中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ゲーム業界から注目される女性プレイヤー。「彼女ゲーム市場」とは何か

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。
明日、vol. 024が発行になります。

 

中国の小売業の世界では、重要な消費者群を序列化した「若い女性>子ども>女性>高齢者>犬>男性」という言葉があります。もちろん、半ば冗談ではあるのですが、本質をついている部分もあります。
確かに若い女性は買い物が好きで、男性は必要なもの以外買い物をあまり楽しまない傾向にあります。小売業から見た重要度は、犬(ペット)以下なのです。

 

しかし、ゲーム市場では、この序列が通用しませんでした。ゲームは若い男性のものだったのです。しかし、それが次第に女性もゲームを楽しむようになり、重要な消費者と考えられるようになっています。
このようなことから、女性ゲーム市場を「Her Game Market」(彼女ゲーム市場)と呼ぶようになっています。


女性が、スマートフォンカジュアルゲームや、イケメン男性が多数登場する恋愛シミュレーションを楽しむというのは中国だけでなく、日本でも韓国でも起きている現象です。しかし、中国の場合、少し異なっているのが、男性に好まれるようなバトル系のゲームでも女性プレイヤーの割合が高いことです。


例えば、MOBA(Multiuser Online Battle Arena)と呼ばれる種類のゲームがあります。ネット経由で3人ほどのチームを組んで、別チームと闘うという内容のゲームです。チーム内では音声で指示を出し合うことができ、プレイヤーの強さとともにチームの戦略も重要になるバトルゲームです。
中国で最も人気のあるMOBAは、テンセントが2015年にリリースをした「王者栄耀」です。バトルゲームであるので、以前の感覚だと、男性向きのゲームになります。実際、小学生、中学生の男の子たちの間で大人気となり、王者栄耀を遊びたいがために親にスマホをねだる子どもたちが続出しました。あまりの過熱人気ぶりに社会問題ともなり、2016年7月にはテンセントが12歳以下の子どもは1日1時間しか遊べず、夜9時以降も遊べないという制限をする機能を追加したほどです。

 

王者栄耀がもうひとつ世間を驚かせたのは、女性プレイヤーの多さです。2017年に企鵝智酷が行った調査では、女性比率が51.7%となり、男性を上回っていたのです。なぜ、バトルゲームのような男の子向けのゲームに、多くの女性が惹かれるのでしょうか。
女性プレイヤーの80.6%が「王者栄耀が初めて遊ぶMOBA」だと答えています。ここを境に、女性が、それまで男性向けと考えられていたゲームを楽しむようになっています。
最近人気の「PUBG Mobile」や「荒野行動」は、限られた区域の中でプレイヤー同士が殺し合いをして生き残りを図るというかなり殺伐としたゲームで、さすがに男女比は7:3ほどですが、それでも以前の感覚からすると、「女性が当たり前のように参加している」ゲームになっています。


女性が、癒し要素の多い放置ゲームや落ちゲーム、女性向けの恋愛シミュレーションゲームをするのは当然ですが、以前は男の子のものと見られていたMOBAやFPSファーストパーソン・シューティング=一人称視点のシューティング)なども楽しむようになってきています。
この変化により、ゲーム市場にとって、女性プレイヤーが重要になってきているのです。それが「彼女ゲーム市場」と呼ばれるようになっています。

 

このような変化が起きたことに大きく影響しているのが、ゲームのビジネスモデルの変化です。スマホゲームではPay to Winという考え方が支配的でした。しかし、王者栄耀が登場した2015年頃からPay to Funという考え方が登場してきました。これが女性を惹きつける要因になりました。
この2つの考え方はどう異なるのでしょうか。


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女子大生が家族と一緒に宅配ステーションを起業。コロナ禍で変わる起業のあり方

コロナ禍で、多くの人が休業状態となり困窮をしている。その中で、宅配便需要が急増した菜鳥では、3万カ所の宅配ステーション新設計画を進めている。急増する宅配便需要に応えるとともに、困窮者の支援も目的になっている。家族で起業する例が多く、家族で一緒に働ける喜びを与えることにもなっていると中国新聞網が報じた。

