中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

アプリ利用時間で強いテンセントとバイトダンス。弱いアリババと百度

中国の2020年第1四半期(1月から3月)までは、ちょうど新型コロナの感染拡大期にあたっている。調査会社AURORA極光の「2020年Q1モバイルネットユーザー業界データ研究報告」によると、利用時間が大幅に伸びていることがわかったと金融投資報が報じた。

 

コロナでムービーとゲームの利用時間が増大

報告によると、平均でインストールされているアプリ数は63個、1日のアプリ使用時間は6.7時間となり、昨年同時期よりも2.4時間伸びた。もともとアプリ利用時間は延びる傾向にあったが、コロナ禍による外出自粛で大幅に伸びた形だ。

ジャンル別の利用時間を見ると、ショートムービー、ゲームが伸びた一方で、SNS、ニュース、ECが減少をしている。ゲームは増減を繰り返していたものがコロナ禍により伸びた形だが、その他のショートムービーの増加、SNS、ニュース、ECの減少は以前からの傾向がコロナ禍により加速をした。

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▲1日あたりのアプリ平均利用時間は以前から伸びる傾向があったが、コロナ感染拡大期に伸びが加速した。

 

進む「宅経済」

このような傾向は、コロナ禍により「宅経済」が進んだためだ。消費の場は街中から自宅になり、フードデリバリー、店舗ECなどを使い、自宅で体を動かすことができるヨガ、トレーニングの愛好者も増え、リモート医療も普及をした。スマートフォンで、ショートムービー、ムービー、コミック、ゲームなどを楽しむようになった。

さらに、学生たちはオンライン授業が進み、大人たちは在宅リモートワークが進み始めている。

このような宅経済に関係するアプリの月間使用時間は、コロナ禍で急速に増えている。

面白いのはECだ。ECの利用率は、短時間で配送してくれる生鮮EC、店舗ECなどであがっている。しかし、ECアプリそのものの利用時間は減少をしている。これは、以前は、ECアプリを開いて、欲しいものを探すウィンドウショッピング的な使い方をしていたものが、必要なものをすぐに買うために利用時間が短くなっているのだと思われる。

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▲アプリのジャンルごとの利用時間シェア。ショートムービーとゲームが伸び、SNS、ニュース、ECなどが短くなった。



利用時間シェアで圧倒的に強いテンセントとバイトダンス

浸透率(装着率)のランキングを見ると、やはり圧倒的に強いのはテンセントのSNS「WeChat」「QQ」、アリババの「アリペイ」「タオバオ」となる。

これを、アプリの運営元別に見て見ると、多くの人が「テンセント」「アリババ」「百度」「バイトダンス」の4社のアプリを使っていることがわかる。

しかし、これを時間シェア(1日の利用時間の占有シェア)で見てみると、圧倒的にテンセントが強く、バイトダンスは浸透率ではBAT3社に劣るのに、時間シェアでは2位に躍り出る。

テンセントのSNS「WeChat」は、SNS機能自体は利用時間が減少をしているが、ミニプログラムを利用したスーパーアプリ化をしたため、SNS以外の利用時間が伸びている。さらに、テンセントは音楽、ムービー、ゲームといったコンテンツ配信を成功させている。

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▲各アプリの装着率のランキング。WeChatは88.4%のスマホユーザーがインストールしていて、国民的アプリになっている。

 

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▲運営元別装着率。テンセント、アリババ、百度、バイトダンス。多くのスマホユーザーが、この上位4社のいずれのかのアプリを使っている。

 

アリババ、百度は利用時間が減少傾向

一方、アリババは決済やECなどの消費系アプリが多く、百度は検索、地図などの情報検索系のアプリが多い。このような非コンテンツ系アプリは、利便性を高くすればするほど、操作がシンプルになり、利用時間は短くなっていくことになる。

アプリにとって、利用時間が長ければいいということにはならないが、利用時間が長い=利用者の時間を占有できるということは、利益に転化できるチャンスが多いということだ。

アリババは優酷、百度は愛奇芸といムービーストリーミングサービスを展開しているが、その他のコンテンツ系サービスが弱い。アリババ、百度にとって、どのようにしてSNSコンテンツ系サービスを育てていくかが今後の課題になっている。

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▲運営元別の利用時間のシェア。WeChatを持つテンセントが圧倒的。バイトダンスは装着率では4位なのに、利用時間は長い。EC、検索、ツールなどのアプリが主体のアリババと百度は、装着率の割に利用時間は短い。

 

 

MaaSにいちばん近い企業。滴滴出行の現在

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 028が発行になります。

 

MaaS(マース、Mobility As A Service)という言葉が話題になっています。移動手段のサービス化という意味で、究極の姿は移動手段のサブスク化です。スマホに「明日の6時までに沖縄県那覇市にいたい」と伝えると、必要なルート検索をし、予約が必要な移動手段には自動的に予約を入れてくれる。料金は月額定額制で移動し放題。

そんな夢のようなことが実現できるかはともかく、移動コストが定額になることで、人の移動量は爆発的に増加します。それにより社会が大きく変革されていくという考え方です。しかし、コロナ禍により、人々は移動を控えるようになり、MaaSが目指すべきものも変わってくることになるでしょう。

 

そもそも、そんな夢のようなことが実現できるのかという問題もあります。そこで一般的には5つのレベルに分けられ、それに従って進化をしていくと考えられています。

レベル0:統合なし。鉄道、バス、自動車などがそれぞれ独立でサービスを提供している状態。現在の状況です。

レベル1:情報の統合。利用者が目的地に移動するのに必要な手段の情報が横断的に提供される。グーグルマップの経路検索や乗り換え案内アプリなどの状態です。

レベル2:予約、決済の統合。経路検索でルートが決まったら、必要な予約、決済ができるというもの。乗り換え案内アプリで経路検索をして、実行すると、予約と決済が行われ、あとはスマホをかざすだけですべての移動手段が利用できるというイメージです。

