中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

電子も紙も。両方を読む1.5億人の中国読書人

中国でECサイト経由で紙の書籍を購入した人、電子書籍を購入したの合計が1.5億人に達した。この数年、読書人口は20%前後、毎年増えている。多くの人が、紙の本も電子書籍も読むという。ネットで無料で読める電子書籍が大量にあることが読書人口を増やすことにつながっていると新華網が報じた。

 

中国の読書人口は1.5億人、1年で平均5.5冊を購入

「2018年中国人読書報告」によると、電子書籍が急速に普及し、読書人口が増えているという。タオバオ、Tmall、閑魚、阿里文学などの書籍販売サイト、読書プラットフォームで読書をした読書人口は2018年に3000万人近く増加し、1.5億人となり、紙の本の購入冊数も2018年は一人平均で5.5冊になっている。アリババの運営するECサイト「Tmall」は紙の本を購入する最大のプラットフォームになっていて、中国で買われる紙の本の3冊に1冊はTmall経由になっている。

f:id:tamakino:20190204182001j:plain

▲アリババが公開した「アリババ2018中国人読書報告」。読書人口が増え、その多くが紙も電子も読むことが明らかになった。

 

世代により異なる読書傾向

新しく増えた読書人口の3000万人は、割合で言うと約19%の増加になる。この新読書人口の大半は、80年代生まれ(30代)と90年代生まれ(20代)だ。00年代生まれ(10代)はまだ少ないが、今後読書人口が増えてくると思われる。

各年代ごとに読まれる本の傾向は違っている。80年代生まれは子育て指南書や学習補助教材が多く、子どもの教育に力を入れている。90年代生まれは英語の学習教材、公務員試験の教材など、自分のスキルを高める本が多い。00年代生まれは、英語の入門教材と青春小説が多い。

f:id:tamakino:20190204182013p:plain

▲阿里文学のサイトでは、多くの小説が無料で読める。日本のラノベ投稿サイトに近い。この中から人気作家が登場してくるのが当たり前になっている。

 

電子も紙も両方を読むのが一般的なスタイル

中国の読書人口の半数以上が、電子書籍と紙の本を両方読む。一般には、紙の本は時間がある時に耽溺してじっくりと読み、電子書籍は時間の空いている隙間時間に、つまみ食い読みをする傾向がある。

紙の本では、純文学や社会科学、童話などがよく読まれる。電子書籍では小説、人文科学、ビジネス書などが読まれる傾向がある。

若い世代の方が電子書籍を好む傾向があるが、それでも紙の本と大きな差はなく、両方を使い分けると言うのが中国読書人の一般的なスタイルのようだ。

f:id:tamakino:20190204182007p:plain

▲多くの人が利用している百度文庫。古典文学や学生、社会人の教材などはほとんどが無料で読むことができる。スマートフォンが大画面化したことで、スマホが読書端末としても使えるようになっている。

 

無料で読める電子書籍が、読書人口を増やす呼び水になっている

中国には阿里文学、百度文庫など、無料で電子書籍が読めるプラットフォームが多数ある。スマートフォンの画面が大型化したことで、このようなプラットフォームを利用して、いつでも電子書籍が読める環境が整っている。内容は古典文学だけでなく、学習教材、専門書など多岐にわたっている。特に、日本のライトノベルに相当する青春小説は、一般の人が投稿をし、その中で人気を得た作家がプロになるという流れができあがっている。

知り合いからSNSで作品を紹介されて、そのままリンクをタップすることで読めることも大きい。隙間時間にこのような電子書籍を読み、それが呼び水となって、有料の電子書籍を購入したり、紙の書籍を購入することにつながっていると思われる。

 

進む方向がはっきりと分かれてきた中国IT御三家BAT

pwc中国が「中国小売業の新展開:バリューチェーンの全面的なデジタル化」を公開した。これによると、消費者はモノの購入から購入体験を楽しむことに変化し始めており、アリババの新小売はその変化をうまく捉えている。百度ウェブサービスに軸足を置き、テンセントは全方位と、BAT3社の方向性の違いが明確になってきている。

 

新小売は、ECと店舗小売の融合

アリババが提唱している「新小売」(ニューリテール)のことを、テクノロジーをふんだんに利用した新しい小売形態の総称であると誤解している人は多い。例えば、よく話題にのぼる無人コンビニは、単なる店舗小売の無人化であり、新小売ではない。

アリババのジャック・マー会長は、テクノロジーの進化により、今後30年で5つの領域が大きく変わると言っている。その5つとは、「小売」「製造」「金融」「技術」「資源」だ。小売の分野ではECと店舗小売の融合が起こるとした。このEC小売と実体小売が融合したものが「新小売」だ。