 

コロナ禍で生まれた数々の民民の助け合い

新型コロナウイルスの感染拡大による商店の休業でも、中国では政府からの休業補償などは特にない。みな、自分でどうにかしなければならないというのが原則だ。

しかし、政府からの補償はなくても、民民での助け合いはさまざま行われている。多くの金融機関は、オンライン申請による低利子融資を行っている。その多くの審査が人手ではなく、人工知能による自動判断または補助により、瞬時に貸付が実行される。

また、感染拡大期に需要が高くなる企業もあった。生鮮食料品を宅配する新小売スーパー、生鮮EC、飲食品を宅配する外売(フードデリバリー)、宅配便などだ。このような企業では、猛烈な人手不足ということもあり、大規模な人材募集を行い、失業者の吸収に役立っている。

また、アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が始めたシェアリング従業員も多くの業界に広まった。これは、休業をして従業員が自宅待機になっている飲食チェーンなどから、従業員を借りてスーパーで働いてもらうというものだ。レンタル期間中の給料は、フーマフレッシュが支払うため、レンタル元の飲食チェーンはその間の給与負担がなくなるため、事業を継続させることが可能になる。従業員にとっては、給料が減額されて自宅待機をするよりも、フーマで働いて満額の給料をもらった方が生活の不安は少なくなる。

この仕組みは好評で、終息後も季節性の高い業種をうまくマッチングさせて、従業員をレンタルし合う仕組みが生まれようとしている。

このような民民によるさまざまな工夫が生まれた。

 

コロナ禍の最中に起業をした女子大生

その中で、四川省成都市の大学3年生が、感染拡大期に起業をして話題になっている。ECビジネスを専攻する大学3年生、馬海燕さんは、アリババ系の宅配企業「菜鳥」(ツァイニャオ)の宅配ステーションを開業した。

大学は休校となり、講義はすべてオンラインになっている。両親は農業を営んでいるが、毎年春節休み明けから山西省に出稼ぎに行っていた。馬海燕さんの学費を稼ぐためだ。しかし、それが今年は新型コロナウイルスの影響でいくことができない。

学費をどうやって稼ぐかという問題があるが、外に働きにいくことはできず、自宅にいるしかない。そこで、自宅で業務ができる宅配ステーションを開業することにした。

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▲宅配ステーションを起業した大学3年生の馬海燕さん。送られてきた荷物を地域に配送し、地域からの荷物を発送するのが仕事。大学が休校になっているためオンライン講義の空き時間に働いている。

 

菜鳥が進めた困窮者支援策

宅配便の需要が急増した菜鳥では、100都市で3万カ所の宅配ステーションを開業する計画を進めていた。急増する宅配便需要に応えるためと、失業して生活に困っている人のための支援の両方を狙っている。

3月だけで40万人の応募があり、7000店の宅配ステーションが新設された。馬海燕さんは、この計画に応募をして、宅配ステーションを開業した。

海燕さんは自宅でオンライン講義を受け、終わるとすぐにステーションで働く。両親は朝からステーションで働く。学費と生活費を稼ぐことができる。しかも、親子3人が一緒にすごす春節明けは、20年ぶりのことであるという。

 

初月から黒字化を達成できた

現在、大学は再開をし、学校での講義も増えてきた。馬海燕さんは、空き時間ができると、大学からステーションまで行き、仕事をする。この間は、公共交通がまだじゅうぶんに利用できないため、徒歩になり、馬海燕さんは1日少なくても2万歩以上は歩いているという。

3月中旬に開業をし、最初の月から毎日300件の荷物を扱うことになった。300件というのはステーションの最低採算ラインで、最初の月から黒字化が達成できた。この分でいくと、数ヶ月で大学の学費も稼げる見込みだという。

現在は、評判を聞きつけて、馬海燕さんの同級生や知り合いが訪ねてきて、開業の仕方やノウハウを聞きにくるようになった。

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▲扱う荷物は月300件で、最低採算ラインに乗った。両親も一緒に働いているので、給与としては決して高いものではないが、家族が同じ家に住み、同じ職場で働ける家族起業に幸福を感じているという。

