中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

歩きスマホはもう古い。中国に現れた歩きプロジェクターをする人たち

中国のテクノロジーを海外に紹介するマシュー・ブレナン氏のツイートが話題を呼んでいる。それは、夜スマホプロジェクターを地面に投影し、歩きながら動画を楽しんでいる人たちを撮影したものだ。ネット民からは意外に楽しいよという声が上がっていると3DMGameが報じた。

 

自殺をするもうひとつの方法、歩きプロジェクター

マシュー・ブレナンは、深圳のチャイナチャンネルの創業者で、中国のテクノロジー英語圏に紹介し、特にSNS「WeChat」に詳しく、中国国内からも「WeChat大師」として知られる。

そのブレナン氏が、ツイッターで紹介したのが、夜歩く中国人が、プロジェクター内蔵のスマホを使い、ドラマやテレビ番組を地面に映しながらが歩く「歩きプロジェクター」の姿だった。ブレナン氏は、「我々は、自殺をするもうひとつの方法を発見した」と皮肉を込めてツイートしている。

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▲歩きスマホをする人。目の前に映像があるので、意外に人とぶつからない。

 

米国で問題になる歩きスマホの危険性

実際、米国では歩きスマホが大きな問題になっている。統計ポータルStatistaから得られる統計によると、米国の歩行者の死亡者数は6227人と1990年から最高レベルになろうとしている。

もちろん、ここには事故や暴力事件などによる死亡者数も含まれているため、どのぐらいの割合が歩きスマホによるものもかはわからないが、歩きスマホが原因で交通事故に巻き込まれる例は多く報道されている。

ハワイのホノルル市では、歩きスマホを禁止し、罰金も設けている。中国では、歩道に歩きスマホ専用通行帯を設けるなどの対策をしている。

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▲統計ポータルstatistaによる米国の歩行者の死亡者数。すべてが歩きスマホによるものではないが、2010年代に入ってから急増をしている。

 

ネット民は「けっこう安全だよ」

ブレナン氏のツイートがウェブメディアで伝えられると、多くのコメントがついている。サムスンスマホは以前からプロジェクターを搭載しており、この歩きプロジェクターは最近のことではなく、ずいぶん前からよく見かけることになっていると言う。ただし、バッテリーが1時間も持たないという指摘もある。

また、意外にも「そんなに危険ではない」という意見もある。自分の歩く先に映像を投影していくので、人とぶつかりそうになればかなり早い段階でわかるからだという。また、人の集まる場所で、広告映像を流す商売も始まっていると言う。珍しい姿なので、けっこうな人数が見て、広告効果があるのだと言う。

▲マシュー・ブレナン氏のツイート。歩きプロジェクターを「自殺をするもうひとつの方法」として批判的に紹介した。

 

意外にいいかもしれないスマホプロジェクター

夜、バス停でバスを待っている間に、地面に映像を投影して楽しんでいる人もいる。一時、話題になって、最近はあまり注目されなかったスマホ内蔵プロジェクターだが、中国ではユニークな使われ方が生まれている。

ワイヤレスイヤホンさえしておけば、そんなに周りにも迷惑にならない。意外に賢い使い方もしれない。

 

読みたい本を出前します。南京市図書館が始めた本の出前サービス

南京市の9つの図書館が貸し出す本の出前を始めている。オンラインカタログで注文をすれば、自宅まで届けくれるものだ。南京市はクラウド図書館の実現を目指していると江蘇公共ニュース番組「新聞360」が報じた。

 

図書館の本を出前してくれる「書服到家」サービス

中国の都市生活にすっかり定着した「外売」。出前代行サービスで、わずかな配達料でファストフードやレストラン、飲食店の料理などを自宅やオフィスに届けてくれる。最近では、薬局やコンビニなどの商品も届けてくれるようになっている。

南京市では、金陵図書館、南京鄴区図書館など9つの図書館が、昨年10月から「書服到家」という名称の外売サービスを始めている。

南京市民は、スマートフォンのアリペイミニプログラムから借りたい本を指定すると、8冊までを借りて、自宅に届けてもらうことができる。ただし、利用するにはアリペイの芝麻信用スコア(ジーマクレジットスコア)が550点以上必要(中程度の水準)。