レベル3:サービスの統合。各移動手段で料金体系も統合される。例えば、目的地まで異なる移動手段を使っても料金は同じであるとか、同一市内の交通手段は月額定額制で乗り放題とかになります。利用者にとっては料金体系が分かりやすくなり、サービス提供側は利用頻度に応じて収益を比例分配していきます。

レベル4:政策の統合。国や自治体が、MaaSを前提とした都市開発計画を立てていくというものです。

 

お分かりのとおり、日本はMaaSレベル1の段階です。MaaS先進国と言われるフィンランドのでは、Whim(https://whimapp.com/)というアプリを使って、電車、バス、タクシー、シェアリング自転車、レンタカーなどのモビリティサービスを一括して、予約、決済できるようになっています。つまり、MaaSレベル2が実現できています。

日本でも、トヨタが推進するmy routeが福岡市、北九州市で、西鉄バスJR九州の他、トヨタのカーシェアサービスが一括でルート検索でき、チケットの購入、決済などができるようになっています。また、1日定額フリー乗車券などもアプリ内で購入することができます。

このようにMaaSレベル2の試みも始まっていますが、独立しているモビリティサービスがプラットフォームに参加をしてもらうことが必要で、サービス拡充、地域拡大には時間がかかります。

 

中国で、最もこのMaaSレベル2に近いポジションにいる企業が滴滴出行(ディーディー)です。滴滴では、タクシー配車、ライドシェア、ハイヤー、シェア自転車が利用でき、さらにオンデマンドバス、運転代行などのサービスも提供し、さらには公共バスの運行代行も始めています。

中国の場合、鉄道、地下鉄、バスは基本的に公営なので、公共交通と航空機以外は、滴滴出行がほとんどカバーをしている状況です。

滴滴出向は、未上場ですが、企業価値は3300億元(約5兆円)と言われています。これはホンダとほぼ同じ規模です。それなのに上場をしない理由は、まだまだ大きな成長をする必要があるからです。上場をしてしまうと、大きな意思決定をするときに一定の手順を経る必要が生まれ、決断スピードが鈍るのを嫌っているのだと言われています。

実際、その成長の方向が見え始めています。滴滴は、上海でロボタクシーの試験営業を始めました。実際に乗客を乗せての営業です。運転席に監視員が乗務しますが、自動運転が許可されている地域内では運転をしないという無人運転です。このロボタクシーを2030年までに100万台投入するということを発表しています。

 

つまり、滴滴出行は、自動運転によりロボタクシーを推進し、運営コストを究極に小さくした上で、公共交通、ロボバス、ロボタクシー、シェアリング自転車という組み合わせでMaaSを実現していこうとしています。中国の航空機、公共交通はオープンデータ化が進んでいるので、予約、決済もAPI化されているので、滴滴はすでにMaaSアプリを開発しようと思えばできる状況になっています。

それにはまだまだ時間が必要ですが、1社でできる分、進み出せば案外早く実現できるかもしれません。そもそも滴滴出行は、まだ創業して8年の若い企業なのです。ゼロから始めて、企業価値3300億元まで成長しました。

この滴滴という企業はいったいどういう企業なのでしょうか。今回は、滴滴出行という企業についてご紹介します。

 

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前置倉型生鮮ECの強みと弱みはどこにあるか。拡大スピードの適切な調整が鍵

コロナ禍により、需要が急増した生鮮EC。終息とともに需要は落ち着きを見せている。この急需要のうちどのくらいを留存させられるかが、今後の成長の鍵になる。上海理工大学管理学院の研究者が、上海のディンドン買菜の事例に基づき、生鮮ECの強みと弱みを分析している。その論文は、経済研究導刊2019年35期に掲載されている。

 

ECでは扱いが難しい生鮮食料品

現在、中国で最も成長している市場が生鮮EC市場だ。スマートフォンで、野菜、肉、魚などの生鮮食材を注文すると、30分程度で宅配をしてくれるというもの。もともとは、通常のECが食材を扱うところから出発したが、この方式はうまくいかなかった。翌日配送であるために不在の場合があるが、生鮮食材は宅配ボックスに置いていくわけにはいかない。また、配送時間が長時間にわたるため温度管理もしなければならない。配送にコストがかかりすぎ、消費者からは「明日の献立を先に決め、今日注文しておかなければならない」という煩わしさがあった。

 

生鮮ECを実現する前置倉、店倉合一の発想

これを解決するアイディアが「前置倉」だった。配送する消費者のそばに倉庫を作り、あらかじめそこに配送しておけば、宅配時間が短縮できるという考え方だ。消費者が注文をした場合、近くの倉庫から宅配が行われる。

ひとつの倉庫は、周辺1kmから3kmの範囲の配送を担当し、このような倉庫を多数配置していくことで、市内全域をカバーをしていく。ちょうど日本のコンビニの出店のような感覚だ。ただし、倉庫なので、お客がきて買い物をすることはできない。お客がくる場所ではないので、家賃の安い裏通りという立地でもかまわない。

これをさらに発展させて、倉庫を大型化し、店舗にもしてしまう「店倉合一」という考え方を採用したのが、アリババの盒馬鮮生(フーマフレッシュ)などに代表される新小売スーパーだ。

上海理工大学管理学院の温振鑫、許学の2人の研究者は、この前置倉方式について、上海の「ディンドン買菜」を例に強みと弱みを分析した論文「生鮮EC前置倉方式の長所短所分析ーーディンドン買菜を例に」を発表した。

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▲前置倉型生鮮ECでは、小規模の倉庫を多数配置して、市内をカバーしていく。倉庫内にはスタッフのみで、注文に応じて、商品をピックアップし、宅配をする。

 

出店場所を選ばない、規模効果を得やすい

ディンドン買菜は、上海でサービスを提供していて200以上の前置倉を配置し、上海の中心部をほぼカバーしている。注文から29分で配達する。ディンドンでは、上海市内に倉庫数500以上、配送時間15分を現在の目標として成長中だ。