その好例が、アリババが運営する新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)だ。店舗でも販売をするが、半径3km以内にはスマホ注文で30分以内の宅配をする。すでに6割がスマホ注文になっていて、店舗は販売所というよりはショールームと倉庫の機能が強くなっている。

 

20年前から議論されているECと店舗小売の融合

1995年、米国でアマゾンがオンライン書店を始めた時に、すでにクリック&モルタル問題がクローズアップされている。これは、オンライン店舗と実体店舗をどのように効果的に融合するかという問題だ。

多くのメーカー、小売企業が「クリック」(EC)と「モルタル」(店舗)の両方に商品を流通させているが、この2つは常に相反し合ってしまい、相乗効果をもたらしているとは言えない。

今、ごく普通の街中に路面店をオープンして、一定の売上をあげられるほどブランド力のある企業はごく限られている。一般のブランドは、ショッピングモールに入居をして、集客をしてもらわないことには目標売上を達成できない。

多くのモールは、各テナントの売上の一定割合を家賃、運営費として徴収している。安全のため、毎日各テナントの売上金を回収、一括保管をして、一定割合の家賃、運営費を差し引いて、売上金をテナント企業に振り込む。つまり、各テナントの売上が下がると、モールの収益も減るので困るのだ。

そのため、モールは「店舗のショールーム化」を警戒している。家電量販店などは、その場で現物を確かめ、価格を確認の後、手元のスマホからECサイトで注文されてしまう。モール運営企業は、店舗のショールーム化を積極的に進めるテナントは避ける傾向にある。モールのテナントは、EC売上を上げる積極策が取りづらいというおかしなことが起きている。

フーマフレッシュは、原則直営店なので、こういった問題から解放され、積極的にEC売上をあげていく施策が取れる。限られた店舗面積で、売上をさらにあげていくにはEC売上が大きく寄与をしてくれる。アリババは、1995年以来、小売業界が頭を悩ませていたクリック&モルタル問題に、初めて効果的な解答を示した。

f:id:tamakino:20190203182317p:plain

▲中国ECは巨大市場のように見えるが、店舗販売の実体小売はECの5倍から6倍の規模がある。ECはいかにして実体小売を取り込むかが成長の大きなカギになる。単位は億ドル。

 

ECが成長するためには食品に参入する必要がある

EC売上は急成長をしているが、それでも小売の市場規模全体から見れば、全体の1/6程度でしかない。実体小売の方がはるかに広大な市場なのだ。

商品別にEC小売の浸透率を見てみると、想像通り、電子製品や家電製品の浸透率が高い。現物を見なくてもスペックと価格の情報だけで購入を決めることができるからだ。また、服飾品の浸透率も伸びている。ファストファッションが広がり、やはり現物を見なくても、色、スタイル、サイズ、価格の情報から購入を決めることができるようになったからだ。

一方で、化粧品は浸透率がさほど高くない。使いなれた化粧品のリピート買いにはECは便利だが、知らない化粧品はやはり現物を見て確かめたいからだ。同じ理由で食品の浸透率も低い。特に生鮮食料品は、鮮度の個体差が大きく、信用できるスーパーに足を運んで、現物を見てから買いたいという心理が働く。

フーマフレッシュはこの問題も解決した。店舗をショールーム化することで、現物を見て生鮮食料品の質に対する信頼感を生み、しかも、自分で持って帰るのは重たいという心理をついて、スマホ注文宅配に誘導をしている。生鮮食料品のEC浸透率は10%以下なので、実体小売市場はECの10倍以上ある。フーマフレッシュは、この広大な市場を新小売戦略で取りに行っている。

また、嗜好品も浸透率が低い。嗜好品の場合、買い物をすること自体がエンターテイメントになっているので、ECになじまないのだと思われる。

f:id:tamakino:20190203182322p:plain

▲種類別のEC浸透率。想像通り、電子製品や服飾品はEC比率が高い。一方で、食品と嗜好品はEC浸透率が低い。ECが成長をするには、食料品をどうにかして扱わなければならない。新小売は、この課題に対するアリババの解答だった。

 

イノベーターほど消費体験そのものが娯楽化している

pwcでは、消費者を、新しい商品に対する反応速度から「イノベーター」「マジョリティー」「ラガード(保守層)」の3つに分類をして調査をしている。中国の消費者の場合、イノベーターは21%、マジョリティーは52%、ラガードは27%になる。

興味深いのは、それぞれの消費者別に尋ねた「EC購入をする時に参考にするメディア」だ。イノベーターは映像共有サイトやブログが高く、マジョリティーECサイトが高く、ラガードは価格比較サイトが高い。

