中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国都市通勤者。60分以内通勤は実現できたか?

中国の各都市では、平均通勤時間60分以内を実現するように都市計画が進められている。極光ビッグデータは「2018年中国都市通勤研究報告」を公開し、主要都市では通勤時間60分以内がほぼ実現できていることが明らかになった。

 

都市病の主要因は「60分以上通勤」

都市というのは、経済活動にとっては適した場所だが、生活をするには必ずしも最適な場所ではない。人はストレスを感じ、「都市病」が蔓延しがちだ。この都市病を防ぐには、通勤時間を短くすることが有効だとして、どの都市でも「平均通勤時間60分以内」の実現を目指した都市計画が進められている。

極光ビッグデータの調査は、国内GDPのトップ10の都市の通勤時間を調べたもの。この調査結果によると、おおむね60分以内が実現できていることが明らかになった。

 

中国都市通勤者の平均通勤時間は約45分

トップ10都市すべての通勤時間は、男性が45.8分、女性が44.8分となった。年齢別にみると、若い世代の通勤時間が短いことがわかる。若い世代は、マンションを所有せず、賃貸が多いため、職場が変わればその近くに引っ越すからだと思われる。また、概ね女性の方が通勤時間は短い。男性は仕事の内容で職場を選ぶ傾向が強いのに対して、女性は家から近い範囲の中で職場を選ぶ傾向が強いからではないかと考えられる。

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▲年齢別に通勤時間を見ると、若いほど短く、女性が短い。若い人ほど、気軽に職場のそばに引っ越すからだと思われる。

 

最悪の北京市は平均通勤時間56分

都市別に60分以内通勤者の割合を見ると、武漢市が97.7%と、60分以内をほぼ実現できている。ただし、上海市重慶市北京市といった大都市では、さすがに60分以内通勤者の割合は90%以下になってしまう。

それでも最も通勤時間が長い北京市であっても、平均通勤時間は56分であり、「60分以内」はほぼ実現できている。

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▲60分以内通勤者の割合。武漢市ではほぼ全員が60分以内通勤ができている。大都市である上海、重慶、北京では割合が低くなる。

 

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▲都市別の平均通勤時間。最悪の北京市でも56分と、ほぼ60分以内通勤は実現できている。

 

都市内の「都心」を数カ所に分散させる都市計画

なぜ、大都市でありながら、60分以内通勤を実現できているか。それは都市計画にある。ビジネス街である「都心」をひとつに集中させず、例えば、金融、IT、製造などで異なったビジネス街を設定し、都市の中で分散させる。これにより、都市内での一極集中を防ぎ、通勤者の方向も分散できることになる。

北京や上海といった大都市では、どうしても通勤時間は長くなるが、一方で、反対通勤者の割合も多い。反対通勤者とは都心から郊外に通勤する者のことだ。ビジネス街を郊外に建設することにより、ラッシュの方向とは逆に移動する通勤者を意図的に作り出している。

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▲反対通勤者(都心から郊外へ通勤する人)の割合。大都市ほど、反対通勤者を産み出すように都市計画がされているので割合は高くなる。

 

業種により企業拠点を分散させ、通勤者の流れも分散させる

中国は、現在でも土地の私的所有が建前上は認められていない。あるのは、建物の居住権で、居住権を売買することにより、あたかも土地を売買するかのような効果を生み出している。そのため、民民の世界では、資本主義社会と何も変わらないが、都市政府が再開発をするときなどは、市民の権利が大幅に制限される。資本主義社会と比べて合理的な都市計画を実行しやすい。

上海では、陸家嘴ビジネス地区、張江高科、漕河涇開発区と大きな企業拠点が3箇所あり、地理的にも分散している。陸家嘴は金融、張江はバイオ、漕河涇はITとジャンルも分散している。

このような企業拠点が地理的に分散しているために、通勤者も分散し、反対通勤者も生まれ、全体の通勤時間を短くしているのだ。

北京でも、金融街、国貿、豊台科技園と企業拠点があり、それぞれ金融、貿易、ハイテクとジャンルも分散し、地理的にも離れている。

当然、各都市ともこのような都市計画に基づいて、道路や地下鉄なども計画されている。北京の地下鉄総延長は527km、上海の地下鉄は548km(東京は304km)であり、まだ延長工事が進んでいる。

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北京市の通勤ヒートマップ。3つの企業拠点に分散していることがわかる。

 

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▲同じく上海市の通勤ヒートマップ。こちらも業種ごとに3箇所に分散をしている。このような分散方式が、中国の都市計画の基本になっている。

 

地下鉄改札のQRコードスマホ決済は便利なのか。大論争

中国の各都市で、スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」で地下鉄の自動改札が通れるようになっている。しかし、QRコードスキャン方式なので、NFCカードよりも認識に時間がかかる。自動改札のスマホ決済は便利なのか不便なのか。Q&Aサイト「悟空問答」で議論が起きている。

 