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▲南京市では、図書館に行かなくても本が借りられる「書服到家」サービスを始めた。

 

・返却はポストへ

予約をした本が空いていれば、翌日には配送され、利用料は3冊までが3元。以下1冊ごとに1元が追加される。

オンラインカタログにはすでに4万冊の書籍が登録されている。

返却も外売のピックアップサービスが利用できるが、この場合の費用は利用者負担となる。また、図書館など22カ所に返却ポストが設けられていて、こちらに返却をすれば費用はかからない。この返却ポストは、地下鉄の駅構内などに置かれ、ここにも数十冊程度の書籍が置かれ、自動販売機にようにすぐに持ち帰ることができる書服到家サービスが利用できる。

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▲すでに4万冊が登録されているオンラインカタログから、読みたい本を選んで、出前を注文する。

 

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▲市内の返却ポストには、本の貸し出しの自動販売機も置かれ、ここで本を借りることもできる。

 

高齢者の利用が今後の課題

南京市が公表した統計によると、書服到家サービスが始まって6ヶ月、21歳から40歳までの若者層が利用者の78.5%を占めるという。登録者数は1万6000人を超え、1万4000冊が書服到家サービスで借りられている(当然、図書館で通常通り借りることもできる)。

しかし、すでに課題も見えている。図書館の利用者は60歳以上の高齢者が多い。しかし、書服到家サービスはあまり使われていない。本来なら、自宅まで本を配送してくれる書服到家は、高齢者向きなのに利用者が少ない理由は、スマホの操作、特に図書の検索がハードルになっていると思われる。そのため、音声入力に対応させることを急いでいる。

 

オペレーションにも改善が必要

もうひとつの問題は、自分で図書館にいって借りた本と、書服到家サービスで借りた本の区別が利用者にはつかなくなってしまうことだ。図書館で借りた本は図書館に返却する必要があるが、書服到家で借りた本はピックアップか返却ポストに返却しなければならない。ここもオペレーションを統一して、どちらで借りた本であっても、どこに返してもいいように改良する予定だという。

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▲図書館では、本を選ぶ人、本を読む人で混雑をしている。出前サービスを導入することで、図書館スペースを有効活用することも狙いのひとつだ。

 

南京市は全図書館をカバーし、クラウド図書館を実現する

2019年4月には、将雨花台図書館、高淳区図書館、溧水区図書館が新たに南京シェアリング書庫に加わり、書服到家サービスに対応した。

南京市では、すべての公共図書館を書服到家サービスに対応させ、クラウド図書館を構築することを目指している。

Fire HD 8 タブレット (8インチHDディスプレイ) 32GB

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ポストスマホの大本命か。ヌビアのリスト型スマホ「アルファ」が話題に

ストスマホの本命となるか。腕時計型スマホ「アルファ」は電話、カメラも搭載され、音楽の再生もできる。「これ1台あればスマホはいらない」と話題になっていると、中関村オンラインが報じた。

 

電話もできる腕時計型スマホ「アルファ」

スマホの次のデバイスへの模索が始まっているが、これといった決定版がなかなか出てこない。アップルウォッチに代表されるスマートウォッチはあくまでもスマホの周辺機器でしかない。しかし、ヌビアが発売したスマートウォッチ「アルファ」は、単体で電話などの通信機能があり、ウォッチというよりも、リスト型スマートフォン。価格も3499元(約5万6000円)、18金を使ったゴールド版が4499元(約7万2000円)と、スマホとほぼ同じ価格帯。ポストスマホの大本命として大きな話題になっている。

中国では家庭の電話機のことを「座機」、携帯電話のことを「手機」と呼ぶ。このアルファに対してはすでに「腕機」という呼び方が定着し始めている。

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▲アップルウォッチと並べた「アルファ」。表示領域が圧倒的に広く、使いやすそうなことが写真でもわかる。