ラガードの場合、消費は業務に近い作業になっている。価格と性能が最も気になるポイントであり、最高性能の製品を最低価格で購入し、消費の効率を高めようと考える。しかし、イノベーターの場合、消費は娯楽になっている。映像共有サイトやブログを参考にすることが多いのは、インフルエンサーが動画やブログで商品の紹介をするからだ。イノベーターはそれを見て購入を決める。面白い商品や、自分の信頼するインフルエンサーと同じ商品を購入する。モノが欲しいというよりも、購入体験を楽しみたいと考えるようになっている。

f:id:tamakino:20190203182330p:plain

▲消費者の新製品に対する感度別に、EC消費をするときに、どのようなメディアを参考にするかを尋ねたもの。最も感度の高いイノベーターは映像共有サイト、ブログを参考にすることが多い。商品選定を娯楽のひとつとして楽しんでいることがうかがわれる。一方、保守的なラガードは価格比較サイトの利用率が高い。ラガードにとって、消費は「いかに安く買うか」が極めて重要なのだと思われる。

 

店舗は買い物の場所ではなく、娯楽の場所になっていく

新小売は、このような消費者のモノ志向から購入体験志向への変化にも対応しやすい。フーマフレッシュでは、レストランが併設され、販売されている食材を使った料理が提供される。消費者に対するプレゼンテーションが目的なので、価格も安く抑えられている。また、週末になると店舗ではさまざまなイベントが開催される。これで集客をして、商品の質を知ってもらうのが目的だ。

週末に家族でフーマフレッシュの店舗にやってきて食事をとり、イベントを楽しむ。帰り際に必要な食料品をスマホから注文し、家に着く頃に届くというパターンの人が増えている。

f:id:tamakino:20190203182337p:plain

▲中国IT御三家BAT(百度、アリババ、テンセント)の系列会社の各領域での企業価値シェア。アリババは「ECサイト」「外売」「スマホ決済」「物流」で圧倒的で、明らかに新小売の方向性を打ち出している。百度は検索サイトが強くウェブサービスに特化をしている。テンセントはアリババと百度の両方の領域をカバーしている。

 

消費者の変化を先取りしたアリババの新小売

中国IT企業の三巨頭BAT(百度、アリババ、テンセント)の各分野での傘下企業の企業価値の割合を示したグラフでは、「ECサイト」「外売」「スマホ決済」「物流」という新小売に必要な分野で、アリババが圧倒的に強いことが目に付く。テンセントも対抗しているものの押され気味だ。一方、百度は主軸の検索サイトでは圧倒的なものの、その他の分野では苦戦をしている。

新小売は、ECサイトの5倍以上の市場がある実体小売に、IT企業が参入する強力な戦略だ。IT企業のさらなる成長が期待できる。アリババはその新小売に目標を定め、着々と成果を出し、テンセントがそれに追従し、百度は手をこまねいているという形だ。百度は自動運転車の開発に注力をしているので、アリババやテンセントとは違う方向を目指し始めているのかもしれない。

BATの中国IT御三家は、明らかに別の道を歩み始めている。百度ウェブサービスに軸足を置き、アリババは新小売に軸足を置く。テンセントは、百度とアリババの両方の領域をカバーしようとしている。

 

入れておくだけでお金が増える。WeChatペイが「零銭通」で、アリペイに対抗

中国2大スマホ決済のひとつ「WeChatペイ」が「零銭通」サービスを始める。これはMMF理財商品で、入金をしておくだけで3%前後の利息がつくというものだ。アリペイには以前から「余額宝」という理財商品があり、これがあるためにアリペイを利用する人が多かった。WeChatペイにも理財商品が登場することで、再びアリペイとのシェア争いが激化していくと蛋蛋賛が報じた。

 

決済だけではないスマホ決済の金融機能

中国で普及をするスマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」。ここまで普及をした理由は、キャッシュレス決済機能だけではない。

ひとつは、クレジットカードと同じように分割払いやリボ払いのようなことができる「花唄」(アリペイ)、「微粒貸」(WeChatペイ)。お年玉送金機能の「紅包」(アリペイ)、「揺免単」(WeChatペイ)。

さらに、大きな魅力となっていたのが「余額宝」(ユアバオ)だった。これは資金を入れておくだけで、利息がつくというもの。現在は年利3%を切るところまで落ちているが、一時期は6%を超えていたこともあった。1元からいつでも出し入れが可能という「お財布の奥のポケット」感覚の理財商品だ。

f:id:tamakino:20190131172641p:plain

▲キャンペーン期間にWeChatペイで決済をした後、スマホを振ると、決済金額が無料になったり、何%かがキャッシュバックされる。このようなキャンペーンで、利用者を増やしていった。