自動改札スマホ対応は、NFCQRコードの二本立て

中国の主な都市の地下鉄では、以前からNFCカードによる交通カードが導入されている。日本のSuicaと同じ感覚で、自動改札のセンサー部分にかざすだけで、自動的に料金が引かれていく。反応速度も悪くなく、感覚的にもSuicaと同じだ。この交通カードでバスにも乗れ、タクシーの支払いもできるというのが一般的だ。

ところが、最近、どの都市でもスマホに対応をし始めている。その方法は主に2つあり、スマホNFC機能を利用するものとQRコード決済を利用するものだ。

 

事前にQRコードを表示させる必要があるQRコード方式

スマホNFC機能を使って地下鉄に乗るには、あらかじめ専用アプリを入れておく必要があり、アリペイなどと紐付けておく必要がある。しかし、その準備さえしてしまえば、使い勝手は交通カードを変わらなくなる。スマホをスリープさせたままでも、アプリを起動しなくても、充電が切れている場合でも、かざせば自動改札を通ることができる。非常に便利で、交通カードからスマホNFCに切り替えている人が増えている。

しかし、問題はQRコード方式だ。アリペイ、WeChatペイのスマホ決済のQRコードでそのまま自動改札を通れるのは便利なのだが、あらかじめアリペイなどを起動し、支払い用のQRコードを表示し、これを自動改札にスキャンさせなければならない。改札を通る前の事前準備がけっこう煩わしいのだ。

やはりQRコードは反応時間が遅い

もうひとつの問題は、QRコードの認識には時間がかかるということだ。自動改札のイメージセンサーは非常に改良されていて、認識に必要な時間は1秒未満。しかし、自動改札での1秒はけっこう長い。NFCカードであれば、歩きながら止まることなく、カードをかざして通り抜けることができるが、QRコードの場合は、いったん立ち止まらなけれならない感覚だ。

そのため、見ていると、速く通り抜けるNFC派と立ち止まるQRコード派が混在するため、混雑時には改札前の行列の流れがぎくしゃくしている。中国人は、習慣として、こういうことにイラついたりする人は少ないので、トラブルになることは少ないが、これが日本だったら、あっという間に舌打ちの嵐になりそうな感じだ。

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QRコード方式で改札を通る場合は、反応時間がやや遅いのでいったん立ち止まってスキャンする必要がある。改札での人の流れが阻害されるが、中国人はそれでイラつくような空気はあまりない。

 

みなNFCに賛同するものの、QRも否定はしない

議論に参加した人の多くは、やはりスマホNFC機能を利用しているという。しかし、それでもQRコードを否定せず、むしろ歓迎をしている。

ひとつは、スマホNFC機能を使うには、セットアップがかなり面倒で、リテラシーの高くない年長者などには敷居が高いということだ。かといって、NFCカードはいちいちチャージをしなければならず、QRコードで改札の流れを止められるより、残高不足でエラーが出て止められる方が問題だという。また、低炭素社会を築かなければならない中国で、プラスティックカードは減らしていくべきだと言う人もいる。

 

リテラシーの低い人にわかりやすいQRコード方式

スマホの中に交通カードをセットアップすることが難しい、リテラシーの高くない年長者であっても、普段使いなれているスマホ決済であれば使えるのだから、QRコード方式はそのような人のことを考えて採用すべきだと言う人もいる。

改札での人の流れがやや滞ることもあるが、ほんのわずかな時間なのだから、そのぐらい待ってあげればいいと言う。

また、それが問題だと言うのであれば、QRコード専用改札とNFC専用改札を作ればよく、駅によっては専用改札を用意しているところもあるという。

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▲中国の大都市の多くで、自動改札にQRコード方式スマホ決済が対応している。反応時間は遅いが、どの都市でも利用できるという利点がある。交通カードは、原則都市ごとに別になっている。

 

QRコード方式なら全国どこの都市でも使えるのが利点

しかし、多くの人がQRコード改札の利便性を感じているのが、出張や旅行のときだ。交通カードは都市ごとに発行されているので、出張や旅行で別の都市にいった場合も交通カードを購入しなければならない。購入は駅などで可能だが、問題はデポジット料金を取られ、返却をしてデポジットを返してもらうには、交通関係の事務所にいかなければならないことが多い。数も少ないし、地理に不案内な人にはどこにあるのかすらわかりづらい。

しかし、アリペイやWeChatペイであれば、他の都市の人でもすぐに交通機関を利用することができるのだ。

 

外国人にも使いやすいQRコード方式

特に重宝されているが、香港やマカオ、海外からの旅行客、出張客だ。外国人の多くが、どこで交通カードを買えばいいのか戸惑い、ましてやスマホに交通カードアプリをセットアップすることは難しい。しかし、アリペイなどであれば簡単にセットアップすることができるので、快適にどの都市の地下鉄、バスであっても利用できるようになる。

ただし、日本人はスマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」をアクティベートするのもかなり面倒だ。WeChatペイは、以前はできたのに、なぜか現在は日本人はアクティベートする方法がなくなっている。アリペイは以前はできなかったが、4月ごろから突然、パスポート番号と国際クレジットカードを使ってアクティベートができるようになった。

