクト・メイブンでは、ドローンで撮影した映像から車両や建築物を画像解析して、種類などを識別する研究を行っていた。これは軍事研究とはいうものの、その技術は一般産業にも広く応用できるもので、論文の公開も制限されていない。

人工知能の研究者の間には、得られた知見を積極的に公開して、世界の研究者で共有し、さらに発展させたいという空気感がある。国防総省も、そのような事情を理解し、研究課題を設定し、民間の研究者の協力を求めている。

しかし、米中の関係悪化で事情が変わりつつある。グーグルの一部の従業員から、国防総省の軍事研究にグーグルが関わることに対しての抗議があり、グーグルはプロジェクト・メイブンの契約を更新することを辞退した。

また、シアトルのアレン人工知能研究所のオレン・エツィオーニ氏によると、米国政府の中国人研究者に対するビザ取消政策を懸念して、中国人研究者の求職が大幅に減少しているという。

米中の関係悪化は、互いの国益をめぐり、さまざまな駆け引きがされるのだろうが、少なくとも最先端の人工知能研究にとっては、誰も得をしないどころか、全員が損失を被ることになるのではないかと懸念されている。

 

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テンセントが深圳市にネットシティ建設計画を発表。データ駆動型設計の都市が年内に着工

テンセントは、米国の建築設計事務所NBBJとともに、深圳大鏟湾にネットシティを建設する。約200万平米(東京ドーム40個分)という広大なもので、7年以内に完成をすると前瞻網が報じた。

 

ビッグデータでデザインをするコンピュテイショナルデザイン

NBBJは米国シアトルの設計事務所で、グーグル、アマゾン、サムスンなどのオフィスを手掛けている。中国では、アリペイ、テンセントの本社ビルを手掛けている。

その手法は、コンピュテイショナルデザインだと呼ばれる。その施設の利用者がどのような行動をするのかを大量のデータからシミュレートし、デザインを決定していくというデータ駆動型のデザイン手法を使っている。この感覚が、テック企業に歓迎されているのだ。

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▲深圳大鏟湾の埋立地にテンセントのネットシティは建設される。年内に着工予定。

 

自然とデジタルが共生する都市

そのNBBJがテンセントと共同で、深圳市にネットシティを構築する。しかし、わかりやすいハイテクデザインにはならないようだ。「生命」を基本に置き、持続可能な都市を目指すという。

そのひとつが中国側から提出された「海綿都市」だ。雨水をすぐに排出してしまうんのではなく、都市が保持をし、有効利用する。海岸線には植林がされ、建築物の屋上は緑化される。

年内に着工し、7年以内に完成するという。

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▲ネットシティは自然とデジタルの共生が大きなテーマになる。水と緑の多い完成予想図が公開されている。

 

グーグルはサイドウォークトロント計画を断念

テンセントは2017年末に、新社屋の利用を始めたばかり。この設計もNBBJだった。しかし、業務が拡大するテンセントでは、すぐにオフィスが不足するようになってしまった。当面は賃貸で間に合わすにしても、数年内にさらにオフィスビルを建築する必要があると判断された。

2017年10月、グーグル関連企業のサイドウォークラボが、トロントにスマートシティ「サイドウォークトロント」を建設すると発表した。12エーカー(4.8万平米)の街で、木造の高層ビルが建築されるというものだった。グーグルらしく住民の行動データを管理し、快適な生活を実現するというものだった。

しかし、住民の行動情報を取得することに対する批判、新型コロナウイルスの感染拡大により、今年2020年5月に、計画の停止が宣言されている。

この計画に、テンセントが刺激を受けたのだと見られている。

 

都市交通のデザインが大きく変わる

テンセントのネットシティは、都市交通のデザインがポイントになるようだ。一般的な中国の都市では、自動車の通行が優先され、都市のデザインは、東西の直線道路と環状道路で構成されるのが一般的だ。しかし、ネットシティでは、近距離の移動は徒歩、中距離は自転車、長距離は地下鉄が基本になり、直線道路がなくなり、ブロックごとで生活が完結するデザインとなるようだ。また、EV、通勤EVバスなどは地下道路を通行し、地表の歩行者と分離される。

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▲従来の都市設計は、車を優先して道路を先にデザインするものだった。ネットシティでは、人の動き、心地よさなどを優先して設計される。

 

日本のウーブンシティのライバルとなるか

このような複雑な都市デザインを構築するのに、NBBJのコンピュテイショナルデザインが役に立つ。移動ルートが複雑になることは、居住者の利便性を損なってしまうことになるが、小さなブロックで生活が完結するようにし、移動距離そのものを短くする。それにより、都市全体の交通渋滞や混雑によるストレスを緩和することができる。

これを実現するために、データシミュレーションを重ねるコンピュテイショナルデザインが有効だという。

2020年初頭、トヨタ静岡県裾野市にウーブンシティを建設することを発表した。米国でもサイドウォークトロントの計画は中断したが、同様のスマートシティ計画は今後も出てくることになる。日米中は、スマートシティで競い合うことになる。

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▲長距離都市交通は地下に納められ、地上は歩行者が主体となる。コンパクトな範囲で生活が完結するようにし、移動距離を短くする設計が行われる。