 

家族が一緒に暮らせる幸福をも提供した家族起業

この菜鳥の計画に応募をしてきているのは大学生だけはない。大学の教授も講義がなくなって応募をしてきている。さらに元工場勤務だった人、エンジニア、さまざまな職業の人がいる。

このような人々が、自宅または自宅近くにスペースがあれば、宅配ステーションを開業することができる。大学や企業が再開をしても、家族総出で業務をこなすことで運営をしていく。

何よりも、家族がひとつの家で暮らすことがまれになっている中国で、家族が同じ家に住み、同じ仕事ができる幸せを感じている人が多いという。一方で、菜鳥は宅配ネットワークを拡充することができる。

この家族経営の宅配ステーションも、新型コロナウイルスの感染拡大により生まれ、終息後も定着することになりそうだ。

 

新型コロナ感染拡大期に海外で売れた中国製品24(下)

中国製品は世界中で販売されている。特に多いのがアマゾンとeBayを通じての販売だ。新型コロナウイルスの感染拡大期間、物流が滞る中で、アマゾンは医療要因と家庭用品を優先的に流通させた。この2つの領域の製品は、中国が製造を得意とする製品だ。その中で、世界で売れた中国製品を、観海論商が24製品まとめている。

 

13:ラップトップテーブル

在宅テレワークが増加したが、デスクがある過程はそう多くない。デスク以外のソファ、カーペット上、ベッドなどでも仕事ができるようにラップトップテーブルの需要が高くなった。

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14:ブルーライトカットグラス

在宅テレワークが増え、PCの画面を長時間見ることになり、目の健康を考え、ブルーライトをカットする眼鏡の需要が高くなった。特に、オンライン授業が増えたため、子ども用のブルーライトカットグラスの需要が強かった。

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15:ルームウェア

ルームウェアの需要が高くなった。特にデザイン的に面白いものが売れた。外出ができなくても、室内でおしゃれを楽しみたい人が多いのだと思われる。

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16:血圧計

室内に閉じこもるため、健康に不安を感じる人が増えた。体温計とともに血圧計の需要も高くなった。特にスマートフォンと連動して、継続して記録できるものが人気となった。

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17:トレーニングバンド

室内に閉じこもり、運動ができないが、大きなトレーニング器具を入れるのには抵抗がある。そこでトレーニングバンドのような場所を取らず、使わない時は片付けておけるトレーニング用具の需要が高くなった。

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18:理髪セット

理容店の多くが休業となり、再開をしても感染リスクを不安に感じている人がいる。そのため、理髪セットの需要が高まった。特に子どものいる家庭では親が散髪をしている。

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19:USBアダプター

情報を取るために多くの人がスマートフォンを使うため、頻繁に充電をする必要があるが、家族が多いと利用できるコンセントが足りない。そこで、USBアダプター、特にタコ足ができるタイプのものの需要が高くなった。

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20:洗濯可能マスク

世界的にマスク不足が起こり、洗って繰り返し利用できるタイプのマスクの需要が高くなった。洗濯可能マスクは、以前はほとんど需要がなかった。使い捨てマスクの価格が安かったからだ。それが感染拡大によって強い需要が生まれた。

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21:水で消えるマーカー

学校も休校となり、子どもたちも家の中ですごすことになった。何度も遊べるように水で消えるマーカーの需要が高くなった。いたずらをして家具や壁などに書いたとしても消すことができるからだ。

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22:ヨガマット

家に閉じこもり運動不足になるのを防ぐためにヨガマットの需要が高くなった。トレーニングバンドと同じように、使い終わったら片付けることができるトレーニング用具の需要が高くなっている。

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23:サプリメント

外に出る機会が少なくなり、日光にあたらないため、ビタミン不足を心配する人が増えている。そのため、サプリメントの需要が高くなった。

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24:積み木、ブロック

子どもの玩具として積み木やブロックの需要が高くなった。自宅にいる時間が増えたため。 

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新型コロナ感染拡大期に海外で売れた中国製品24(上)