 

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▲バンド部分も工夫されていて、ワンタッチで着脱が可能。

 

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▲スマートウォッチでおなじみになったアクティビティのトラッキング機能ももちろん搭載されている。

 

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▲ディスプレイは意外に柔軟性が高い。腕に巻いても違和感は生じない。

 

表示領域をスライドできる賢い工夫

何より目に入るのが、4.01インチ、960×192ドットのOLEDディスプレイだ。解像度は225PPIあり、小さな文字も読みやすい。このディスプレイはフレキシブルになっていて、丸い手首にフィットするようになっている。

この960×192ドットという液晶のアスペクト比は、縦長すぎる。ここにもうまい工夫がある。アプリの画面はディスプレイ前面に表示されるのではなく、横はいっぱいに、縦は半分程度の大きさに表示される。そして、アプリの表示位置を指でスライドさせることができるのだ。アプリを使うときに、腕を回転させて操作するのではなく、アプリ画面の方を自分の最も見やすく、使いやすい位置に移動させることができる。非常にうまい工夫で、これにより、一気にアルファは実用的なデバイスになっている。

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▲素晴らしい工夫。アプリの表示位置をスライドして、自分の見やすい位置に移動することができる。

 

指を振ることで操作できるエアーコントロール

前面両サイドには500万画素82度広角のCCDと、もうひとつ光距離センサーが付いている。この光センサーを使って、指を振ってメニュー操作をするエアーコントロールが可能になっている。もちろん、画面のタップ、スワイプなどの操作もできるが、タップ、スワイプといった接触操作は、歩いている時やタクシーに乗っている時などは、振動があるため意外に難しい。特に、幅の狭い左右のスワイプはやりづらい。このような時、エアーコントロールが重宝する。

さらに、右横のボタンを長押しすると、AI音声アシスタントを起動することができ、音声による操作も可能だ。

一般的なスマートウォッチと同じように、ウォーキング、ランニング、ジム、睡眠トラッキングなどの機能がある。心拍数も自動計測する。これで、充電は2日に1回でいいという。

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▲指は触れていない。指を振るだけで、スワイプ操作ができるエアーコントロール

 

主要アプリはプリインストール済み

アプリに関しては、主だったものがプリインストールされている。天気、スケジュール、コンパス、タイマーなどだ。

また、電話、ショートメッセージ、SNS「WeChat」、スマホ決済、マップなどのアプリも入っている。

スピーカーも内蔵されているが、アルファを耳に当てて聞くよりは、Bluetoothヘッドセットをシンクロさせて、それを使うことを想定している。ユーザーメモリは8GBあり、音楽を保存することもできるので、携帯音楽プレイヤーとして利用することもできる。

キャリア通信は、eSIM専用となっているため、キャリアとeSIMの契約をする必要がある。

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▲マップアプリも内蔵され、ルート案内もしてくれる。

 

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▲文字は音声入力が基本になるが、手描き文字入力も可能。

 

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▲ワイヤレス充電にも対応。Qi充電台の上に置いておくだけで充電ができる。

 

シンプルな使い方であれば必要十分

このアルファは、悪いところが見当たらない。難を言えば、スマホのように豊富なアプリ群が用意されているわけではないので、ゲームをやりたいとか、いろいろなアプリを入れて使い方という人には不自由さを感じるかもしれない。しかし、スマホの基本的な機能はきっちりとカバーをしてきている。フレキシブルディスプレイもギミックというより、実用性を考えたものになっている。

例えば、仕事用にアルファを使い、プライベート用には大画面スマホタブレットを使うという人も増えてくるのではないだろうか。あるいは、過度のスマホ依存が社会問題になり始めている中国では、アルファだけを使って、手ぶらで街を歩くというのがひとつのスタイルになる可能性もある。

ここ数年、スマホの進化が頭打ちになり、これといった決定打がないままに大画面化だけが進み、過度の大画面化により「折り畳み」というある意味、進化の袋小路に入った感もあった。しかし、このアルファは、ポストスマホに大きな一歩を踏み出した製品になった。