 

WeChatペイにはなかった理財商品

この余額宝は、サービスが始まって5年経つが、収益は1700億元(約2.7兆円)に達している。平均して1日1億元(約16億円)の収益を上げていることになる。この余額宝は、アリペイのもので、WeChatペイには相当する機能がなかった。そのため、シェア争いではアリペイが強かった。

それが5年遅れで、WeChatペイも「零銭通」(リンチエントン)という類似のサービスを始めた。これでようやく、「アリペイ」と「WeChatペイ」が同じ条件で戦えるようになった。

f:id:tamakino:20190131172649j:plain

▲WeChatペイが始めた「零銭通」。お金を入れておくだけで、4.2%(時期によって変動)の利息がもらえる。スマホ決済アプリの中に出し入れ自由の定期預金機能がある感覚だ。

 

還元利息を競い合う状態になるか?

ネットユーザーたちは「5年遅れはあまりに遅い」「遅すぎた」という否定的な意見を述べているが、零銭通のユーザー還元利息は、現在のところ、余額宝よりも若干うわまっている。還元利息は日々変動をするので、今後どうなるかはわからないが、しばらくの間は零銭通は戦略的に還元利息を高くするだろう。こうして互いに競争することで、還元利息が高くなり、利用者にとってメリットが生まれると歓迎しているネットユーザーもいる。

f:id:tamakino:20190131172645j:plain

▲アリペイの人気の機能である「余額宝」。この例では、3万1000元(約50万円)を預けて、このひと月で80元(約1300円)の利息がついている。下手なポイント還元よりずっとお得で、1元単位で24時間いつでも出し入れできる。

 

個人から資金を集めて銀行に再投資

この「余額宝」「零銭通」の仕組みは、MMF(債権を中心にした投資信託)だ。個人でも銀行に行けば、MMFに投資をすることはできるが、投資金額が数百万円規模であれば、当然、利息などの条件も悪くなる。「余額宝」「零銭通」は、アリペイやWeChatペイの利用者から資金を集め、その資金をまとめて銀行のMMFを購入する。そのため、好条件で投資することができる。

運営は銀行から高い利息を得て、利用者に経費と利益を引いた利息を還元する。それでも利用者から見れば、自分でMMFに投資するよりも高い利息が得られるのだ。

 

スマホ決済の普及で、低コストの資金調達が難しくなった銀行

しかし、余額宝の歴史は、銀行との戦いの歴史でもあった。銀行は、普通預金という低金利の口座を利用して、低コストの資金を仕入れ、それを高金利で貸し出して収益を得るビジネスモデル。余額宝が広がるとともに、多くの人が普通預金口座からアリペイの余額宝に資金を移し始めたため、銀行は低コストの資金調達が難しくなっていった。

そのため、余額宝の運営会社に対してはMMFの販売を拒否したり、法規制をかけて余額宝に制限をかけようとしてきた。余額宝は当初は6%以上の利息を利用者に還元していたが、現在では3%を切るところまで下がっている。さまざまな規制がかかり、簡単には収益が上がらなくなっているからだ。

f:id:tamakino:20190131172653j:plain

▲アリペイの「余額宝」の還元利率の変化。6%を超えていた時期もあった。2015年後半から、普通預金残高が減少し、低コストの資金調達が難しくなった銀行が反撃に出て、さまざまな法規制がかかったために利率が下がっている。赤い枠は、余額宝の利用者と収益が急増した時期。利率が上がると、利用者が増え、収益も増加する。

 

再びアリペイとWeChatペイのシェア争いが始まる

そこにWeChatペイが「零銭通」のサービスを開始した。余額宝の人気が以前ほどでなくなっているタイミングでの参入だ。現在、余額宝は還元利息が2.5%程度であるのに対し、零銭通は3%程度を還元している。今後も、利息競争は激化すると見られ、再び「アリペイかWeChatペイか」というスマホ決済のシェア争いも激化していくと思われる。

 

 

苦境に立つライドシェア「滴滴出行」。弱り目に新規参入続々

中国で、ウーバーをも吸収したライドシェア「滴滴出行」が苦境に立たされている。ライドシェアで痛ましい事件が続き、ライドシェアサービスは現在停止中。そこに続々と大型の新規参入が続いている。ライドシェア市場は再び競争のフェーズに入るのではないかと全媒体聚焦が報じた。

 