前置倉の長所は2つある。

ひとつは出店場所の選択の幅が大きいことだ。実体店舗であれば、店の前の人の流量がほぼすべてを決めてしまうが、倉庫であるために、配送先の消費者に近い場所であれば、倉庫前の人の流量は考慮する必要がない。そのため、空きオフィス、空き工場、空き倉庫など、コストのやすい物件を利用することができる。特に、家賃の高い大都市で、このような低コストの物件を活用できることは大きな利点となる。

もうひとつが規模効果を活用しやすいことだ。ディンドンは現在、ひとつの倉庫で半径3km圏内をカバーしているが、前置倉の理想状態は「半径2kmをカバーし、その圏内に5万人の40歳代以下が居住している地域」だ。当然、都市部が中心になる。しかし、この5万人の消費者を掘り起こすことができれば、その規模効果は大きい。一括仕入れする食材のコストを下げられることになり、そこで利益を生み出せるようになる。

また、生鮮ECは「自宅で料理をする食材を提供する」のが基本で、生鮮食料品の他、調理に必要な調味料や副食品も提供する。生鮮食料品の利益率はきわめて低いが、調味料や副食品などの利益率は高い。このような利益率の異なる商品を同時に販売することで、総合的な利益率を見て、メインの商品である生鮮食料品の価格を下げ、競争力をますことができる。つまり、極端に言えば、生鮮食料品は赤字でも、調味料や副食品で利益を出すといったことも可能になる。

このような調整ができるのも、全体の販売量が大規模になればこそだ。前置倉は店舗ではないので、出店に関する当局の規制も少ない。スピーディーに前置倉ネットワークを拡大していくことができる。

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上海市でサービスを提供するディンドン買菜。看板を出しているが店舗ではなく、倉庫であるため、一般の客が買い物をすることはできない。すべて宅配を行う。看板を出しているのは、人々の記憶に残し、マインドシェアを高めるため。

 

ビジネスモデルが単純、地方への進出が難しい、初期投資が必要

前置倉にはもちろん長所ばかりではなく、短所もある。短所は3つあるという。

ひとつは、ビジネスモデルが単純であるということだ。生鮮食料品を仕入れて、それを販売する。収入源は売上のみということになる。スーパーの場合、生鮮食料品以外の商品も扱い、また店舗の一部を飲食店に賃貸するなども可能。また、人が集まる店舗であることを利用して、シェアリングサイクルの拠点にしたり、イベント開催など、他のビジネスも考え、収入源を多角化させることができるが、前置倉の場合は、そのような多角化が難しい。

2つ目は、地方都市への進出が難しいことだ。現在、ディンドンの客単価は45元前後で、月によって0.5元程度変動する。1回の配送コスト、販促コストの合計はは22元程度で、残りの23元から仕入れ値を引いたものが利益となる。しかし、これは大都市でも中心地域だから成立する話で、同じ上海市でも下町のスーパーの客単価は20元から30元だ。つまり、ディンドンが下町に進出した場合、利益はほとんどでないことになってしまう。ましてや地方都市に展開をしていくのは、ごく限られた地域になってしまう。

3つ目の問題が、初期投資に大量の資金が必要になることだ。前置倉を出店するだけであれば、そう大きな資金は必要ないが、物流網の構築には大量の資金が必要になる。各食材の生産地から、中央倉庫に配送し、そこから各前置倉に温度管理をした配送ネットワークを構築する必要がある。ここを外部委託することも不可能ではないが、その場合は、生鮮ECとしての競争力は弱くなる。理想は「ここでしか買えない良質の商品をお買い得価格で」だ。

すでに、美団買菜、フーマフレッシュなどの資本力のある生鮮ECが参入をしてきている。ディンドンのようなスタートアップ企業にとっては、この資本力の問題が最大の痛点で、投資資金が途切れただけで倒れてしまうというリスクが常に付き纏うことになる。

 

課題は拡大スピードの適切な調整

2人の研究者は、前置倉方式の生鮮ECが乗り越えるべき課題も3つ示している。

ひとつは、利用者の留存率を高める施策を増やすことだ。新しいサービスでは、新顧客を獲得するための施策を打ち、利用者数の拡大を図るが、同時にライバルサービスへの流出も多い。サービスがある程度軌道に乗ってくると、新規顧客の獲得コストよりも、既存ユーザーを留存させるコストの方が低くなる。ディンドンもすでにその段階に入っている。新顧客よりも既存顧客をとどめおく施策に転換をしていく必要がある。

2つ目は、当たり前だが運営コストを下げることだ。ディンドンでは2020年に黒字化の見通しを持っている。拡大期には、莫大な初期投資が必要となるため、通常運転の運営コストの削減にあまり目がいかない。しかし、黒字化が見えている今、通常運転コストを下げることが重要になってくる。

3つ目は、拡大スピードの調整だ。ディンドンのような独立スタートアップが、拡大路線で、美団やアリババのような資金力のある企業と競い合うのは不利だ。ディンドンはすでに上海市全域をほぼカバーし、次の戦略が注目されている。ここで他都市展開をするのではなく、いったん上海市でのブランド価値を高めることに努めて、それから他都市展開をする方が成功確率が高い。その点で、ディンドンは、上海市での倉庫数を500に増やし、15分配送を実現するというブランド価値を高める次の目標は理にかなっている。

 

コロナに負けない飲食店経営者たち。Tik Tok、外売、マスクの大量販売

コロナ禍により、飲食店は、2月、3月はほぼ休業、4月から再開をしても客足は戻らないという打撃を受けている。猟雲網は、北京市の2人の飲食店経営者、1人のコンビニ経営者に取材をして、実情を聞いた。

 

コロナ禍に苦しむ飲食店経営者

中国のコロナ禍は1月から5月まで続いた。感染が拡大するという厳しい状況は3月で一応の終息を見たものの、その後も局所的なクラスター発生が続いている。最も痛手を受けたのは、どの国でも同じ飲食店だ。