中国製品は世界中で販売されている。特に多いのがアマゾンとeBayを通じての販売だ。新型コロナウイルスの感染拡大期間、物流が滞る中で、アマゾンは医療要因と家庭用品を優先的に流通させた。この2つの領域の製品は、中国が製造を得意とする製品だ。その中で、世界で売れた中国製品を、観海論商が24製品まとめている。

 

1:空気清浄機

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中で空気清浄機の需要が急増した。空気清浄機は、一般的にクリスマスから新年の間に売れる。暖房のために窓を閉め切るためだ。しかし、2020年は4月に大きな需要が生まれた。

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2:髭剃り

世界各国で、理容店が休業となったため、自宅で髭を剃る人が急増。特に髭を整えるトリマー機能がついているものが売れた。

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3:缶詰

世界各国で、都市封鎖が行われ、食料品が不足する事態が生じた。これにより保存性の高い缶詰の需要が急上昇した。多くの国で、通常の需要よりもはるかに多く、買い占め行動が起きたと思われる。

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4:チェアクッション

多くの企業が一気にテレワークに移行したため、自宅で仕事をする人が増えた。そのため、チェアクッションの需要が増加した。

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5:オフィスチェア

同じく在宅テレワークが急増したため、オフィスチェアの需要が急増した。

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6:チノパン

服飾関連商品は、世界的に需要が急激に落ち込んだ。外出ができないため、服にこだわる必要がなくなったからだ。その中で、唯一わずかに伸びたのがチノパンなどのカジュアルパンツだった。特にゆったりして楽にはけるものが売れた。家の中ですごすときに着るのだと思われる。

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7:コーヒーメーカー

コーヒーメーカーも通常は、クリスマスから新年にかけて需要が強くなるが、4月にも高い需要が生まれた。自宅ですごす時間が増え、在宅テレワークをする人が増えたからだ。

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8:食洗機用洗剤

自宅ですごし、自宅で食事をする機会が増えたため、食器の洗い物が大量に出ることになった。食洗機は、食器を入れるのが面倒で持っているのに使わない人も多い。それが大量の食器を毎日洗うことになり、食洗機を使う機会が増えた。

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9:フェイシャルパック

外出ができないため、家庭で使える美容用品全般の需要が高くなった。

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10:リップパック

同様にリップパックの需要も高くなった。リップパックはまだ広く使われるようにはなっていない商品だったが、感染拡大期に一気に知られるようになった。

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11:スプレーボトル

アルコールや漂白剤などの消毒液を噴霧するために需要が高くなった。3月という感染拡大初期に強い需要があった。

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12:ルームシューズ

ルームシューズは冬の商品で、クリスマス前後に需要が高くなる。しかし、3月になって強い需要が生まれた。

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次回は、残りの12品目をご紹介する。

 

 

中国統一の交通カードがApple Payに対応。乱立していた乗車方式は収束されるか

2018年に、北京と上海の公共交通(バス、地下鉄など)の交通カードがApple Payに対応していていたが、2020年4月より深圳と広州が加わり、また、近日中に仏山にも対応する。

日本のSuica+Apple Payと同じように、改札にタッチをするだけで地下鉄に乗り降りできるようになる。交通カードも全国相互乗り入れがほぼ完了し、利便性が高くなってきている。交通カード、QR乗車などさまざまな方式が乱立していた公共交通の乗車が交通カードに統一されていくきっかけになる可能性もあると新城記が報じた。

 

カード、QRNFCの乗車割合は4:4:2

中国では、小米(シャオミ)のmi Pay、ファーウェイのHuawei Pay、WeChatミニプログラムなどもNFC乗車に対応をしているが、今ひとつNFC乗車が増えていかない。

プラスティックの交通カードを利用するか、QRコードをかざして乗車する人がまだまだ多い。すべてに対応している北京市の朝のラッシュ時の体感では、カード:QRNFCの割合は4:4:2ぐらいの感覚だ。