ただし、いずれも中国の銀行カードがなければチャージをすることができないので、主要コンビニにあるラカラ端末を使って、現金からチャージをするか、ホテルや知り合いなどに現金を渡して、アリペイで送り返してもらうという方法で、チャージをする必要がある。また、使用額にもいろいろ制限があり、しかも、その制限がちょくちょく変わる。

QRコード方式は、もはや最先端技術とは言えず、むしろ「枯れた技術」になっているが、だからこそ、誰も使えるサービスを作りやすい。決して、簡単に使えるというわけではないが、それでもなんとか旅行者にとっても、スマホひとつで街を楽しむ環境が整いつつある。

 

ベトナム国家銀行が、中国スマホ決済を非合法認定、使用禁止に

中国スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」は、海外旅行をする中国人旅行者のため、日本をはじめとするアジア各国で、インバウンド商店を中心に加盟店を増やし、中国人旅行者が人民元建てで決済できるようにしている。しかし、ベトナム金融管理機関は、唐突にベトナム国内での中国スマホ決済を違法認定したため、使用ができない状態になっていると金融科学技術頭条が報じた。

 

海外でも人民元建てで決済できる中国スマホ決済

中国スマホ決済の2強「アリペイ」と「WeChatペイ」の利用者数を合計すると10億人を超えている(両方使っている人が多い)。中国人の海外旅行ブームは相変わらず続いていて、日本を含めた渡航先の国で「アリペイ」「WeChatペイ」が使えるようになっている。中国人旅行者にとっては、現地通貨に両替することなく人民元で支払えることから歓迎されている。

しかし、ベトナム金融管理機関が、ベトナム国内のスマホ決済、人民元建てのカード決済を突然非合法化したため、中国人旅行者とインバウンド関連業者が困惑をしている。特にインバウンド関連の商店では、昨年の暮れから中国スマホ決済の導入が進んでいて、半年ほどで非合法化されて、ハシゴを外されたことになる。

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ベトナムでも中国人旅行者、インバウンド関係者に歓迎されていたアリペイは、現在使えない状態が続いている。

 

・税の徴収システムが追いついていなかったベトナム

2017年11月、アリババ傘下のアントフィナンシャルとベトナム国家決済社(NAPAS)が合意をし、中国人旅行客向けのアリペイ決済がスタートした。ベトナム国家旅行局の統計によると、2017年1月から9月までの海外からの旅行者は940万人であり、そのうちの290万人が中国人だったという。国別では中国人が最も多く、しかも昨年同時期から47%も増えている。スマホ決済への対応は、この流れをさらに加速するとして、ベトナムインバウンド関係者からも歓迎されていた。

ところが、ベトナムのメディア「TuoiTre」の報道によると、唐突にベトナム国家銀行のスポークスマンが、「現在のところ、アリペイとWeChatペイの中国スマホ決済方式は、いまだにベトナム政府の許可をとってなく、国家銀行としては中国スマホ決済を規制するように政府に申し入れた」とコメントしたという。

専門家によると、ベトナムのキャッシュレス環境は立ち遅れていて、外貨交換、税収管理などの面で、必ず国家銀行の許可を得る必要があるという。

また、あるベトナム金融関係者によると、中国スマホ決済を非合法化した狙いは、外貨交換や商店の売上への課税システムがスマホ決済に対応していないため、税の徴収ができない状態になっていることが最大の問題だという。

 

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▲中国スマホ決済非合法化を伝えるベトナムウェブニュースメディアtuoi tre。あまりにも唐突な決定に、全員が驚いている。


ベトナムのキャッシュレス決済計画も頓挫することに

本来の計画では、アリペイがベトナムに上陸をし、アリババが決済ネットワークを構築し、ベトナムベトナムで、その決済ネットワークを利用し、ベトナム人向けのキャッシュレス決済を始めるというものだった。中国人旅行客に取ってもメリットがあり、ベトナム人にとっても一気にキャッシュレス決済が利用できるようになるという一石二鳥の計画だった。

決済というお金の流れが国境を超え始める中で、国はどうやって税を徴収すればいいのかが大きな問題になりつつある。スマホ決済がアジアに普及をすることで、人民元がアジアの基軸通貨になろうとしていることに対しても、反発が起こり始めている。テックによる利便性と、伝統的な国という形がコンフリクトを起こし始めている。中国メディアは、ベトナムのような流れが他国にも飛び火することを懸念している。

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Tik Tokをアジアで大流行させた3つの戦略(下)

Tik Tokが中国、日本、タイ、ベトナムで大流行している。音楽に合わせて、口パクでダンスしている15秒ムービーを投稿する動画SNS。流行をしたのは偶然ではなく、UI/UX、グローカルなど3つの戦略があったからだと接招が解説した。

 

Tik Tokを大流行させた3つの戦略

Tik Tokは15秒動画のSNS。音楽に合わせて口パクとダンスをすることで動画が簡単に作れることから、中国だけでなく、世界的に大流行している。日本でも、JC JK流行語大賞2017のアプリ部門の3位にmusical.lyとTik Tokが選ばれている。

北京字節跳動科技有限公司(英文名Bytedance)が開発をしたTik Tokは、アジア圏で大流行をしている。

その成功の背景には、3つの戦略があった。

1)よく考えられたUI(ユーザインタフェース

2)技術力に支えられたUX(ユーザ体験)