多くの飲食店が、1月25日の春節の数日前から、テーブルの間引きを始め、2月と3月は多くの飲食店が休業をした。4月に入り、終息が見えた都市では、飲食店の再開が始まったが、以前のような賑わいは簡単には戻ってこない。各地方政府は、振興策として、飲食消費券の配布を行っているが、なかなか効果が出ていないのが現状だ。

その中で、猟雲網は北京の3人の経営者に取材をした。コロナ禍に打撃を受けているだけでなく、それぞれの経営者がさまざまな工夫をし、戦っている。

 

順調だった火鍋店。新ブランド立ち上げでコロナ禍

私は石磊と言います。1999年に北京にきて、農産物市場に調味料の販売店を開きました。その店のお得意さんの中に、火鍋屋の経営店がいて、親しくなりました。しかし、この火鍋店の経営が思わしくなく、私が買い取ることになったのです。そのようなきっかけで、火鍋店を経営することになりました。

この火鍋店は、有名な小肥羊(シャオフェイヤン)をお手本に営業されていました。私も飲食業をやるのは初めてのことなので、ただ真面目にそのまま経営してみると、次第にお客さんが増え始め、最初の1年で、改装費の30万元(約460万円)が回収できました。

そのまま4、5年経営した後、客層などを考え、北京式の三宝涮肉風に変え、さらにしゃぶしゃぶ、焼き魚など3種類の店舗を出店しました。また、養億人麻辣燙も出店し、この養億人麻辣燙は大好評で、瞬く間に100店舗以上に増えたのです。

そして、10年以上、養億人麻辣燙を経営して、2年前から新しく傻辣児火鍋を開店し、いよいよビジネスが軌道に乗りかかってきたところでした。その時に、コロナ禍が起きてしまったのです。

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北京市政府からの通達で、飲食店はソーシャルディスタンスを取らなければならなくなっている。客足も戻らない。坪効率が低下をし、満席でも利益が出ない構造になってしまっている。

 

Tik TokのライブECを活用して、若者を呼び戻す

コロナ禍が飲食店に与えた打撃はあまりに大きいものでした。私の店があるのはある美食街ですが、5月に入っても、営業再開している飲食店は1/3程度でしかありません。営業を再開しても、お客は戻らず、その間の家賃や人件費は支払わなければなりません。再開をしてみて、やっぱり厳しくて、そのまま閉店してしまう店も増え続けています。

私の傻辣児火鍋の店舗は400平米で、ホールに3人、調理場に3人の従業員を雇っています。コロナ禍以前は、1日の売上が1万7、8千元程度ありましたが、現在は5千元から6千元です。それでも経営者は前向きに考えていかなければなりません。

火鍋は、一般的な中華料理に比べて、お客が早く戻ってくると思います。外食ではなく、家庭で食事を取る頻度が増えましたが、若者はやはり飲食店で楽しく食事をしたいと考えます。若者に訴えかけることができれば、客数を上げることができるのではないか。それに期待をしています。

私は見た目がパッとしないので、以前はライブECには手を出しませんでした。しかし、そうも言っていられません。現在、毎日数時間はライブECの勉強と練習をしています。そして、TikTok上でライブECを行ってみたところ、わずか数日で、数千人のファンがつきました。これをきっかけに傻辣児火鍋をなんとか成功させたい。経営者というのは日々勉強だと言いますが、まさにその通りだと思います。

 

コロナ禍を追い風にした包子チェーン

私は任仕達と言います。モンゴル自治区出身で、国営企業などで働いた後、現在は北京のある有名包子チェーンの経営に参加してします。コロナ禍では、飲食業全体が大きな打撃を受け、多くの店舗がかつてない赤字状態になっています。しかし、私たちにとってはチャンスとなりました。なぜなら、多くの人が各業種のトップブランドに注目をするため、包子チェーンとして有名な私たちのチェーンにとっては追い風が吹いているのです。

昨年の暮れあたりに、武漢で原因不明の肺炎が流行しているという報道が流れた時、私はこれは全国的に流行する可能性があると判断しました。北京ではマスクが買えなくなると思い、その時点で100枚のマスクを購入しておきました。春節の前日に従業員たちとホテルで忘年会をしている時、ホテルの従業員から、今後の宴会のキャンセルが始まっているという話を聞き、これはSARS以上の騒ぎになるのではないかと思いました。

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▲日本の豚まんに近い包子。主食であり、昼食は包子だけという人はけっこう多い。主食は家庭でもあまり作ったりしないということに目をつけ、テイクアウトに活路を見出している包子店が多い。

 

テイクアウトに特化、新商品を次々と開発

春節の間、私たちは通常営業ではなく、外売(テイクアウト)だけにすることにしました。その翌日に、当局から飲食店のホールでの休業命令が出たのです。私たちはすでに外売だけの営業にしていたので、慌てることもありませんでした。たいへんだったのは、従業員がパニックになったことです。自分も感染するのではないかと不安になり、誰かが咳き込んだだけで大騒ぎになります。私は、少しでも体調不良を訴える従業員がいたら、すぐに病院に連れていき、検査をさせました。それを繰り返していると、次第に従業員のパニックも落ち着きを見せ始めました。

コロナ禍の間、包子の外売だけでは売上目標が達成できないため、急遽、新商品である煎餅果子(中華クレープ)を発売しました。この開発はかなりたいへんでした。なぜなら、食品市場が閉鎖されているため、原材料を仕入れられないからです。煎餅果子を包む紙袋ですら調達できないありさまでした。あちこちに声をかけて、原材料を確保して発売してみると、これがとてもよく売れました。熱い食べ物は消毒されているので安心という心理があったのだと思います。

コロナ禍の間、多くの人が外出をせず、家で料理を作って食べるようになりました。しかし、その様子を観察すると、おかずにあたる料理は作るものの、饅頭、花巻、豆包(いずれも小麦による麺食)という主食まで作る人は少なかったのです。小麦粉を練って、蒸すという作業には広い場所が必要になり、小麦粉でキッチンが汚れ、体力も時間も必要になるからです。