当然、他のメーカーも追随するはずで、中国ではリスト型スマホの競争が始まるかもしれない。

 

眠りこけている間に顔認証されて、17万円が盗まれる

相部屋方式の寮で寝ている間に、同室の仲間に顔認証ロック解除され、WeChatペイの資金を1万元盗まれるという事件が起きたと毎日経済新聞が報じた。

 

寝ている間に顔認証ロック解除される

2017年9月、中国で初めて顔認証でロック解除、パスワード入力をするスマートフォンが登場して以来、「寝ている間にロック解除されてしまうのではないか」という指摘が専門家からされていたが、その恐れていた事件が実際に起こってしまった。

浙江省寧波市の袁さんは、寝ている間に顔認証でロック解除され、1万元(約17万円)が盗まれたと警察に被害届を出した。

袁さんは寧波市のレストランで働いていて、他の従業員とともに寮で寝泊りをしている。朝起きてみると、銀行口座の残高のほぼすべてである1万元が消えていた。

警察が捜査をしてみると、同じ部屋で寝泊まりしている同僚である劉某と楊某の二人の証言に不審なものを感じた。警察官が問い詰めると、二人は袁さんが寝ている時に、ふざけて袁さんのスマホを顔にかざすとロック解除できてしまったため、WeChatペイ経由で袁さんの銀行口座の残高を、自分のスマホに送金をしたという。

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▲袁さんのスマホ。当初1万200元ほどの資金を入れていたが、犯行後残されたのは0.59元だけだった。

 

画面を注視しないとロック解除できないはずが…

多くの顔認証対応のスマホでは、目を閉じている状態では顔認証によるロック解除がなされないようになっている。しかし、袁さんが使っていたスマホは、この機能が緩く、寝ている袁さんの顔にスマホを向けるだけでロック解除されてしまったようだ。

iPhoneなどでは、顔認証のFace IDでロック解除をするには、目を開けているだけでなく、画面を注視しないとロック解除がされないようになっている。しかし、障害を持つ人のための機能「アクセシビリティ」を設定すると、目を閉じていてもFace IDが有効になる機能もある。

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▲犯行が行われた現場。複数人が同室で寝るため、寝ている間に顔認証ロック解除をされた。

 

寝る時にはマスクをつけてなければならいのか…

ネット民の間でさまざまな議論が起きている。指紋認証であっても、寝ている間に指をスマホに押し付けることは可能だ。

警察は、スマホ決済の送金には、指紋認証や顔認証ではなく、文字式のパスワードを設定しておくことを勧めているが、それでは利便性が大きく損なわれてしまう。中には目出し帽のようなマスクをつけて寝ればいいとか、そもそも他人と同室で寝るようなことは避けるべきだ、財布だって盗まれるかもしれないとさまざまなコメントが寄せられているが、現在のところ、これといった妙案がない状態だ。

袁さんが使っていたスマホのブランド、機種などは公表されていないが、警察が実験したところ、確かに目を閉じた状態でも顔認証が可能だったという。顔認証によるロック解除は、ユーザー体験が非常に優れているので、今後、多くのスマホで採用されていくことになるため、このような事件もまだまだ起こりそうだ。

▲この犯行は話題となり、多くのネットメディアで報道された。

 

取り残される高齢者。デジタルデバイドは永遠の社会課題

生活にスマホが浸透する中で、高齢者が取り残されている。スマホが使えない高齢者にとって、以前よりも暮らしづらくなってしまっていると北京晩報が報じた。

 

スマホを持たない人には暮らしづらい中国

中国の大都市では90%以上の街中決済が、アリペイ、WeChatペイのスマホ決済で行われるようになっている。現金を使っているのは、茶葉、骨董品、食器などの伝統産業の問屋街ぐらいで、現金を目にすること自体が珍しくなっている。