3)グローカルなプロモーション

前回、1のUIについてはご紹介をしたので、今回は2のUXと3のグローカルについてご紹介する。

 

最高レベルの技術を投入しているTik Tok

Tik Tokは、そこまでやるのかと言うほど技術を追求して、快適なユーザ体験を提供している。

Tik Tokでは、犬の耳と鼻、猫のヒゲなどのスタンプを、リアルタイムで顔に合成することができる。このようなスタンプ合成は目新しいものではない。しかし、Tik Tokが従来のスタンプ合成と一線を画しているのが、激しい動きをしてもきちんと追従してくるということだ。従来のスタンプ合成の中には、顔の位置を動かすとスタンプがずれてしまうものがあった。

Tik Tokのスタンプ合成が正確な理由は、顔認識で常に106カ所の特徴点をリアルタイムで抽出しているからだ。単なる顔スタンプで、ここまで本格的な技術を投入するというのはあまり聞いたことがない。リアルタイムで処理をするのも簡単ではないはずだ。一般的な顔認証システムでも、特徴点の抽出は70カ所程度。

しかし、これが多くの人に受け入れられる大きな理由のひとつになっている。従来の顔スタンプでは、激しい動きをするとスタンプがずれてしまう。それを経験したユーザは、次第に動きを制限してしまうようになる。本当はこんな動きをしたいのに、スタンプがずれてしまうのでできないと感じた時点で、エンタメアプリの価値はほとんどゼロに等しくなる。つまらなくなってしまうのだ。

「エンタメアプリなのだから、技術レベルはこの程度でいいや」ではなく、「エンタメアプリだからこそ、最高の技術を投入して、技術的制限をユーザに感じさせず、エンタメだけに意識を集中させる」とTik Tokは考えている。

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▲撮影時には、顔を認識して、スタンプを合成することができる。これが実に正確で、被写体が激しく動いても見事に追従する。顔の特徴点を106カ所も抽出し、リアルタイムで処理するという高い技術が投入されている。エンタメアプリだからこそ、技術的制約を感じさせてはいけないという発想だ。

 

流行っているスタイルは、国によって異なっている

Tik Tok成功の3つめの理由は、グローカルなプロモーションだ。Tik Tokそのものはアジア圏各国で流行しているが、どのようなスタイルのビデオが受けているかは、各国の文化によって異なっている。

例えば、日本では若い女性の「元気」「可愛い」といったテイストのビデオが人気だが、中国では意外に多いのが家族でのビデオ。お年寄りから子どもまで一緒に撮って、腕だけのダンスをするというビデオが割と多い。恋人が二人で腕だけを使った手振りのダンスというパターンも多い。また、タイではやや大人目の女性と男性が、バラードっぽい音楽でゆっくりと踊るというビデオに人気があるようだ。

このような流行は常に変化をしていくが、流行はグローバルではなく、ローカルなものだという点がポイントだ。


คนไทย vs คนญี่ปุ่น เล่นแอพ Tik Tok Thailand VS Japan

▲日本とタイのTik Tokを比較したビデオ。国によって流行っているスタイルがかなり違うことがわかる。

 

流行を交換する。グローカルなプロモーション

そこで、字節跳動には、各国ごとのチームが存在し、毎日、担当国でどのようなテイストのビデオが流行っているかをウォッチしている。そして、A国で流行ったビデオを共有しあい、B国のチームがそれをプロモーションしていくという作業をしている。

例えば、Duraダンスと呼ばれるテイストのビデオは、中国で最初に火がついて、それから日本やタイでプロモーションをしたところ、人気となった。それだけでなく、中国で背景音楽に「ショートカットの女の子」「愛しているのは君」という2曲に人気が出たのを、インドネシアチームが目をつけ、インドネシアでプロモーションをしたところ、この2曲は中国語の曲であるのに、インドネシアで人気の曲となったという。

つまり、ローカルで起きた流行を、他国に移転することで、次の流行を生み出しているのだ。


【抖音】魔性嘟啦Dura舞,穿超短裙跳的小姐姐也太拼了吧!

▲中国で大流行したDuraダンス。そこから飛び火をして日本やタイでも流行している。

 

マンネリを避けるため、次々と流行のタネを投入する

字節跳動の最初のヒットサービスである「今日頭条」は、ニュースキュレーションアプリだ。ニュースの場合は、コンテンツは日々変わっていくし、ニュースを読む行為は習慣化しやすいので、1と2のUI/UXがしっかりして、使いやすいアプリであれば成功することができる。

しかし、Tik TokのようなエンタメアプリはUI/UXだけでは足りない。面白いと思った時は熱量が極限まで上がる反面、マンネリを感じるとその熱量が落ち、「飽きてしまう」「Tik Tok疲れ」のような現象が起きてしまい、短命に終わるケースもある。ここを補うのが3のグローカル戦略なのだ。他のローカル地域で起きた流行を移転してくることで、次から次へといろいろな流行が連続して起きているように演出することができる。実際、Tik Tokの中では、次から次へと新しい流行が起き続けていて、それが多くの人を惹きつけているのだ。