ライドシェアサービスは無期限停止中

中国のライドシェア滴滴出行(ディーディー)の地位が危うくなっている。滴滴のサービスは大きく分けて2つある。

ひとつは一般の自動車所有者が自分の自動車を運転して乗客を乗せる「順風車」。実際には、運転手が乗車賃を稼ぐために運転しているケースがほとんどだが、建前は自分が移動するついでに乗客を乗せるライドシェア。乗車賃は安い。

もうひとつは滴滴の専用車を使い、タクシーと同じように乗客を乗せる「快車」。スマホアプリで呼べるタクシー感覚だ。乗車賃は原則、タクシーとほぼ同じ。

順風車では、昨年2018年に、乗客の女性が暴行された上に殺害されるという事件が起き、乗客が減少するとともに、運転手の本人確認がずさんだったことが明らかになり、現在では運転手の本人確認が厳しくなっている。これがあまりにも厳しすぎて、業務に差し支えるレベルになっており、それを嫌って乗客が減少したため、運転手離れが起こり始めている。このような状況を受け、滴滴は現在、順風車サービスを無期限停止している。

f:id:tamakino:20190130122546j:plain

滴滴出行は、2018年に乗客の女性が運転手に殺害されるという痛ましい事件が起きて、つまづき始めた。被害者の女性は、車内からSNS「WeChat」で、友人に助けを求め、遺族がその会話を公開したため、市民が大きく注目する事件となった。その後も、事件が続き、現在、ライドシェアサービスは停止中になっている。

 

メリットが感じられないタクシーサービス

タクシーサービスの方も、以前ような勢いがない。滴滴が急速に利用されるようになったのは、中国の都市部ではタクシーが絶望的に捕まらないという事情があったからだ。路上で捕まえられるかどうかは運次第。駅や空港のタクシー乗り場は30分は並ぶことを覚悟しなければならない。そんな状況で、スマホアプリから呼べる滴滴は利便性が高かった。

しかも、タクシーよりも圧倒的に安い。2012年に創業した滴滴は、ITサービス系企業の例に漏れず、大量のクーポンを配布し、割引キャンペーンを行ってきた。これで消費者を惹きつけ、380都市でサービスを展開、180万人の運転手がいるところまで成長をしてきた。

しかし、2016年に中国ウーバーを吸収合併すると、滴滴は次第に収穫のフェーズに入り、クーポンやキャンペーンの頻度が少なくなっていく。消費者から見ると、「料金は一般のタクシーと変わらない」感覚になり、以前の順風車を利用していた人からは「大幅に料金が高くなった」と映っている。

メリットは、スマホアプリで呼べばすぐくるというところだが、既存のタクシー業界も滴滴の成長を見て、急速にタクシープラットフォームを導入。滴滴と同じく、スマホアプリやアリペイ、WeChatペイの中からタクシーを呼べるようになってきている。滴滴のメリットがほとんど消えてしまったのだ。

 

滴滴の苦境を見て、美団がライドシェアに参入

この滴滴が苦しんでいる状況を見て、大型の新規参入が相次いでいる。ひとつは美団(メイトワン)だ。美団はもともとまとめ買いサイトだったが、外売サービス「ウーラマ」の隙をついて、外売サービスに参入、トップシェアを握ってしまった。すでに、上海、 杭州成都、南京、温州の5都市で、ライドシェアの営業許可を取得済みで、報道によると近々、北京での営業許可も取得できる見込みだ。北京は、滴滴の聖地とも言える場所で、ここで、美団と滴滴が激突することになる。

 

新エネルギー車を使った曹操も成長中

滴滴の程維(チャン・ウェイ)の頭痛のタネになっているのは、美団だけではない。自動車メーカーの吉利(ジーリー)の「曹操専車」(ツァオツァオ)というライドシェアが急成長をしている。創業は2015年11月、寧波市でだったが、着々とサービス提供都市を増やし、現在28都市に展開をしている。

曹操の特徴は、吉利が製造した新エネルギー車を使っている点だ。乗客からは、エコであり、乗り心地も静かという評価を得ている。中国の都市部では、エコ(大気汚染)のために、車ではなく公共交通を利用しようというキャンペーンが展開されている。曹操は、このような都市政策にもうまく乗り、現在企業価値は30億ドル(約3200億円)を突破し、滴滴のライバルに成長している。

f:id:tamakino:20190130122540j:plain

▲新エネルギー車を使ったタクシーサービス「曹操専車」。現在28都市に展開をし、着々とサービスを広げている。

 

再びライドシェアは厳しい競争フェーズへ

中国網約車サイトの予測によると、網約車(滴滴、曹操などのスマホアプリで呼べるタクシー)の市場規模は、2016年には95億ドル(約1兆円)だったものが、2018年には230億ドル(約2.5兆円)になっている。2020年には750億ドル(約8.2兆円)に成長すると予測され、この大きな市場を滴滴だけに享受させるにはいかないと、新規参入が続いている。