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▲深圳市発行の交通カード。最近ではさまざまなデザインのものが登場している。右下の「交通連合」のロゴがあるカードは、全国ほぼすべての都市でそのまま利用できる。このカードもApple Payに登録できるようになった。

 

乱立の原因は、交通カードの統一が遅れたこと

中国の交通カードの分野は、日本に比べて大きく遅れている。遅れているというより、さまざまな方式が混在をしてしまったため、迷走をしている。一部の都市では、顔認証乗車も導入されている。

日本では、交通カードのほとんどが相互乗り入れされているため、Suica1枚で全国どこでも公共交通が利用できる。また、Apple Payやアプリを利用することで、NFC乗車が可能になる。

ところが、中国ではNFCカードが1999年から普及が始まったものの、公共交通の運営元である市政府交通局ごとによる発行だった。そのため、市内でしか使うことができず、他の都市に行った時は、その都市の交通カードを購入しなければならなかった。

2012年から、交通カードを統一するプロジェクト「全国城市カード互聯互通」プロジェクトが始まったが、標準規格などの策定に手間取り、なかなか統一が実現しなかった。統一がようやく本格化したのは2018年になってからのことだった。

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Apple Payに登録をした深圳市の交通カード。NFCなので、交通カードと同じように、改札にiPhoneをタッチするだけで乗車することができる。

 

チャージ不要、他都市でも使えるQR乗車が普及

この間に、QRコードスマホ決済が普及をし、各市交通局はQRコード乗車への対応を始めてしまった。改札を改造してQRコードスキャナを設置し、アリペイやWeChatペイの乗車コードを読み込ませることで乗車ができるというものだ。

このQRコード乗車は、それまでの交通カードに比べて2つの利点があった。ひとつはチャージの手間が不要になったことだ。交通カードは、駅の窓口やチャージ機でチャージをしておく必要がある。残高が足りない時は改札でエラーが出る。

このエラーは非常に面倒なことになる。なぜなら、地下鉄に乗車するときは、まず手荷物検査を受けなければならない。日本の空港と同じようなX線検査機が置いてあり、それを通さないと改札に行くことができない。ようやく改札にたどり着いて、エラーが出た場合は、そこから引き返して、駅の窓口に行ってチャージをするところからやり直しになるのだ。バスの場合は、現金で払うことになるが、現金ではお釣りを出さないルールになっているので、乗車賃が支払えない場合は、そのバスに乗ることができなくなる。

QRコード乗車であれば、自動的にアリペイやWeChatペイから支払われるので、日々の支払いをするアリペイやWeChatペイの残高がゼロになっているということは滅多にあることではない。ここが歓迎された。

もうひとつは、他の都市でも利用できるということだ。スマホ決済の乗車コードのコーナーでは、全国のほとんどの都市の交通カードがそろっているので、ダウンロードして開通させておくだけで、他都市に行ってもQRコード乗車ができる。しかも、位置情報から適切な交通カードを自動的に選んでくれる。

このようなことから、QRコード乗車を使う人が増えていった。

 

QR乗車の遅さは許容をしている中国人

ただし、QRコード乗車は、日本人の感覚からすると欠点がある。それは、NFCに比べてスキャンに時間がかかるため、改札で一度立ち止まってかざす必要がある点だ。Suicaに慣れた日本人にとっては、ものすごく遅く、不便に感じる。

しかし、面白いのは、多くの中国人はこのQRコード乗車の遅さを不便とはあまり感じていないことだ。乗車するときは、まず荷物検査を受けなければならないので、人が分散し、改札が混雑するということはあまりない(荷物検査のところで渋滞する)。降りるときは改札が渋滞することがあるが、それでもイライラしている人はものすごく少ない。みな、スマホを見たり、友人とお喋りしながら、列が進むのを待っている。あまりにのんびりしすぎて、改札のところまできてから、思い出したようにスマホを取り出して、アプリを起動して、それから乗車コードを表示するという人もしばしば見かけるが、その人に対して文句を言ったり、にらみつけたりするような人は滅多にいない。

この辺は、中国人の国民性だ。よくよく考えれば、改札が渋滞をするといっても、時間にしたらせいぜい数十秒のことで、意味のないことにイライラするのはかえって損だと考えているのかもしれない。