 

中国IT企業はすでに「Born to be Global」

字節跳動の張一鳴CEOは、Tik Tokの成功についてこう語っている。「デジタル化の潮流の中で、中国企業にもうコピーは必要なく、自らイノベーションを起こすことが必要になっている。今では、字節跳動をはじめとする中国企業は、米国の優秀な企業と同じようにBorn to be Globalになっているのです」。

中国の閉鎖的なインターネット環境は「巨大LAN」と揶揄されることもあり、当初はグーグルやフェイスブックのコピーを作っていた時代が続いた。しかし、アリババのスマホ決済「アリペイ」あたりから、中国ITは次のステップに入り、LANの外側へ普通に飛び出てくるようになった。

Tik Tokを使っている人の多くの人が、これが中国企業が運営するサービスだということは意識せずに使っている。いいものはいい。面白いものは面白い。アジアの国境が溶け始める時代が始まっている。

 

 

Tik Tokをアジアで大流行させた3つの戦略(上)

Tik Tokが中国、日本、タイ、ベトナムで大流行している。音楽に合わせて、口パクでダンスしている15秒ムービーを投稿する動画SNS。流行をしたのは偶然ではなく、UI/UX、グローカルなど3つの戦略があったからだと接招が解説した。

 

アジア圏で大流行しているTik Tok

Tik Tokは15秒動画のSNS。音楽に合わせて口パクとダンスをすることで動画が簡単に作れ、中国だけでなく、アジア地域で大流行している。日本でも、JC JK流行語大賞2017のアプリ部門の3位にTik Tokが選ばれている。

特に中国国内では爆発的といってもいいほどの流行で、現在、1日の起動回数は1.5億回。これはスマホ決済「アリペイ」の起動回数とほぼ同じだという。

さらに、2017年8月に海外版がリリースされると、瞬く間に広がり、150以上の国でダウンロードされ、ユーザー数はすでに1億人を超えている。Sensor Towerによると、2018年第一四半期のApp Storeでのダウンロード数は4580万回となり、世界で最もダウンロードされたアプリとなった。App Annieによると、日本、タイ、インドネシアベトナム、フィリピン、マレーシアなどでApp StoreまたはGoogle Playの1位アプリとなっている。


【TikTok】2017年の一番可愛い子だけ集めた!【総集編】

 

中国発のエンタメアプリ

このアプリを開発したのは、北京字節跳動科技有限公司(英文名Bytedance)。日本人には馴染みがないが、ニュースキュレーションアプリ「今日頭条」が中国内で大ヒットし、Tik Tokの他に、動画キュレーションアプリ「TopBuzz」「BuzzVideo」などが海外で使われている。

この口パク、15秒、ダンスといったコンセプトを最初に手がけたのは、musical.lyで、2014年にこれを始めたのも2人の中国人だった。musical.lyは上海とサンフランシスコに拠点を置き、世界に広げようとしていた。

Tik Tokは、2016年、musical.lyの後追いでサービスをスタートした。すぐに中国国内で火がつき、字節跳動はすでに「今日頭条」の成功で資金力があったため、2017年11月にmusical.lyを10億ドル(約1100億円)で買収。2つのサービスはTik Tokに統合されることになった。

この歴史を見ると、musical.lyが先行したイノベーターであり、Tik Tokはそのフォロワーであるように見える。しかし、musical.lyはなぜ世界展開することができず、Tik Tokは世界展開に成功したのか。答えは簡単で、Tik Tokは最初から世界戦略を持っていたからだ。

 

Tik Tokを流行させた3つの戦略

字節跳動の世界戦略は、3つにまとめることができる。

1)よく考えられたUI(ユーザインタフェース

2)技術力に支えられたUX(ユーザ体験)

3)グローカルなプロモーション

だ。

使った経験がある人ならわかると思うが、Tik Tokは非常に使いやすい。起動をするだけでおすすめのビデオが流れ始め、誰もが思いつく操作=フリックをすることで、次のビデオが再生され、誰もが思いつく操作=タップで停止する。再生ボタンや次へボタン、停止ボタンなどどこにもないのだ。

撮影関連もUIが非常に整理されている。ビデオを録画して、それにさまざまな効果をかけ、しかも時間コントロールもするというのに、15分ほどまごつくだけで、すぐに使いこなせるようになる。相当に練り上げられたUIになっている。

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▲Tik Tokを起動するといきなりおすすめのムービーが流れ始める。右側に並んでいるのがSNS系ボタンで、下の+ボタンをタップすると、自分のムービーが撮影できるようになる。

 

練り上げられたUI。道具として手になじむ感覚

最も画期的なのが、撮影のシャッターボタンだ。タップをすると撮影開始で、もう一度タップをすると撮影終了。これはスマホを伝統的なビデオカメラとして使う手法で、三脚にスマホをセットし、他人を取る場合は有効だ。しかし、セルフィーでは違う。自分で手に持ち、しかもTik Tokの場合、激しくスマホを動かす。この時、伝統的なシャッター手法であると、シャッターを押してからスマホを握りなおす必要が出てきたり、思わぬところでシャッターボタンに触れてしまい、撮影が中断されてしまうことがある。