とは言え、米国の調査会社ピュー研究所の調査によると、2018年の中国の携帯電話普及率は98%であるものの、スマートフォンの普及率は68%であり、日本の59%と大きな差があるわけではない。地方都市、農村、高齢者などスマホを持っていない、つまりスマホ決済が利用できない人にとっては、暮らしづらい世の中になっている。

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▲若者世代は、スマホで遊園地のチケットを買い、タクシーを呼び、快適な生活を送っている。しかし、高齢者にとっては、何が起きているのかがよくわからない。

 

スマホがなければスーパーでの買い物も面倒

北京市の南三環外に住んでいる72歳の徐さん(女性)は、近所にできた新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)に行ってみた。フーマフレッシュはアリババ系列のスーパーで、店内で買い物をした場合はセルフレジを使って専用アプリで決済をする。専用アプリからは、3km圏内であれば30分配送の宅配注文ができる。

徐さんは、近所の永輝スーパーでいつも買い物をしていたが、近くにフーマフレッシュが開店し、近所の人の評判もものすごくいいので、試しに買い物にきてみた。

専用アプリをスマホに入れた会員専用店であるということは聞いていたので、スマホを持っていない徐さんは、入り口でスタッフに聞いてみた。「すみません。携帯電話がなくてもここで買い物ができますか?」。

スマホがなくても買い物はできますよ。ただ、お支払いが現金になる場合は、インフォメーションデスクでお支払いください」。

フーマは開業当初、アリペイでしか決済ができず、現金支払いができなかった。中国でも商店が現金支払いを拒否することは法律で禁じられている。そのため「会員専用店」という建て付けにしたのだが、中央銀行から違法性の指摘を受け、インフォメーションデスクでのみ現金支払いを受け付けている。しかし、面倒であることは間違いない。

 

スマホがなければ優待も受けられない

徐さんがフーマフレッシュの商品を見て回ると、確かに肉や魚、野菜といった生鮮食料品の品質は高いと感じたが、価格は少し高めだとも感じた。できれば、今後もフーマで買い物をしたいが、毎回、現金支払いでスタッフの手を煩わせるのも申し訳ないと感じた。

さらに、スマホがないと、会員アカウントとアプリを紐づけることができず、未登録会員という扱いになってしまい、クーポンの配信や割引などの優待が受けられないという。スタッフは「次回はぜひスマートフォンをお持ちください。操作をお手伝いしますので」と言うが、徐さんはスマホそのものを持っていないし、スマホ決済も使っていない。スマホがあったとしても、徐さんにはセルフレジで決済をするのは自分には難しいのではないかと感じた。

 

現金だとお釣りがなくて決済ができない

現金主義の徐さんが困っているのは、先進的な新小売スーパーだけではない。昔から通っている市場でも、ほとんどがスマホ決済になり、現金を使う人はほとんどいなくなっている。そのため、紙幣を出すと「お釣りがない」と断られることが多くなった。業者の方も現金を扱わなくなっているので、釣銭をほとんど用意していないのだ。結局、市場に行く前にコンビニなどに寄って、低額商品を買って、小銭を用意してからでないと市場に買い物に行けなくなっている。「2年もしたら、私は買い物ができなくなっているのではないでしょうか」。徐さんは心配している。

 

スタッフに現金を渡してチャージをしてもらう

北京市の右安門に住む80歳の陳娟則さん(女性)は、夫との二人暮らしだが、体が健康であるため、家事を一人でこなしていた。しかし、さすがに毎日食事を作り、掃除をし、洗濯をすることがつらくなったため、国安社区のサービスを利用することにした。国安社区は、アプリから家事サービスを注文できるサービスで、買い物、料理、洗濯、掃除などを代行してくれる。支払いはアプリ内にチャージしたポイントから引き落とされる。

ところが、陳さんはスマホは持っているものの、スマホ決済を使っていない。使い方がよくわからないからだ。そのため、アプリに料金をチャージすることができない。そこで、陳さんは歩いていて5分ほどの国安社区の店舗に行き、現金を持っていき、スタッフにチャージをしてもらっていた。

 