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▲日本のSuicaと同じように、スリープ状態であっても、先端をかざすだけで交通カードで決済される。また、AppleWatchの決済にも対応している。

 

ようやく交通カードが統一。カードの利便性も高くなった

一方で、2018年からようやく始まった交通カードの統一は進み、現在275都市で、同じ交通カードで乗車ができるようになっている。日本のSuicaとほぼ同じ状態になったわけで、これ1枚あれば全国どこでも乗車できる。チャージの手間はあるが、多くの都市でスマホからチャージできる仕組みが整っており、擬似的なオートチャージも設定できるようになっている。カードはカードで便利になっている。

一方、Apple Payの場合、5都市に対応をしていて、この5都市ではApple Payでの乗車ができるが、その他の都市では改札がApple Payに対応していないため、別の決済手段を使わなければならない。

また、交通カードではなく、銀行カードによる乗車に対応している都市もある。天津、武漢、ハルピン、南京、大連などの16都市だ。この都市では、Apple Payによる乗車ができるが、交通カードではなく、銀行カードを表示してタッチをしなければならない。

 

乱立が収束しない公共交通

これは、テクノロジーが急速に発展し、しかも「とにかく先に運用してから考える」中国特有の問題かもしれない。交通カード、QRコードNFCという3つのテクノロジーがそれぞれに利便性を競って進化をしているため、どれも一長一短になってしまい、どれかひとつに収束をしていかないのだ。

消費者向けサービスなどでは、このような競い合うことでの多様性が、新たな利便性を生み、次へ新しい進化を生み出していく原動力になっているが、公共交通の乗車賃の支払いのようなものは、そこそこの利便性が確保されていれば、どのような方式でもかまわない人がほとんどだ。できるだけひとつの方式に揃えてしまった方が、交通局側の業務効率も上がっていくことになる。

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▲プラスティックの交通カードを使う人もまだ多い。多くの都市で、スマホからチャージができる仕組みが提供されていること、さまざまなデザインの記念カードが発売されていることなどが理由だ。チャージの問題さえ解決できれば、実はカードがいちばん利便性が高かったりする。

 

決済ではアリペイ、WeChatペイに収束。乱立は解消

日本でもキャッシュレス決済の比率が上がってきているが、この店ではこの方式が使える、あの店ではこの方式が使えないという煩わしさが、現金回帰への圧力となる可能性もあるどころか、「買い物は面倒」という心理を生み、特定の商店以外では消費を避けるということにもつながって行きかねない。中国では、この対面消費の世界では、「アリペイかWeChatペイ」という収束状態になっていて、消費者が戸惑うことは少ない。

同じキャッシュレス決済と言っても、それぞれの国で、乱立している領域と収束している領域が異なっている。どの領域で乱立による進化を期待するか、どの領域で収束による利便性と効率を期待するか、考えていく必要がある。

 

 

自分の声色でAIが電話に対応してくれる「小問秘書」

北京市中関村のユニコーン企業「出門問問科技」は、電話に応答する人工知能システム「小問秘書」を大幅アップデートすると発表した。着信した電話を知り合いかどうかを見分け、知らない人からのものであれば人工知能が合成音声で応答し、適切に答え、内容を音声とテキストで記録する。アップデート後は、自分の声を録音して、自分の声色の合成音声が自然な応答をすることができるようになるという。

 

定着しようとしている「未知の人からの着信には応答しない」習慣

電話は、もはや人間が使うものではなく、人工知能がかけ、人工知能が応答する時代になろうとしているのかもしれない。

最近では、見知らぬ電話番号からの着信には出ないという人も増えている。多くの場合、営業電話だからだ。知り合いからの重要な電話であれば、留守番電話やSNSにメッセージを残すので、かけ直しをすれば問題ない。中国では、この営業電話が異常に多く、多くの人を悩ませている。怪しげな投資の営業が多く、中には限りなく詐欺に近いものもあるからだ。