そこで、長押しシャッターボタンが用意されている。これは触れている時に撮影が行われ、指を離すと撮影が終わるというものだ。しかも、触れている間に指の位置が動いても、ボタンの方が追従して移動するため、撮影が中断されない。これはデザイナーが相当Tik Tokでの撮影をやりこんでいないと発想できないUIだ。

UIが練り上げられているため、ユーザは「使い方」を意識することなく、手になじむ道具として使いこなすことができるようになる。

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▲撮影ボタンは中央下にあり、触れているときだけ撮影が行われ、指を離すと撮影が中断される。指が触れている間、指の位置が少しずれても、ボタンが指に追従してくる。実際に、スマホを激しく動かしながら撮影するということをやってみると、このUIの素晴らしさに気がつく。

 

エンタメアプリだからこそ、優れたUIが必要になる

この練り上げられたUIが、成功の大きな要因のひとつになっている。ショートビデオを共有するというアイディアは、ずいぶん以前から試みられていて、無数のサービスが登場しているが、どれも使い方が難しい。大げさに言えば、一眼レフカメラを扱うような専門的なリテラシーを必要とする。これでは、ユーザは使い方にばかり意識がいってしまい、Tik Tokの魅力である「どのようなビデオを撮れば楽しいか」に集中ができない。

Tik Tokは、徹底してUIを研究することで、ユーザが「楽しいビデオの内容」についてのみ考えられる環境を提供した。数回ビデオ撮影をしてみれば、誰もが使い方の達人になってしまう。優れたテニスプレイヤーがラケットで微妙なタッチを生み出せるように、スマホを使って自由自在に思い通りのビデオが撮れるようになるのだ。

次回は、3つの戦略のうちの、残り2つをご紹介する。

 

面積あたりの売上3.7倍。宅配売上50%超。アリババ「フーマフレッシュ」の秘密(下)

中国アリババが今最も力を入れている「新小売」戦略。その目玉となっているのが「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)だ。グローサラント+宅配という業態だが、すでに既存スーパーの面積あたり売上は3.7倍になっている。その秘密はどこにあるのか。人人都是産品経理が解説した。

 

宅配(スマホ注文)が50%を超えるグローサラント

フーマフレッシュは、既存の業態にあてはめれば、グローサラント(グロッサリーストア+レストラン)+宅配ということになるが、一般的なグローサラントとは考え方がまるで違っている。

グローサラントは店舗の魅力を高めて、店舗に集客をするという考え方のもの。一方で、フーマフレッシュは店舗は商品のショールームであり、宅配(スマホ注文)に集約させようというものだ。

その目論見は今のところうまくいっていて、宅配(スマホ注文)の売上は、全体の50%以上であり、単位面積あたりの売上は既存スーパーの3.7倍という驚異的な数字を達成している。

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▲フーマフレッシュアプリの注文画面。これだけでは、食料品の品質を見極めることができない。そのために店舗があり、そこで品質を体験できるようになっている。

 

店舗は買い物を体験する場所

この目的を達成するため、ダニエル・チャンCEOは「食・支払い・配送」の3つを重要項目として定めた。

食に関しては、販売している食材を利用した料理を提供する。海産物に関しては、清蒸(蒸し料理)などの調理というよりは加工に近い料理も提供する。また、調理コスト、加工コストはぎりぎりまで低くする。なぜなら、料理で利益を出すことが目的ではなく、食材の品質の高さのプレゼンテーションであり、食材を「体験」してもらうことが目的だからだ。

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▲店舗では、お菓子作り教室など、さまざまな体験型のイベントが行われる。

 

決済は専用アプリから

支払いに関しては、フーマフレッシュ専用アプリからの決済しか原則できない。面白いことに、アリババが運営しているのに、アリペイから直接支払うこともできないのだ。もちろん、フーマアプリから支払っても、アリペイと紐付けされているので、アリペイから支払うことになるのだが、決済時はあくまでもフーマアプリで決済をする。

専任のガイドスタッフが常駐していて、フーマアプリのインストールやアリペイとの紐付け方法を丁寧に教えてくれる。

これもフーマアプリを使ってもらい、最終的にスマホ注文に誘導することが目的だ。店舗でフーマアプリを使って決済をすると、購入履歴がアプリ内に残る。次は、この購入履歴から商品をタップするだけで注文ができ、宅配をしてもらえるようになる。また、購入履歴から商品のリコメンド、優待クーポンの送付などを行い、消費を刺激することもできるようになる。

ただし、この「専用アプリからでないと決済ができない」というやり方は、当局から問題視された。それは中国人民銀行法によると、小売店は現金支払いを拒むことができないことになっているからだ。

そこで、フーマフレッシュでは、現金支払いの場合は、専用カウンターで現金を受け取り、フーマアプリに購入記録を転送するようにしている。あくまでもアプリを使わせる。

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▲フーマフレッシュアプリの注文決済画面。下には、おすすめの商品が表示される。また、クーポン券なども送られてくる。アリババは、最終的にすべての買い物を店内にいても、このアプリ内から行うように誘導しようとしている。