周りは高齢者ばかりで、誰も使い方を知らない

ところが、国安社区の経営が芳しくなく、陳さんがいつも行っている国安社区の店舗が閉鎖になってしまった。いちばん近い店舗は、歩いて30分か40分もかかる場所にしかない。スマホ決済を入れて、自分でチャージができるようになれば、わざわざ店舗に行く必要はないのだが、そのやり方がわからない。近所の人に聞こうとしても、陳さんの住んでいる場所は高齢者ばかりで、やり方がわかる人がまったくいない。

「今の時代、スマホが使いこなせるか、使いこなせないかで、生活が大きく違ってしまいます」と陳さんは言う。以前は、高齢者が多く住んでいるような地区には、必ずと行っていいほど家政婦派遣所があって、そこに行って声を掛けるか、電話することで、家事を手伝ってもらうことができていた。しかし、IT化が進むと、家事サービスもオンラインのものが普及をし、その煽りで、小さな家政婦派遣所は消えていっている。陳さんにとっては、かえって暮らしづらくなってしまっている。

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▲高齢者が多い地区では、若者がスマホの使い方を教えるボランティア活動が盛んに行われている。高齢者の話し相手ともなり、地区からは歓迎をされている。しかし、教えてもらっても、使い方をすぐ忘れてしまうのが高齢者なのだ。

 

永遠に続くデジタルデバイドのサイクル

中国の都市部では、60歳ぐらいであれば、当たり前のようにスマホを持ち、スマホ決済を使い、オンラインの生活サービスも、ご近所や若者に教わりながらなんとか使いこなしている。取り残された高齢者は少数であり、後10年もすればいなくなってしまうだろう。そのため、この高齢者のデジタルデバイドの問題は、あまり大きな社会問題にはなっていない。

しかし、今30歳の人も、40年後には高齢者になる。その時、スマホは使いこなせるかもしれないが、世の中の主流があいかわらずスマホであるとは限らない。その時には、スマホではない、まったく新しいデバイスが登場しているだろう。サービスも今からは想像のつかない仕組みになっているかもしれない。

デジタルの進化は、連続ではなく不連続に起きていく。フィーチャーフォンスマートフォンは、似てはいるが、考え方がまったく違う。フィーチャーフォンしか使ったことがない人が、いきなりスマホに切り替えて、ウーバーや顔認証決済を使えと言われたら、かなり戸惑ってしまうだろう。スマホを使いこなせている私たちも、いつかは新しいデバイスの登場に戸惑うことになる。デジタルデバイドの問題は構造的なもので、永遠になくならない社会課題なのだ。

 

ファーウェイP30 Proの50倍ズームがやばすぎると話題に

ファーウェイの最新機種P30 Proはトリプルレンズを採用し、50倍までのズームが可能。この50倍ズームがやばいと話題になり、ウェイボーなどのSNSに撮影した写真を投稿することが流行している。

 

50倍まで劣化なしに拡大するロスレス50倍ズーム

ファーウェイが、2016年にP9で初めてダブルレンズを採用して以来、中国系のスマホメーカーは写真の品質を上げる競争に入っている。その中で、大きく注目されているのがファーウェイP30 Proの50倍ズームだ。

P30 Proではトリプルレンズを採用。4000万画素カメラ、2000万画素の超広角カメラ、800万画素のズームカメラの3つの組み合わせで写真を撮影する。さらに5倍の光学ズームと10倍のハイブリッドズームを組み合わせて、最高50倍のズームを実現している。ハイブリッドズームとはデジタルズーム(画像拡大)の後、レンズからの映像を参照して、失われた画素を補う仕組みだ。従来のデジタルズームとは異なり、画像が荒くならないため「ロスレスズーム」と呼ばれることもある。

つまり、ユーザーから見れば、画像の劣化をほとんど感じることなく、50倍までのズームが利用できることになる。

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▲50倍ロスレスズームの実力。ズームをしてもはっきりと映る。すでに取材や視察などでメディア関係者、ビジネス関係者から歓迎されている。

 

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▲接写ズームも可能。さらに夜景にも強いと、カメラ性能はこれまでのスマホと一線を画している。