そこで、AI電話助手と呼ばれるアプリを入れている人が増えている。発信元の電話番号が連絡帳に登録されているかどうかを判断して、登録されている人であれば着信音を鳴らし、登録されていなければ着信音を鳴らさない。その後の処理はアプリによって異なるが、相手のメッセージを録音するもの、相手のメッセージをテキスト化して表示するもの、合成音声で応答し、相手と会話をするものなどがある。

 

自分の声色で、人工知能が電話に答えてくれる

小問秘書は、合成音声を使い、相手の言葉を音声認識し、自然言語解析によって適切な応答をし、録音とテキスト化した記録を残すというものだった。これが大幅アップデートされ、有料登録をすると、さまざまな機能が利用できるようになる。

ひとつは自分の声で合成音声が作れる機能だ。指定された15の単語を話すだけで、自分とそっくりの声を生成してくれる。また、企業用には目的に応じて500単語から5000単語を録音することで、より自然な合成音声を生成することもできる。多くの場合は、メディアがニュースの読み上げ、小説の朗読などに使われることになるという。普通の人が電話応答に使うのであれば、基本の15単語のみでじゅうぶんだという。小問秘書リリース(https://mp.weixin.qq.com/s/Lka54V8YKFMFfsO3E9wi_Q)では、実際の会話例を、公式サイト(https://voice-maker.mobvoi.com/pages/index)では、出門問問科技のメンバーが自分の声で生成した合成音声によるメッセージを聞くことができる。

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▲小問秘書の自分の声色の登録操作。15の単語を話すだけで、自分の声色を作成し、人工知能が電話に応答してくれるようになる。

 

シナリオ設定で事務連絡への応答も可能

さらに、シナリオの設定もできる。例えば、宅配便からの電話などに対して、「家のドアの前に置き配をしてほしい」などというシナリオを作成しておけば、人工知能が先方の電話に対応して、合成音声により自動応答し、適切に処理をしてくれる。まずは、外売(フードデリバリー)と宅配便の配達の確認電話に対するシナリオが用意をされ、処理内容を変更するだけで利用できるようになる。

また、合成音声は自分の声だけでなく、男性、女性、子どもなどが用意されており、さらに 粤語(チベット族の言語)や外国語の訛りがある中国語など、さまざまな特殊音声が提供されていく。

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▲無料では「男性」「女性」「優しい女性」「子ども」の声色が選べるが、有料でVIPを開通させると、自分の声を録音して、自分の声色で人工知能が電話に応答してくれるようになる。

 

人工知能同士が電話で会話をする時代が始まっている

音声認識自然言語解析の人工知能技術は、大きく進化をしており、このような電話を受ける方だけでなく、発信をする側ではすでに広く使われるようになっている。特に用いられているのが、宅配企業の在宅確認だ。中国の住居環境は、都市部では古くから5階建て以上の集合住宅が多く存在するが、エレベーターが設置されていない集合住宅も多い。このような住宅に配送をして、不在だった場合、宅配の効率が落ちることになる。そのため、宅配スタッフは配送直前に在宅確認の電話を入れるのが一般的になっている。

しかし、今度はこの在宅確認の電話が業務効率の妨げになっている。配達スタッフは、だいたい1日に200個ほどの荷物を配達する。電話に1つ1分かかるとすると、1日に200分=3時間20分も電話に費やしていることになるからだ。

そこで、業務端末スマホから、配達リストをタップすると、人工知能が電話をかけ、相手の音声を認識して、結果を表示するというシステムが使われている。

宅配企業がこのような人工知能システムを導入していて、顧客の方が小問秘書を使っていた場合、人工知能同士が会話をすることになる。電話は、音声による通信チャンネルになろうとしている。


【智能物流】「菜鳥語音助手」首度登場!