 

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▲フーマフレッシュには有人レジもあるがセルフレジも用意されている。商品点数が少ない時はこちらが便利。顔認証決済ができる。

 

購入者のシナリオから逆算した30分配送

配送に関しては、30分配送を実現するために、さまざまな工夫をしている。30分という時間は、都市部での通勤時間が30分から45分程度、3kmのフーマ区の自宅に店舗から歩いてい帰るのに30分程度というところから導き出されている。つまり、仕事が終わって帰宅する途中の地下鉄やバスで、フーマフレッシュに注文をすると、帰宅とほぼ同時に届いている。フーマフレッシュの店舗で買い物をしても、重たい飲料であるとか食用油のようなものは、自分で持って帰らず、帰り際にスマホから注文して宅配してもらうと、帰宅とほぼ同時に届いているというシーンを想定している。

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▲店内の天井にはレールと落下防止網が張り巡らされている。スタッフが宅配商品をピックアップしすると、バッグがこのレールによってバックヤードに送られる。

 

30分配送を実現するためにIT技術を利用する

これを実現するために、ピックアップ10分、配送20分の標準時間をスタッフに課している。フーマフレッシュの店内を見上げると、天井にレールが走っている。スタッフが商品をピックアップしてバッグに入れると、リフトで天井のレールに持ち上げられ、レールを伝ってバックヤードに運ばれる。バックヤードには配達員が待機をしている。もちろん、すべてのバッグが電子的に管理され、ピックアップスタッフ、配送スタッフともに、業務用アプリの指示に従って業務をこなせばいいようになっている。

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上海市のフーマフレッシュの店舗。ブルーの部分が宅配地域。大都市の中心部は、ほぼすべての場所をカバーできている。

 

新しいECの考え方、それを実現する「新小売」戦略

フーマフレッシュは、スーパーやグローサラントと似ているように見えて、まったく発想が異なっている。実態は、ショールーム付きECと言った方が理解しやすいかもしれない。

そのため、都市密度が粗い都市、地域に出店することは難しい。出店の立地条件に関してはシビアな判断が必要となる。しかし、そのデータもアリババはすでに持っている。都市部の対面決済の90%以上がスマホ決済になっていて、アリペイは6割から7割のシェアを持っている。つまり、アリババは、対面決済の約半分のデータを握っているのだ。どこに出店をすればペイできるのか。アリババは容易に計算することができるだろう。

フーマフレッシュは、かつてなかったコンセプトの業態だ。一見スーパーに似ているので、新しいスタイルのスーパーぐらいに考えてしまうが、ビジネスの設計の仕方が従来のスーパーやグローサラントとはまったく異なっている。だからこそ、既存スーパーの単位面積あたりの売上が3.7倍という驚異の数字をマークできた。アリババが「新小売」戦略の目玉だと胸を張るのには、それなりの理由があるのだ。

 

面積あたりの売上3.7倍。宅配売上50%超。アリババ「フーマフレッシュ」の秘密(上)

中国アリババが今、最も力を入れている「新小売」戦略。その目玉となっているのが「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)だ。グローサラント+宅配という業態だが、すでに既存スーパーの面積あたり売上は3.7倍になっている。その秘密はどこにあるのか。人人都是産品経理が解説した。

 

単位面積あたりの売上は既存スーパーの3.7倍

アリババの「新小売」戦略の目玉である「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が好調だ。この計画の初期に開店した上海金橋店の2016年の年間売上は2.5億元(約42億円)となった。単位面積(1平米)あたりの年間売上にすると5.6万元(約94万6000円)となる。中国の一般的なスーパーでは1.5万元(約25万円)が標準なので、3.7倍ということになる。アリババは、既存スーパーの5倍を目標にしている。

このフーマフレッシュは、海鮮、生鮮野菜などを中心にしたスーパーだが、本格レストランが併設されている。レストランの料理は、すべてスーパーで販売している食材を使っている。また、半径3km以内の「フーマ区」では、スマートフォンから食材や料理を注文することができ、最短30分で配送してくれる。つまり、「店で買う、食べる」「家で作る、食べる」と4通りの楽しみ方ができるスーパーだ。

現在、北京、上海、杭州などを中心に37店舗を展開し、大規模な出店計画が進んでいる。すでに「フーマ区」内の家賃やマンション価格が上昇しているという話もあり、都市生活者に歓迎されている。

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▲フーマフレッシュの店舗は、都市部でないと出店ができない。半径3km以内に30万戸の家庭があるということが最低条件だ。そのため、都心のショッピングモールに出店するケースが多い。

 

宅配(スマホ注文)売上が全体の50%以上

このようなスーパーとレストランが融合した業態は、グローサラント(グロッサリーストア+レストラン)と呼ばれ、フーマフレッシュは「宅配可能なグローサラント」ということになるが、そのコンセプトは一般のグローサラントとはまったく違っている。

グローサラントは店舗の魅力を高めて、店舗に集客をするという考え方のもの。一方で、フーマフレッシュは店舗は商品のショールームであり、宅配(スマホ注文)が主力の販売チャンネルと考えている。