そこで、私たちは、店内で饅頭、花巻、豆包を作り、下町に出向き路上販売をしました。手作りであるので、大量生産品よりも美味しく、下町の人たちには好評でした。店舗でも、饅頭、花巻、豆包を外売していることを伝えると、下町の人たちがお店まで買いにきてくれるようになりました。ついでに、包子や煎餅果子なども買っていってくれます。

私たち商売人は社会的責任もあります。コロナ禍の間でも、公共交通の関係者、警官、社区委員会の人々などは業務を止めるわけにはいきません。そこで、このような職業の人たちには、原価だけの特別価格で商品を販売しました。

現在、西貝や海底撈などの大型飲食店が営業を再開していますが、価格を上げています。多くの人が、食材価格が高騰しているからだと理解していますが、業界人の見方は違います。北京市政府の通達によりソーシャルディスタンスを取らなければならず、テーブルには1人しか座れません。以前の1/4の客しか入れることができないのです。これが飲食店の坪効率を下げていて、このままだと赤字営業になってしまい、多くの飲食店が頭を抱えています。

ホールを主体にした飲食店経営は、当分の間、利益が望めません。その間に、資金が続かず倒産してしまう飲食店も出てくることでしょう。私たちは、外売に隘路を見出しています。

 

売上を伸ばすのではなく、減らさないことを考えるコンビニ経営者

私は、斉鸿波と言います。2012年に北京の天通苑と天通南に2軒の好道客コンビニを開きました。毎年3月と4月は売上があがる季節なのですが、今年はまったくだめでした。4月は1日の売上が6000元程度です。昨年の半分以下になってしまいました。コロナ禍以前は、12時間労働、24時間休憩の3チームで2つの店舗を回していましたが、今年は2チームに減らしました。経営者としては、売上をどう伸ばすのかではなく、売上をどう減らさないかを考えるしかなくなっています。

店舗のそばには6軒の飲食店がありますが、チェーンの2軒は営業を再開しているものの、それ以外の4軒は休業したままになっています。営業を再開している2軒のチェーンも、外売(フードデリバリー)だけの営業です。

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▲コンビニ大きな打撃を受けている。住宅街ならまだしも、オフィス街、繁華街のコンビニは人通りがなくなったため、売上は大きく落ち込んだ。

 

マスクの高値販売で通報される

重くのしかかっているのは家賃です。政府は一定期間、家賃免除をする政策を発表しましたが、適用されるのは国営企業や大企業のみで、私たちには関係がありません。

唯一売れた商品がマスクです。春節の前、武漢が都市封鎖される直前、これは大ごとになるとあちこちを駆け回って、4万枚のマスクを仕入れました。これを販売したところ、わずか3日で売り切れてしまいました。しかし、あのような時期であり、仕入れ値も一箱26元から27元と高騰していました。しかし、北京政府からマスクの高値販売が禁止されたため、30元余りで販売するしかなく、利益はごくわずかです。それでも、通常の価格より高い価格での販売となったため、当局に200件を超える通報があったそうです。たいへんな思いをしてマスクを仕入れ、仕入れ値から見れば適正な価格で販売し、利益はほとんどなく、挙げ句の果てに犯罪者扱いです。

春節明けに、北京でマスクが消えて入手できなくなったのはこれが関係しています。適正価格で販売しても、仕入れ値が高いため通常価格よりも高くせざるをえません。しかし、それだと高値販売だとして通報されてしまう。多くの業者が、マスクの高値販売禁止令が解除されるまで、マスクを倉庫に眠らすことになっていました。

コロナの感染拡大は終息をしましたが、人々の気持ちは様変わりしました。例年であれば気候のいい季節になって、人々が外に出てきて笑顔を見せ、街歩きを楽しむようになりますが、今年は、みなマスクをして、うつむいて、早足で目的地に歩いていきます。この変化は大きく、さまざまなビジネスに影響を与えていくことになると感じています。この経験を経て、店舗経営というのはつくづくリスクの高いビジネスであるということを思い知りました。もう、店舗経営というビジネスを新たに始めることはないと思います。

 

個人情報は海外のSNSを使って売買。地下に潜り始めた犯罪集団

個人情報流出事件、売買事件は減少傾向にあると思われていた。SNS人工知能を導入し、違法性のあるメッセージを監視するようになったからだ。しかし、犯罪者集団は海外のSNSを利用して、いまだに売買が行われていると財経雑誌が報じた。

 

謎の多いウェイボー個人情報流出事件

中国ではこのところ、個人情報の違法な売買が少なくなっているかのように見える。QQ、WeChatなどのSNS人工知能を導入し、違法なメッセージのやりとりを監視するようになっているからだ。犯罪集団も、買い手を探すことが難しくなり、一見沈静化をしているかのように見えた。

ところが、今年3月頃から、SNS「ウェイボー」のユーザーたちが、自分の個人情報が流出しているのではないかと騒ぎ始めた。しかし、ウェイボーによると、これは個人情報流出事件ではないという。

2018年末に、ウェイボーでは数百万アカウントのアカウント名情報が違法コピーされるという事件が起きている。しかし、これは公開されているアカウント名のみで、機微性の高い個人情報は含まれていない。携帯電話番号については、ウェイボーの中で、本人が「友人に公開」することはできる。しかし、パスワード、身分証番号などは流出をしていない。大量とは言え、公開情報のみの流出であったため、大きな問題にはならなかった。

今回流出している個人情報は、このアカウント情報に、何らかの方法で、携帯電話番号や身分証番号の情報が付加されて売買されているものだという。どうやって、ウェイボーのアカウントリストに携帯電話番号や身分証番号を付加できたのか、その手法は不明だ。

 

流出事件の2つの謎

この個人情報流出事件には、謎が2つある。ひとつは、違法行為への監視が厳しくなっているSNSで、犯罪集団はどうやって売買の連絡をとっているのかということだ。もうひとつの謎は、ウェイボーのアカウントリストという公開情報に、どうやって携帯電話番号や身分証番号という機微性の高い個人情報を組み合わせることができるのだろうかということだ。