今後も大型の新規参入も予想され、ライドシェア市場は、激しい競争フェーズに入っていくと思われる。

 

最後はタダになる究極のダイナミックプライシング。急成長する豚肉チェーン「銭大媽」

2012年に広東省東莞市で開業した豚肉専門店「銭大媽」(チエンダーマー)が急成長をし、昨年9月に11都市1000店舗のチェーンとなった。その秘密は「宵越しの肉は売らない」という販売方針と、30分ごとに割引率が上がり、最後にはタダになるダイナミックプライシングにあると斧王劉宇翔が解説した。

 

30分ごとに割引率が上がっていくダイナミックプライシング

豚肉専門小売チェーン「銭大媽」が急成長をしている。中国で急成長する小売といえば、オンラインとオフラインを融合した「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)などの新小売系が強いが、銭大媽は基本的にオフラインの対面販売が中心。普通の肉屋と同じ形態だが、2つの販売方針が受けて、急成長をしている。

ひとつは「宵越しの肉は売りません」という販売方針だ。入荷した肉はその日のうちに売り切ってしまい、万が一売れ残った場合は廃棄をする。常に、当日入荷した新鮮な豚肉が買える。

もうひとつが、銭大媽ならではのユニークなダイナミックプライシングだ。昼過ぎに店舗は開店するが、夜7時になると1割引になる。さらに7時半になると2割引になる。こうして30分ごとに割引率が上がっていき、夜11時半には0、つまりタダになるのだ。

この二つの方針が消費者に受け入れられ、各店舗は小さいものの、いつも人が賑わう人気店になっている。

f:id:tamakino:20190129173609j:plain

▲銭大媽の店舗はいつも人で賑わっている。下町を中心に出店をし、オンライン販売などには積極的ではないものの、ユニークな戦略で急成長している。

 

「宵越しの肉は売らない」方針が受ける中国

中国人は、豚肉の鮮度を気にする。ちょうど日本人の魚に対する鮮度と同じくらい敏感だ。明け方に解体をして、その日のうちに食べるのがいちばんいいという。3日保存した豚肉はもう味が落ちると考えている。日本では、数日熟成させた方が美味しくなると考えている人が多いので、ずいぶんと感覚が違う。当日食べるのでは、豚肉は死後硬直の状態にあり、日本人の感覚では硬すぎると思うのだが、中国人はそれがいいと考えているようだ。

それほど鮮度を気にする中国では、「宵越しの肉は売らない」販売方針の銭大媽は、安心して鮮度のいい豚肉を買える店になっている。

f:id:tamakino:20190129173600j:plain

▲銭大媽の店舗は新鮮な豚肉がウリで、夜8時頃にはだいたい商品が全部売り切れるという。「宵越しの肉は売らない」方針を貫いている。

 

夜11時半にはタダになるのに利益が出る秘密

問題は、このユニークなダイナミックプライシングだ。夜11時半にはタダになるのだから、買い物客全員が共謀して11時半まで購入を控えれば、毎日タダで豚肉が食べられるようになる。銭大媽はどうやって利益を出しているのだろうか。

斧王劉宇翔は、銭大媽は一部商品ではなく、全商品を一律値引きをするところにポイントがあるとしている。

店頭に並べている商品の量は限られているが、買う量に制限はない。そのため、例えば夜8時半の4割引の時に「お店のお肉を全部ください」という客がやってくる可能性もある。そうなると、商品が売り切れになり、早仕舞いをしてしまう。夜11時半の無料になってから行こうと考える人が訪れた時にはもうお店が閉まっているのだ。

つまり、安く買おうとすればするほど、売り切れになっている確率が高くなる。結局、多くの人が、自分の食事時間の都合に合わせて店に行き、1割引、2割引の段階で買う人が多くなる。どの店もだいたい8時頃には売り切れて店じまいになっているという。

f:id:tamakino:20190129173604j:plain

▲銭大媽のダイナミックプライシング。19時から30分ごとに10%ずつ安くなっていき、夜11時半にはタダになる。一部の商品ではなく、すべての商品が割引になるというのがポイントで、消費者に強いインパクトを与えている。ただし、だいたい8時ごろには全商品が売り切れてしまうという。

 

夕飯時間が早い伝統的な地区に出店する

もうひとつ銭大媽がうまいのは、出店場所の戦略だ。銭大媽は下町の住宅地を選んで出店している。下町というのは伝統の長い古い居住地のことで、住民も伝統的な生活をしている人が多い。こういう地区では、夕方に買い物をして、午後7時頃には夕食を食べたいと考える人が多い。そのため、割引なしの時間帯に買い物をしていく人が多いのだ。