一般的なグローサラントでは料理や食材の宅配をしていないケースもある。また、中国でフーマフレッシュに対抗して展開されている永輝スーパーの「超級物種」は宅配(スマホ注文)を、フーマフレッシュと同じ、3km以内30分で行っているが、宅配(スマホ注文)売上は全体の10%程度でしかない。ところが、フーマフレッシュは宅配(スマホ注文)の売り上げが、50%を超えていて、さらにこの数値を上げていく施策を打っているのだ。

スマホ注文売上が異常に高いので、既存スーパーの単位面積あたりの売上で3.7倍という驚異的な数字を出すことができている。

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▲フーマフレッシュの専用アプリ。さまざまな商品がここから注文できる。決済もこのアプリから行える(アリペイと紐付けされていて、支払いはアリペイから行われる)。

 

ダニエル・チャンCEOが定めた「4つの原則」

アリババのダニエル・チャンCEOは、フーマフレッシュのプロジェクトを進めるときに、4つの原則を定めた。

1)オンライン売上は、オフライン売上より上回るようにする。つまり、フーマ区からの宅配(スマホ注文)をメインに考える。

2)スマホ注文は、毎日最低でも5000件を確保。フーマフレッシュは独自の宅配スタッフを抱えている。そのため、スマホ注文が5000件以上にならないと、固定コストが吸収できなくなる。キャンペーンや割引などの手段を使っても、毎日5000件を死守する。

3)宅配地域は、半径3km。最短30分配送。半径3kmは約28キロ平米。都市部では、30万戸の家庭がある。この30万家庭をメインの顧客とする。

4)オンラインでもオフラインでも同じ顧客体験を実現する。

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▲フーマフレッシュのキャラクターはカバ。盒馬(フーマ)とは、「馬をパッケージしたもの」という意味。「ジャック・マー会長の発想をパッケージした店舗」という意味でないかと想像されている。カバ(河馬)も中国語の読みでは「フーマ」と同じになるため、カバがキャラクターに採用されている。

 

生鮮食料品がECの最大の弱点

ECサイトは、保存のきく家電製品や日用品が中心で、最近では飲料、菓子類などの加工食品も取り扱いが増えている。しかし、魚や野菜、肉といった生鮮食料品をECで買う人は多くない。

理由は明らかだ。家電製品、日用品、加工食品に関しては、いろいろな場所で製品を目にしているので、品質についてすでに理解をしている。だから、いきなりスマホから注文ができる。

しかし、生鮮食料品は、品質の想像がつかない。同じ白菜といっても、美味しいかどうかは、見てみないとわからないし、食べてみないとわからないのだ。だから、ECサイトでは購入せず、スーパーへ行って、自分の目で確かめて買いたい。

そのため、ECサイトは生鮮食料品をなかなか扱えずにきた。いろいろなECサイトが挑戦をしているが、品質問題を回避するため、高級食材を扱わざるを得ず、コストに見合った売上があげられない状態が続き、消費者がそのECサイトを信頼して気軽に注文するようになるまでは、まだまだ長い時間がかかる。

この問題を解消するために、フーマフレッシュという新しい業態が考案された。極論をすれば、宅配売上が狙いであって、店舗は生鮮食料品の品質を確かめるショールームにすぎないという言い方もできる。

 

店内にいてもスマホから注文させる新しいECの概念

ただし、フーマフレッシュではECの概念も従来のものとは違っている。スマホから商品を注文することがECであって、どこから注文するかは問わない。自宅から注文してもいいし、帰宅途中の地下鉄の中で注文してもいい。フーマフレッシュの店内の中で注文をして、自分は手ぶらで帰るというのでもいい。場所を問わず、スマホから注文をするというのがアリババが考える新しいECの形で、それを実現する仕組みが「新小売」だ。

実際、利用が多いシナリオは、帰宅時に地下鉄の中で料理や食材を注文するというものだ。帰宅して数分で、宅配が届くことになる。また、徒歩などで店舗にやってきて、食材を購入するが、食用油など重いものは、店内からスマホ注文して宅配してもらう。自宅について、食材を冷蔵庫に入れたり、調理をしている間に、宅配が届く。

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▲フーマフレッシュの店舗の1/3はレストラン。フーマフレッシュで販売されている食材を使った料理が提供される。ここで料理を体験することで、スマホから食材や料理を注文するようになる。

 

店舗で買い物体験をしているから、スマホから気軽に注文できる

ECといっても、誰も店舗にこなくなるというわけではなく、店舗でもどこでもスマホ注文ができるようになる。店舗では実際の食材を見たり、匂いをかいだり、触ったり、あるいはレストランで食べてみたりという「体験」をする。この「体験」があるから、安心してスマホから注文できるわけだ。

つまり、フーマフレッシュとは、ECサイトに欠けていた「生鮮食品の品質がわからない」「買い物体験に乏しい」という問題点を解決した、新しい形のECなのだ。

この新小売、新ECを実現するために、どのような仕掛けを用意しているか。それを次回ご紹介したい。