 

海外SNSを使って売買の取引

財経の記者が取材をしてみると、近年の犯罪集団たちは、国内のSNSではなく、海外のSNSを使い連絡取り、そこで個人情報売買のサプライチェーンができあがっていることがわかってきた。

この闇のサプライチェーンでは、さまざまな個人情報が売買されていて、身分証番号、住所、車のナンバー、携帯電話番号、ホテルの宿泊記録などが入手でき、それをSNSのアカウントなどをキーにして、組み合わせることで付加価値を高めて転売をするというビジネスが行われている。

 

プライバシー保護のTelegramが悪用されていた

財経の取材によって、犯罪集団たちはSNSメッセンジャー「Telegram」を使って、個人情報の売買をしていることがわかってきた。

Telegramは、パーベル・ドゥーロフと兄のニコライ・ドゥーロフの2人によって開発された。2006年、二人はロシア版のフェースブックとも言える「フコンタクテ」(VKontakte)を開発した。約2年で、ユーザー数は1000万人を超え、ロシア最大のSNSとなり、二人の会社は企業価値が3億ドルを突破した。

2014年、クリミア東部紛争に伴い、ロシア政府はフコンタクテに対して、ウクライナを支援するリーダーのページを削除し、支援するユーザーの個人情報を提出するように命じた。これに反発した二人は、米国ニューヨークに移住し、Telegramの開発を始めた。

そのため、Telegramは、高度な暗号通信技術が使われ、プライバシーを高度に保護するSNSになっている。メッセージを読んだらすぐに完全削除する機能もある。

この特長が歓迎されて、Telegramは2018年にはユーザー数2億人を突破し、2019年には3億人を突破している。

 

秘匿性の高さを悪用した韓国n番部屋事件

プライバシーを重視する人たち、民主化運動をする人たちが連絡を取る手段として、Telegramを使っているが、同時に露見することを恐れる犯罪集団もTelegramを使い始めた。

2019年には、韓国でn番部屋事件が起きている。Telegram上に1番部屋から8番部屋までの8つのチャットルームが開設され、そこで未成年を含む女性の猥褻な画像、動画が販売されたという事件だ。合法的なポルノではなく、奴隷と呼ばれた女性たちの多くが、意に反して強制されたものであり、個人情報が晒されたケースもある。

中国の個人情報を売買している闇バイヤーたちも、同様にTelegramを使っている。

 

取引は自動応答、支払いは仮想通貨

財経の記者は、Telegramに潜入をし、個人情報の売買を行っているグループを発見した。このグループには4万人が参加し、日々、参加者が増え続けているという。

このグループ内では、常にさまざまな個人情報が売買されていて、本人、家族の戸籍、携帯電話番号、銀行カード番号、タオバオ送付先、SNSアカウントとパスワード、ホテル宿泊記録、旅行乗車記録などが取引されている。

財経が発見したグループでは、応答は自動化されている。メッセージで、必要な個人情報の条件を送ると、データベースが検索されて、その人物の全情報が送られてくる。

利用料は、ビットコインイーサリアムで支払う。記者が潜入した2020年3月時点では、0.358イーサリアムで260ポイントが購入できた。これは大体320元(約4900円)に相当する。そして、1回の検索に10ポイントが必要になる。つまり、1人の個人情報を丸裸にするのに必要なお金は約10元(約150円)程度なのだ。

 

記者が試すと正確な個人情報が表示された

記者は、同僚や友人の携帯電話番号10人分を送信して、検索をかけてみた。わずか3秒で検索結果が表示され、10人のうち9人まで、正しい姓名が表示された。1人は正確なWeChat、ウェイボーのアカウント名が表示され、別の1人については電子メールアドレスとパスワード、住所も表示された。

 

潜入したホワイトハッカーに対する攻撃

2020年3月、ホワイハッカー活動をしている佟林(トン・リン)は、「プライバシーが丸裸!ウェイボー流出事件潜入調査報告」(https://www.freebuf.com/news/230960.html)という文章を公開した。財経記者と同じように、Telegramに潜入し、どのような情報が売買されているのかを調べたものだ。

これは大きな話題となり、その日のうちに10万人が読み、多くのメディアに転載された。

しかし、この活動の代償は大きかった。佟林が極秘裏にTelegramの潜入調査をしている間に、なぜかそのことが知られ、Telegramの中に「佟林ファン」というグループが出現した。佟林がそのグループに入ってみると、彼の名前、電話番号、住所、勤務先、身分証の写真などが晒されていた。その後、佟林は無数のいたずら電話、スパムメッセージに悩まされることになる。

佟林はすぐに使用しているネットサービスのパスワードを、パスワード生成アプリを利用して、すべて異なるランダムなものに変更し、メールアドレスを大量に取得し、連絡を取るたびにメールアドレスの発信元を変えるようにした。

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▲Telegramの佟林ファンというグループに投稿された佟林の身分証の画像。どこで入手したのかわからないが、本物の身分証の写真が投稿され、佟林の個人情報が晒されてしまった。

 

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▲その他、佟林の個人情報が投稿された。さまざまなサービスのアカウントとパスワードなどだが、佟林自身によるとその多くが正確なものだったという。

 

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▲佟林に送られたスパムメッセージ。ユーザー登録の際、SMS認証が送られることを利用されている。登録サイトなどに、佟林の携帯電話番号で勝手に登録をすると佟林の携帯電話に検証コードが記載されたメッセージが送られる。大量に登録をされたため、5秒から10秒ごとにメッセージが届く状態になった。

 

断片情報を統合して付加価値を高めて販売

個人情報の流出は鎮静化していないどころか、水面下で活発化をしている。しかも、犯罪者集団たちも異なるソースの個人情報をマージして、価値のあるデータに変え、その作業の自動化までも行っている。

個人情報流出のソースは3つある。1つは外部ハッカーによる攻撃によるもの。2つ目が「内鬼」と呼ばれる内部の人間による持ち出し。3つ目が、会員制のネットサービスが閉鎖をした時に、持っていた顧客リストを販売して処分してしまうケースだ。