「夜11時半にはタダになる」という大胆な販売方法をとっているように見えるが、ほとんどの商品は、割引なし、または1割引、2割引程度で販売をすることができる。そして、売れ残りが出ることはないので、廃棄処理の手間とコストもかからない。しかも、売り切れれば閉店できるので、従業員は早く帰りたいために努力をする。それでいて、消費者には「宵越しの肉は売らない」が確実に行われていることがアピールできている。

 

ユニークな戦略があれば成長できる

中国の小売業は、オンラインとオフラインを融合した新小売に押されて、どのチェーンも経営が厳しくなっている。その中で、生き残れるのは、銭大媽のようなユニークな販売方法をとる専門店だ。銭大媽も、豚肉専門店であり、在庫がなくなり次第終了という販売方式であるため、時間とともに割引率が高くなるダイナミックプライシングをすることができている。

このようなユニークな戦略を持った小売店が、今後は生き残り、成長をしていくことになるだろう。

 

指紋認証、顔認証の次は骨伝導声紋認証?

ロック解除や決済時に必要なパスワード入力は、現在、ほとんど使われなくなり、指紋認証や顔認証になっている。しかし、いずれの方法も一長一短があり、決定版とも言えない。その状況の中で、ファーウェイは骨伝導声紋認証という新しい方式をMate 20 Proに搭載したと鵬鵬領創が報じた。

 

決して万能ではない顔認証

スマートフォンをロック解除するときに、以前は指紋認証だったがものが、現在は顔認証が主流になろうとしている。しかし、顔認証にはなかなか使いづらい場面もあり、評判は今ひとつよくないようだ。

例えば、寝そべっているときに顔認証でロック解除しようとするとうまくいかないことがある。寝た状態で上を向いていると、顔の肉が重力によって下り、容貌が変化するため、顔認証にはじかれてしまうことがある。また、寝そべっている状態というのは寝室など、照度が足らない状況であることが多く、これも顔認証のじゃまとなる。

また、デスクの上に置いているスマートフォンをそのままロック解除したい時もうまくいかないことがある。顔認証をするには、インサイドカメラと顔を正対させる必要があるからだ。

そのような問題がある上に、セキュリティ面も安全とは言えない。現実にそこまでやる人がいるかという問題はあるが、立体の顔模型を3Dプリンターで作成することで、顔認証は突破できてしまう。

 

頭蓋骨を伝わる音声声紋でロック解除をする

ファーウェイは、Mate 20 Proやサブブランドの栄耀Magic 2などで骨伝導声紋認証という新しいロック解除方法を導入した。

骨伝導声紋とは、自分の声が頭蓋骨に共鳴をした声紋。自分の声を聞く時には、空気を伝わる自分の声と、骨伝導による自分の声がミックスされて聞こえる。しかし、テープレコーダーに録音した自分の声は空気伝導のみによる声なので、違和感を感じる。

骨伝導声紋認証は、この骨伝導声紋を、ワイヤレスイヤホンで拾って、声紋認証をしてロック解除する。

f:id:tamakino:20190128140026j:plain

▲Mate 20 Proで骨伝導声紋認証Bone Voice IDを利用するには、ファーウェイのワイヤレスイヤホンFreebuds 2 Proか、栄耀ブランドのFlyPodsが必要になる。イヤホンをつけた状態で、アプリ名を呼ぶと、スマホのロックが解除されて、そのアプリが起動する。認証と音声命令が同時に行える。

 

認証と音声命令が同時に行える

この骨伝導声紋認証の優れたところは、声による認証なので、ロック解除と同時に指示を出せることだ。Magic 2では、「アリペイ」「WeChatペイ」などと声に出すことで、ロック解除と同時に決済アプリが起動する。その他のアプリも対応しているものは、音声で操作をしたり、音声でテキスト入力をすることができる。

もうひとつはセキュリティ面が優れていることだ。対象者の骨伝導声紋を記録することは簡単ではない。ワイヤレスイヤホンからスマートフォンへの通信を傍受するぐらいしか方法はなく、現実的には難しい。

f:id:tamakino:20190128140036j:plain

▲栄耀ブランドのFlyPods Proの広告。骨伝導声紋認証と声によるスマホ操作の2つの機能をウリにしている。

 