 

やばすぎる50倍ズームの実力

この50倍ズームが大きな話題になっている。例えば、道路から高層ビルを撮影すると、部屋の中の人まで写すことができる。側から見れば、ビル全体を撮影しているようにしか見えないが、一種のノゾキができてしまうと話題になっているのだ。

この50倍ズームを利用した写真を、ウェイボーなどのSNSにアップするのがちょっとしたブームになっている。

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SNSに投稿された写真。プライバシーとの問題も議論になっている。

 

 

偽物iPhoneをアップルストアに修理依頼。1400万円を荒稼ぎ

2人の中国人留学生が、中国国内で大量の偽iPhoneを調達し、米国のアップルストアに持ち込み「起動できない」として、1500台の新品のiPhoneに交換をしてもらい、90万ドルを荒稼ぎしたと捜狐が報じた。

 

その場で交換してくれるアップルストア

アップルストアのサポートは、以前、即時交換を基本にしていた。iPhone(SIMアンロック製品、キャリア経由で購入したものは除く)、iPadMacBookなどの保証修理を依頼すると、多くの場合、リビルド品にその場で交換してくれていた。リビルド品は、故障した製品を再生したものだが、外装部などの人の手が触る部分やバッテリーは新品で、品質検査を経た上で3ヶ月保証がつくというもの。

これを中古品としてみるか、新品同様と見るかは人それぞれだが、特にiPhoneの場合、その場ですぐに交換してくれるというのはとてもありがたい。しかも、原則的にどこの国のアップルストアでもいいのだ。日本で購入したアップル製品を米国のアップルストアに持ち込んでも、その場で交換してくれる。

 

二度手間になる現品修理方式

ユーザーの利便性を最大限に考えた素晴らしい仕組みだが、2013年に中国でこの仕組みが問題になり、次第にアップルストアは即時交換をやめ、可能な限り現品修理をするようになった。ユーザーからしてみれば、保証修理を依頼した後に、受け取りのために再度アップルストアを訪れなければならず、二度手間になってしまった。しかも、修理に数日かかる場合は、その間、iPhoneが使えない。

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▲中国のアップルストアは、すでに42店舗ある。以前は保証修理が異常に多い国だった。

 

問題となった中国でのiPhone修理方式

中国の消費者保護関係法では、携帯電話の保証修理は「新品交換」か「現品修理」のいずれかをしなければならないと定められている。しかし、アップルストアのリビルド品交換は、再生品であり、新品ではないため、法令に触れる可能性がある。

そこで、2013年当時、多くの中国iPhone修理店では、当時のiPhone 4、4Sのガラス製のバックパネルを外し、それをリビルド品に装着して、修理依頼者に渡していた。つまり、「バックパネル以外のすべての部品を交換するという修理」を行ったという建てつけにしたのだ。

ところが、これが消費者の権利をテーマにした番組「3.15晩会」(世界消費者権利デーに放送される生番組。さまざまな企業の悪徳ぶりを暴き出すことで人気がある)で問題にされた。本来は新品交換すべきところを、「バックパネル以外の部品の全交換」と偽って、リビルド品(中国人には中古品に見える)を渡していたと指摘されたのだ。

リビルト品を新品同等品と見るか、中古品と見るかは議論の余地があるが、当時のアップルが、中国の法律から見れば、かなりグレーなサポートを行っていたことは事実。そのため、アップルのティム・クックCEOはすぐに中国語での謝罪文を公表し、改善することを約束した。

その改善とは、リビルド品交換を中止して、問題のある部品を交換する現品修理方式にしたことだ。故障品を持ってアップルストアに行き、さらに受け取りにもう一度行かなければならず、ユーザーの利便性はかえって下がってしまった。

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▲蒋全と周陽陽の2人が修理詐欺で得た本物のiPhone。1493台のiPhoneを手にし、約1400万円分の利益を得た。

 