▲宅配企業「菜鳥」が活用しているAI電話。配達先の在宅確認を人工知能の合成音声が行う。相手は人間。他の荷物の確認など、複雑な内容にも対応できている。

 

 

即時配送が変える小売業態。新小売と社区団購

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明日、vol. 023が発行になります。

 

私たちの日常生活時間の多くが、消費行動により占められています。つまり、買い物です。中国の都市部では、この買い物のあり方が、日本とはまったく違うようになってしまいました。
消費行動には、楽しみのための買い物と必要に迫られた買い物の2種類があります。趣味のものを買う、おしゃれを楽しむためのものを買う、美味しいものを食べるという楽しみを目的とした消費行動は日本も中国も大きな違いはありません。ショッピングモールや百貨店、繁華街にいって、商品を見ながら買うというのが一般的です。


しかし、必要に迫られた買い物の世界は大きく違ってきました。日々の生鮮食料品を買う、日用品を買うなどでは、日本の場合は近所のコンビニやスーパーに行くか、商店街にいき、近所にないものはECサイトで注文する、大きな街の専門店い行くなどします。いずれの場合も、自分が商品のある場所まで移動するというのが基本になります。
しかし、中国では逆で、商品を自分がいる場所まで移動させるというのが当たり前になってきました。コンビニ、スーパー、ドラッグストアの商品、飲食品、薬品、化粧品、さらには公的機関が発行する証明書類なども、自分が取りに行く、買いに行くではなく、宅配してもらうことが当たり前になりつつあります。人と商品で、日本では人が移動し、中国では商品が移動するようになっています。

 

このようなことができるのは、外売(フードデリバリー)というビジネスが普及をしたからです。外売は、餓了麼(ウーラマ)、美団(メイトワン)などが始めたサービスで、スマホでファストフードや飲食店の料理を注文し、出前をしてくれるサービスです。日本のウーバーイーツや出前館にあたるサービスです。
この外売は、次第に飲食物以外のものも扱うようになり、即時配送と呼ばれるようになっています。2018年、即時配送された商品の81%は飲食品でした。ところが、2019年には70%にまで低下をしています。その他の配送品が増えたのです。その他のものとは生鮮食料品や商店で販売されている商品です。また、誕生日や記念日への贈り物として生花やケーキなどの配送も増えています。

 

即時配送が宅配便と異なるのは、短距離配送であるということです。多くの場合、商店から消費者宅までの5km以内を注文から30分から2時間以内に配送をします。宅配便の場合は、広域配送で注文から翌日または翌々日配送になります。
この即時配送が外売から広がってきたため、ウーラマ、美団という外売企業だけでなく、即時配送を専門に行うスタートアップ企業、さらに既存の宅配便企業も参入するというホットな領域になっています。
また、商店側も即時配送に対応をし、店舗ECに対応するところが増えています。中央倉庫から発送をして翌日配送をするのではなく、店舗の在庫から短時間配送をします。
「携帯電話が壊れた」「今晩の食材が欲しい」「会食があるのに、化粧品を忘れて出社した」「お腹が痛くなって、すぐに薬が飲みたい」「外に出るために着替えるのが面倒、化粧をするのが面倒」「宅配便は何時にくるのかわからず、受け取りが面倒」。こういった需要に応えてくれるのが店舗ECです。

 

中国の消費生活は、日本とは大きく異なるようになりました。もはや、日常消費をする場所は商店ではなく、自宅なのです。従来は人が商品を探していましたが、今では商品が人を探すようになっています。
このような新しい消費社会が構築できた核になったのがスマホ決済です。アリペイ、WeChatペイのスマホ決済は、QRコードを使った対面決済では紙幣と硬貨を電子化したただのキャッシュレス決済ですが、その狙いはスマホ決済にありました。スマホで決済ができるようにすることで、例えばECのアプリからオンライン決済ができるようになり、記録が残るので、何も商品を受け取る時に決済をしなくても事前に決済をしておくことができます。スマホの機能と連動させることで、さまざまな決済方法が取れるようになりました。つまり、お金の電子化ではなく、決済手段の電子化が目的だったのです。
さらに、これをリアル世界で支えているのが即時配送です。即時配送により、商品の短時間、短距離配送が可能になり、「どこでも消費」が可能になりました。
スマホスマホ決済と即時配送。この3つによって、中国の消費社会は大きく変貌しました。


今回は、この即時配送に焦点を当てて、どのような働きをしているのかをご紹介します。


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