イヤホンをつけていないと利用できないのが最大の難点

欠点としては、ワイヤレスイヤホンをつけていないと利用できないという点で、ここがいちばんのネックになる。

「いちいち声を出すのは面倒、恥ずかしい」という人も多いかもしれないが、これは慣れの問題であるし、レジなどの場面では、どのみちレジスタッフに「アリペイ」「WeChatペイ」などの決済の種類名を告げる必要があるのだから、ついでにロック解除してQRコードを表示してくれる機能は、それなりに歓迎されそうだ。

また、宅配便の配達スタッフなどは、音声でロック解除をし、業務アプリを操作し、そのまま音声でテキストメッセージを送ったり、電話をかけたりできるため、需要は決して小さくはない。片耳だけのインカムタイプのイヤホンが登場すれば、業務利用も進みそうだ。

この骨伝導声紋認証が、ロック解除の主流になることはないだろうが、認証方式のひとつとしては利用価値は高そうだ。

f:id:tamakino:20190128140030g:plain

▲Mate 20 Proは、ワイヤレス充電規格Qiに対応をしている。本体をワイヤレス充電できるだけでなく、本体をモバイルバッテリーとして他のデバイスにワイヤレス給電する機能がある。ワイヤレスイヤホンもMate 20 Proからワイヤレス充電することができる。fly

 

北京の市営マンションが顔認証を採用。住民の安全だけではない、その目的

北京市の公共住宅が顔認証ゲートを導入し始めている。外部の人間が簡単に出入りできないため、住民の安全を確保できるが、もうひとつの目的は、契約者以外に又貸しするなどの不正を防止することであると新華網が報じた。

 

すべての公共住宅で顔認証ゲートを導入

北京市保障性住宅建設投資センターは、2018年12月27日より、北京市の公共住宅で顔認証ゲートの運用を開始したと公表した。すでに一部の住宅の入り口に顔認証ゲートが設置され、運用が始まっている。センターでは、2019年6月までに、すべての公共住宅で顔認証を導入する予定だという。

顔認証ゲートを運用するには、住民全員の顔データの収集が必要になる。契約者だけでなく、家族などの同居人の顔データも必要で、すでに入居者10万人以上の顔データを収集ずみだ。

顔認証ゲートは、集合住宅の入り口のところに設置され、登録済みの入居者には対しては自動的にゲートが開くが、訪問者に対してはゲートが開かない。管理人に連絡をし、訪問目的を告げた後にゲートを開けてもらう必要がある。見知らぬ人が勝手に入ることができないため、住民の安全が守られることになる。

f:id:tamakino:20190127124824j:plain

▲公共住宅に設置された顔認証ゲート。契約者は通過するだけで顔認証されるが、登録者以外の人が通過しようとするとゲートが閉じる。

 

又貸し不正が横行する公共住宅

しかし、この顔認証ゲートには、住民の安全以外にもうひとつの目的がある。北京市保障性住宅建設投資センターの王磊党委員会副書記は、「顔認証システムのもうひとつの目的は公共住宅の又貸しを防止して、社会資源を公平に利用する防火壁にすることです」と語った。

公共住宅は、立地がよく家賃が安いために誰もが利用したいと考える。すでに自分の家がある人であっても公共住宅を申し込み、上乗せした家賃で又貸しをして利益を得るケースが後を絶たない。規定によると、又貸し、又借りが発覚すると、5年間は公共住宅への申し込みができなくなるが、現実には又貸しが発覚することは稀であるために、公共資源の公平な利用の妨げになっていた。

顔認証システムには、契約者と同居者の顔データが登録されるため、又借りをした人は入れなくなり、このような不正を防ぐ効果がある。

f:id:tamakino:20190127124821j:plain

▲顔認証ゲートの状況はセンターで一括管理され、契約者以外の出入りを監視している。

 

f:id:tamakino:20190127124816j:plain

▲公共住宅の掲示に「又貸し、又借り、仲介の禁止」と書かなければならならないほど不正行為が広がってしまった。顔認証ゲートに登録ができるのは契約者のみなので、このような不正が一掃できると期待されている。

 

中国でも問題化し始めた独居老人問題

さらに、入居者の出入り履歴のデータも取得できるため、契約者が実際には使用していないという状況把握も可能になる。

また、中国でも独居老人の問題がクローズアップされつつあり、独居老人がゲートを通らない、つまり外に出ていないことも出入り記録から把握ができ、老人福祉にも寄与するという。

顔認証ゲートは、学生寮オフィスビルなどでも採用されし始めている。管理人が人力で、出入りする人の確認をするのは限界もあるため、顔認証ゲートは今後も拡大していくと見られている。

f:id:tamakino:20190127124812j:plain

▲中国の各都市では、住宅不足が大きな課題になっているため、高層住宅が次々と建設されている。家賃は1平米あたり40元前後と周辺相場の1/3から1/2程度。