狙われた米国アップルストアの即時交換方式

しかし、米国のアップルストアでは、いまだにリビルド品への即時交換を行っている。米国の消費者は、二度手間になり、数日間iPhoneが使えないというデメリットを受けるぐらいなら、品質検査を経たリビルド品をすぐに渡してくれた方がありがたいと考えているのだろう。この修理ポリシーの違いが狙われた。

このポリシーの違いを悪用したのは、蒋全と周陽陽という2人の中学人留学生カップル。蒋全はオレゴン州立大学の学生で、香港で3000台の精巧なiPhoneの偽物を買い求め、これを米国に持ち込み、米国内のアップルストアで「起動しない」と言って保証修理を要求した。起動しない保証修理の場合、米国ではほとんどリビルド品に交換されることになる。

対応したアップルストアのスタッフの中には、偽物のiPhoneであることに気が付いたり、ユーザー登録情報に不備があることから、保証修理を拒否したケースもあるが、それでも2人は1493台の本物のiPhoneを手に入れ、金額に換算すると89.6万ドル(約1400万円)の利益を得た。

 

中国ではポピュラーな手口「換機師」

この手口は、中国では珍しいものではない。正規ショップに偽物を持ち込み、正規品に交換させようとする犯罪者たちは「換機師」と呼ばれる。2人が買い求めたのは、偽物のiPhoneと言っても、いわゆるコピー品ではなく、この犯罪のために用意されたものだ。

中古の価格が安くなったり、故障してタダ同然になったiPhoneを大量購入し、中の基盤を抜き取り、ガラクタ同然の基盤に差し替える。中の基盤は、闇市場に売却をする。中身はガラクタでも、見た目は正規品に見えるiPhoneを使った。中を開けなければ、偽物だとは気づかれない。

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▲深圳の電子街「華強北」で販売されているiPhoneの外装部品。このような外装部品に適当なガラクタ基板を入れれば、「故障して起動しないiPhone」が出来上がる。

 

保証修理の6割が換機師によるものとの報道も

米国のウェブメディア「The Information」によると、2013年以前、中国国内ではこの詐欺行為が蔓延し、中国国内でのiPhone保証修理の60%もがこのような換機師による詐欺行為だったという驚くような内容が報じられている。

実際、アップルは2013年のグローバルでの修理にかかる費用を13億ドル(約1400億円)と見積もっていたが、現実には37億ドル(約4000億円)もかかってしまっていた。

当時の中国のアップルストアでは、各店舗で毎週2000件の保証修理(即時交換)が行われていて、これはニューヨークの五番街アップルストアの3倍であり、中国は世界で最もiPhoneの修理が多い国になっていた。

ティム・クックCEOが謝罪をして、中国での保証修理ポリシーを即時交換から現品修理に改めたのは、中国国内の法律を遵守するためということもあっただろうが、このような詐欺を防ぐ意味もあったのかもしれない。

また、アップルではバッテリーや基板上のチップに特定波長の光に反応する顔料を塗布するようになっていて、特殊ライトを当てるだけで、正規品であるかどうかを判別できるようにしている。

このような対策をするようになってからは、詐欺の割合は10%以下になったという。

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▲蒋全と周陽陽の2人が住んでいた部屋。大量の偽物iPhoneが押収された。

 

主犯には2億円の罰金と30年の禁固刑が求刑

蒋全と周陽陽の2人は、米国内でFBIに逮捕をされ、2019年3月に起訴された。主犯の蒋全は、ネット詐欺、偽造商品販売などの罪で、200万ドル(約2.2億円)の罰金と、20年+10年の禁固刑、従犯の周陽陽は1万ドルの罰金と5年の禁固刑が求刑されている。

日本のアップルストアの修理ポリシーも即時交換から修理に変わっている。大方の見方は「日本人もリビルド品を中古品と考え、嫌うから」というものだが、リビルド品は人の手が触れる外装部分は新品であり、3ヶ月または購入品の1年保証のいずれかの長い方の保証期間が適用される。ひょっとしたら、2013年以降、中国の換機師が日本のアップルストアに偽iPhoneを持ち込むようなことが起きていたのかもしれない。

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