Telegramの業者たちは、このような断片的な個人情報を持ち寄って、統合をすることで価値のあるデータに変え、販売をすることで利益を得ている。

このような「名簿」は、一般企業の見込み客リストなど合法的な形に変えられて、企業などに販売されている。そのような顧客リストがどうやって作られたかをよく考えれば、違法性がじゅうぶんに想像できるが、入手する段階ではまったく違法性がなくなっている。そのため、このような需要がなくならないのだ。

SNSを運営するテンセントや携帯電話キャリア、セキュリティ企業は、人工知能技術を投入して利用者のプライバシー流出を食い止めようとしているが、犯罪手段たちは地下へ地下へと潜っていっている。

近年は、セキュリティ対策が遅れているホテルからの個人情報流出事件が続いている。このような情報も、地下に潜り、統合され、Telegramで売買されることになる。

プライバシーを守るために開発されたTelegramが、プライバシーを侵害するために使われているという皮肉なことになっている。

 

コロナ終息後のキーワードは「宅消費」「周辺游」「忙復工」

新型コロナ終息後の中国では「宅消費」「周辺游」「忙復工」の3つがキーワードになっている。ECを使って自宅で消費をし、遊びに行くのは近所、休みよりも職場復帰に忙しいというものだ。

アリババが、各サービスから得られた5月の連休中のデータを公開したところ、この3つのキーワードが裏付けられたと手機中国が報じた。

 

5月の連休で目立った「宅消費」「周辺游」「忙復工」

中国の今年の5月の連休は5連休だった。5月1日(金)から土日を挟んで、5月5日(火)まで。土日+3日という構成だが、休日は5月1日の労働節(メーデー)のみで、4月26日(日)と5月9日(土)は出勤日となり、これを振り替えて連休にしている。

アリババは、各サービスから得られたデータをまとめ、SNSの公式アカウントで公表した。これによると、「宅消費」「周辺游」「忙復工」の3つの行動がはっきりとした。

 

高速道路の渋滞は減少、近隣へ出かけている

高徳地図から得られるデータを分析すると、連休中に遠出をする人は少なく、連休初日は家にいた人が多かったと見られる。5月1日の高速道路の渋滞の長さは、昨年よりも11.6%減少した。また、渋滞が発生する時間帯も10時から12時の間に集中した。

例年であれば、渋滞は朝と夕方に集中をする。それが昼に移動したということは、朝遅く、近隣に出かける人が多かったということだ。

アリババ傘下の旅行予約サービス「飛猪」からも、周辺游が主体になっていることが窺われる。最も多かった旅行の出発地は「上海、杭州成都、深圳、北京」。しかし、目的地も「上海、杭州成都、広州、深圳」となっている。これは同じ市内に出かけているか、近隣の都市に出かけていることを示している。

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▲遠出せず、多くの人が近隣で休日を楽しんだ。

 

市内に出かけ、自宅ですごす人も

高徳地図のデータによると、上海の人が出かけた場所は「上海野生動物園」「上海科技館」「東方明珠塔」。北京では「北京オリンピック公園」「朝陽公園」「北京動物園」など、市内に出かける人が多かったことが明らかになっている。

また、アリババと提携している銀泰百貨店の客数は、今年の清明節(4月4日の休日)の1.5倍となった。

また、自宅で休みを過ごす人も多かった。EC「Tmall」では図書の売上が昨年の1.24倍となり、その中でも経済書の売上は1.45倍になっている。この傾向は、広州、北京、上海、杭州重慶で顕著だった。

 

マスクを着用し、市内の公園ですごす

EC「Tmall」の売上では、マスクの売上が昨年の6.67倍となり、消毒関連商品の売上が2.26倍となり、出かける際には感染防止にも気を使っていることがわかる。

アリババ傘下の外売(フードデリバリー)の「ウーラマ」では、公園への配達が急増をした。上海ではコーヒー、昆明ではバーベキュー、ハルビンでは麻辣湯の注文が目立った。

 

家電、調理器具など宅消費が好調

EC「Tmall」では、自宅をアップグレードする商品の売行きが好調だった。家電製品は2.96倍、調理器具は1.89倍、内装素材は2.01倍、照明器具は1.53倍となった。

輸入品を扱う「Tmall国際」でも、家電製品が4.81倍、美容用品が1.425倍となった。特に、95后(95年以降生まれ、20代後半)では、英国の多機能鍋と日本のホットサンドメーカーの人気が目立った。また、人気の輸入元は、海外旅行に行きたい国とほぼ一致している。人気の製品は、日本、韓国、米国、オースオラリア、タイだった。

アリババ傘下の宅配サービス「菜鳥」のデータによると、5月1日から3日までの宅配便は、昨年の1.45倍となった。

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▲家電製品、調理器具などの宅消費関連の売れ行きが好調だった。

 

地方都市では、連休中も職場復帰、職場再開

職場復帰に忙しく、連休中も仕事をしている人も多かった。特に2級、3級都市と呼ばれる地方都市にその傾向が強かった。アリババは、多くの地方政府と提携して健康コードを提供している。これは位置情報を追跡して、新型コロナの陽性確定者と同じ場所に一定時間いた人に感染リスクがあることを知らせるためのものだ。感染リスクがあると、コードが黄色または赤色になり、多くの都市では外出が実質的にできなくなる。

この健康コードの移動情報から、宿遷、淪州、開封、揚州、煙台などの地方都市では、連休中も業務に当たっている人が多かった。

アリババはさまざまな生活関連サービスを展開しているため、アリババの持つビッグデータを分析することで、終息後の人々の行動が浮き彫りになった。

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▲地方都市では、営業再開、職場復帰が進み、多くの人が連休返上で出勤をした。

 

 

フォクスコンだけではない、アップル製品を製造するEMS8社。そのうちの6社が台湾企業

アップルが自社工場を持たず、EMS(Electronics Manufacturing Service)を利用して、製品を製造していることはよく知られている。また、アップルが利用しているEMSとしてフォクスコンの名前もよく知られている。しかし、アップルが利用しているEMSはフォクスコンだけではない。8社あり、そのうちの6社が台湾系だ。製造拠点は、中国に14カ所、米国に2カ所、欧州に1カ所、南米に1カ所となっていると落水三千的魚が報じた。

 

アップル(アイルランド

アップルはファブレス企業といっても、まったく製造をしていないわけではない。アイルランド、コーク市に拠点を置くアップルは、欧州、中東、アフリカの本部として1980年に設立された。アイルランドは、欧州の中でも最も法人税が安い国であることから、税逃れをするための拠点という報道もあるが、このアイルランドのアップルでは、iMacを製造し、6000人以上の人が働いている。

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アイルランドのアップル内の工場。税逃れのための拠点とも言われたが、実際にiMacを製造している。

 

BYD(中国深圳)

元々はバッテリー製造企業。その技術を活かして、EV(電気自動車)に進出している。2010年から、アップルとの取引を始め、外装部分の組み立てを担当していると言われるが、アップルとの契約により業務内容は公開できないため、詳細は不明。しかし、アップル製品のバッテリーを供給していることはよく知られている。

 

コンパル・エレクトロニクス(中国崑山)

1984年に創立されたノートPCメーカー。iPhoneiPadの製造を行っている。当初はiPad miniのみの製造だったが、その後、iPad Airの製造を獲得、南京工場でもiPad Pro、iPad minni4の製造を始めるなど、アップルのEMSとしての地位を拡大している。

本社は台湾台北市で、中国子会社が江蘇省崑山にある。社員数は5万名以上で、ベトナムに工場を建設中。

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▲コンパル。アップルのEMSとして地位を拡大中。iPadの製造が中心になってきている。

 

フレックストロニクス(テキサス州オースティン)

2014年から「米国産」Macの製造を行っている。MacProはフォクスコンが製造していたが、2013年に新型のMacProからフレックストロニクスが製造をしている。それまで、製造コストの4%から5%が人件費で、これを抑えるために人件費の安い中国を中心に生産していたが、中国の人件費が高騰することで、輸送費が節約できる米国工場が有利になってきた。本社はシンガポール。アップルはオースティン工場を建設するにあたって、1億ドルの投資を行っている。

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▲フレックストロニクス。シンガポール企業で、米国産MacProを生産している。

 

鴻海精密工業/富士康(中国深圳×2、上海、成都鄭州、太原、ブラジル)

アップルが利用しているEMSのうち、最も有名な企業。本社は台北市で、鴻海精密工業(ホンハイ)が社名。この鴻海科技の中国大陸向けの名称が富士康、その英語名がフォクスコンだ。

2007年のiPhone登場から2010年までは、フォクスコンがiPhone製造のすべてを担当していた。しかし、アップルは1社だけに頼るのはリスクが高いと考え、iPad Air 2ではフォクスコンとペガトロンに分散して製造している。さらにiPad Proでは、フォクスコン、ペガトロン、コンパル3社7工場に分散させている。

また、iPhoneも分散して製造する方式となり、iPhone 7はフォクスコンとペガトロン、iPhone 7Plusはフォクスコンとウィストロンが製造している。

なお、ブラジル工場は苦戦をしており、すでにiPhoneの製造は行われていないという報道がある。また、インドでもiPhone製造を始めようとしているが、こちらも頓挫をしていると言われる。

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▲アップルのEMSとして有名なフォクスコン。本社は台湾のホンハイ。ブラジルやインドに生産拠点を置こうとしているが、苦労をしている。

 

インベンテック・アプライアンシズ(中国上海)

インベンテックとアップルの付き合いは古く、90年代のPDA「Newton」の製造に遡ることができる。この時は、技術上の問題や製造上の問題が生じたため、実際の製造は行なわれなかったが、それ以来、アップルの中では技術力の高いEMSとして名前が挙がるようになった。

iPodの製造でもインベンテックへの製造委託が模索されたが、この時はインベンテック側が、携帯電話や携帯音楽プレーヤー、GPSなどの製造委託で手一杯で、アップルはフォクスコンにiPod製造を委託、それからフォクスコンへの依存度が上がっていった。インベンテックはハードディスク型のiPodを製造し、フォクスコンとクアンタがメモリー型のiPodを製造した。

現在、インベンテックはiPadや小米製品などを製造している。

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▲インベンテック上海工場。アップルとの付き合いは古く、90年代のNewtonに遡ることができる。現在は、iPadの他、小米(シャオミ)製品を生産している。

 

ペガトロン(中国上海、崑山)

台湾系のEMSで、iPhoneiPadの製造を行っている。2014年からiPadの製造を始め、上海ではiPad Proの製造を行っている。アップルが複数のEMSに製造を委託する方針に乗って、2014年にはiPhone6の3割ほども製造した。2015年からは、iPad製造からiPhone製造に軸足を置くようになっている。

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▲ペガトロン。現在はiPhoneの製造を主力にしている。

 

クアンタコンピュータ(中国上海、常熟、カリフォルニア州フリーモント

1988年に創業した台湾企業。iPhoneiPadiPodMacだけでなくApple Watchも製造している。2014年にMacBookiPodの生産量が落ちていったために、インベンテックと争って、AppleWatchの製造を獲得した。現在、Macの製造はアイルランドのアップルと、フレックス、クアンタの3社で行われている。

しかし、AppleWatchの不良品率が高く、クアンタは苦労をしている。そのため、フォクスコン、ウィストロン、インベンテックでもAppleWatchの製造が始まるとも言われている。

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▲クアンタの製造現場を視察するティム・クックCEO。AppleWatchの製造も行っている。

 

ウィストロン(中国崑山)

2001年に創業した台湾企業。iPhoneの製造を行っている。2015年に経営が苦しくなったが、iPhone 7Plusの生産を獲得することで経営は持ち直した。

 

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  • 発売日: 2019/03/28
  • メディア: Personal Computers